柳緑の閃光   作:れっどhope

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セクション1 出会いはいつも唐突に

 

「…どこだここ」

 

まだ冬の寒さがかすかに残っている四月上旬。自分の体型より幾分大きい黒い詰襟を着た、黒色で癖のある髪をした少年が、道の真ん中に突っ立って、地図とにらめっこをしていた。どうやら道に迷ったらしい。

 

「ちくしょう、地図どうりに歩いてるってのに学校のがの字も見えないじゃないか」

 

その様子を見るに、彼は度がすぎるほどの方向音痴のようだ。そもそも今も地図を逆に見ている。さっきのコンビニで道を聞けばよかった…と心の中で悪態をつきつつ、彼は再び歩き始めた。間逆の方向に。

 

「今の時間は…げ、あと五分しかない。入学初日から遅刻なんて笑えないぜ…」

 

どうしたもんか…まあ、適当に歩いていけば誰かに会うよなあ、なんて他力本願なことを考えつつ、ふらふらと歩いていた。だが学校はまったく見えてこない。ここら辺から見えるの大きな建物はあの市役所?みたいなものしかなく、彼はますますあせって、その歩を速める。

と、曲がり角を曲がったその時。1台の自転車が猛スピードで彼に向かってきた。あせって注意力が欠けていた彼は、その自転車にぶつかりそうになった。

 

「っ!」

「…ってうおお、あぶねえっ!」

 

その自転車に乗っていた、これまた詰襟を着た少年が、めいいっぱい左ブレーキを握って、ドリフトをかけたかのような音を鳴らし自転車を急ブレーキさせた。あまりに急なことだったので、黒髪の少年はおもわずしりもちをついた。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

自転車に乗っていた少年が額に汗を浮かべて自転車から降りて駆け出してきた。黒髪の少年は大丈夫、驚いただけ、といいながら、彼を洞察する。

落ち着いた緑色の髪、力のこもった青色の眼、身長は百七十センチ台中盤ぐらいだろうか。今は制服を着ていてあまりわからないが、野球経験者のような体つきだ。それもかなりの実力を兼ね備えた。

 

「…い、おい、大丈夫か?返事しろ」

「あ、ああ、すまん」

 

おっと、つい観察してしまった。黒髪の少年はこの癖は直さなきゃな、自省する。不意に、彼は緑髪の少年が自分と同じ制服を着ていることに気がついた。

 

「ってあれ、まさかお前も『恋恋高校』の入学生か?」

「ん?そうだけど」

「よかったあああ!」

「え、どうした!?」

 

どうやら彼の予想は当たったらしい。黒髪の少年は仏にすがるおもいで、今までの経緯、ただ迷っているということを彼に話した。すると、話を聞き終わった傍から、彼はいきなり声を上げて笑い出した。

 

「何そんなに笑ってんだよ」

 

道がわからないくらいで心外な、そう彼はつっこんだ。だが彼の笑いはまだ止まらず、

 

「だって恋恋高校ってこっから歩いて五分だぜ?てかもう見えてるし」

「え、」

 

といいながら向こうの方向を指差した。その先を見てみると、そこにはさっきまで市役所か何かかと思っていた建物があった。まさかアレが学校だったとは…彼は自分自身の土地勘のなさに泣きそうになった。

笑いが収まった緑色の髪の少年は、何をおもったのか、ふと腕時計に目をやった。そして驚愕の表情を浮かべた。

 

「ヤバイ、登校時間まであと三分もねえじゃねえか!」

「え、嘘!」

 

二人が話している間に、いつの間にか登校時間ギリギリの時間になっていたようだ。場所を聞いておいて失礼だとはおもったが、黒髪の少年はさっさと走って学校に行くことにした。

 

「教えてくれてありがとう!また学校で会おうな!」

 

そう言って走り出そうとする。が、

 

「っておいちょっと待て、何してんだ?」

 

とめられてしまった。なんだときくと、彼は不思議そうな顔をしながら、

 

「何って、時間ないんだし乗ってけよ。この距離走っても遅刻するぞ?」

 

と、交通法がん無視のことを提案してきた。二人乗り…さすがにまずいとは思ったものの、登校時間までギリギリのこの状況、背に腹は変えられない。彼はその提案に乗ることにした。

 

「…じゃあお邪魔する」

「よっしゃ、任せとけ!」

 

彼は邪気がひとかけらもないような笑顔でそう言った。…ほんとはダメなんだけどね。

 

「いざ出発!」

 

その掛け声とともに自転車が動き出した。が、かなりスピードが出ており、震動がもろにお尻に響く。これじゃあ急ブレーキをかけたら二人とも吹っ飛んでいってしまう。

 

「っておい、スピード出しすぎだろ!」

「大丈夫大丈夫、俺、なれてるから」

「そういう問題じゃなくて!」

「ん、そういえば」

 

と、彼が何かを思いついたように尋ねてきた。

 

「お前名前はなんて言うんだ?」

「…まず自分の名前を言うのがマナーってもんだぜ」

「人の自転車に乗せてもらっておきながら…まあいいや。俺は『早川 実』だ。」

 

はやかわ…聞いたことがあるような…と考えるが、すぐには浮かばなかったので、その考えは脳の片隅においておくことにした。

 

「で、お前の名前は?」

 

彼が改めて聞いてくる。今度はしっかり答えよう。彼は一呼吸おき、こう答える。

 

「俺か?俺は…

 

 

 

 

閃道(せんどう) (ひかる)』だ。」

 

 

 

 

 

―これが後に野球新世代に新風を巻き起こす二人の出会いであった。

 

 

 

 

 




一話目から一ヶ月で二話目って…(--;)
多分次の回は一・二週間で更新できるとおもいますんでお楽しみに。

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