Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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ラブラブな展開は儚くて…。


第七話: 嬉しい事件、予想外の事件

 柔らかい布団に包まれながら目を覚ます。

 

 窓から差す朝陽が眩しい。

 丁度良く顔面に当たっている。

 直で、だ。

 そりゃ眩しい。

 

 体を起こし、量腕を上に挙げ体全体を伸ばす。

 気持ち良い感覚だ。

 あまりやり過ぎると逆に疲れるが。

 

 ボケーと真っ正直を見続け、ハッと思う事が一つ。

…二人は起きているだろうか。

 

 時刻は7時23分。

 起きていてもおかしくはない。

 寧ろ、俺が遅かったりして。

 

 それは嫌だと思いながら、長い髪の毛を纏め、歯を磨き、荷物を纏め、ドアを開ける。

 服は着たまま寝たので、そのままで良し。

 

 一瞬チラッと時間を見たが7時51分と表示されていた。

 

 俺は真っ正直の二人の部屋のドアをノックする。

 

コンコン

 

 響きの良い音が鳴る。

 

…が、応答は一切無い。

 まさかまだ寝ていたりして。

 だとしたら悪いな。

 また後で来るか。

 

 とか思いつつ少し不安になり、ドアノブに手を掛ける。

 昨日の夜に襲われていたりしないよな…?

 

 ゆっくりドアを引くと、なんと開いてしまった。

 何故鍵が架かっていないのか。

 心で慌てつつも、行動には出さないようにする。

 静かに。

 静かに。

 

…好きな人の部屋に侵入するのってこんな気分なのか…?

 いやいやいやいや、変態だろ俺。

 唯、二人が心配になったから見に来ただけであって。

 別に下心とかは無い!

 襲われていたなら下心とか言ってらんない!

 

 俺は部屋の中に入り、ドアを閉める。

 勿論荷物は自分の部屋に。

 鍵は架けたぜ、キラーン。

…が?

 みたいになる。

 悲しい。

 

 先ずは二人が部屋にいるかどうかを確認する為、一番可能性の高いベッドを確認する。

 

 そろーり、そろーりと近付き、到達完了。

 そこには案の定、二人の天使がいた。

 

「…!?」

 

 一回見たとはいえ、あまりの可愛さに驚きを隠せない。

 二人共、相変わらず寝顔の破壊力が半端無い。

 

 俺の理性がゴリゴリ削られる。

 思わず伸びてしまう手を片手で押さえ付け、感情を圧し殺す。

 そして気付く。

 やはり、二人共服はそのままだ。

 関係は、無い。

 

(…可愛過ぎるだろぉぉ!!ってか、鍵をちゃんと架けようね!?)

 

 あづみさんの寝顔とリゲルさんの寝顔を交互に見て、遂に気持ちが爆発した。

 二人が寝ているベッドの端に座り、右手であづみさんの、左手でリゲルさんの頭を撫でる。

…凄く、さらさらしてます。

 が、予想外の出来事が起こった。

 

「んぅ…んー…」

「…(ちょっ!?)」

「んふふ…」

「…(ちょっちょっ待って!?)」

 

 あづみさんが俺の右手を胸元に抱き、リゲルさんが俺の左手を握ってしまった。

 嬉しいハプニングだ。

 

…非常に嬉しいのだが、このままではリゲルさんに殺されてしまう。

 そして体勢が辛い。

 

 どうにかしてこの場を抜けなければ…!

 

…が、正直に白状すると死んでもこの場に残っていたい。

 もしかすると、半殺しで済むかもしれない。

 誰だって、天国と感じられる場所からは動きたくないでしょ。

 

「ん…ふぁ…」

 

 あ、やらかした。

 あづみさんが起きてしまったではないか。

 

 

‐‐‐

 

各務原あづみ視点

 

‐‐‐

 

 

 自分の胸元に何かを抱いている感触で目を覚ました。

 

 それでも、気持ちの良い朝。

 昨日までの疲れはしっかり癒された気分。

 実際に、疲れは無くなっている。

 

 胸元にある感触を抱いたまま、目の前に誰かいた事に気付く。

 まだ眠い頭を起こし、自分の目でしっかりとその人を確認する。

 

「…御早う御座います、あづみさん。ゆっくり眠れましたか?」

「あ…う、うん…」

 

 私に挨拶をしてくれた人物は、はにかんだ笑顔を向けてくれる。

 その笑顔に、少しだけドキッとしてしまう自分がいた。

 

直ぐに誰か分かった。

 

九条大祐くん。

 二日前に、一緒に旅をする事になった男性。

 

 私や、私のパートナーZ/X…リゲルに、凄く良くしてくれる。

 因みに、年齢は私の一個上。

 なのに敬語を使ってくる。

 一緒に旅をするのに、距離を置かれるのは少しだけ寂しい気持ちが。

 しかも、さん付けまでされている。

 

 私は大祐くんに「ちゃん」とか呼び捨て良いよって言ったのに…。

 「あづみ姫」とか「あづみ様」、更には「あづみ閣下」とも呼ばれた。

 私、そんなに偉くないのに。

 

 でも大祐くんは、私の事を目上、もしくはそれ以上に見ている。

 

 最近…というか昨日だけど、敬語を止めてくれたのは嬉しかったなぁ。

…そんな大祐くんが何故ここにいるのか。

 私にはさっぱり分からない。

 

 昨日は大祐くんのお金で、この宿に泊まる事になった。

 大祐くんは「乙女のハートを汚すような真似はしたくないので」という、私には分からない理由で大祐くんだけ別の部屋になる事に。

…一緒だったらリゲルに内緒で、また膝枕お願いしたかったけど。

 あ、でも、恥ずかしくて頼めなかったかもなぁ…。

 

…じゃ、じゃなくて!

 何で大祐くんが私達の部屋にいるのか。

 それを聞かなきゃ。

 危うく忘れる所だったよ〜…。

 

…というか、さっかから私の胸元にある感触。

これは――

 

「…!?私…何で大祐くんの手、抱いてるの…?」

 

 何が何だか、どういう事なのか。

 

 んっと…朝起きたら目の前に大祐くんが居て、その大祐くんの手を私が抱いていて、え、えーと…?

 

…一向に理解出来ない。

 

 戸惑いを隠せない私の頭の上に、優しい手の感触が感じられた。

 同時に胸元にあった感触が無くなった。

 私の頭の上にある手が、左右に動かされる。

…凄く、好きな感じの撫で方。

 また眠くなっちゃいそう。

 

「…驚かせてごめんなさい。今から全部話すので、聞いてくれますか?」

「大祐くんが敬語を止めてくれたら…聞いてあげるよ?」

「…あづみ、聞いてくれるかい?」

「え…っと…う、うん。」

 

…ビックリしちゃった…。

 急に呼び捨てで呼ばれるなんて。

 さん付けで呼ばれていたのに唐突に呼び捨てで呼ばれると、何だか不思議な気分。

 

…そして何故か、胸の奥が…少し………キュンって…。

 

 け、けど、此方の方が良いな。

 何時もリゲルに呼ばれてるからかな。

 男性に呼び捨てされるのは経験無いけど。

 

 うー……私、明らかに動揺してる…。

 態度に…出てないと良いな。

 

 そんな気持ちを紛らわす為に、私は大祐くんの手を胸元に戻し、抱きしめる。

…少しこのまま、大祐くんの手を抱いてよ。

 

「…あづみさん」

「大祐くん?」

「やっぱり、あづみさんの方が呼びやすいです。」

「大祐くんがそれで良いなら、良いよ?唯、敬語は…」

「はい…うん、その事は頑張るよ。」

 

 私が言い切る前に、大祐くんは敬語を止めた。

 大祐くんは大祐くんなりに、直そうとしているんだね。

 あまり私も、言わないようにしよ。

 

 「あづみ」って呼ばれないのは残念だけど。

 

 そしてその後、これまで何があったのか、何故大祐くんが此処にいるのかを質問。

 全て正直に話してくれた。

…あ、これじゃ大祐くんが容疑者みたいになっちゃうから…うーん…何て言えば正しいのかなぁ。

 

 間違ってはいないんだけど。

 

「…という事です。すみません…興味本意で頭を撫でてしまって。」

「ううん。…私は、大丈夫。寧ろ嬉しかったり…」

「………はい?ごめんなさい、聞こえませんでした。」

「もう…二回も言うのは恥ずかしいよ…。」

「?」

 

 大祐くんは首を傾げ、私を見つめる。

 鈍感ってこういう人に対して使うのかな…?

 

「…リゲルさん、幸せそうですね。」

 

 大祐くん、リゲルの事を物珍しい目で見てる。

 そんなに珍しいかな、リゲルが幸せそうな表情をしてるの。

 

 私と話してる時は何時もニコニコしているんだけど。

…それを言ったら駄目だよね。

 

「あづみさん、リゲルさんの手、離すの手伝って貰えますか?」

「リゲルの……ほんとだ。握ってる。」

 

 大祐くんの手を抱いたまま体を起こし、リゲルの方を向く。

 すると、大祐くんの言った通りにリゲルが大祐くんの手を握ってる。

 

 リゲルって実は…………違うかな。

 

 誰にも恋愛感情を出した事が無いリゲルが、二日だけしか一緒に居ない大祐くんに…まさか、ね。

 

「…あづみ…んふふ…」

「お願い、あづみさん。」

「えっと…うん。」

 

 リゲル、盛大に勘違いしている。

…間違えるのも仕方ないけど。

 だって隣には本来、私しか居ないのだから。

 リゲルの手のひらを開き、大祐くんの手を解放する。

 やっぱり、リゲルが大祐くんに恋愛感情を抱いている事はなかった。

 

…と、大祐くんの方に向き直った瞬間、解放された彼の手が私の顎に当てられ、クイッと上に上げられる。

 そして、少しの沈黙が

私と大祐くんを支配する。

 どうすれば良いのか分からないので、大祐くんの反応を待ってみる。

 次の瞬間、大祐くんの口から衝撃的な言葉が。

 

「…あづみさんを、独り占め出来るのかな。」

「えっ…大祐くん…?」

 

 その一言に、私の中での彼の存在が変わった。

 優しいお兄さんから、違う存在に。

 

 

‐‐‐

 

九条大祐視点

 

‐‐‐

 

 

…しまった。

 あづみさんに手を抱かれ続けて理性という壁がぶち壊れてしまい、思わず本音が出てしまった。

 本音が出ただけならまだ許せるが、遂には行動にも移してしまい、あづみさんの顎をクイッと上げて見つめ合う形にしてしまう。

 自ら爆散行為に出た。

 

 俺を見つめるあづみさんが可愛過ぎて辛い。

 

 だからと言って自分から視線を外すのは馬鹿だ。

 自らがした行為には責任を取らねば。

 

 いや、あづみさんにドン引きされて終了のお知らせになりそう。

 それ位なら今、引き返した方が…。

 あぁぁぁ…どうすれば良いんだ。

 

「…その…えと…私を独り占め…したいの…?」

 

 迷い続ける俺に、あづみさんは真剣に聞いてきた。

 俺は無言で頭を上から下に下げ、コクンと頷く。

 

「ほんとに…?」

「…(コクン)」

「真面目な話?」

「…(コクン)」

「嘘じゃなく?」

「…うん」

「………えっと、私は――」

「駄目よ。」

 

 !?

 俺とあづみさんが話していると、リゲルさんがむくっと起き上がった。

 唐突過ぎて少しビビる。

 そして、リゲルさんの顔が怖い。

 お怒りの御様子だ。

 

「私を差し置いてあづみを独り占め?馬鹿な事は言わないで頂戴。」

「…すみません。」

「けど、リゲルが眠っている時、大祐くんの手を握ってたよ。」

「えっ…!?」

 

 そうだそうだー。

 リゲルさんだって俺の手を握っていたんだー。

 あづみさんの手と間違えて――う、何でもないです。

 まぁ、リゲルさんはあくまであづみさんと間違えただけであって… 

 

 はぁ…悲しみ。

 

「私が…大祐の手を…!?」

 

 何だかリゲルさんが勘違いしている。

 このまま勘違いを貫き通しても良いのだが、リゲルさんが俺に対しての睨み付け方がエグいので、正直に話そう。

…心残りが無いと言えば嘘になるが。

 

「安心して下さいな。リゲルさんは俺の手をあづみさんの手と間違えただけであって。」

「…あ、そうなの?なら気にしなくても良いわね。」

 

 相も変わらず、あづみさんの事が大好きなようで。

 

 兎に角、二人に何もなくて良かった。

 俺の不安は無意味だったという事だ。

 そしてこのままリゲルさんが「何故ここに大祐が居るの?」的な発言をしなければ完璧――

 

「…で、何故ここに大祐が居るの?」

「今から話させて頂きます!」

「ど、どうしたの?急に…」

「大祐くん、焦ってる。」

 

 あづみさんに心中を当てられ、図星になる。

 

…そりゃあ、ねぇ。

 自分が[なければ良いな]と思っている事を、一字一句全て同じに言われたら…誰だって焦るよね。

 

 ましてや、相手はリゲルさん。

 殺されても文句は言えない。

 いや、そこまで殺人気してないとは思うけど。

 

「…ま、良いわ。今日の事は免除してあげる。」

「俺はてっきり殺されるかと。」

「大祐は私を何だと思っているの…」

「とても美しく、綺麗なお方。」

「…!?そんな事でおだてられても私は何とも――」

 

 リゲルさんが呆れ口調で話していると、外からの音で途中聞こえなくなった。

 建物の壊れる音、人々が嘆く声、色んな音が混じっている。

 俺とあづみさんとリゲルさんは互いに顔を合わせ、何事かと外の様子を伺う。

 

 すると、目の前に広がった光景は…無惨だった。

 機械に見える物体は、恐らく[キラーマシーン]だろう。

 何十体もが束になり、建物を悉く(ことごとく)壊しにかかっている。

 二人はその光景を、唖然として見ている。

 

 だが、俺は全然違う場所を見つめる。

 そのキラーマシーンの束の中心にいる女性の事を。

 

「リゲルさん、あの人は…?」

 

 疑問に思い、リゲルさんに尋ねてみると、彼女はギョッとした表情で女性を見た。

 

「あづみ、大祐、逃げるわよ!」

「リゲル?あの女性がどうかした?」

「それは後で説明するわ。今は兎に角――」

「各務原あづみ、リゲル、貴女達が此処にいるのは分かっています。今直ぐにベガ様の元へ帰りなさい。」

 

…警告ですか?

 いいえ、空耳です。

 しかも、ベガ様の元へ帰れとか言ってるよ。

 

 というかリゲルさんが焦りまくっている。

 あたふたしながら右往左往、一人で「どうやったら気付かれずに逃げれるかしら…」とか悩んでいる。

 

 リゲルさんがここまで戦闘を避けようとする相手。

 そんなに強い相手なのか、確かめてみたくもある。

 だが、二人の敵なのは間違いない。

 [アドミニストレータベガ]の名前が出てきたという事はそういう事だろう。

 二人の敵は、俺の敵だ。

 よって、あの女性を死に追いやるのがベストな気がする。

 

 戦闘は避けた方が良い事自体はわかっているが、二人の存在が知られている時点で無理だろう。

 ここは一つ、使命を全うしますか。

 

「二人共逃げる準備は…って、あれ?大祐は?」

「えっ?さっきまで隣に居たのに…」

「全く…一体何処に――ちょっと、大祐!?」

「大祐くん!?」

 

 キラーマシーンに指示を出している女性の目の前まで近付くと、二人がやっと俺に気付いた。

 もしかしたら俺、隠れたりするセンスあるかも…。

 

 取り敢えず、女性の特徴を見つけよう。

 

………うむ。

 見て直ぐに、一つの特徴に気が付いた。

 何でバトルドレスの女性って、こんなに露出度高いの?

リゲルさんといいこの女性といい。

 

 青く長いロングヘアーに、青い瞳。

 衣装は…まるで白い布を身に纏っただけな感じだ。

 隠すべき場所は隠されているし、隠されている面積の方が大きい。

 なのに、何故露出が高いと思ってしまうのか。

 

 答えは簡単。

 

 その衣装のせいで、彼女の大きな胸が嫌と言いたくなるほど強調されているからだ。

…リゲルさんも大きいが、彼女も大概だな。

 

 特徴、以上。

 他には無し。

 

「…そこの貴方、退きなさい。高が人間の分際で私の前に立つなど――」

「そんな話良いですから、貴女達の方がさっさと帰ってくれませんか?」

「…排除開始します。」

 

 要件だけ伝えたのに、何故か排除対象になってしまった。

 

 話し合いが通じない相手は、これだから嫌いだ。

 やれやれと首を左右に振ろうとした瞬間、周りに居たキラーマシーンに囲まれていた。

 

 わぁー、俺、大人気。

 

…などと冗談を言っている場合ではなさそうだ。

 相手のキラーマシーンは既に、俺を排除しようと行動を開始している。

 囲まれている中心に居る俺に、いきなり飛び掛かって来た。

 凡そ5体位。

 

 敵の数が多いので相手の位置を把握せねば。

 あの女性の周りに10体。

 今襲い掛かって来ている奴等で5体。

 そいつらの周りに、更に10体程。

 

 数が多く中々にめんどくさい。

 

 だが、各々が密集している御蔭で此方は殺り易い。

 

「バトルドレス、解放!」

 

 俺はバトルドレスを起動させ、真上に移動する。

 それだけで、襲い掛かって来たキラーマシーン5体は回避成功。

 

「…予想外の出来事ですね。」

 

 俺がバトルドレスを使える事に、相手の女性は少し驚いている。

…凄く、してやった感が半端ない。

 やったぜ!

 

 などと喜ぶのは後にして、今は戦闘に集中。

 機動力の関係上デスティニーで戦いたいが、対多数戦ではサバーニャが有利だ。

 実戦初めて、ぶっつけ本番、覚悟は出来た。

 さぁ、バトルドレスを換装だ。

 

 一瞬の眩い光を発し、サバーニャへと換装する。

 手には、量腰に付いているGNホルスタービットから射出されたGNピストルビット二丁を構える。

 

「ガンダムサバーニャ…目標を狙い打つ!」

 

 じゃあ何でGNピストルビットを装備したの?とか言う突っ込みは無しで。

 後々の楽しみにとっておきたいのですよ。

 

 俺はGNライフルビットII、GNピストルビットをGNホルスタービットから更に射出し、下にいるキラーマシーンを攻撃させる。

 素早く飛びかう物体に反応仕切れないのか、ビットから放たれるビームを全て喰らい、真下のキラーマシーンはあっと言う間に殲滅完了。

 その間に、周りの10体GNライフルビットII/GNピストルビットを駆使し、自分で片付ける。

 

 少し遠くにいる女性の周囲にいるキラーマシーンを狙い打ちにしたいが、一体ずつだと時間が掛かる。

 サバーニャの必殺技の出番ですね。

 

 全てのビットを自分の周囲に停滞させ、何もせずに佇む。

…リソース量も不安無し。

 これなら大丈夫そうだ。

 

「…唐突だけど、俺はリゲルさんみたいに精密な狙撃は出来ない。…だから、さぁ…」

「…?」

「全力で乱れ撃つ…!」

 

 自分の目の前にGNホルスタービットを展開し、一斉射撃を仕掛ける。

 

 ビームが着弾するギリギリの瞬間で女性は反応し、青い結界らしき何かを自分の目の前に発生させる。

 

「くっ…この威力は…!」

 

 女性は苦悶の表情を見せる。

 だが、その結界は見事に俺の撃ったビームを全て無効化した。

 Iフィールド(射撃バリア)とか聞いてないっすよ…。

 

 だが、周りに居たキラーマシーンは全て破壊した。

 壊れている建物の風景に良く映える。

 相手の結界も破壊する事が出来た。

 

…サバーニャさん、やはりお強い。

 

「…キラーマシーンが全て…という事は、私が相手をしなければならないのですね。」

 

 状況を素早く確認した彼女はそう言うと、周辺を見渡し、俺へと視線を変える。

 

…ここからは女性との一対一対決。

 所謂、タイマン状態。

 サバーニャはタイマンなんか出来ないので、即座にデスティニーに換装し直す。

 後ろのウェポンラックからアロンダイトを取り出し、女性に向ける。

 

「…オリジナルXIII Type,X “Mb29Ve”敵を排除します。」

 

 貴女の名前、随分と長いね。

 そんな言葉がついつい出てしまいそうになる。

 

…あの女性、名前は数字のX(テン)か。

 面倒臭いし、Xちゃんで良いや。

…は!ま、まさか…

 さようなら、テンさん。

 チャ○ズーー!!!

 

 みたいなアレですかね。

 もしかすると、Xちゃんも誰かを失って…!

…ストーリーが出来上がり過ぎだろ、それ。

 

「大祐、そいつと戦っちゃ駄目!」

 

 自分の心の中でふざけていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 

 振り返ると、変わらず焦った表情をしているリゲルさんと心配そうな表情をしているあづみさんが居た。

 リゲルさんは何故にそこまで警戒しているのか。

…俺には分からな――

 

「大祐くん!後ろに…」

「貴方は、死んで下さい。」

「なっ…!?」

 

 俺が振り返った一瞬の間に、Xちゃんはゼロ距離の間合いにいた。

 小さく、無駄のない動きで小型のビームダガーを横に一閃される。

 情報演算処理能力で見切っていた俺は、ギリギリの所で左肩のフラッシュエッジを抜き出し、受けきる事に成功。

 バチッという音が、周りに響き渡る。

 

 立場逆転、形勢逆転、どちらも当てはまる状況となってしまった。

 

 Xちゃんはもう片方のビームダガーを、俺の腹部に突き立てる。

 思わずアロンダイトを手から離し、右肩のフラッシュエッジに持ち替え、自衛に徹する。

 

…防戦一方、このままではまずい。

 

「偉い口を叩いておきながら…この程度ですか?」

「見逃して下さいな…僕は今さっき、幸せタイムを味わっていたんですよ。」

「知りません。貴方は今から地獄を見る事になり――」

「…あはは、対話とは、素晴らしいですね。」

「…はい?」

 

 俺の意味不明発言に、少し困惑するXちゃん。

 怒濤の連撃の中に生まれた微かな隙。

 その隙を見逃したりはしない。

 

 俺ではなく、俺の後ろにいる人物が。

 

「…狙い撃つ!」

 

 俺は一歩後ろにバックステップを踏み、リゲルさんの放った狙撃を回避する。

 丁度良く俺が陰になり、リゲルさんの姿が見えていなかったXちゃんは判断が遅れた。

 しかしXちゃんは少し体を動かし、急所を避ける。

 

 左肩に直撃。

 

 心臓部分には届かなかったものの、怪我を負わせる事は出来た。

 振り返った一瞬の間に目配せをしておいて正解だった。

 それに気付いたリゲルさんも流石。

 リゲルさんの狙撃を、あの状態で躱したXちゃんも流石だが。

 

「…損傷確認。戦闘を続行します。」

「怪我をしてでも私達を捕まえようとする…貴方らしいわね。」

 

 リゲルさんの発言に、疑問を抱いてしまう。

 二人共知り合いなのか?

 

 少しの時間、呆気に取られる俺の目の前に小さい影が現れる。

 

 Xちゃんでは無い、況してやキラーマシーンでも無いだろう。

 先程全滅させた筈だからだ。

 

 それに、姿が明らかに小さい。

 すると、情報演算処理能力が相手の行動を先読みしていた。

 

[ビームサーベルが横に振られる]

 

 今回は余裕を持って回避出来た。

 先の様に、Xちゃんが不意討ちを仕掛けて来る可能性を考慮していたからだ。

 

 余裕回避の序でに、小さい影の正体も確認する。

 その姿に、重ね重ね疑問を抱く。

 

「…あづみさん?」

 

…俺は驚かざるを得なかった。

 小さい影…少女は、あづみさんとそっくりそのままだった。

 

というか、あづみさんだ。

 

‐‐‐

 




リゲル先生のパーフェクトZ/Xの世界教室5

緑の世界に存在するZ/Xの特長
・ホウライ
植物の名前がそのまんま、この種族の名前。
蒲公英(たんぽぽ)もいれば向日葵(ひまわり)もいる。
中には面倒臭い名前を持つホウライもいるが…呼ぶ分にはあまり関係ない。
お偉いさんは八大龍王という方々。

・リーファー
頭がお花畑の種族。
…と言うと言い方がアレだが、要するに植物に侵食された種族。
基本的にのほほんとしている。
厄介なリーファーの方が多いらしいが。

・ライカンスロープ
所謂、獣人族。
リーファーみたいに頭がヤられていなければ、おかしい奴等も少ない。
寧ろ、話せば通じる種族だと。
リゲル先生でも保証はしかねるみたいだが。
…何故?緑だからじゃないかな。

・プラセクト
そのまんま、虫。
どう見ても、虫。
誰が何と言おうと、虫。
そして、危ない。
…リゲル先生はこれしか教えてくれなかった。

唯、リゲル先生が危ないと言うだけで、どれだけ危ないかは分かる。

この教えを聞いて、思う事が一つ。
…本当に治癒能力は高いのか?と。
実際、他の世界とは段違いとリゲル先生は言う。

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