Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第五話: 行き先

 記憶の一部を思い出した俺は、リゲルさんの決めた行き先を否定する事にしようと決めた。

 緑の世界に行くという選択肢は潰した方が良い。

 

 だが、どうやって説得を行えば良い?

 記憶の一部が戻りました、緑の世界には行かないで下さい。

 まさかそんな言い分が通る筈が無い。

 こればっかりは話しても無駄という事は、俺でも分かる。

 別に親密な訳でもないのに、普通そんな話が信じられるか?

 信じられないに決まっている。

 

 昨日会ったばかり…しかも、助けた、助けて貰っただけの関係。

 信用に値してすらいないだろう。

 更に言ってしまえば、実は俺が二人の追っ手であり誘導するつもりだ、と怪しまれる可能性も大きい。

 此方とて、信じて貰えないと分かりきった話をするつもりは無い。

 ならどうやって説明するか。

 

 一応、緑の世界に行ってはいけない事以外にも思い出した記憶は多々ある。

 世界が五つあり、その世界の特長、どんな種族が存在するのか、今更思い出しても仕方の無い物だが。

 

 然しその記憶の一部には、思い出したかった記憶もある。

 各々の種族の特長、二人に関係するZ/X、そのZ/Xが白か黒か。

 一部でしか記憶は戻らなかったが、それこそが一番大事だった。

 

 特に、二人に関係するZ/Xについては。

 

…まぁ、それは良いとしよう。

 問題は二人が納得出来るような内容を伝えた上で、緑の世界は止めた方が…と、断れるかどうかだ。

 必死に脳内をフル回転させたが、生憎一つしか思い浮かばない。

 

 それが正しい選択なのかは分からないが、少なくとも緑の世界に行くよりは断然良いだろう。

 こんな理由が通じるかどうか…。

 俺の頭と心の中では、それしか考えられなかった。

 

「…リゲルさん、一つ提案があるのですが」

「何かしら?」

「緑の世界ではなく赤の世界に行った方が宜しいかと」

 

 無論、瞬時にしてリゲルさんの表情が強張った。

 

「…それは何故?治癒関連では緑と赤は、天と地の差があるのよ。教えた筈だけど?」

「はい。リゲル先生の教えはしっかり聞いていました」

「ならどうして?」

 

 リゲルさんの声のトーンが段々荒がってきているのは、直ぐに分かった。

 

 それもそうだろう。

 

 態態、戦闘を好むZ/Xの多い赤の世界に行くという馬鹿馬鹿しい提案を出したからだ。

 体の弱いあづみさんが一緒にも関わらず。

 端から聞けば、こいつは頭がイカれているのか?と、勘違いされそうな内容だ。

 

 が、俺が行きたいのは戦闘民族の所なんかじゃ無い。

 行っても得なんか得られない場所に赴くなんて、それこそ馬鹿馬鹿しい。

 俺の目的は赤の世界でも違う場所だ。

 

「…リゲルさんの教えてくれた種族に、[マイスター]という種族がいましたよね」

「えぇ。…マイスターがどうかしたの?」

「そのマイスターの技術を持ってすれば、あづみさんのリソース症候群を半永久的に抑える事が可能になるかと」

「本当…?」

 

 あづみさんの声には、少しの期待が含まれているように聞き取れた。

 

「…でも、何でマイスターなの?」

「マイスターという種族は、作っている武器に自身のリソースを籠める事により、武器を強化するって言ってましたよね」

「確かに言ったけど…」

 

 浮かない表情をするリゲルさん。

 多分だが、薄々気付いているのだろう。

 俺の言いたい事が。

 

 そもそもマイスターとは人なのだが、素体の戦闘能力がZ/Xの中では皆無に等しい。

 完全に無いとは言えないが人の様に体を鍛えないと戦えるレベルには至らない。

 最も、そういう欠陥は武器が補ってくれている。

 元々武器作りに長けている種族だが、マイスターの作る武器は殆どが一級品。

 誰にも真似できない領域の武器を作れるのがこの種族の特長だ。

 

…この情報も思い出した記憶の一部だが。

 言ってしまえば、これ位しか頭に無い。

 

「でも、マイスターさんに私のリソース症候群は仰られるの?」

 

 どうやらあづみさんはまだ気付いていないらしい。

 だが、原理さえ分かれば簡単な理屈だ。

 

 リソース症候群とはこの世界の中心と言える[ブラックポイント]から常に放出されている[リソース]を、大量に体内に取り込んでしまった人間が罹ってしまう病気。

 一度発症してしまうと昏睡状態に陥り、そのまま一生眠り続けてしまう。

 事実死んだも同然となる。

 人によっては様々な症状を引き起こすが、大抵は目を覚まさなくなると。

 

 このリソース症候群に対抗出来る薬や措置などは、未だに発見されていない。

 前世にいた頃の病気に非常に似ている。

 今はもう既に対処法が見つかったが、少し前のAIDS(エイズ)だ。

 病状は全く似ていないが、罹ると死亡確定という部分は似たり寄ったり。

 どうする事も出来ない。

 

 そんな病気…リソース症候群の中でも、重度の物を患っているのがあづみさんだ。

 

 従来のリソース症候群とは病状が違う。

 昏睡状態に陥る事は無いが、その分[心臓を思いっきり掴まれている]、[頭が割れる様な痛みの頭痛]等、全然関係無い箇所に症状が表れる。

 このままでは薬は切れ、その痛みに耐えられなくなったあづみさんは壊れてしまう。

 だが、そのリソース症候群の元は[人の中にあるリソース]だ。

 それさえ取り除ければ、リソース症候群は消え失せる…という考え。

 

 然し人の中にあるリソースは自然には消えない。

 発散する方法が無いからだ。

 

 体内からは出てこない。

 手術を行い体の内部を見たとしても、そもそもリソースは見えない存在。

 取り除く方法は皆無に等しいのだ。

 

…が、先程のマイスターを利用すればリソース症候群は解決されるかもしれない。

 

 Z/X達は自分の体に生まれるリソースを使い色んな事が出来る。

 その技術を人間にも応用出来れば、或いはリソース症候群を治せるかも分からない。

 じゃあ、どうやって人間の中にあるリソースを使うのか。

 答えは簡単だ。

 

 先程喋っていた通り、マイスター達は武器を作る種族だ。

 そしてマイスター達の武器にブレイバーやら何やらがリソースを流し込み、武器として扱う。

 

 リソースを流し込むという事はリソースを消費しているという事と同じ。

 あづみさんにもその技術を使えば、リソース症候群を半永久的に抑えれる可能性が見えてくる。

 

…あくまで可能性だが。

 

 それに、態態武器の形状じゃなくても構わない。

 寧ろ御守りみたいな感じにして、その御守りにあづみさんのリソースを流し込めれば大成功だ。

 特殊効果やらの恩恵なんて要らないから。

 問題はあづみさん本人がリソースを扱える様にならなければならないという事だが…それは追々考えても大丈夫だと思われる。

 

「…と、言う訳です」

「ほぇ〜…凄いね、大祐くんって」

「なるほど…だとすれば、あづみが戦う事も無く万事解決と…」

「御守りかぁ…どんなのが良いかな…?」

 

 説明が終わると直ぐに二人は納得した。

 特にあづみさんは、もう既にどんな見た目の御守りが良いかな…とか考えている。

 リゲルさんに関しては右手を顎に当てながら考える素振りを見せているが、顔には少しの笑みが零れている。

 心の中では決定しているのだろう。

 

 それならば、最早決定事項だ。

 

「…赤の世界に行きますか?」

「えぇ。考える必要なんて無いわね。最初からそうしておけば良かった」

「赤の世界…少し怖いけど、リゲルと大祐くんが居てくれるから大丈夫だね」

「戦力になれるか怪しいですが。それでも、あづみさんとリゲルさんを守らせて頂きます」

「あっ…守らせて?」

「…も…ら…う…よ…」

「敬語は禁止って言われているのに。大祐は堅いわ」

「…」

 

 赤の世界に行く話から、何故俺が堅いって話になったんだ?

 

…まぁ、良いか。

 

 兎に角、どうやって赤の世界…基(もとい)マイスター達に会うか。

 此処が悩み所だ。

 赤の世界に行った場合、恐らく戦闘は避けられない。

 極力争いはしたくないが…さて、どうしたものか。

 

「…あ、そうだ。リゲルさん、貴女の狙撃力見せてくれませんか」

「急にどうしたの?」

「俺のバトルドレスなんですが、面白い機能を発見出来たので」

「…?分かったわ。…そうね…あの瓦礫、丁度良さそう」

 

 リゲルさんが向いた方向には、朽ちた建物が崩れた後の瓦礫があった。

 距離的に、150mはあるだろうか。

 肉眼で捉えるのには少々遠い位置だ。

 

「それじゃ、彼処を狙い撃つわ」

 

 リゲルさんの指した指はその瓦礫の中心部分、一つだけ青い色の建物の残骸。

 それを狙い撃ちにするらしい。

 動いて無いとはいえ、中々難しい距離。

 外さなかったら素晴らしい。

 

「リソース解放…しっかり見てなさい?」

 

 リゲルさんがそう言った瞬間、一筋の青い閃光が放たれた。

 

パシュン

 

 そんな感じの音が聞こえ、瓦礫の中心部分を見事に狙い撃っていた。

 青い色の瓦礫だけが割れている。

 威力は限界まで下げたのか、控え目な音だった。

 しかし…凄い。

 

「やっぱり凄いなぁ…リゲル」

「成る程…大体分かった」

「大祐くん?」

 

 隣に居て一緒に見学をしていたあづみさんは、リゲルさんの狙撃を見て驚きはしなかった。

 いつも通り、みたいな感覚なのだろう。

 そんなリゲルさんの狙撃を見て俺は、何故あんなに正確な位置を狙撃出来るのか…唯それだけを思っていた。

 

 そして直ぐにそれが分かり、俺もバトルドレスを起動。

 先程の狙撃を情報として取り入れ、それを演算、処理を完了。

 [情報演算処理能力]を利用した、バトルドレスの機能。

 

<経験値が一定を越えました。新しいバトルドレスを追加します>

 

 俺の頭の中に直接、機械が喋る様な声が聞こえて来る。

 その後白い光が俺を包み込み、一瞬で元に戻った。

 

「ーー今の光は…?って、その姿…」

「大祐くん、さっきまで違う見た目だったのに…」

 

 あづみさんもリゲルさんも、目を点にして俺を見つめている。

 自分自身では見れないが、自分に何が起こったかは分かる。

 新しいバトルドレスの解放だ。

 

 腰の辺りのバインダーに左右5対、計10基の緑のビット。

 更に両肩に4基のビット。

 外見だけはそんな見た目。

 だが、それだけでも豪華な姿となっている。

 

「ガンダムサバーニャ…?」

 

…俺は疑問に思った。

 リゲルさんの狙撃を見て、何故サバーニャ?

 ケルディムじゃなくて、何故サバーニャ?

 狙い撃つじゃなくて、何故乱れ撃つ?

 

「え…えぇ?」

「大祐が微妙な反応をしてる…」

 

 俺の微妙な表情で、リゲルさんまで微妙な表情になってしまった。

 ごめんね。

 リゲルさんのせいじゃないんだ。

 

「それが、大祐くんの言ってた面白い機能?」

「あ、はい。…どうやらこのバトルドレスは、自分の取り入れた情報を具現化させるみたいです」

「今のは…リゲルの狙撃を?」

「そうでーーそうだね。唯、少し違かったけど。」

 

 危うい。

 また敬語を使ってしまう所だった。

 自分で直した瞬間、あづみさんが嬉しそうな表情をしていたのは良いとして。

 

…サバーニャなら許せるか。

 ジムスナイパーとかじゃないだけ良いだろう。

 いや、良すぎるレベルか。

 しかも、最終決戦仕様だし。

 個人的に好きだし。

 何故リゲルさんからサバーニャなのかは分からないが。

 そこは幾ら考えても無駄だろう。

 何時までも考えていちゃ、仕方がない。

 

「新しいバトルドレスも解放されましたし、動きますか?」

「バトルドレスとして、それがどんな機能を持ち合わせているのか気になるけど…そうね。早速赤の世界に行きましょう」

「御守り…何色が良いかな?どんなのになるのかな。楽しみだな♪」

 

 ウキウキしているあづみさんが可愛すぎる。

 一方、俺とリゲルさんは不安要素満載過ぎて悩んでいた。

 

 どう行けば戦わずしてマイスターに会えるか。

 追い掛けて来ている青の世界のZ/X達に見付からないか。

 そして、腹が減った。

 何処で食事を済ませるか。

 等々、色んな事で悩みまくっていた。

 

…しかし、俺もリゲルさんもそれで良いと思っている。

 あづみさんが悩む位なら、俺達が代わりに考え、悩むと。

 それであづみさんが自由気ままに出来るのであれば問題は無い。

 極力リゲルさんにもそうであって欲しい所だけど。

 

「…取り敢えず、行きますか」

「えぇ…戦闘が無い事を願うわ」

「御守り…♪」

「あぁ、リゲルさん。僕に学ばせてくれて、有り難う御座いました」

「構わないわ。戦力が増えた様な物だし」

 

 そんな会話を交わしつつ、あづみさんとリゲルさん、俺は歩き始めた。

 一人はワクワクと、二人は様々な不安を抱えながら。

 いざ、赤の世界へ。

 

‐‐‐




リゲル先生のパーフェクトZ/Xの世界教室3

黒の世界に存在するZ/Xの特長
・ディアボロス
一言、吸血鬼。
人間の血を吸って若返りしている。
特に、若い人間は格好の獲物。
男も女も存在。
七大罪と言われる者達が、黒の世界でのお偉いさん。

・ノスフェラトゥ
一度死んでしまった者の蘇り。
ゾンビとは違う。
人形(ひとがた)から良く分からない生物まで、多数存在する。
割りと面白い奴等がいるとか。

・トーチャーズ
七大罪の何人かが作った生きている人形(にんぎょう)。
見た目は女性、機械、意味不明な物がある。
…何故意味不明か。
リゲル先生は「例えられないわ。あんなの」とか言っていた。
リゲル先生が言うのなら間違いない。

・プレデター
映画じゃないよ。
見た目は完璧に動物だし。
何匹か集めて不気味な動物園が出来る。
要らないが。
…それは置いといて。
凶暴性は普通にある。
リゲル先生とあづみさんは、プレデターを食した事があるとか。
凄まじい話。

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