Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

52 / 69
50話達成記念挿絵を投稿致しました。
良ければご覧下さいませ。
此れからも挿絵を描きながらですので、小説投稿が遅れるかもしれません。
予めご了承下さい。


第五十一話: 運命

『死して尚、彼女達を守りたいと望むか』

 

ㅤもしもそんな言葉が飛んで来るのであれば、俺は迷わずYESと答えるだろう。

ㅤ理由?そんな物は必要無い。

ㅤ唯一の望み…そう、望みだけが俺を支える。

ㅤ自分の体が、心が、例え如何であろうと…大切な彼女達を守れるのであれば。

ㅤ多少の犠牲は厭わない。

ㅤ俺が望む事は只一つ。

 

『大切でかけがえのない人の自由を、未来を、希望を掴み、守り続ける事』

 

ㅤどんな形であろうと構わない。

ㅤその意思を、唯只管に突き進むのみ。

ㅤだから俺はまだ…死ねない。

ㅤ死んでしまえばその望みは叶わぬ夢と消えてしまう。

 

ㅤまだ眠るには早いだろう…。

ㅤこのままでは彼女達が全てを奪われてしまう。

ㅤそれを防ぐ事が出来る方法は唯一つ。

ㅤ自分が直ぐ側で、隣で、守り続ける他無いのだ。

ㅤさぁ、目を覚ませ。

ㅤまだ死ぬべき時では無い。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「う…ぐぅ…」

 

ㅤ自分の意識に…使命に頭を叩き起こされ、目を開ける。

ㅤその際、自分自身の体が激しく悲鳴を上げている事に気が付いた。

ㅤルクスリアさんと初めて出会ったあの時の様に…痛覚が麻痺する程の痛みだ。

ㅤそれが俺の体全体を侵食し、完全に言う事を聞かなくさせていた。

ㅤ先程から指一本すら動かせない要因…確実にこれだろう。

ㅤ瞼も開けるのがやっとだ。

ㅤ半目状態、その瞳に映る光景。

ㅤ俺の脳はその光景に思わず思考を停止させた。

 

「あづみ…さん…!リゲルさんにA–zちゃん…きさらちゃんまで…?」

 

ㅤ自分が命を賭けて守ろうとした大切な人達が目の前に。

 

…いや、目の前という例えは間違いかもしれない。

ㅤ事実俺は、彼女達を見下ろす形でその姿を視界に映していたのだから。

ㅤこれはどういう事だ?

ㅤそう疑問に思ったその矢先、直ぐ側から先程まで耳にしていた声が俺に話しかけてきた。

 

「やっと目を覚ましましたね、九条大祐」

 

ㅤ俺は、動かすのもやっとな状態の体、首を声の主の方向へ向ける。

ㅤ其処に居たのは案の定、あづみさんとリゲルさん…そして俺の敵でもあるtype,Xが佇んで居た。

ㅤ勿論、type,II、type,IXも俺を囲うようにしてその場に立ち止まっている。

ㅤだがそんな事はどうでも良い。

ㅤここでやっと、1番の疑問に気がつく。

 

「…何故、殺さなかった」

「勿体無いからよ」

 

ㅤその疑問をぶつけた瞬間、即答で返される。

ㅤ「勿体無い」という言葉である程度は察する事が出来た。

ㅤ動けない俺を何かに利用するつもりだろう。

ㅤ最も、あづみさんやリゲルさん達が見下ろせる位に近い距離にいる時点で何に利用されるかなんて考える必要すら無い。

 

「…彼女達が足を…止めるとでも…?」

「それは各務原あづみ、そしてリゲル次第。まぁ、貴方が二人と親密な事位は知っているわ。えぇ、知っている上で愉しませて貰うの」

 

ㅤ然りげ無く鬼畜な所業を見せ付けてくれる。

ㅤ然も自分を利用されて行われる事態。

ㅤ彼女達を守るどころかこんな事になるとは…。

 

「貴方が意識を起こしてからでないと意味が有りませんから。待っていたのです」

「ま、起きなかったら起きなかったでそのまま仕掛けたけど」

 

ㅤこの人達は…随分と好き勝手に言ってくれる。

ㅤ一発殴り込みたいところだが、それも許してはくれない。

ㅤ自分の体が動かないのは損傷が激しいという理由もあるが、1番の理由としてtypeIXのタービンビットに両手両足を塞がれている事が大きい。

ㅤ両手…では無く、左腕はつい先程失ったばかりだが。

ㅤそのつい先程なのかすら分からない。

 

「…さぁ、彼も目を覚ました事です。早いとこ終わらせましょう」

「……」

 

ㅤ終わらせる…そんな事、易々とさせて堪るか。

ㅤ確かにあの場でオリジナルXIIIを留める事が出来なかったのは俺の責任だ。

ㅤだからこそ此処で、二度目の足掻きを見せなければならない。

ㅤ策なんて無い。

ㅤ時間を稼ぐだけ。

ㅤ稼げれば何でも良いのだ。

 

「では、行きましょうか」

 

ㅤtype,Xの指示と同時に、三人は下へと降りていく。

ㅤ何か…何かないのか。

ㅤ俺は必死に四肢を動かす。

ㅤ無駄とは分かっていようが、何もしない、抵抗しないよりはずっとマシだ。

 

ㅤと、そうこうしている内にオリジナルXIIIの三人はあづみさん達の前に憚っていた。

 

ㅤ上手く合流してくれたのか、既に臨戦態勢のきさらちゃんとA–z。

ㅤその後ろには三人を睨み付けるあづみさんに、全身傷だらけ、更に腹部には重傷を負っているリゲルさん。

ㅤ左腕で傷口に手を当て、右腕であづみさんの肩を借りて。

ㅤ歩くのもやっとであろう彼女のその姿は見るに堪えない。

ㅤ顔色も悪く、苦悶の表情が一向に晴れる気配が無い。

ㅤもし治してあげれるのであれば今直ぐにでもーーー

 

ㅤ治す…?

 

ㅤ俺は今まで頭の隅にすら浮かべる事の無かったこのワードに、ふと思い出した事があった。

ㅤ幾つあったか定かでは無いが、逐一気になっていた物が。

ㅤだが今はそれすら確かめられない。

ㅤタービンビットが邪魔だ。

ㅤこれさえ壊せれば…。

 

『…大祐くんは…大祐くんは何処にいるの…!?』

『あら、「殺された」という考えないのかしら?』

『そ…んな……いやっ…そんなの……うそ…』

『…えぇ…嘘、ね…何処からか…大祐のリソースが感じられるもの…』

『ネタバレは良く無いわ、リゲル。まぁ…どうせ関係無いけれど』

 

ㅤ下の方では何やら会話劇が繰り広げられているようだ。

ㅤ微かに聞こえてくるあづみさん、リゲルさんの声に、何故かほっとしている自分がいる。

ㅤ安心する位ならさっさと抗え。

ㅤそう自身に言い聞かせ、動く筈の無い手足に力を入れた瞬間。

 

ㅤtype,IXがタービンビットを操作しているのか、俺の身体を運ぶ様に連れて行く。

 

ㅤまぁ、何処に持っていかれるかなんてのは察し済みだ。

ㅤtype,IXの動かすタービンビットに運ばれ、無論、リゲルさん達の目の前へと移動させられる。

ㅤ丸で見せしめの様な状態だ。

ㅤいや、見せしめなのだろう。

ㅤリゲルさんと似た様に全身傷だらけ、左腕はごっそり奪われ、流血が絶えない。

ㅤ更にタービンビットに手足を封じられ指一本すら動かせない。

ㅤ丸でキリスト教の絵に描かれている人物画の様な体勢だ。

ㅤそんな俺の姿を見てあづみさんは、口に両手を当て、力が抜けていくかの如く地面にぺたんと座り込んでしまう。

 

「大祐…くんっ…」

「だいすけっ!」

 

ㅤ現実を受け止めきれていないあづみさんに対し、きさらちゃんは大きな声で俺の名前を呼ぶ。

ㅤ二人共、まだ俺は死んだ訳じゃない。

ㅤまだ生きてるからね。

ㅤこんなズタズタにやられた人間が言える言葉では無いが。

 

「ますた…」

「…貴女達、大祐を捕まえて如何するつもり」

 

ㅤA–zちゃんの俺を心配する瞳に、リゲルさんの威圧するかの様なその声。

ㅤオリジナルXIII、type,IIはそんな二人に笑みを浮かべる。

 

「…如何するも何も、リゲルや各務原あづみの選択次第でこの男の生死が決まるだけよ」

「もし九条大祐を生かしたいのであれば、リゲル、各務原あづみ、A–zには大人しく拘束されて貰います。逆に貴女達だけでも助かりたいというならば、九条大祐には死んで貰います。前者と後者、三人で話し合って決めて下さい」

「…全員、逃げて下さい…迷う事なんて…無い筈、です。俺を切り捨てる…事が…貴女達のーー」

「少し黙りなさい」

 

ㅤ一言一言、口にするのがやっとだった。

ㅤ途切れる言葉を繋ぎ合わせ、彼女達に逃げろと伝えようとした。

ㅤ然しtype,IIがそれを良しとせず、俺の口を封じる為にtype,IXに手で指示を出す。

ㅤ指図されたのが気に食わないのかtype,IXはあまり乗り気では無さそうだ。

ㅤだが彼女は容赦無くタービンビットに電撃を発生させる。

 

「ぐっ…ああぁぁぁ!!?」

「大祐くんっ!」

「ますたっ」

 

ㅤ全身が焼ける様に熱い、痛い。

ㅤ内臓にまで届く程に鋭い刺激。

ㅤ俺が普通の人間なら死んでいただろう。

ㅤ切り落とされた左腕の傷口は、最早壊死していた。

ㅤ中の肉が完全に焦げ、異臭に近しい臭いを放っている。

ㅤ治る気配等もうとう無い。

 

ㅤそんな電撃を俺に食らわせたtype,IXに対し、A–zちゃんがサーベルを構える。

ㅤ然し、type,IXはクスクスと笑いを零すと。

 

「今現状、私達に手を出せば…解ってますよね?」

「やめてっ…大祐くんを、離して…」

「ますた…私は…」

「…良い…から…気にしないで…逃げろ…!」

「…!!」

 

ㅤ下を俯きながら泣き、オリジナルXIIIに訴える様な声を上げるあづみさん。

ㅤそんな彼女を見ていられなくて。

ㅤつい怒鳴りに似た声を荒げてしまった。

 

ㅤ俺の決起迫る表情と言葉に、A–zちゃんは目を背けるという反応を示した。

ㅤそしてあづみさん、リゲルさん、きさらちゃんを集めて話し合いを始める。

ㅤ話の内容なんて考え無くても分かる。

ㅤ俺を切るか、彼女達自身を切るか。

ㅤ此方としては無論、彼女達に助かって貰いたい気持ちで一杯だ。

ㅤ俺一人の命で四人…それも大切な人達が助かるんだ。

ㅤ自己犠牲をしてでも揺るがぬ想い、変わりは無い。

 

「…ますた」

 

ㅤ直ぐに答えは出た様子だ。

ㅤオリジナルXIIIが得意とする効率を考える頭は、A–zちゃんにまだ残っている筈。

ㅤこの場合、何方を取るかは理解していると信じたい。

 

「…ごめんなさい」

 

ㅤそして彼女は謝った。

ㅤ耳をすまさなければ聞き取れない位の、小さな声で。

ㅤこの時のA–zちゃんに当て嵌まるのは…そう、「謝った」では無かったのかも知れない。

ㅤ彼女は選択を「誤った」。

ㅤ徐にサーベルを両手で構え、此方へと、オリジナルXIIIへと刃を向けている。

 

「ますたの言う事、今回ばかりは聞けません」

 

ㅤその時の彼女の表情は、俺の様な中途半端な決心とは違う…自分の存在意義を否定してでも「自分の意思」を貫くという覚悟の表情だった。

ㅤ何も俺の言う事全てを受け入れ、実行するのが君の存在全てでは無いのに。

ㅤ此れまで彼女を特別扱い、況してや理解してあげても無かった。

ㅤA–zちゃん一人を見てあげていなかった。

 

ㅤでも…それでも…どうして俺を守ってくれようとするんだ。

ㅤ俺は君を守ってあげられなかったのに。

 

…違う、俺という存在が、彼女を縛り付けているのか…?

ㅤだからA–zちゃんは俺を守ろうとして…それが生きている意味だと勘違いして。

ㅤマスターの命は自分の命を捨ててでも守ると?

ㅤ馬鹿だ…記憶喪失したA–zちゃんに、本当の事を言わないから。

ㅤ彼女は俺を「本当のマスター」だと思い込んでーー

 

『大祐、私の声が聞こえる?』

 

ㅤ!!

ㅤリゲルさんの声だ…!

ㅤだが、一体何処からこの声が…?

 

『ふふっ困惑してるわね。バトルドレスの機能、忘れちゃったかしら?』

 

ㅤバトルドレスの機能ーー…!

ㅤ通信機能があったか!

 

『もし聞こえているのなら、どうにか通信機能を起動して貰えるとーー』

『リゲルさんっ!体は大丈夫ですかっ!?傷は…まだ歩けまーー』

『しーっ、あまり声を上げては駄目。下手すればオリジナルXIIIに気付かれるわ』

『…っ!申し訳御座いません…』

 

ㅤ俺はリゲルさんと通信が繋がった瞬間、先程とは打って変わって必死に彼女へ話し掛けた。

ㅤ然し相手はオリジナルXIII。

ㅤ同じバトルドレスの為、通信機能の使い方、若しくはその見破り方は存じているだろう。

ㅤ極度に大きな声を出せば勘付かれるに違いない。

ㅤという事を、リゲルさんから注意されてしまった。

ㅤ彼女の声を聞けて嬉しさの余り…ついつい荒ぶってしまうとは。

 

ㅤいや然し、通信機能なんて作動した事一度も無いが…何とかなったな。

ㅤ脳内操作且つ直接脳内に語り掛けれるのは便利だ。

ㅤ目の前で瀕死状態のリゲルさんが、こんなにも余裕を含んだ声で話しているのは違和感極まりないが。

 

『えーと…出来れば表情も変えないで聞いて欲しいの』

『確かに、一瞬でバレますもんね』

『そ。で、先ずは此方の作戦を教えるわ』

『簡潔で構いませんよ』

『勿論、そのつもりよ。長話したい気持ちは…あるのだけれどね』

 

ㅤリゲルさんの小さな呟き。

ㅤその言葉を聞いてドキドキしない奴はいないだろう。

ㅤ事実、現在進行形で俺が胸を鷲掴みにされる様な苦しさを味わっている。

ㅤ聞いてしまったのだから仕方無いだろう。

ㅤ何時もは聞き逃してしまう彼女のポソッと呟く声。

ㅤやはり可愛い。

 

『…あ、それでね、此方は大祐を助ける選択肢を取ったわ』

『リゲルさんまで…』

『いえ…その…私だけじゃ無くてね、全員即答だったの。何としても貴方を助けるって』

『俺は…どうしてそこまで俺にーー』

『今は「大祐じゃなければ嫌だから」…という事にしておいてくれないかしら。取り敢えずタービンビットから解放してあげるから、大祐はあづみときさらの二人と逃げて』

『わかりーーえっ…リゲルさん達も一緒にーー』

ㅤそこからは瞬間的に場面が変化した。

ㅤ予めサーベルを構えていたA–zちゃん、そして瀕死状態のリゲルさんが起きあがったかと思うと。

 

「行くわよ…A–z!」

「リゲル様に続きます!」

「リゲルっ、リソースを!」

「しーく、ぶいげいど!」

 

ㅤ彼女達の声が一斉に交差した。

ㅤきさらちゃんが蜂達を自分の周りに、そしてオリジナルXIII達の目の前に展開。

 

「抗いますか…!ならこの男の命はーー」

 

ㅤリゲルさん達が攻撃を仕掛けた瞬間、type,IXがタービンビットに電撃を流そうと片手を挙げて指示を出す。

ㅤだがそれよりも早く、リゲルさんとA–zちゃんがサーベルを振り翳し。

ㅤ二人は目にも留まらぬ早さでタービンビットを全破壊。

ㅤ然しtype,II、type,Xの二人も反応し、リゲルさんと俺の何方かを殺そうと攻撃を仕掛けていた。

 

ㅤ迫り来る二つのビームサーベル。

 

ㅤどうにかして避けなければならないのは分かっている。

ㅤ分かっているが…立つ力すら残されていない俺はそのまま地面に膝を着いた。

ㅤその時、嫌な予感が脳裏を掠める。

 

ㅤ確か先程リゲルさんはこう言った。

ㅤ『大祐はあづみときさらの二人と逃げて』と。

ㅤ何故そこに、リゲルさんとA–zちゃんが居ないのか。

ㅤ答えは簡単で、理解は不能だった。

ㅤ俺は顔を上げてリゲルさんとA–zちゃんの表情を認識する。

ㅤ二人の顔には笑顔が浮かんでいた。

ㅤなんで…どうして笑っているのか?

ㅤ考える間も無く解答は出ていた。

 

ㅤ先ずもって、大きな被弾をして激しく損傷した二人が、あの瞬間だけ異常なスピードを見せた。

ㅤあれだけ深い傷を負っているにも関わらず。

ㅤリソースもあの一瞬で全快したとも思えない。

ㅤという事は必然的に浮上する答えは一つ。

 

ㅤ残されたリソースを駆使し、それを利用してタービンビットを全て破壊。

ㅤそうすれば俺は解放される。

 

…が、彼女達はどうなる?

ㅤ無論、リソースを全て消費した上に傷だらけの体。

ㅤ最早動く事すら叶わないだろう。

ㅤそしてtype,II、type,Xがサーベルで仕掛けて来る事も二人は予想済み。

ㅤA–zちゃんもリゲルさんもその体を盾にし、俺を守ろうとしてーー

 

ㅤこの時、俺には全てがスローモーションに見えた。

ㅤ確かに…背後には既に蜂達がスタンバイしている。

ㅤ俺はあの子達に掴まって、その勢いであづみさんときさらちゃんを回収して逃げる事は出来るだろう。

ㅤだがリゲルさんとA–zちゃんはどうなる。

ㅤ自分達を肉の壁として使い、結果的にオリジナルXIIIの二人に斬り刻まれるだろう。

 

ㅤ誰かを助ける為に、誰かを幸せにする為に、誰かが犠牲となる。

ㅤそれが今の…この盤面を例えるには最適な言葉だった。

 

ㅤ間違ってはいない。

ㅤだけど…あってはいけないんだ、そんな事。

ㅤ誰も犠牲になってはいけない。

 

「大祐…あづみ…ごめんなさい」

「ますた、私はますたのお役に立てたでしょうか…?」

「…!リゲル!話が違うよ…!?」

 

ㅤ遠くからあづみさんの焦りの含んだ声が聞こえて来る。

ㅤまさかリゲルさんは、一番の最愛たる人に嘘を吐いたのか。

ㅤだから彼女の瞳からは雫が溢れ落ちて…笑顔を見せながらも…泣いて…。

 

「感動的な話ね」

 

ㅤふと、type,IIの姿が瞳に映る。

 

「だが、無意味よ」

 

ㅤそう言って彼女はふっと嘲笑いの笑みを浮かべた。

ㅤ次の瞬間、type,IIのバトルドレスが紅く光り、確実にリゲルさんを殺そうという殺意の「TRANS–AM」を発動させる。

 

「リゲル…貴女の存在は目障りなの。私の為に、ベガ様の為に死になさい」

 

ㅤ此奴…最初からリゲルさんに止めを刺す為に…!!!

ㅤだから態と通したと、何も抵抗せずにこの時が来るのを伺っていたと…!

 

ㅤやはり何かを得るには犠牲は付き物だとでも言い張るのか。

ㅤそんな理不尽な事が当たり前の様に思われて堪るかよ。

ㅤもしそれが許されないなら…どうしても犠牲が必要だと言うなら。

 

ㅤ俺が幾らでも犠牲になってやる…!!

 

「だから、少しはマシな死に方を選ばせてくれよ」

 

ㅤ俺は咄嗟の判断を下し、二人を守る様に自分の掌をtype,IIとtype,Xの振り翳すサーベルに対して向けていた。

ㅤ次の瞬間、周りにバチィッッという騒音、閃光が迸る。

 

「…やっとその気になりましたか」

 

ㅤ睨み付ける様な瞳をぶつけて来るtype,II。

ㅤ良い加減、リゲルさんを排除出来ない事に苛つきが生じてきたか?

ㅤなら一生苛つかせてやるよ。

ㅤあづみさんもリゲルさんも、A–zちゃんもきさらちゃんも。

ㅤ多少の犠牲は厭わないと言った、だから何もかも俺が犠牲となって守り抜くから。

 

「…あぁ、そうだな。これが俺の『運命』だ」

 

ーーー


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。