Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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更新遅れて申し訳御座いません。
加えて五十話達成、有難う御座います。
これもこの作品を見て下さっている方々の御蔭で、此処まで来れました。
次は100話目指して頑張って行きたいと思っております。
此れからも宜しくお願い致します。

下手ながら挿絵を追加させて頂きました。
今回は3作品追加、番外編のあらすじに一枚、本編四十話「疑惑」というタイトルの前書きに一枚、本編四十二話「好誼」というタイトルの後書きに一枚。
挿絵のあるタイトルには☆のマークを付けておきますので、宜しければ閲覧下さいませ。
下手ですが。
※四十話「疑惑」の挿絵は落書き程度で描いたので、より一層下手かと…すみません。

加えて、現在進行形で一周年記念挿絵、五十話達成挿絵を描いておりますので、小説投稿が遅れてしまうかもしれません。
その場合は活動報告にて報告させて頂きますので、此方も宜しければどうぞ。
一週間に一回、その週は投稿出来るかどうかを報告致します。


第五十話: 自分の使命とは

ーー

 

九条大祐視点

 

ーー

 

 

ㅤリソースを全開放。

ㅤとは言ったものの、俺の中に存在するリソースは果てし無く未知数に近しい。

ㅤ以前とは丸で比べ物にならない程だ。

ㅤ但し無限とは言えない。

ㅤそれは黒布戦の時に分からされた。

ㅤリソースを全部喰われたからだ。

ㅤ然し何時間かすると、俺の体にはリソースが使用出来る状態にまでそれが回復していて。

ㅤ一体何処からこんなにリソースを取り入れているのか。

 

ㅤそして今、その強力なエネルギーを利用する。

ㅤ問題は制御出来るかどうか。

ㅤ要するに賭けだ。

ㅤ失敗すれば相手にもリソースが渡り、より一層敗北が確定付く。

ㅤ隣り合わせの不安…正にその通りだ。

 

「リゲルさんとA–zちゃんは下がって!あづみさんはリゲルさん達とヴェスパローゼさんの元へ戻るんだっ!!」

「でもっーー」

「兎に角逃げる事を優先するんだ!」

「…もう二度と、離れ離れにならないってーー」

「…頼む、あづみさん」

「…大祐くんの…嘘つき」

 

ㅤあづみさんは涙声で、そう俺に言い残した。

ㅤそれでも三人を先に逃がさなければならない。

ㅤ負傷した二人を態々此処に居させる程、外道では無い。

ㅤ彼女達だけでも…安全圏へ。

ㅤ後はきさらちゃん。

ㅤ彼女は俺と戦う気満々でいるが、最終的にはきさらちゃんだけが助かる方法を取らせて貰おう。

 

ㅤ騙す事になる…のは重々承知だ。

ㅤ犠牲になるのは俺だけで良い。

ㅤそれで彼女達が助かるのであれば。

 

「だいすけ…」

「…きさらちゃん、蜂達の様子は」

「うぃ、みんな、つよぃ」

「そうか…なら、仕掛けるとしよう」

 

ㅤあづみさんやリゲルさん、それにA–zちゃんの協力が必要。

ㅤあれは建前にしか過ぎなかったな。

ㅤ本来なら一緒に戦おうと思っていた。

ㅤだが、現状のリゲルさんとA–zちゃんを目にしてそんな選択肢が取れる筈が無かろう。

ㅤあのままではリゲルさんが死んでしまう。

ㅤA–zちゃんもボロボロで。

ㅤ唯一無傷のあづみさん、彼女に任せて三人を帰らせなければ。

 

「大…祐…!」

「………」

 

ㅤ後ろから聞こえてくるリゲルさんの声に、俺は何も返答しなかった。

ㅤこの場合は出来ないの方が正しいだろうか。

ㅤ二人とは二度と離れ離れにならないと誓った。

ㅤ約束は直ぐに破ってしまった。

ㅤ彼女達に返す言葉等、何処にも無い。

 

「…きさらちゃん、お願い」

 

ㅤこのままでは逃げられると察したのか、type,IIが徐にライフルを構えあづみさん達へと銃口を向ける。

ㅤそれが合図となり、きさらちゃんの指示の下、蜂達が一斉に突撃を始めた。

 

「チッ…雑魚が邪魔を…!」

 

ㅤtype,IIはそう口にすると、標的を蜂達へと切り替えサーベルを使って排除しようと試みる。

ㅤだが、蜂達はtype,IIのサーベル捌きを難無く回避し、地道にダメージを与えていた。

 

「此奴ら…明らかに動きが違う…!?」

 

ㅤ彼女は思わず驚愕の音を漏らす。

ㅤそりゃそうだろう。

ㅤ先程まで紙の様に散り散りにされていた蜂達が、オリジナルXIIIを圧倒しているのだから。

ㅤ然しそれにはちゃんとした理由がある。

 

ㅤ俺がきさらちゃん、そして蜂達1匹1匹にリソースを供給しているからだ。

 

ㅤ確かに、此れだけの説明ではあづみさんやきさらちゃんとしている事に変わりは無いと思われるだろう。

ㅤ行動自体はリソース供給と何ら変わり無い。

ㅤじゃあ何故、蜂達は強化されているのか。

 

「リソース解放を使用しても…押されるなんて、可笑しいです…!」

「だいすけ、だぃじょおぶ…?」

「…うん、まだ、いけそうだ。そのまま蜂達に指令をお願い、ね…」

「…うぃ」

 

ㅤ流石に息切れが早くなって来ている。

ㅤ即急にカタをつける、若しくはリゲルさん達が安全圏まで逃げてくれなければ失敗に終わってしまうぞ…!

 

ㅤそうして俺が苦しげな表情を浮かべる度に、きさらちゃんが此方を心配するように見つめて来る。

ㅤ俺は彼女に作り笑顔を見せてあげる事しかままならなかった。

 

ㅤ蜂達の強化…やはり厳しいものがあった。

ㅤ俺のこの息切れは先程から行っているリソース供給が原因で起こしているものだ。

ㅤその最大の理由とは。

ㅤ普通、リソース供給は「供給している側」には何ら変化は表れない。

ㅤ加えてあづみさんやきさらちゃんは、カードデバイスを通して対象相手にリソースを供給させている。

 

ㅤ対して俺は「対象相手へ直にリソースを供給」させており、その性質を利用してとある事を思い付き、現在試しているところだ。

ㅤぶっつけ本番となってしまったが「リソースを供給させている対象相手の能力を限界まで引き出す」。

ㅤこれがオリジナルXIII三人を圧倒している理由であり、俺自身が多大なる負担を背負っている理由だ。

 

ㅤ言葉にしてしまえば簡単だが、実際のところ厳しいったらありゃしない。

ㅤだがこの絡繰は至ってシンプルだ。

ㅤリソースを供給している対象其々が最大の力を発揮出来る様、俺が一人一人異なるリソース供給の方法を取っているだけ。

 

ㅤ例えば…あの子の特徴である能力を伸ばす為に、其処だけ重点的にリソースを送る。

ㅤ然しそれで他の能力が疎かになってしまっては意味が無い。

ㅤだからその子の能力全てに均等なリソースを与え、特徴的な物には集中的に送り。

ㅤ対象相手が常に最大の力を発揮、常に戦い易い様に「俺がリソースを操作」する。

ㅤ本来であるならば受け取ったリソースは『受け取った本人が自由に使える』のだが、今回は俺が「対象相手の的確な箇所にリソースを送っている」という事だ。

ㅤ軍の指揮官とでも言えば想像は容易だろう。

 

ㅤ直にリソースを渡しているからこそ、相手の能力がどんな風に特化しているのか…何処が欠けているのかが理解出来る。

ㅤそして限りなく的確にリソースを与える事が可能なのだ。

 

ㅤだが問題として、俺のリソースが無限で無い事が目立つ。

ㅤそりゃあ全ての能力に均等なリソースを与え、且つ特化している能力は更にリソースを送るんだ。

ㅤ消費量は馬鹿にならない。

ㅤそれをあの数の蜂達に対して行っているんだ。

ㅤリソースの扱いに慣れていなかったあの頃に使用なんかしていたら、ぶっ倒れていただろう。

ㅤ現に今でも…意識を保つので精一杯だ。

ㅤそしてリソースを失う事で自らの体に異変が起きるという事は…俺も少なからずーー

 

「…きさらちゃん、蜂達に指令を」

「わあった」

 

ㅤいや、話は後だ。

ㅤ今は兎に角、現状をどうにかしなければならない。

 

「…伝えてくれた…?」

「うぃ。みぃな、がんばゆって」

 

ㅤそうか…やっぱり、きさらちゃんは凄いな。

ㅤ人語ーーそれ以前に、言葉を発せない物との対話を成功させれるのだから。

ㅤそれが彼女の能力なのだろう。

ㅤ今よりも小さい頃に何があったのか。

ㅤ俺と知り合いだ、というのも引っ掛かる。

 

…今はそんな事、考えている暇では無いか。

ㅤこうしてきさらちゃんが蜂達を動かしてくれている御蔭で、俺も少しは楽だというものだ。

 

ㅤ無論、俺からリソース供給を受けた者達はそのリソースを好き勝手に使える。

ㅤ然しそれでは俺のしている事が無意味となる。

ㅤ的確な箇所に送ったリソースが、余計な部分に回されるという事だからな。

 

ㅤ蜂達はきさらちゃんに忠実だ。

ㅤだからこそ彼女に頼み、蜂達へと命令を下して貰った。

ㅤ俺がリソースを供給する、だから君達は好きな様に動いてくれと。

ㅤきさらちゃんはそれに付け加えて、俺のリソース供給の説明まで熟してくれた。

ㅤ彼女には何も言っていないのだが…察しが良いと言うべきか。

ㅤその御蔭で俺の負担が思っていたよりも楽だという事だ。

 

ㅤ因みに何故きさらちゃんにもリソースを渡しているかと言うと。

ㅤ実際には彼女では無く本人のカードデバイスに送り、万が一俺のリソースが切れた時の保険として供給している。

ㅤだが何故か、カードデバイスにリソースを「吸収」されている様に感じるのが疑問だ。

 

…気にしている場合では、無い。

 

「蜂共の攻撃が…更に激しく…!?」

「type,II!貴女、アドミニストレーターベガから頂いたバトルドレスがあるでは無いですか!何故押されているのです!?」

「渡されたばかりで使い切れる筈がーーぐぅっ…!」

 

ㅤ異常強化された蜂達を相手に、オリジナルXIIIは苦戦を強いられていた。

ㅤ然しそれは彼方だけでは無い。

ㅤ俺も、この量の蜂達1匹1匹の特徴を理解し、リソースを操作している訳で。

ㅤ何時切れてしまうかも分からないリソースを利用してこんな大胆な事をしているんだ。

ㅤ不安で不安で仕方がない。

ㅤきさらちゃんにだけは被害がいかないようにしなければ。

ㅤ態々、こんな不確定要素に乗ってくれたのだから。

ㅤ彼女には指一本触れさせない。

 

「…そろそろ…まずいか…?」

「だいすけ、きぃがりそーすをーー」

「それは駄目だ…万が一の時に残しておいて、ね…?」

「…うゅ…」

 

ㅤ恐らくきさらちゃんは、俺の代わりにリソース供給を熟してくれようとしたのだろう。

ㅤ確かに、効率的には凄まじく良好だ。

ㅤ俺がきさらちゃんと蜂達にリソース供給し、ガス欠になり次第きさらちゃんに交代。

ㅤその間に溜まったリソースをまたきさらちゃんと蜂達に供給。

ㅤ溜まったリソース量でその場をどうするか判断出来るのも大きい。

 

ㅤ相手がオリジナルXIIIで無ければ、出来た作戦だ。

 

ㅤ今は俺が蜂達のリソースを操作して押している。

ㅤきさらちゃんにはそれが出来ない…それを理解して彼女に交代するのは得策では無い。

ㅤそれにきさらちゃんに渡しているリソース、これは彼女が逃げる時に使って欲しい限りだ。

ㅤきさらちゃんの命まで亡くなる最悪の結末なんて望んでいない。

 

「あぁもうっ…うざいったらありゃしないわ!」

「type,II、何をする積もりですか…?

「決まっているじゃない、此奴等を排除するのよっ!」

「…そんな方法があるのであれば、さっさと活用して下さいよ」

「アルクトゥルス配下なだけあって性格悪いわね」

 

…この状態で何故余裕が見せられる。

ㅤそれに蜂達が被さって、type,IIのバトルドレスが認識出来ない。

ㅤ以前装着していたそれと違うのだけは分かる…だが。

ㅤ何かのフォルムに似ている気がしなくも無い。

 

ㅤ然し今考えるべき事か?

ㅤ何方かと言えば彼女達の余裕、それを見つけた方がーー

 

「…さぁ、覚悟しなさい」

「type,II、死んでも知りませんよ」

「ベガ様の為に死ねるのであれば、本望よ」

 

ㅤtype.IIのその殺気に、蜂達が怯えているのか。

ㅤ攻撃の手が緩み徐々に後退しているのが伺える。

ㅤこれなら彼女のバトルドレスの正体を掴める。

 

ㅤそして蜂達が完全に動きを止めたその時。

ㅤ俺は自分で気付かない内に叫んでいた。

 

「…っ!きさらちゃん、今直ぐ三人と合流して逃げるんだっ!!!」

「だいすけ…?」

「スカウトシーク!ロイヤルブリゲイド!!」

 

ㅤ何故あの時しっかり見ていなかった。

ㅤリゲルさんが重症を負って三人を逃す際に、type,IIは確かに目の前に居ただろう。

 

………いや、あの時俺にはtype,IXしか目に映っていなかった。

ㅤ何とかして彼女達を逃さなければ、タービンビットを全て躱さなければ、この二つだけに視野が狭まりtype,Xすら目視していなかったと。

ㅤくそっ…周りが見えなさ過ぎだ…!

 

ㅤ兎に角、後悔する位ならきさらちゃんをヴェスパローゼさんの元へ帰してあげねば。

 

ㅤ俺は蜂達の名前を呼び、きさらちゃんの側まで近寄らせる。

ㅤそしてお姫様抱っこしていた彼女に有無を言わさず、蜂達の背中に乗せる。

 

「だいすけ…いぁっーー」

「いいか、絶対にきさらちゃんを守ってくれ。ヴェスパローゼさんの元へ帰れば安全な筈だ。可能なら先に逃げている三人も助けてくれ。………頼んだぞ」

 

ㅤ俺は蜂達に最大限守って欲しい事を最低限に纏めて伝える。

ㅤその瞬間きさらちゃんが拒んだが…俺は彼女の言葉を遮った。

ㅤ今回ばかりは君を優先出来ない、許してくれ。

ㅤそう口から放たれそうになるものの、俺は黙ってきさらちゃんの前に立つ。

 

「多少は時間を稼ぐ。その間に何が何でも逃げてくれ」

「ビ…ビビッ」

 

ㅤきさらちゃんを背中に乗せている蜂達は、俺の言葉を理解したかの様に返事を返してくれた。

ㅤすると直ぐ様、蜂達は三人の後を追う様に後退していく。

 

「だいすけーー」

 

ㅤその凄まじい羽音に、背後から聞こえてくるきさらちゃんの声は一瞬にして掻き消された。

ㅤ頼む…逃げてくれ。

ㅤ俺が一分一秒でも時間を稼ぐから。

 

「チッ…リゲル達に続いてあれまで逃がす訳には…!」

「彼女達の元には行かせない。何としてもだ」

 

ㅤ俺はそう言って、ブラックボックスから取り出したナイフ一本をオリジナルXIIIに向ける。

ㅤこれでどうしろって言うんだ…等と思っている気持ちの余裕は無い。

ㅤ今はこれでどうにかしなければならないんだ。

 

「…まぁ良いわ。先ずは貴方から仕留めるとしましょう」

「人間等、非力な生物相手に本気になるのもーー」

「いいえ。仕留めると言ったからには徹底的に潰すわ」

「…その間に私達が追えば良いだけだと思うのですが、まぁ…付き合いましょう」

 

ㅤそりゃあ、完全に舐められて当たり前だろう。

ㅤナイフ一本の人間対オリジナルXIII三人。

ㅤ勝敗なんて最初から分かっている。

ㅤだがそれでも…此処で彼女達を食い止めなければならない。

ㅤこのナイフで何処までいけるか、試してみなければ分からない。

ㅤ後には…戻れない。

 

「『TRANS–AM』…不安定な力でも、ベガ様の為なら!」

「やはりか…!」

 

ㅤ彼女のその言葉と同時に、本人のバトルドレスのみが紅く光りだす。

ㅤtype,IIのバトルドレス…「リボーンズガンダム」はTORANS–AMも勿論使用可能か。

ㅤだが不安定な力という事は、俺の様な純粋なる力では無いと。

ㅤアドミニストレーターベガ…一体どうやってガンダムという名のバトルドレスを再現したんだ。

ㅤ加えて『TRANS–AM』までーー

 

「死になさい」

「…っ!」

 

ㅤと、様々な疑問が頭を駆け巡るも、それを一つ一つ悩ませてくれる暇を与えようとはしてくれないtype,II。

ㅤ彼女はその紅に染まったバトルドレスを身に纏い、一瞬にして目の前へと接近。

ㅤ直後、俺の胴体擦れ擦れを黄色いビームサーベルが一閃される。

 

ㅤ危うい…情報演算処理能力が無ければ即死だった。

ㅤこれは本気で。

 

「私の攻撃以上…その異常な反応速度は何処から来ているのかしら」

「type,II、呑気に話している時間は有りませんよ。この間にも各務原あづみ達は逃げ、彼のリソースは回復してしまいます」

「分かってるわ。…でも、此奴をベガ様への土産に連れて行けば、面白そうじゃない」

「その中に各務原あづみ、リゲルの二人を加えて下さい」

「グダグダ話すのは終わりしてくれませんか?殺すなり拘束するなり、早くして下さいよ」

 

ㅤオリジナルXIIIの三人は相変わらず余裕の会話を繰り広げている。

ㅤだが、これは利用出来そうだ。

ㅤこのチャンスを活かせば彼女達の不意を突ける。

 

…余裕と油断は紙一重。

ㅤ詰まりはそう言う事だ。

ㅤ三人の中にある余裕が徐々に油断となりつつある。

ㅤtype,Xは未だに警戒を解いてはいないだろうが、他の二人は結構な頻度で隙を晒していた。

ㅤこのタイミングで俺のバトルドレスが復活してくれると嬉しいのだが。

 

ㅤそう思いバトルドレスを装着しようとするも、反応が無いのは変わらずだ。

ㅤさて、どうする。

 

「…けど、何にせよ長引かせる訳には行かないわね」

「TRANS–AMの制限時間(タイムリミット)も長く無いのですよね。やはり使用は控えた方がーー」

「いいえ、まだやれるわ。…だからこそ、やれる内に即急に片付けるとしましょう」

 

ㅤtype,Xとの会話を終わらせると、type,IIは鋭い目付きで此方に眼光を向ける。

 

ㅤ来る…!

 

ㅤそう確信した俺は情報演算処理能力に頭を預け、兎に角type,IIの動きを先読みしようと構えた。

ㅤ彼女の行動を一つでも読み間違えたり俺の体が追い付けなくなったら、其処で終了の知らせだ。

ㅤせめてその間だけでも時間を稼ぐ。

ㅤそれが俺の役目だと、死ぬ事前提…生き残れはしないと。

ㅤ死んででも彼女達を守ると。

ㅤ心の内にはその考えしか存在していなかった。

ㅤだが。

 

「ーー遅い」

 

ㅤtype,IIは情報演算処理能力を凌駕する速さで、目の前に現れる。

ㅤその時俺は条件反射なのか何なのか、情報演算処理能力を頼りにせずに動いていた。

ㅤ先ずはtype,IIが一閃したサーベルをバックステップ、紙一重で躱す。

ㅤ次に彼女は、俺の顔面目掛けて一突き。

ㅤ左へ咄嗟に体如傾けると其処には既にライフルの銃口が顔を覗かせていた。

 

「まずいっ…!」

「これで終わりよ」

 

ㅤtype,IIは俺にそう告げると、ビームライフルの引き金を弾く。

ㅤだが諦めはしない。

ㅤまだ可能性はあると信じ、体の右全体を沈めて放たれた高出力ビームを回避。

 

「そこかっ…!」

 

ㅤその後直ぐに右足を地面に踏ん張らせて、隙だらけの彼女の腹部にナイフを突き立てる。

 

「足掻くのもーー」

 

ㅤ然し案の定、異常なまでの速さを見せつけられて躱された。

ㅤ更にtype,IIは左手のビームサーベルを振り下ろし、俺の体を斬り裂こうとする。

ㅤこのままでは回避する事は出来ない。

ㅤそれは情報演算処理能力が無くとも察せる状況だった。

 

「好い加減諦めなさい!」

 

ㅤ今迄の喋り口調とは打って変わり、声を荒げるtype,II。

ㅤこの攻撃で確実に俺を殺す積もりだろう。

ㅤ然しそう簡単には死ねない理由があるんだ。

ㅤまだ…、まだ抗って見せるさ。

 

ㅤ俺は自分の左腕を、振り翳されたビームサーベルの前に突き出す。

ㅤ無論、直ぐに左腕は焼き切られた。

ㅤ刃物の様なスパッという切れ方では無い、ジワジワと熱で切断されていく様な感覚。

ㅤ無残にも、地面の上に落ちる自分の手首。

ㅤだが左腕を犠牲にした御蔭で、type,IIの振り下ろしたビームサーベルの進行速度がコンマ何秒か遅れる。

ㅤその時間を利用して自身の体を左に動かし、サーベルの回避に成功。

 

ㅤ直後傷口から大量の血が噴き出す。

ㅤ俺はそれをも利用し、切られた左腕の切断面を彼女の顔に向かって思いっきり横に振る。

ㅤすると赤い液体が飛び散り、一瞬だがtype,IIの意識を逸らせた。

 

「届け…っ!」

 

ㅤ彼女は勿論、俺の撒き散らした鮮血を躱すべく体勢を低くする。

ㅤその時type,IIの瞳に映ったのは一本のナイフだった。

ㅤ賭けとして、彼女がこうした方法で回避すると先読み。

ㅤそれが功を奏したのかtype,IIに被弾させるチャンスが到来。

ㅤ俺は直ぐ様、右手に持つナイフを思いっきり振り翳した、という訳だ。

 

ㅤ然し彼女はそれにすら超反応を見せ、何とかしてナイフの射程範囲から逃れようと後ろに下がる。

ㅤだが、俺の振るったそれはtype,IIをしっかりと捉えていた。

 

「…人間如きがーー」

 

ㅤ地面に着地すると同時にtype,IIの頰に一筋の傷が、傷口からは血が流れていた。

ㅤ彼女は手で血を拭うと苦い表情を浮かべる。

ㅤバトルドレス抜きにしては良い動きが取れたと自画自賛したいところだが、一触即発の現状でそんな気の緩みを見せてはいけない。

 

ㅤそれに言ってしまえば、type,IIはリボーンズガンダムを扱い切れていないのだろう。

ㅤ動きに余白がある、加えて多少のぎこちなさまで感じた。

ㅤ然し彼女にはまだ武器がある。

ㅤ情報演算処理能力の天敵であり、リボーンズガンダムの強みである武装が。

 

「…type,II、見てられませーー」

「今終わらせるわ」

 

ㅤTRANS–AMを使用してでも梃子摺るtype,IIに、type,Xが加勢しようと言葉を投げ掛ける。

ㅤ然しtype,IIはその言葉を遮る様に自分の声を重ねた。

ㅤすると彼女の背部、其処にある大きな4つの物体がゆっくりと展開され、type,IIの周りで停滞し始めた。

 

「これに敵う者等居ないでしょう」

「…それで躱されたら何も言えませんよ。私達も加勢します」

「最初からこうすれば良かったのでは?」

「要らない突っ込みを…」

 

ㅤ更にtype,Xのファング、type,IXのビットも同時に展開される。

ㅤ圧倒的物量で潰す気満々だ。

 

「さぁ、これで止めよ…フィンファング!」

「対象を切り刻むのです、ファング!」

「高が人間一人に此れ程苦戦するとは…タービンビット、焼き尽くしてしまいなさい」

 

ㅤオリジナルXIIIであるtype,II、type,IX、typeXの三人がそう言い放つと、彼女達の周りで浮いているその物体が俺を標的に飛び交う。

ㅤ来たな…情報演算処理能力の最大の敵、飛び道具系統の武装。

 

ㅤ「情報演算処理能力」とは、簡易的に説明すると『相手の行動を先読み』出来る能力だ。

ㅤ要は相手の数が多ければ多い程、脳に掛かる負担が半端では無くなる。

ㅤビットやファング、未だ使った事も無ければ使われた事も無いファンネルやドラグーン。

ㅤこれらは数で敵を圧倒する武装だ。

ㅤだから情報演算処理能力とは相性が悪い。

ㅤ然し今は、三人分のそれを捌けと言われている様な状態だ。

 

ㅤ先は異常なまでの反応速度で乗り切れたが、此ればかりは無理だと断定出来る。

ㅤだが、多少の時間は稼げたであろう。

ㅤ後もう少し粘る、そして終わる。

ㅤ殺されようが捕縛されようが関係無い。

ㅤ俺は彼女達を守る為に生き、守る為に死ぬ。

ㅤそれが俺の使命だ、生きている意味だ。

ㅤ最悪、後の事はへっきーが何とかしてくれるだろう。

 

ㅤけど…最後位は…せめて一矢報わせてくれ。

ㅤ彼女達を一分一秒でも守り抜く為に。

 

「だから…頼むから…」

 

ㅤ俺は自身の拳をぐっと握り締め、地面に膝を着く。

ㅤ然し顔は上げたまま、オリジナルXIIIの三人を睨み付ける。

ㅤ彼女達に対するーーいや、あづみさんとリゲルさんの自由を奪った青の世界に対する憎悪を、心の中で膨らませた。

ㅤそれだけで爆発してしまいそうな感情を抑え、その怒りを力へと変えたくて。

ㅤ不確定要素に頼った言葉が口から漏れてしまった。

 

「俺に力を貸してくれ、バトルドレス…!!」

 

ㅤその時、オリジナルXIII達の放ったファング、ビットはもう目の前まで接近していた。

ㅤ此処でバトルドレスが起動しなければ、否が応でも死が待ち受けている。

ㅤ不確定要素…神は俺に、何方の道を歩ませるのだろう。

ㅤ運良くバトルドレス起動、まだ生き延びろと味方してくれるのか。

ㅤ死の門を泳れと見捨てるのか。

 

「………いいや、この世に、神等存在しない」

 

ーーそれが俺の最後の言葉だった。

ㅤ最終的に残った感覚は、切り刻まれ、焼き尽くされ、電流に蝕まれ。

ㅤ無論、バトルドレスはうんともすんとも応えてはくれなかった。

ㅤそして朦朧としていく俺の意識は…引き取られた。

 

ㅤごめん、あづみさん。

ㅤ申し訳御座いません、リゲルさん。

ㅤ約束を破った上に、もう二度と会う事は無いだろう。

ㅤだが、後悔は無い。

ㅤ二人を守って死んだのだから。

 

ーーー


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