Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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あらすじの注意書きをしっかり見てから、挿絵をご覧下さい。



第三十四話: もう二度と

 横の大きな窓から入ってくる朝日に頭を起こされる。

 目を開け、体を起こし、ぼけーっと何も無い場所を見つめる。

 意味が無い事位分かっているが、偶にはこうして何も考えたくない時もあるのだ。

 

…すみません、嘘吐きました。

 あづみさんとリゲルさんの事ばかりで、それ以外に何も考えられないのが現状。

 例えぼけーっとしていようが、頭の隅では何時しか二人の事を想ってしまいがちだ。

 やはり、俺にとって二人という存在は…必要不可欠だ。

 

 顔を俯け、二人が逃げてくれていそうな居場所を絞り出す。

 ヴェスパローゼさんにも協力してくれると有り難いのだが…。

 まぁ、取り引きが成立した御蔭で頼めば力を貸してくれそうだ。

 ヴェスパローゼさんは優しそうなZ/Xだし…ダメ元で頼んでみるか。

 

「…んー…」

 

 知ってはいたが、考えたくないなんて甘い事を言っている暇はない。

 どうにか智恵を振り絞って生きていかなければ、サクッと殺されそうな世界だ。

 実際に何回も殺されかけ、死にかけた。

 

「…ふゅ…」

 

 危ない世界なのは分かっているし、何よりも……

 

「くー…すー…」

 

 こんな小さな子供が戦場に出てくるのは可笑しい。

 自分の意思で戦場に赴いたから、殺されてもいいと言っているようなもんだろ?と言われれば返す言葉は無い。

 

 だが、それを知らない幼い子供に対してそれはあんまりだ。

 あづみさんみたいに、ある程度自分で決められる精神年齢なら話は別だが…。

 ま、本当はあづみさんには戦場に立って欲しくないっていうのが本心なんだけど。

 それを言ったって聞いてくれないだろう。

 あづみさんは、自分で決めた事は何を言われようが揺るがない…芯の強い女性だから。

 彼女の美しさとも言える。

 

「…だいすけ?」

「あ、きさらちゃんおはよう。…ごめんね、起こしちゃったかな。」

「おはよっ。きぃはらいじょぶ。」

 

 隣で可愛らしい寝息を吐きながら就寝していたきさらちゃんが、俺の顔を除き込んできた。

 そのまま膝の上へ。

 ちょこんと座ったきさらちゃんを目の前に、何処か癒される自分がいる。

 

「…きさらちゃん、落ち着いたらヴェスパローゼさんの所へ行こうか。」

「うん、ろーぜのとこ、いく。」

「寝起きなんだからゆっくりね。ほら、まだ休んでて良いんだよ。」

「うぃ!」

 

 きさらちゃんは昨日と同じく元気な返事を返してくれると、膝の上に乗ったまま段々と此方に近付いてくる。

 そして俺にゼロ距離まで接近すると、胸元に飛び付いてきた。

 急で少しびっくりしたが、嬉しそうにしているきさらちゃんをまじまじと眺める。

 

「だいすけ、これ、じぁま」

「コートを脱いだらきさらちゃんに血が付いちゃうから、駄目なんだ。申し訳ない。」

「むぅー…」

 

 なんだ?

 きさらちゃんは俺と直接肌で触れ合いたいのかな?

 お兄さんが獰猛化して襲っちゃっても構わないのかな?

 涎を垂らしながらきさらちゃんの事を…。

 とまぁ、某有名な狩ゲーでは獰猛化は涎は垂らさない。

 何故?どのゲーム?それを答えちゃお終いでしょう。

 前者の答えは哲学的な話、若しくは開発陣に聞いてねっ☆

 

………で、何の話だっけ。

 あぁそうだそうだ。

 きさらちゃんの触れ合い体験の話だ。

 というか、きさらちゃんだけでなくルクスリアさんも異様に触れ合いを求めてきてたよな。

 それがなんか、懐かしくも感じる。

 

 別段嫌では無かった。

 正直鬱陶しいと思う反面、可愛らしいなと思ったりもした。

 この世界は美人やキュートな女性ばかりで困る。

 年齢が関係無しに麗しい方々が…。

 

「きさらちゃんも…凄く可愛いよなぁ。」

「ぅゅ?」

 

 ほらあ、この幼い感じを全面に出して攻めにくる。

 本人は全く気付いてないだろうが、その可愛さは例えようがない。

 いや……例えれる物がないと言った方が正しいな。

 流石は純粋無垢。

 その純粋さが失われない事を願うよ。

 

「…さて、と。そろそろヴェスパローゼさんの部屋に進撃する?」

「すゆ!ろーぜ、びっくいさせぅの!」

 

 おー、きさらちゃんのセンスある答えに見事乗って見せようじゃないか。

 何も言っていないのに驚かせようとする、その好奇心に。

 

 取り敢えず一度、ベッドから降りる。

 一緒にきさらちゃんも降りようとするが、ベッドの高さが地味に高いせいで足が地に届いておらず危ない。

 俺はきさらちゃんを抱き抱え、ベッドから降り、足をしゃがませる。

 安全にきさらちゃんを降ろす事が出来た。

 

 何時もどうやって登ってんだか。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 着替え等、準備は一通り完了した。

 後はヴェスパローゼさんの部屋に向かうだけ。

 

 そこでだ。

 ヴェスパローゼさんをどうやって驚かせるか。

 

 あの方の部屋の構造が掴めない今、驚かすには一工夫も二工夫も必要となるだろう。

 さて、どうしたものか。

 

「何か…ヴェスパローゼさんが必要としている物が無くなれば―――」

 

 寧ろ無くされて困る物…。

 必要な物、必要な物…必要な…者?

 

パチンッ

 

 俺はハッと良い事を思い付き、指を鳴らす。

 これはヴェスパローゼさんも驚いてくれそうだ。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

 きさらちゃんと打ち合わせをし、作戦決行。

 先ずはきさらちゃんだけがヴェスパローゼさんの部屋に進撃。

 そこで行き成り衝撃発言。

 

「大祐消えたよ!」

 

…いや、細かい部分はもうちょっと違う。

 だがまぁ、どう伝えるかはきさらちゃん次第だ。

 兎に角、俺が即裏切った的な表現をしてもらえればそれで良い。

 そしたらヴェスパローゼさんも黙っていないだろう。

 

 きさらちゃんがそれを伝えたら、次は俺。

 何処でも良いからヴェスパローゼさんの部屋に侵入し、彼女を驚かせる。

 出来る事なら背後からが得策だが、問題はその前。

 

 どうやって侵入するかだ。

 

 一番効率的に良いのは外からだが、ヴェスパローゼさんの部屋に窓が無ければそれで失敗。

 彼女が本格的に動き出し、俺を抹殺しに来るだろう。

 考えただけでも恐ロシア。

 

 バトルドレスを持っているだけで、話は違うんだが。

 今の俺、何も無し。

 強いて言うならリソース放出能力あるね位。

 くそザマァだよな、本当。

 

…って、考えてる暇等無かった。

 俺はまだ、きさらちゃんの部屋に籠っているだけだ。

 さっさと侵入経路を見付けねば。

 きさらちゃんは先程出たばかりだし…。

 何か良い方法は――

 

「…取り敢えず出てから考るか。」

 

 ドアを開け、いざ初見の外の世界へ。

 と思ったら普通に廊下があった。

 だが、部屋数はきさらちゃんの部屋を会わせても二つのみ。

 凄く短い廊下だこと。

 

 ってか俺さ、ヴェスパローゼさんの部屋を知らないんだけど。

 困ったなぁ…どうしようかなぁ。

 部屋が隣に一つしかない時点で察しろよって言われてるよねぇ…。

 

 隣の部屋が絶対ヴェスパローゼさんの部屋だよね。

 何も考え無しに正面突破するしか――

 

「私を驚かせたいなら、もうちょっと考えなさい。」

「工夫を施そうにも、何分部屋の構造を知らないもんで………あ、ヴェスパローゼさん。」

「貴方ときさらの会話、丸聞こえだったわよ。先に来たきさらを問い詰めても口を割らないから、貴方に何か吹き込まれたかと思って心配になったわ。」

「僕が何を言っても鵜呑みにしないでしょう?」

「さぁ?きさらは私の言う事は聞くけど、他の人には口すら開かない人見知り――でも、貴方には凄く懐いてるみたいで。」

 

 うーん…ヴェスパローゼさんから見ても、俺はきさらちゃんに好かれていると思われてるのか。

 俺と彼女は何時からの知り合いで、何れ程親密で、どんな関係なのか。

 一番知りたいのは自分自身だ。

 

 しかし、それを本人に直接聞くのは気が引ける。

 きさらちゃんはまだ幼いから、自分が好いている人に「覚えていない」なんて言われれば多大なショックを受けるだろう。

 勝手に記憶が戻ってくれるまで、知ったか振りを突き通さなければ。

 

「ここで話すのもアレね。私の部屋に来てから詳細を聞かせて貰うわ。…それに、大祐の面白い情報を手にいれたの。教えてあげるから、貴方の知ってる情報も教えて。」

「虫の知らせとは正にこの事……。」

 

 嫌な予感がする。

 嫌な予感しかしない。

 嫌な情報以外考えられない。

 そんな極度の不安を抱えながら、ヴェスパローゼさんの部屋へ入室。

 案の定、きさらちゃん部屋の隣でした。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「…で、早速だけど大祐。貴方は赤の世界から指名手配されてるわよ。」

「………あれ、俺、耳の聞こえが悪くなったのかなぁ?すみませんヴェスパローゼさん、今なんと?」

「更に加えて、青の世界も貴方を探しているわ。随分と人気者なのね。」

「オー!マイ!ゴッド!!」

「おーあいごーと?」

 

 俺はヴェスパローゼさんの言葉を聞いた瞬間、頭を強く壁にぶつけた。

 勿論自分の意思とは裏腹に、無意識で。

 

 きさらちゃんは俺の言葉を復唱するも、やはり別物になってしまう。

 ヴェスパローゼさんは至って冷静に。

 

「その壁壊したら弁償ね。」

 

…無慈悲な言葉を告げてきた。

 いや、これが当たり前だと受け入れるべきだ。

 壊した物を弁償するのは。

 ならば壊さなければ良いだけ。

 俺は小さく、コツンと頭を壁にぶつける。

 

「それはもう良いから。…大祐、この現状をどうするの?」

「とにもかくにも二人を探してからです。でなけば――」

「分かったわ。じゃあ早いとこ、見付けに行きなさい。護衛に僕達を付いて行かせるから。」

「ありがとうございます!それじゃ、アデュ…」

「きぃもく!」

「きさらはここにいなさい。」

「…うぃ。」

 

 あっ…きさらちゃんがしゅんとしちゃった。

 何で一緒に来たかったのかは謎だが、付いてくる分には構わない。

 理由があってヴェスパローゼさんは引き留めたんだろうけどさ。

 

「大丈夫、直ぐ戻るから。」

「…かえってきたら、きぃとあそんでくえゆ?」

「うん、良いよ。きさらちゃんが満足するまで遊んであげる。」

「うゆゆ〜♪」

「それは構わないけど、話し合いも忘れずにして貰うわよ?」

「無論、OKです。…それじゃ。」

 

 俺はそれだけを言い残し、部屋から出ていく。

 廊下の隅にある階段を何段も降りていき、出口と思わしき扉を開ける。

 すると目の前には、生い茂る緑がいっぱいに広がっていた。

 

「ビビビ」

「…君達が護衛の蜂さんか。宜しくね。」

「ビビ」

 

 一緒に捜索を手伝ってくれる蜂さんは二匹。

 数を連れると敵対種族に見つかってしまう可能性がある、というヴェスパローゼさんの計らいだろう。

 有り難いもんだ。

 

 蜂さん二匹を友好の証って意味で頭を撫でると、凄く嬉しそうに体を擦り付けてくる。

 虫の中でも一番大好きな蜂。

 体のフォルムといい、顔といい、毒持ち危険生物認定されてたり、超大好き。

 良く見なくても可愛いのも評価出来る。

 まぁ、蜂が好きで良かったねというか。

 好かれて良かったねというか。

 

…さて、蜂さん二匹に手伝って貰って、あづみさんとリゲルさんを探しに行くか。

 

「先ずは何処から――」

「あれ?大祐くんだー!久し振りね♪」

 

 やっぱり緑の世界は大きいから、目処が付け難いな。

 蜂さん二匹と俺一人じゃ、やっぱり大変だ。

 だが、リソース放出能力で蜂さん達を援護してあげれば仕事はしてくれるだろう。

 その分、敵対種族に見付かる確率も高くなるが致し方あるまい。

 あづみさんとリゲルさんを見付ける為だ。

 

「ねぇねぇ、聞いてる?無視は嫌われるわよ?」

「…蜂さん、ちょっと先に行っててくれますかね。」

「ビビ」

 

 最近、見知らぬ誰かに話し掛けられる事が多くなってきたな。

 構っている暇は無いので、蜂さん達には先に捜索してて貰おう。

 

…んで。

 

「何ですか?ルクスリアさん。」

「もー相変わらず冷たいんだからっ。自分の用事が済んだから、大祐くんをからかう為に探してたのよ?」

「人をストレス発散みたいな方法に使わないで下さい。」

「違うもんっ。私に優しくしてくれないなら……」

 

 そう言うとルクスリアさんは、急速にゼロ距離まで接近。

 自分の豊満な胸に、俺の顔を押し付ける。

 

「!?」

 

 俺は何とか逃れようと試みるも、頭をがっちりホールドされているせいで逃げられない。

 

 まずいっ…このままじゃ窒息死する…!

 

「おい、ルクスリア。此奴等を放って何処行くんだよ。」

「あっ相馬きゅん。ごめんねー?久し振りの彼氏に会えて嬉しくなっちゃって♪」

「彼氏?ルクスリアお前…彼氏なんかいんの…?」

「もうっ、相馬きゅんったら酷いんだから!私にだって彼氏の一人や二人くらい――」

「勝手に話を進めないで下さいよ!俺はルクスリアさんの彼氏ではありません!というか窒息死させる気ですか!?」

 

 マジで…死ぬかと…思った。

 締め付ける力が弱まった瞬間に何とか抜け出せたが、あのままだったら間違いなくお陀仏してた。

 何回、死の体験をすれば良いんだよ…。

 

「その声…大祐!?」

 

 俺の怒鳴り声に、後ろにいた女性が反応を示す。

 そのまま此方に走ってきて――

 

「もう!何処に行ってたの!?」

「おっと――リゲルさん!!良かった…無事で本当に……」

「それはどっちの台詞よ…心配したのよ!」

 

 気付くと、リゲルさんは俺の腕の中で泣いていた。

 そして俺の目の前にはルクスリアがアップで映って……

 不意に、横からコートを引っ張られる。

 その方向を向くと、小さな可愛らしい女の子が此方を見つめていた。

 

 その子は両手を胸に当て、モジモジしながら口を開いた。

 

「…大祐くん、もう離れるのは嫌って言ったのに…。」

「あづみさん…本当に、ごめんなさい。」

「謝罪なんていらない。私は大祐くんと一緒にいられれば…それで良いの。」

「ほら、そんな事言ってないで。大祐くんを抱き締めちゃえば良いのに♪」

「ルクスリアさん、あづみさんは貴女じゃないですから―――と言いたい処ですが、今日は俺から行きますよ!」

「えっ?大祐く…」

 

 俺は左腕でリゲルさんを抱きながら、あづみさんを右腕で抱き締める。

 途中であづみさんの声が途切れるが、今日だけは許してくれ。

 俺は今、無性に二人を抱き締めたいんだ。

 二人の存在をしっかりと、腕の中で確めたい。

 

 大好きな二人を。

 

「ごめんなさいと、何度言っても足りない。でも…それ以上に――」

「待って大祐くん。多分、私もリゲルも同じ事を思っていたから。」

「三人一緒に伝えましょう?自分の気持ちを。」

「…分かりました。では。」

 

 本心、そんな物は一つしかない。

 口にする言葉等、一つしか頭に思い浮かばない。

 お互いに顔を見合い、三人で一斉に息を吸って。

 放つ言葉。

 

「「「もう絶対…離れない。ずっと一緒。」」」

 

 そして俺は、再度二人を抱き締める。

 あんなにも極限まで追い詰められたんだ。

 でも、二人共生きててくれた。

 ぎゅっと、離さない…離して堪るか。

 そんな思いがグッと込み上げてきた。

 

 二人は俺に顔を近付け、肌が触れ合うギリギリまで接近。

 恥ずかしいのか、遠慮しているのか。

 頬同士がくっつく事は無かった。

 

「青春ね〜。」

「おいおい、人様の目の前で何てもんを…」

 

 何処からか野次が飛んで来るが、気にしない。

 俺は嬉しくて嬉しくて、それどころじゃないのだ。

 

 一度離れ離れになり、再会出来たと思ったらまた離れ離れ。

 もう、辛いんだ。

 大好きな二人が目の前から消えるのが。

 心配で心配で――

 

「ますた、二人とラブラブするのも良いですが…偶には私の事を構ってくれても罰は当たらないと思いますよ。」

「へっ?その声は…」

 

 何だろう、今抱き締めてる女の子と同じような声が耳に入ってきた。

 だが、良く聞くと違う久しい声。

 俺は抱き締めている二人から、一度腕を離す。

 そして声のした後ろを振り返ると。

 

「お久し振りです、ますた。」

「A-Zちゃん!今まで何処に…」

「私が聞きたいです。が、ますたが無事ならそれ以上は何も求めません。」

「A-Zちゃん…ごめん。君を、君達を守るって決めたのに…俺が浅はか過ぎた。自分勝手な俺を許してくれ。」

「そんなの、ますたが自分で決めたなら良いじゃないですか。それでもごめんと言い続けるのなら…」

 

 A-Zちゃんは会話を区切り、身を乗り出す。

 急に距離がぐんと近くなり、俺は衝動的に一歩後ろへと下がってしまう。

 だが、A-Zちゃんは俺の腕をがっしり掴み、自分の方へ俺を引き寄せる。

 ぐいっと引っ張られた俺の体は、A-Zちゃんとの距離を縮める。

 更に、彼女の引っ張る力が割かし強かったのでそのままA-Zちゃんと俺の唇が重なってしまう直前で。

 片方の手で胸元を押さえられ、ストップ。

 互いの鼻先スレスレまで距離が縮まった。

 

 A-Zちゃんは何時もの真顔で、坦坦と自分の意思を告げてくる。

 

「私は…ますた、貴方を見ていると不思議な感情が湧いてくる。ずっと味わった事の無かった感情が。」

「…A-Zちゃん。」

「でも、それが何かは分からない。好き…って感情には一歩及ばないです。だから私も困惑してて。」

「それとこれとで、俺が謝っちゃいけない事と何の関係が?」

「…私は、ますたに謝られるのが大嫌い。何故かは分かりませんが、ますたの謝罪を聞くと凄くムカムカする。それだけ。」

 

 ゼロ距離で、真顔で、急にそんな事を言われても。

 俺は罪悪感を感じたからこそ、癖で謝ったのだ。

 例え癖じゃなくとも謝るのは当たり前。

 それ相応の罪を犯してしまったのだから。

 

 相手が気にしていなくとも、俺は自分を許せない。

 今までA-Zちゃんの事を放って、自分の望みを叶える為だけに前進していたのだ。

 自分自身で「オリジナルXIII達をアドミニストレータの呪縛から解放する」と堂々宣言したのに。

 結果、放るだの戦闘になるだの、愚行を起こしてしまった。

 

「…そうだ、あづみさんリゲルさん。オリジナルXIIIの二人は?」

「私達に聞かれても…途中までは共闘してて、気付いたらいなくなってて。」

「そう…ですか。教えてくれて有り難う御座います。」

「これくらい、大祐の為になるなら幾らでも。」

「そう言えば大祐くん。私と別れる前にいたバンシーちゃん。何処に行ったの?」

「……!!!」

 

 そうだ!バンシーちゃん!

 生きる事と二人の事で頭が一杯になって…。

 あああぁぁぁ!苛つく!!

 熟(つくづく)馬鹿な俺だ!

 今すぐにでもバンシーちゃんを探し出して、安全な場所を用意してあげて――

 

「なぁ…さっきから引っ掛かってたんだけどさ、大祐…ってお前の名前?」

「そうですけど…何か?」

「いや…女なのに男っぽい名前だなぁと思ってな。あぁ、悪い意味じゃないぜ。決してな。」

 

…………女……。

 

「…相馬きゅん。」

「なんだ、ルクスリア。」

「大祐くん、男の子。」

「……はっ?いや、だって見た目が完全に女――」

「…女、女って…俺は男だよぉ!」

「マジかよ!?」

 

 どいつもこいつも俺を女とからかって…。

 いや、あづみさんとリゲルさんは最初から分かっていたっぽいけど。

 ルクスリアさんもそうだし…ヴェスパローゼさんも気付いてた。

 女性陣は性別を把握する能力が高いのか?

 此奴如何にも女じゃない、どう見ても男的な。

 

 まぁまぁ…確かに間違えられるのは大半が男だし。

 つまりはそういう事なのかもしれない。

…はぁ、萎える。

 

「えっ、じゃあ…お前がルクスリアの彼氏?」

「んな訳無いじゃないで――」

「そうそう♪大祐くんも相馬きゅんも、私の彼氏♪」

「「勝手に決め(るな!)ないで下さい!」」

「あら、全否定は流石に傷付くわよ。」

「ご…ごめんなさい。」

「俺は一切謝んねぇからな!」

 

 あ、しまった。

 思わず癖で、また謝ってしまった。

 ルクスリアさんに対して弱気を見せてしまった。

 やってしまったばかりだ。

 

 唯、ルクスリアさんに弱気な所を見られると…。

 

「やっぱり大祐くんは優しいのねっ。それに比べて相馬きゅんは…。」

「あ?ルクスリア、お前に隙を与えたら駄目だって事は俺が良く知ってる。優しくなんか出来るか。」

 

 相馬さんとルクスリアさんの痴話喧嘩が始まったぞ。

 面白そうだし、このままにしておくか。

 

「…大祐。」

「はい?リゲルさん、どうかしました?」

「あの七大罪からある程度は話を聞いたわ。どうやら、一緒に訓練してたらしいわね。」

「えぇ、してましたよ。あるシステムを従わせる為に。」

「そう…本当に?」

「はい。寧ろそれ以外に何が…」

「七大罪は「大祐くんと夜の稽古をしていたわ♪」なんて言ってたけど。」

 

 夜の稽古?

 あぁ、ズィーガー戦の時か。

 あれは稽古と呼ぶには厳しかったし、何よりもルクスリアさんはいなかったけど。

 どちらかと言えば…シュメーザ戦?

 というか、あの時って夜だったのか。

 何時も空気が淀んで、何時だか何分だか分からなかった。

 が、ルクスリアさんは知っていたらしい。

 

「そうですね。夜の稽古…というか夜の訓練というか?」

「ふーん…そうなんだ。」

「あのズィーガーとかいう黒猫、強かったなぁ。もう襲って来ないと良いけど…へっきーに任せたし、きっと大丈夫。」

「黒猫?もしかして…大祐もあの黒豹と戦ったの?」

 

 ズィーガー戦はヤバかった。

 死ぬかと思った。

 そんな話題を挙げると、リゲルさんの表情が一変した。

 彼女は俺に近付き、体をぺたくた触り始める。

 一体何事だ。

 

「…でも、あの時は無傷だったって事は強いと言いつつも余裕で倒したのね?」

「あー…大祐くんってば、面白い勘違いをさせたかったのに〜。」

「いえ、俺はフルボッコでしたよ?そこでごねてるルクスリアさんがいてくれなきゃ、死んでましたから。その節は有り難う御座いました。」

「わーい、大祐くんからお礼言われたっ♪」

「良くルクスリアとそんなに軽く掛け合えるな。」

 

 わりかし長く、付き合ってくれてたからな。

 ルクスリアさんには何かと助けて貰ってばかりだった。

 まだ最近の事なのに、懐かしく感じる。

 ルクスリアさんと別れて、黒布と戦って、オリジナルXIII二人と共闘して。

 ヴェスパローゼさんが乱入してきて、知らない誰かが話し掛けてきて、自我が崩壊して、ヴェスパローゼさんに拐われて。

 きさらちゃんとは昔、何処かで会っていたらしいし。

 更にはあづみさん、リゲルさん、A-Zちゃんにルクスリアさん。

 知らないけど相馬さんに出会えて。

 

…というか此処、ヴェスパローゼさんのテリトリーの目の前――

 

「ねぇ大祐くん。このおっきな樹、凄いよね。」

「確かに…ここまで大きな樹は、緑の世界に来てからも目にしなかったわね。何年物かしら?」

「あ…あの〜…今更ですが、全員彼方でお話を――」

「全く、騒がしいわね。何処の誰よ。」

「きぃ…ねむぃ」

 

 あーあ、取り返しのつかない事になっちゃった。

 何も説明していない状態でヴェスパローゼさん、きさらちゃん、あづみさん、リゲルさんが対峙してしまうと…。

 

「あら?貴女達は。」

「…チッ。ここは貴様の縄張りだったか。あづみ、大祐、逃げるわよ。」

「う、うん!」

「何が何だか分かりません。ますた、状況説明を。」

「なーんか面白そうねっ!私も混ぜて♪」

「おわっ!蜂女が出てきた!!」

「だいすけっ!おかえい!」

「大祐も一緒?良かったわね、大切な人達が見つかって。」

 

 そうだけど…そうなんだけど。

 ヴェスパローゼさんの言う通りだけど、分かっていたけど。

 

 ややこしい事になってしまったじゃないか!

 

「もう、あそべゆ?」

 

 きさらちゃんは全力で走ってきた後、俺の胸元にダイブ。

 顔を上げ、相変わらず強請りの表情を見せてくる。

 

「ちょっと貴女!大祐から離れなさ――」

「待ってリゲル。何か理由があるんじゃないかな。大祐くんに直接聞いてみよ?」

「んー…あづみが言うなら良いけど…」

 

 おぉ…直ぐ傍に天使が!大天使様がおられるぞ!

 今直ぐにでも頭を下げて崇め奉らなければ。

 各務原あづみ様、どうか私に慈悲を下され。

 リゲルさんには自費と言われてしまう慈悲をどうか…。

 

「話の分かる子ね。大体は大祐から聞いて頂戴。詳細は私から話すわ。」

「だいすけっ、はあくあそぼっ!」

「ちょっと、ちょっとだけで良いから待っててくれるかな。直ぐに終わるから。」

「ぅゅ…」

 

 あぁ、そんなに悄気ないで。

 これが終わったら直ぐに遊んであげるから。

 こんな言葉しか出てこないが、心からそう思った。

 

「さ、大祐と貴女達は中に入りなさい。部屋位用意してあるから。」

「えっ…あれ?他の部屋が無いから、俺はきさらちゃんの部屋に泊まったんじゃ…。」

「あれは嘘よ。きさらが貴方と一緒に居たいって仕様が無いから、きさらの部屋に泊めさせたの。階段降りる時に気付かなかったかしら?部屋が沢山あったの。」

「…きさらちゃん。」

「だいすけは、きぃのへあにいゆの!」

「わーい、お邪魔しまーす♪」

「誰が貴女は良いと言ったかしら。」

 

 ルクスリアさんはヴェスパローゼさんに入国を許可して貰えず、止められている。

 という事は、相馬さんもきっと駄目なんだろうな。

 許されたのはあづみさん、リゲルさん、A-Zちゃんだけか。

 俺の大切な人達を受け入れてくれるなんて、ヴェスパローゼさんは優しいな。

 取り引き条件だからだろうけど。

 

「勿論、私と相馬きゅんも入れてくれるわよね?」

「貴女達は今直ぐ何処かへ行きなさい。さもなくば――」

「………大祐くんは利用させないわよ。」

「…急に何を。」

「貴女の目的は分かっているの。それの達成に大祐くんのリソースが必要な事も。」

「…貴女は私の計画の邪魔になりそうね。さっさと消えなさい。若しくは今此処で、殺してあげても良いのよ?」

「優しく接しているのは、大祐くんを油断させる為って事ね。恐い女。」

「目的を果たす為には、使えそうな駒は最大限働かせるだけ。」

「ふーん………もう良いや…行こっ、相馬きゅん。」

「えっ、あっおう。」

 

 何だ?

 ルクスリアさんがヴェスパローゼさんにひそひそと…。

 何の話をしていたのだろうか。

 気になるが、まぁ良しとしよう。

 前々から深い詮索は身を滅ぼすって知ってるからね。

 

「じゃあね大祐くん、また何処かで。」

「あっ、ルクスリアさ「…自分の身は自分で守るのよ。」…ルクスリアさん?」

 

 今のは何だ。

 完璧に忠告としか捉えられないのだが。

 しかも去り際に耳元で囁かれるという、何ともアニメの様な演出。

 これから何が始まるのですか?恐いですわー。

 

「ほら、大祐。早く来なさい。情報交換を始めるわよ。」

「了解です。あづみさん、リゲルさん、A-Zちゃん、行きましょ。」

「……リゲル、もしかしてあの人、大祐くんを…」

「えぇそうね。何か怪しいわ、あの蜂女。」

「気付いてないのはますただけです。ここは私達がフォローしましょう。」

 

 あれ?何だか三人までひそひそ話を始めた。

 何?何なの?俺だけ独りぼっち?ぼっちプレイ?

 独りは嫌だよ。

 誰か仲間に入れてくれ。

 仲間外れなんて悲しい事しないでさ。

 

「だいすけ、まだ?」

「ヴェスパローゼさんと話している最中で良ければ、遊んであげられるけど…どうする?」

「あそぶっ!」

 

 きさらちゃんに関しては求めるより、求められてるな。

 良かった、仲間外れにならなくて。

 きさらちゃんに感謝だな。

 

…俺達一行はヴェスパローゼさんの後を付いていき、あづみさんとリゲルさん、A-Zちゃんにはそれぞれの個室が与えられた。

 俺ときさらちゃんだけは、そのままヴェスパローゼさんの部屋へ。

 

 あづみさんからは「大祐くん…気を付けてね」と。

 リゲルさんからは「何かあったら呼んで」と。

 A-Zちゃんからは「ますたの察しの悪さは正直イラッときます」と。

 最後に三人から謎の言葉を頂いた。

 

…A-Zちゃんの放った言葉、地味にくるな。

 そんな思いを心の奥底に終いながら、ヴェスパローゼさんとの対談が始まった。

 

 バトルドレスの話は、後で三人に伝えておけば良いだろう。

 さっきの場で話を進めてしまうと、更に場が混沌としてしまうからな。

 

‐‐‐

 

(因みにリゲルさんは、個室は要らないという事であづみさんと一緒の部屋に。…後で遊びに行こうかな?)

 




森山碧の軌跡

第六章:何それ?

「…いやはや、ここ何処?」

また迷子になっちったよ。
大祐の彼女達から一緒に捜索手伝ってくれって言われた筈なのになぁ。
俺が迷子になってどうするよ。
もうとっくに、大祐を見つけてたりしてな。
冗談冗談。

「ん?彼処におらっしゃるのは…」

あ・や・せ・嬢☆
……じゃあないんですよねー。
女性なのは間違って無いけど。

「あっ、そこのお兄さん!二足で歩く鹿の親子を見なかった!?」
「ヤバイ子がおる。大丈夫かな?そんな小さいうちから二足で歩く鹿の親子なんて爆弾発言しちゃって。」
「千歳殿!此方には何もいなかったでござ――」
「……小さい?あたしが…小さいって?あんたは何歳なの?」
「俺?19歳、だぜ☆連れの兄さん、こんな場所に小さい女の子を連れてきちゃ――」
「…歯ァ食い縛れ。」
「へっ?」

何だろか。
今、ドスの効いた声が聞こえてきたような…

「そこの御仁!今直ぐ逃げるでござる!!」
「!!(バコン!)」
「ぐふぁっ!」

…あれ?
何で俺…宙に浮いているんだろう。

‐‐‐

その日森山碧は、お星様になりました。

「…終わり!?」
by森山碧

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