Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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時系列?時間軸?知らない子達ですね…。


第三十三話: 昔の知り合い…?

…ふわふわとした感覚が身体中を包む中、誰かの声が耳に入ってくる。

 女性二人が話し合っている声だ。

 それも聞き覚えのある。

 

「ねぇリゲル。大祐くんが起きないよー…。」

 

 一人は幼く、とっても可愛らしい声。

 聞いているだけで凄く癒されるし、心の保養になる。

 そんな位に心地好い声を有している持ち主。

 

「まぁ、その内目を覚ますでしょう。確かに早く起きて欲しくはあるけど、ね…。」

 

 もう一人は美しく、透き通る様に綺麗な声。

 体全体をすっと抜けていくような、透明度の高い。

 そんな綺麗や美しいだけじゃ表現し足りない声帯の持ち主。

 二つの声の持ち主等、考えるまでも無い。

 俺は目を開け体を起こし、二人の人物の姿を捉える。

 間違いなどやはり無かった。

 

「あづみさん…リゲルさん。」

「あっ、やっと大祐くんが起きたっ。」

「随分と長い時間を寝て過ごしていたわね。お寝坊さん?」

 

 お寝坊さん?

 俺は何時まで眠っていたんだ?

 あづみさんも「やっと起きた」と言っているし。

 それに、此処は一体何処だ。

 俺は確か、もう一人の俺に呑まれて…どうなったんだ?

 今目の前に二人がいるという事は、蜂達も黒布も、オリジナルXIIIまでをも退けて、二人と会話をしているのか?

 そんな当たり前に思う謎を解く為、先ずは周囲を見渡す。

 すると其処は、一面花畑で満たされていた。

 様々な色の花達が、偶に流れてくる風にそよそよと身を揺らす。

 あづみさんとリゲルさんの声と同じ位の心地好さだ。

 

「…俺は、何時まで寝ていたんですか?」

「そうね…少なくとも半日以上、一日経つか経たないかって程に眠ってたわよ。」

「大祐くんが起きないから、私…心配になっちゃって。あ、でも、凄く気持ち良さそうだったよ?邪魔しちゃ悪いかな…とか思って。」

 

 右斜め前にちょこんと座っているあづみさんが、何だかうずうずしている。

 俺に言いたい事が、幾つかあるようだ。

 だが、本人が口にするまでは詮索しないようにしておこう。

 何事も自分のペースって物があるからな。

 それよりも解決しておきたい事が…。

 

「黒布やオリジナルXIIはどうなったんです?」

 

 すると、あづみさんもリゲルさんも困った感じの表情を見せる。

 顔を俯け、丸で黙り込むかの如く。

 何も喋りたくない、話す事はない…そんな雰囲気が漂いつつある。

 

「…何で、答えてくれないんですか?」

 

 それでも俺は問い続けた。

 こうでもしなければ、自分の中での靄が晴れない。

 自己中心的だと思われてしまうかもしれないが、こんな怪しい状況、疑わない方が可笑しい。

 二人を怪しむ真似などしたくないが、致し方あるまい。

 本当の事を聞かなければ――

 

「…それを大祐が言う権利は無いわよ。」

「リゲル、さん…?」

「どうしてまた、大祐くんは直ぐにいなくなっちゃうの?」

「あづみさん…」

「約束したのに…守って貰えなかった。大祐は、私達と離れたいの?」

「そんな馬鹿な事を…!急に何を言うんですか!?」

 二人の謎発言に、思わず声を上げてしまう。

 

「だって大祐くん、直ぐ終わらせてくるからって。だから隠れてろって。」

「それは…っ!」

 

 そうだ。

 思い出した。

 俺はもう一人の俺に呑まれてから、暴挙の限りを尽くして。

 最後に女王蜂らしき女性と幼い少女を目の前に気を失って。

 二人との約束を破ってしまったのだ。

 それじゃあ、この世界は…。

 

「だから私達は裏切られたって思って。」

「裏切るだなんて…冗談言わないで下さい!幾ら二人だろうと、今の言葉は――」

「だって、現にそうだった。」

「…っ!」

「だからね、大祐くんとはここでお別れ。今まで私達が見てきた大祐くんは、私達を騙す為に偽っていた貴方でしょ?」

「…ふざけないで下さいよ。」

「あづみの言う通り、大祐とはもうさよなら。折角信用出来ると思ってたのに…残念ね。」

「待って下さいよ!俺は二人を裏切った訳じゃ…!」

 

 段々と離れていく二人の背中を見続け、俺は背筋が凍る様な思いで叫んだ。

 しかし、二人は足を止めない。

 追おうとしても、体が動かない。

 

 何でだ!どうして動いてくれない!

 最愛の人が離れていくのに…じっとして見てろってのか!?

 頼むから…お願いだから…動いてくれよ!!

 そして二人共、待ってくれ!

 こんな形で離れ離れになるなんて嫌だ!

 一生のお願いだ…他に何も望まないから…!

 

「あづみさん…リゲルさん…!」

 

 だから…頼む!

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

「行かないでくれ!!!!」

 

 あまりの衝撃とストレスに、頭が一瞬で覚めた。

 俺は何故か、無意識に右手を伸ばしながら大声で叫ぶ。

 すると、体の上で何かがビクッと跳ね動いた。

 

「だぃすけ…?」

 

 その動いた何かに視線を移すと、黒い衣服に身を包んだ可愛らしい少女が、俺の体に乗っかっていた。

 俺は仰向け、少女はうつ伏せで。

 

「…ファッ!?」

「ぅゅ?」

 

 俺が思いっきり驚いたのに対し、少女は只、首を傾げるだけ。

 只、首を傾げるだけ。

 

…いや、良く驚かずにいられるなぁ。

 俺は完全に驚愕してしまったぞ。

 そりゃあ、この少女が自ら俺の体の上に乗ったんだろうから驚かないのも当たり前だろう。

 

 だがな、俺はビビる!

 起きて行き成り少女が上で遊んでたら、流石にビビる!

 って言うかこの子、何で上に乗ってんの?

 遊んでたかどうかすら分からないのですが、それは。

 

 というかさっきの悪夢が一瞬にして吹き飛んだ。

 すげぇな、おい。

 

 取り敢えず、一旦体を起こして状況を――

 

「………」

「………」

「…ちょっと避けて貰っても?」

「うぃ!」

 

 Wi(゚∀゚∩)!

 少女は元気良く謎の言葉を返事として使う。

 その後、一生懸命に両手両足を使って、ゆっくりと俺の体から降りていく。

 不覚にも可愛いと思ってしまう自分がいた。

 凄く、手伝ってあげたいです。はい。

 

 というか、ちゃんとベッドの上で寝かせられてたのか。

 ほぇ〜…しっかりとしたベッドだなぁ。

 真っ白い敷き布団に真っ白いシーツ、真っ白い掛け布団。

 全てが真っ白。

 しかも枕まで良質な素材を使ってそうな…これ絶対低反発枕だろって思える程にリラックス出来る。

 それがふかふかの掛け布団に気持ちの良い敷き布団と相俟って…。

 

…ベッド…?

 俺、何でこんな幼い女の子と一緒にベッドで寝てんの?

 嘘だろおい。

 まさか、気付かぬ間にもう一人の俺が襲って――

 

 心配になった俺は掛け布団を剥いだ。

 すると掛け布団、シーツ、両方共に赤い絵の具が…。

 

 赤い…絵の具。

 赤い…液体。

 ケチャップ。

 血。

 

「嘘だあああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 頭を両手で抑え、項垂れる。

 こんな真実を受け止めたく等無い。

 俺が知らぬ間に、この少女のしょっ…しょじ…。

 

 言いたくねぇよ!

 ってか言わせんなよ、察せよ!

 ベッドで女性と寝ているだけならまだしも、血が付いていたんだよ!?

 完璧に俺がヤラカシタパターンだよね、これ!

 

 嫌だ、受け止めない。

 俺は断じて受け止めないぞ!

 だってヤったのはもう一人の俺で――

 

「うぐっ…!」

 

 ふと、左胸部から腹部にかけて激痛が走る。

 気になって触ってみると、包帯が巻かれていた。

 うん、何でぐじゃぐじゃに巻かれているかは分からんが。

 その包帯からは、自身の血が滲み出ている。

 

 恐らく、ベッドに付いていた血は俺自身の物だろう。

 包帯を通してまで出血していた、俺の血。

 それだけで傷口は深い物だと推測出来る。

 いや、確信は無いし実際に見てみないと分からんけどさ。

 見るの怖いじゃん?

 包帯取ったらグロテスクな光景、なんて見たくない。

 況してや、目の前に何歳かも把握出来ない女の子がいるってのに。

 傷を見るのは後でにしよっと。

 それまで放置放置。

 

 要するに、誤解だ。

 この女の子の処女は守られた。

 

「…気持ち悪いな。頭もぐらぐらするし。」

「だいすけ、だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫だよ。気にかけてくれてありが――」

 

 あれ?

 何か可笑しいな。

 俺さ、今名前で呼ばれたよね。

 絶対そうだよね?

 どうしてこの子が俺の名前を知ってんだ?

 俺はこの子の事を何一つ知らんのに。

 

 疑問に思った。

 そりゃあ、当たり前だ。

 寧ろ疑問と気持ち悪さしかない。

 俺は一回ベッドから降り、女の子の親を探す為に服を着ようとしたのだが…。

 

「あれ?服が無い。コートも。」

「もってくゆ。」

 

 そう言うと、少女はとてとてと歩いて何処かへ行ってしまった。

 何とも愛くるしい姿を見せてくれる。

 んじゃ、その間に自分の現状、この部屋の事でも調べておくか。

 

 先ずは自分の体。

 異常なのは傷だけで、他には何も見当たらない。

 強いて言うなれば外面よりも内面が危ないかもしれん。

 体全体が麻痺している感覚が、常に俺を襲う。

 こうやってベッドに座っているだけでもかなりキツい。

 状態はあまり良くない、って事だな。

 

 次は着ている衣服。

 身に付けているのは…黒とグレーの中間、微妙なカラーのズボンのみ。

 何時も穿いている自分のズボンだ。

 

 上半身はいつの間にか巻いてあった包帯だけ。

 ある意味半裸、とでも言えば良いか?

 地味に寒いぞ。

 何しろ、ぐじゃぐじゃに巻かれた包帯だからな。

 すきま風が涼しい、なんてもんじゃない。

 一言、寒いよ。

 

 まぁ、それはどうでも良いけど。

 そうだな…今度はこの部屋の内装でも調べるか。

 ベッドが真っ白かったせいで割りと気にならなかったのだが、部屋の大半を優しい黄色orオレンジ………LEDに取り替えられる前の街灯みたいな色で包まれている。

 例えとしては合ってると思うんだが…。

 

 本当、内装だけで言えば丸でホテルだ。

 部屋の大きさは其処らのホテルの寝室と何ら変わらない。

 それに加えて大きな木製の棚、様々な衣服が終えるクローゼット、木製のテーブルに椅子、先程のデカイベッド。

 内容物までそれほど変わりはない。

 TVが無いのが物悲しい位か?

 

 ベッドに座って見渡しただけだが、特に変な機能とかは付いてなさそうだ。

 至って普通の寝室。

 はい終了。

 

…というかマジで寒い。

 ここは真冬の北海道だっけ、と思える程に寒い。

 今の季節が何なのかは知らないが。

 

 窓は大きいのがベッドの横に一つあるが、完全に閉まりきっている。

 外は…真っ暗だ。

 夜は冷えると言うが、先程述べた通り今の季節が分からない。

 しかし、窓が閉まっているというのにも関わらず何で寒いのか。

 そう思い、ふと扉の方を見てみる。

 

 すると。

 

「…何か寒いと思ったら、あの子ドアを閉め忘れてるよ。」

 

 

 ドアが全力で開いていた。

 恐らく、彼処から風が入ってきて寒いのだろう。

 ドアの向こう側は暗くて良く見えないが、何にせよ体を冷やしたくない。

 自力でもドアを閉めに――行きたいのは山々だが、あれを閉めると多分女の子が入ってこれなくなってしまう。

 両手に俺の服を持ちながらだと、空いている手が無いからな。

 そのままにしていったのだろう。

 

――と、先程の女の子が戻ってきた。

 両手は勿論、俺の衣服で塞がっている。

 こうして、唯唯眺めているのは気が引ける。

 自分から受け取りに行こう。

 

 そう思ってベッドから降りようとした時――

 

「きぃがもってく。すあってて。」

 

 女の子から止められてしまった。

 俺の体を心配してくれているのか、自分が持っていきたいだけなのか。

 どちらにせよ嬉しい。

 あの女の子の言ってくれた言葉に、甘えさせて貰おう。

 何だか情けない感じもするが。

 

「もってきた。」

 

 女の子は腕を伸ばし、俺に衣服を渡す。

 有り難く手渡しで頂戴する。

 今はコートだけ羽織っておこう。

 現状で衣服を着てしまうと、もれなく血が付いてしまう。

 血腥い服を着続けるのは絶対嫌だからな。

 当たり前な話だが。

 

 一番上に重ねられていたコートを手に取ると、物凄い視線を感じた。

 

 丸で、蛇が蛙を狙うかの如く。

 俺はその視線が誰のものなのかと辺りを確かめる。

 案の定、直ぐ側にいる女の子だった。

 少女は俺をじーっと見つめて、目を離さない。

 

「………」

「………」

「…どうかした?」

「んっ」

 

 女の子は一瞬声を出し、顔を下げる。

 何事かと動揺してしまったが、俺は不意に手を伸ばし。

 何の躊躇いもなく女の子の頭を撫で始めた。

 ツインテールに結ばれた緑色の髪の毛が、フリフリと揺れる。

 

「うゆゆ〜♪」

「…可愛い。」

 

――はっ!

 唐突に女の子の頭を撫で撫でして可愛いなんて…

 何をしているんだ俺はぁぁぁぁ!!!

 

 言葉と動作が噛み合ってしまったせいで、ロリコン感が半端ない。

 別にロリコンじゃねぇのに…。

 

 ま、まぁまぁ、可愛いと思ったのは事実だし。

 思わず口にしちゃう事だってあるよね!

 

 俺は誰に対してかも分からない誤解を解く為、撫でる手を止める。

 すると。

 

「…もっと。」

「えっ?あっ…うん。」

 

 まさかの催促されてしまった。

 アンコールと言っても正しいか?

 それは別か…。

 

 取り敢えず、女の子に催促されてしまった以上はやらざるを得ない。

 再度女の子の頭に手を乗せ、右へ左へと動かす。

 

「だいすけのこれ、しゅき♪」

 

 すると女の子は凄く心地良さそうに、ほにゃっとした笑顔を向けてくる。

 その笑顔は、癒しという言葉を連想させる。

…くっそ可愛いなぁ、おい。

 本心からそう感じた。

 

「…そう言えば、どうして君は俺の名前を?」

「?…だって、だいすけはずっと、きぃとあそんでくぇてた。」

「俺が…君と?」

「うぃ。」

 

 俺がこの子と遊んでた?

 そんな覚え、微塵も無いぞ。

 確かに記憶は少し飛んでいるが、それは前世の物だ。

 この世界に転移してきてからの記憶は、しっかりと保持されている。

 が、この女の子には会った記憶が無ければ遊んであげた記憶も無い。

 一体、どういう事だ…?

 

「その事に関しては、寧ろ私が聞きたいわね。」

 

 ふと、開けっ放しのドアに一人の女性が立っていた。

 腕を組み、此方を見つめながら。

 

「ろーぜ!」

「…貴女は?」

 

 女の子は真っ先にその女性の元へ、俺は敵対の目を向ける。

 微かに覚えているが、俺とあづみさんとリゲルさんはこの女性と黒布に襲われて―――

 

「二人は!?あづみさんとリゲルさんは!?」

 

 起きてから頭の中が整理つかずに、二人の安否を確認し忘れていた。

 例え何処に行っていようが、生きててくれればそれで良い。

 俺は焦ってベッドから立ち上がり。

 

「がっ…はっ…!」

 

 吐血した。

 その際に目眩が起こり、仰向けでベッドへ倒れてしまう。

 

「…馬鹿なの?そんな大怪我しておいて、急に体を動かすなんて。」

「こんな傷…デスティニーを装着さえしてしまえば…!」

 

 それに、俺と二人をここまで追い詰めたのは誰だよ。

 ぎりぎり手の中に吐いた自分の血を握り、悔し紛れにバトルドレスを装着――

 

「…何で……おい、何でバトルドレスが現れない…!?」

 

 俺は自身のバトルドレスを装着出来なかった。

…というよりは、バトルドレスが現れなかった。

 今までに無い不測の事態に、動揺を隠しきれない。

 俺のバトルドレスは…「俺」をちゃんと認識してくれているのか?

 

「貴方、バトルドレスなんでしょう?その力が貴方の特権だったのに、失っちゃうなんて非力其の物ね。強そうだったから奪ってきたのに…」

「………」

「がっかりね、使えない。きさらの面倒役でも押し付けようかしら。」

「ろーぜ!」

 

 俯き、その女性の言葉に反抗出来ずに唇を噛む。

 すると女の子が女性に声を上げた。

 丸で「やめろ」と言わんばかりに。

 

 何故あの子は、俺を庇うのだろうか。

 そして俺は、本当にあの子と知り合いなのか?

 様々な疑問が頭の中を包み込み、処理が間に合わない。

 一つ一つをしっかりクリアしていかなければならないのに。

 これじゃあ多々ある問題を放置する事になってしまう。

 

 どうにかしなければ――

 

「…きさら、私に歯向かうつもり?」

「ひぅ…」

「ちょっと待てよ。その子を責めるのはお門違いも程があるんじゃないか?」

「貴方は黙ってなさい。」

「いいや、黙らないさ。罪も無い人が責められるのは見てて苛々する。第一その子は俺を庇って――」

 

 話を続ける途中、体全体に重みが伸し掛かる。

 目の前には先の女性のが顔が、視界一杯に広がっていた。

 

 仰向け状態でベッドに寝転ぶ俺の上に、女性が乗っかって来たのだ。

 馬乗り状態になってしまったせいで、俺は両足を動かせず、女性に片手で口を塞がれてしまう。

 両手は何とか動かせるが、動かしたところで何になる。

 女性が片手に持っている剣に刺されて終了だ。

 

 ならば大人しくいよう。

 すれば直に降りてくれるだろうから。

 

「貴方みたいな軟弱男に、とやかく言われる筋合いなんて無いわ。用無しはここで殺してあげても良いのよ?」

「………」

「あら、意外と慌てないのね。騒がしく命乞いでもしてくれるかと思ったけど………後できさらと一緒に、私の部屋へ来なさい。話があるわ。」

 

 俺は無言のまま、口を塞いでいる女性の手を退ける。

 

「…その話、今じゃ駄目なんですか?」

 

 そして自ら提案を出す。

 女性は一瞬キョトンとした顔を見せるが、直ぐに一変。

 にっこりと冷たい笑顔を見せつけて来る。

 

「貴方が正面に話せるなら、構わないわ。私も解決出来る事はさっさと済ませたいの。きさら、ずっと其処に立ってないで此方に来なさい。」

「うぃ。」

 

 女性は俺の体から降りると、直ぐ傍にあった椅子に腰を掛ける。

 きさらと呼ばれていた女の子は、真っ先に俺の横へ。

 二人でベッドに座り、対面に女性となった。

 

「先ずは自己紹介、追加で謝罪から。私の名前はヴェスパローゼ。急に襲ったりしてご免なさいね。それに、さっきの話も嘘だから。気にしないで。」

「えっ…?」

 

 ヴェスパローゼさん…今、俺に謝ったのか?

 あんな唐突に仕掛けてきて、今度は唐突に謝罪?

 何でそんな――。

 

「随分と呆けているわね。」

「…いや、あの…卒然過ぎて。」

「少し驚かせたかっただけよ。…でも、私も驚いたわ。あの二人の執念には感服ね。」

「二人?もしかして…」

「貴方の傍から一時も離れなかったのよ?感謝してあげなさい。」

 

 二人…まさか、あづみさんとリゲルさんが…?

 あの時意識を失って倒れていた俺の傍から、ずっと離れなかった…。

 実際に相手をしていたヴェスパローゼさんがそう言うのだから、間違い無いだろう。

 

…そうか。

 そうだったのか。

 二人共、俺を守っていてくれたのか。

 嬉しいなんてもんじゃない。

 有り難うの気持ちで一杯だ。

 一刻も早くあづみさんとリゲルさんを探しだして…。

 

「だから待ちなさいって。話はまだ終わってないわよ。ほら、ベッドに座って。自己紹介、自己紹介。」

「俺の名前は九条大祐と言います。今から自分の彼女二人を探しに行くリア充です。」

「いあじゅー?」

 

 今何かすげー間違った言葉が聞こえてきたけど。

 リア充をいあじゅーと間違えながら、首を横に傾げて――

 何とも可愛らしい!

 

 嗚呼、あづみさんを思い出してきた…。

 いやあね、あづみさんは至って普通に喋れるよ?

 こういった喋り方を聞いたからあづみさんを思い出したんじゃなくて。

 可愛さあまりにあづみさんを思い出したって話。

 OK?分かってくれたかな?

……誰と話してんだ、俺。

 

「はいはい、それは後で。次はきさらの番よ。」

「きぃ、ぢこしょうかいしない。まえから、だいすけといっしょだったから。」

「その事なんだけど…大祐、貴方はきさらと何時から一緒にいたの?」

「………えっ、俺?」

「そう、貴方。」

 

 

 ちょっちょっちょっと待てや。

 何で俺に話を振ったんや?

 今の流れからして俺に来るのも仕方がないかもしれないけどさ。

 そこは少女――きさら殿に任せるよね。

 だって俺、聞かれても何も答えれないしさ…。

 だって俺、無能だからさ――

 

 おい誰だ。

 俺の事を無能つったの。

 無能で意気地無しで駄目男つったのは。

…なんだろう、胸の奥がムカムカする。

 こんな茶番、どうでも良い。

 

 まぁ、何かしら返答はしよう。

 相手が納得してくれるかは分からないけど。

 

「あの…その…非常に答え辛いのですが、俺はきさらちゃんとは何ら関わり――」

「だいすけときぃ、ろーぜにあうまえから、ずっといっしょにあそぉでた。」

「私と会う前から?それってきさらが凄く小さい頃からって事よね。」

「さぁ…生憎、前世の記憶が曖昧なもんで。」

「前世?」

 

 あっ…やらかした。

 思わず口を滑らせてしまった。

 信用出来る人にしか話してないのに。

 何やってんだか…。

 怪しまれるコース一直線じゃないか。

 

「…まぁ、気になるけどそれは後で聞く事にするわ。今は目の前にある問題を、何とか達成していかなければ…」

 

 おっと、助かった。

 ついつい喋ってしまったが、最重要秘密話だろ。

 

 それにしても目の前にある問題ねぇ…。

 沢山あり過ぎて困る。

 現在進行形で問題だらけだ。

 俺も、それらを解決しなければならない。

 足踏みしている暇など無いのだ。

 

 先ずはあづみさんとリゲルさんに合流出来れば…。

 

「それに、貴方を用無しと言ったのは間違い。訂正するわ。」

「何故ですか?バトルドレスを装着出来ない点で話せば、確かに俺は非力で用無しですけど。」

「いいえ、私が話しているのはバトルドレスじゃなく、貴方の中にある能力の話よ。物凄く強大な力を感じるわ。」

 俺の中の強大な力。

 リソース放出能力の事か。

 いや、寧ろそれ以外に思い浮かばない。

 ヴェスパローゼさんはこれを狙いに襲ってきたのか。

 

 リソース放出能力はバトルドレスの力ではなく、俺自身の力。

 例えバトルドレスを装着していなかろうが、リソースは無限に湧き続ける。

 ルクスリアさんも、俺のリソースに惹かれて来たらしいし…。

 そんなに強い能力なのか?

 自分自身では何も感じられない。

 だが、これは使えそうだ。

 

「…ヴェスパローゼさん、一つ頼み事があります。」

「不利な立場に立たされている人間が頼み事…ふふ……面白そうだから聞いてあげる。」

 

 そうだ。

 先ずは一個一個の問題を確実にクリアだ。

 俺にこの力があるのなら、相手がそれを必要としているのなら、良い取り引き材料じゃないか。

 

「貴女はこの能力に目を付けて俺を拐ったんですよね。」

 

 頭の中でヴェスパローゼさんときさらちゃん、記憶している蜂達を味方と認識。

 すると、俺の体からリソースが一気に放出される。

 

「…やっぱり、勿体無いわね。こんなにも魅力的な力を有効活用しないなんて。」

「どうですか?俺がヴェスパローゼさん、貴女の味方になると言ったら。」

「それは美味しい話ね。私は勿論嬉しいわよ?」

「但し、ここで頼み事を取り引きに使わせて頂きます。俺はヴェスパローゼさんの仲間に…代わりに、俺の傍に居てくれた二人の捜索を先にさせて下さい。二人には俺から話しを通しますので…如何ですか?」

 

 俺の取り引きに、ヴェスパローゼさんは頭を悩ませ――

 

「無論、言うこと無しよ。それで大祐…貴方が味方に付くのなら。」

 

…どうやら、リソース放出能力は本当に素晴らしい力らしい。

 まさか即答されるとは、努努思ってもなかった。

 

 だが、これで良い。

 これでまた、二人と直ぐに会える。

 また何日間と刻に待たされないで済む。

 この世界に来て、初めて(?)取り引き成立した。

 一発本番も、悪くない物だな。

 

「だいすけ、また、いっしぃにあそべゆ?」

「うん、そうだね。一緒に遊べるよ。」

「うゆゆ〜♪」

 

 すみませーん。

 ここの可愛い女の子を貰っていっても良いですかー?

 答えは聞いてませーん。

…最低だな、俺。

 

「それじゃ、交渉成立ね。明日からびしばし働いて貰うから、今日はゆっくり休んで。ここ、きさらの部屋だけど。」

「えっ…てことは――」

「そのベッド、私ときさらが寝ても余る位に幅が大きいから、二人でも大丈夫だと思うわ。私も明日は早くから動くから、今日はもう帰らせて頂くわね。起きたら、きさらと一緒に私の部屋に来なさい。」

「いや、ちょっとまっ――」

 

 無慈悲にも、俺の声は閉められた扉によって遮られてしまった。

 そして部屋にはきさらちゃんと俺だけが取り残される。

 この状況…どうすりゃ良いんだよ。

 

「…くぁ…」

 

 静まり返った部屋に、きさらちゃんの小さな欠伸が一つ。

 彼女も、眠いらしい。

 事実、俺も眠い。

 

「…んじゃ、俺は椅子を借りて寝るよ。きさらちゃんはどうぞベッドへ。」

「ん〜!いやっ!」

 

 彼女の未来、俺の精神衛生面を考えて放った一言が一瞬で拒否られた。

…そうか、そう言えばベッドには俺の血が付いてたもんな。

 代えのシーツと掛け布団をヴェスパローゼさんに――

 

「何時の間に用意していたんだ…。」

 

 代えを貰って来ようとドアノブに手を掛けるが、直ぐにその手を離す。

 気付かぬ内に扉の前に真っ白いシーツと掛け布団が。

 俺はそれを、血の付いたシーツと掛け布団を取り替える。

 その間、俺が移動する度に後ろを付いてくるきさらちゃんに意識が向いてしまったが。

 何とか綺麗に敷く事が出来た。

 

 ふぅ、達成感達成感。

 

「さ、きさらちゃん。今度こそどうぞ?」

 

 手をベッドに差し伸べると、きさらちゃんはそそくさと布団の中へ。

 掛け布団から顔だけを出し、此方をじっと見つめる。

 あの顔は…知っているぞ。

 というか、さっきやられたからな。

 間違い無く、強請りの顔だ。

 

「だいすけもっ」

「…俺もそこに行けば良いの?」

「うぃ!」

 

 Wi(゚∀゚∩)!

 またもや元気で可愛らしい返事を…。

 それをされると断れないのが駄目だなぁ、俺は。

 きさらちゃんのこの返事、何だか今日が初めてじゃない気がするのもアレだし。

 俺に対して、きさらちゃんの懐き度が異常に高いのも気になるな。

 まぁ…後々思い出してくるだろうから良いとしよう。

 

 今は取り敢えず、この日を乗り越す為に努力をだな。

 

「…分かったよ。じゃあ、失礼するね。」

「あやく、あやく。」

 

 何で俺、こんなに急かされているんだ?

 多分、早く早くと言ってるんだろうけど。

 そこまで親しい仲なのか?

 やはり問題だけが山積みになっていく。

 

「きさらちゃん、おやすみ。」

「だいすけ、おやしみ。」

 

 だが、最優先解決順は既に決まっている。

 これからの事は、その都度決めていけば良い。

 最初は…あづみさんとリゲルさんの捜索だ。

 明日からハードに動く事になるだろうから、今日はしっかり休まなければ。

 

 俺の方へと寄ってくるきさらちゃんを抱き締め、そのまま就寝。

 出血は治まっているが包帯其の物に血が付いてしまっている為、コートで上半身を覆い隠す。

 

…彼女を抱くこの感覚も、何故だか初めてじゃない感じだ。

 直に自分の記憶も取り戻していかねばな。

 

 そう言えば忘れていたが…今頃へっきーは何をしているのだろうか。

 

 

‐‐‐

 




森山碧の軌跡

第五章:初見

綾瀬嬢からの情報を得た俺は、直ぐに緑の世界へと向かった。
幸い、白の世界と隣接している御蔭で徒歩でも一日経過せず着くことが出来た。

そんな俺、今は何故か二人の女性とお話中。
緑の世界に着くや早速、相談事の聞き手になるとは。
しかも、中々重要な話になってきている。

「ほーん…って事は、君達が大祐のパートナーさん?」
「もしかして、大祐くんを知ってるんですか!?」

俺が親友「大祐」の名前を出した瞬間、青い髪のまだ幼そうな子供が食い付いてくる。
隣にいる金髪のねーさんは何故か銃を構えて――

「貴様、大祐の知り合いか?」

銃口を此方に向け、警戒の心を強めている。
なんだー…この二人、結構大祐の事を好いてんじゃん。
雰囲気だけで分かるわー。
もうそんなに親密な関係になっちゃった訳ですかー?

「おいおいー…君達のパートナーさんの親友に銃を向けるなんて、扱い酷くねー?」
「親友!?…まさか、貴様が大祐の言っていた――」
「えっなに?彼奴、こんな美人さんに俺の事紹介してんの?照れるな〜。」

何だかんだで、大祐にも良いとこあるじゃねぇかよ〜。
てっきりこの二人、もう大祐にぞっこんLOVEなのかと…

「あの…もし良ければ、大祐の捜索に手を貸して貰えませんか!」
「待ってあづみ。此奴が本当に大祐の親友かどうか…」
「でも、疑ってちゃ始まらないよ!」
「そーそー、その子の言う通り。第一、俺が本当に親友かどうかなんて大祐に会えば分かるんだし。」
「それまでの疑いは晴れないわ。」

随分と疑り深いですなぁ。

「んじゃ、これでどうよ。」

この女性殿の疑いをどうにかしなければ、話が進まない気がしてならない。
先ずはそれを無くす為に、大祐の親友っぷりを表現しなくては。

そう思った俺は、胸元のポケットから何枚かの写真を取り出す。
その写真を二人に見せた瞬間、先の表情が打って変わった。

「これって…」
「俺と大祐が遊んでる時の写真。君達二人は、こんな笑顔の大祐を見た経験は?」
「大祐くん…凄く楽しそう。」
「…盗撮って可能性は…どうやら捨てた方が良さそうね。」

当たり前だ。
これがもし盗撮なら、大祐が部屋で一人寂しく満面の笑みを浮かべているヤバイ奴にしかならないからな。
というか、こういう時の為に撮っておいて良かったー。
流石俺クオリティ。
この写真、前世のもんだけど。

「…分かったわ。貴方が大祐の親友なのは認める。但し、私はまだ疑ってるから。」
「へいへい、お好きにどうぞ。………んで、本元は大祐の捜索だっけか。」
「一刻も早く見つけたいんです!お願いします!」
「おーすげー健気。全然オッケーだけど。唯、俺は単独で大祐を探す。見つけたら報告するわー。」
「あづみ、私達も探しましょう!」
「うんっ!」

前言撤回、この二人…ギリギリ大祐に攻略される寸前か?
彼奴の事でこんな必死になる奴なんて、見た事ないぞ。
…あ、今俺、軽く大祐をディスッてしまった。
許せ大祐。これが現実だ。

「そんじゃまっ、一度さいなら――」
「あ、あのっ!」
「んー?」
「……大祐くんの写真…貰っても良いですか?」
「危うく私も聞きそびれるところだったわ。まぁ、どちらにせよ勝手に貰ってくけど。」
「お、おう。」
「…大祐くんの……大切にしなきゃ♪」

………くそ。
更に前言撤回。
この二人、既に大祐の虜かよ。
ぞっこんLOVEじゃねぇかよ。
彼奴…ようやるわ。

‐‐‐





「…あ、名前聞いてねぇ。やらかした☆」

by森山碧

‐‐‐

「大祐くんの親友さん…レストランで働いてるのかな?」
「さぁ?見た目は完璧にそうだけど…まっ、深く考えなくて良いんじゃないかしら。」
「そうだね。」

byあづみ&リゲル

‐‐‐

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