Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第三十二話: もう一人の自分

 目を開けると、其処には緑一杯の景色が広がっていた。

 久々の外の世界。

 何時も何時も暇だった。

 心の奥底で解き放たれるのを待ち続けていた。

 だが、彼奴は俺を忘れていた。

 俺の存在を、俺の危険さを。

 だからもう一度思い知らせてやるよ。

 

 俺が表に出ると、何れだけ危殆に瀕するかをなぁ…!

 

 取り敢えず、自身の体の現状を確認だ。

 本当なら今直ぐにでも暴れて殺りたい。

 目に映る物を壊し尽くしたい。

 しかし、それも此奴の体が壊れたら成せない。

 もしこれが壊れてしまったら、それは俺にとっても、此奴にとっても死を意味する。

 別に此奴が生きようが死のうが、俺には関係無いが。

 自分が死ぬ事だけは勘弁だ。

 

 顔を下に向け、自分の体を確認すると中々危篤な状態だ。

 左胸部から右腹部にかけて、綺麗な一直線の傷跡が残っている。

…が、此奴の体が壊れる寸前までは存分に暴れさせて貰おうじゃないか。

 さぁ、俺に壊される奴等は何処に――

 

「…大祐、くんっ…」

「あぁ?」

 

 先ずはあのブンブン五月蝿い蜂共を壊してやろう。

 そう狙いを決めて立ち上がろうとした瞬間、俺の名前を声に出しながら泣いている少女が目に映った。

 その少女は俺の体に抱き着き、髪の毛や衣服が俺の赤で染まろうと、お構いなしに離そうとしない。

 正直、邪魔だ。

 振りほどいてさっさとお楽しみタイムを味わうとしよう。

 俺の標的に見なされた者共を、破壊し尽くそう。

 

「おい、お前。邪魔だからどっかに――」

「…大祐、くん…?大祐くんっ!!」

 

 少女は俺の名前を二度呼ぶと、抱き締める力を強めてくる。

 思わず手を出し、少女の体を引き剥がそうとした。

…が。

 

「良かった…大祐くんが生きてるっ、良かったよぉ…。」

「あ、あづみ?」

 

…!

 なんだ…?今、なんでこの少女を「あづみ」って呼んだんだ?

 この名前が頭にパッと思い浮かび、直ぐ様口に出てしまった。

 

…くそっ!

 訳が分からねぇ!

 破壊、殺しという言葉しか頭にない俺が、何を戸惑う!

 早く「退けろ」と一言強く言えば済む話なんだよ!

 強く言えば良いだけ――

 

「…あづみ、ちょっと避けてろ。俺が直ぐ終わらせてくるから。」

「えっ…う、うん。でも、その傷…」

「心配するな。これ位、あづみとリゲルを守る為なら痛くも痒くもない。あづみは危害の加わらないような場所で隠れてろ。」

「わ、分かった。リゲルをお願いね。」

 

……いや、だからな!?

 一言強く「退けろ」って言えば良かったんだよ!

 ってか誰だよ、リゲルって!

 また頭に思い浮かんだ名前を口にしちゃったじゃねぇか!

 

…あああぁぁぁ!調子狂う!!

 兎に角、今は破壊の限りを尽くす事だけを考えてれば良いんだよ!

 周りの奴等なんか気にしてられっか!

 

「…あづみ、逃げてくれたか。」

 

 俺は一人の少女が緑の中へ消えていく姿を、最後まで見届けた。

…ったく、何してんだか。

 あんな可愛くて守ってやらなきゃいけないような、か弱い少女に………

 

………俺、今なんつった?

 いや、気のせいだ。

 そんな事がある筈がない。

 きっと、久々の外の世界に興奮気味になっているだけだ。

 現し身を乗っ取れて気分が振り切っているだけだ!

 そうだ!きっとそうに違いない!

 断じて、あの少女を守ってやらなきゃとか、好きだとか――

 ねぇから!

 

「あら、意外や意外。死にかけが命を吹き戻したわ?」

「…あ?テメェ、俺の体をここまでズタズタにしてくれた強者(つわもの)さんか?」

「いいえ、違うわ。貴方の体をそこまでにしたのは彼方の危なっかしい誰か。私は何一つ関与していない。」

「あっそ。んじゃあ、とっとと消え失せろ。その蜂共といい目障りなんだよ。」

「そうもいかないわ。だって私が狙っているのは――」

 

 外見的に体は人間の女性、しかし肌色はグレー、それに加えて尾てい骨付近に蜂の大きな腹部を生やしている…恐らく其処らでぶんぶん飛んでいる蜂達の女王蜂は一拍置く。

 その女王蜂みたいな見た目をしている女は、人差し指を上に上げ。

 

「…貴方だから。」

 

 此方へと指を指す。

 それが合図となり、蜂共が一斉に襲い掛かってくる。

 数にして凡そ三十以上。

 それに加え、草木の影からリソース反応が探知出来る。

 完璧に五十以上にいるだろうな。

 だが、そっちの方が殺り甲斐があるってもんだ。

 

 俺が目覚めた事によりリソースが全快、デスティニーのウェポンラックからアロンダイトを取り出す。

 自ら殺されに来る蜂共を哀れむような表情で見つめ、一瞬にして笑顔に変える。

 こんなに大量の物を壊せる。

 嬉しさと欲求満たさで思わず顔に出してしまった。

 

 だが、この笑顔を引っ込めはしない。

 兎に角殺したいから。

 

「…俺は縛られねぇよ。お前にも、誰にも!」

 

 その時。

 目の前を青き閃光が走り、蜂共の数が半減。

 地面にボトボトと落ちていく。

 その蜂共を良く見ると、体には切り裂かれた様な傷がくっきりと。

 

…誰だよ、俺の獲物を奪った奴は。

 今直ぐ其奴をぶっ殺して――

 

「大祐!動けるのならあづみと一緒に逃げて!!」

「…リゲル、俺は逃げない。寧ろ君があづみと一緒に逃げ延びてくれ。此処は俺が何とかする。」

「でっでもっ!私も戦う――」

「後で合流するから、絶対に戻るから。頼む。」

「…もうっ!絶対に戻ってくるのよ!約束!」

「あぁ、約束。」

 

 彼女は不安を残しつつ、焦りが見え見えの状態で緑へ消えていった。

 

 その後、自分で思う。

 二人に対しての態度の差が酷いなと。

 もう一人の俺は何であの二人にここまで執着しているのだろうと。

 その感情が俺にまで干渉してきてんだよ。

 止めてくれ、頼むから。

 

「…邪魔が入ったわね。でも、今度は本気で「…お前を先に潰す。」あら、お邪魔な虫さんがまた一人。」

「邪魔なのはお前等だよ。まぁ、どうせ俺に殺されるから関係無いけどなぁ!!」

 

 今度こそ壊し、殺してやる。

 誰も俺を邪魔する者はいない。

 そう思いを巡らせ、デスティニーのアロンダイトを前に突き出しながらブースターを前方に吹かす。

 その速度は以前の俺と比べ物にならない位、俊敏且つ幅のある動きだ。

 女王蜂の目の前まで接近すると同時に、上空へブースト。

 其処から再度、女王蜂へと落下の勢いを乗せアロンダイトを振り翳す。

 

「僕達、私を守りなさい。」

 

 女王蜂の指示を受けた蜂共が、俺の前にたちはだかる。

 数は中々、多く見て15匹だろうか。

 黒布にも蜂を回している分、先程よりは少ない。

 ならばこのまま皆殺しで突破してやる。

 

「邪魔すんなああぁぁ!!」

 

 俺は更に落下速度を増し、蜂共の群れに突入。

 ブンブンと頭に響く音を気にもせず、アロンダイトを思いっきり上に投げる。

 かなり高く飛ばしたアロンダイトはそのまま放置し、両肩のフラッシュエッジをビームサーベルの長さで手に持つ。

 一匹の子分蜂が仕掛けてくると同じタイミングで、その蜂の後ろに回り込み。

 斜めに切り裂き、切られた蜂の切り口からは緑の液体が撒き散らされる。

 

「気持ちが良いなぁ!!」

 

 やっぱり、壊すのと殺すのは楽しいなぁ…!

 俺の心を満たしてくれるのはこれだけだ。

 まだまだ、壊し足りない。

 殺し足りない!

 もっと俺を楽しませろよ!

 俺に殺されて、俺を満たしてくれよ!

 

 そう狂的な程に想いを高ぶらせ、蜂共をぶち殺していく。

 一匹は臀部と胴体から上を切り離し、一匹は全ての足を切り落としてから頭を飛ばしてやったり。

 楽しくて楽しくて仕方がない。

 俺はフラッシュエッジ二本を駆使し、辺り一面を緑の液体で埋め尽くしていく。

 地上、というか地面にしっかりと足を着ける場所等、何処にも無かった。

 それは何故、答えは単純。

 蜂共の緑色の血で一杯だからだ。

 

 その光景を見る度に、もっともっと殺したいという感情が湧き溢れてくる。

 まだ足りない、これだけじゃあ満足出来ない。

 今まで大人しくしていた分、好き勝手に暴れさせて貰う。

 

「はははっ!ハハハハハッ!!楽しいなぁ、最高だなぁ!!」

「…五月蝿い。」

 

 一人高らかに笑い、蜂共を蹴散らす。

 すると、黒い布を纏った誰かさんが短剣を構えながら突進を仕掛けてくる。

 

…此奴は、俺の体をズタボロにしてくれた奴だな。

 受けた洗礼はしっかりと返して殺らなくちゃあなぁ!!!

 

「『EXAM(エグザム)』!この俺の前に平伏せえぇぇ!!」

「…なにっ…!?」

 

 第二の禁断システム、『EXAMシステム』を何の迷いも躊躇も無く発動させた。

 すると自身の体を、赤い靄が包み込む。

 更には感情が今まで以上に高ぶり、遂には自身で手を付けられない程に。

 

(先ずは寄ってきたゴミの排除だぁ…!)

 

 俺は両手のフラッシュエッジを地面へ投げ捨て、黒布の短剣を左手で直に鷲掴みする。

 その後、かなり上に放ったアロンダイトが丁度手元に落ちてき、俺はそれを右手でぐっと握る。

 自分の短剣を手で掴まれるなど予想外だったのか、黒布は慌てて短剣を離し、俺との距離を取ろうとバック。

…しようとした黒布を、逃がす訳が無いじゃないか。

 

「死ねぇっ!」

「こいつっ…!」

 

 黒布がバックした場所に、アロンダイトを投げ込む。

 堕ちた英雄の剣は黒布に吸い込まれる様に前方へ突き進み。

 苦渋の表情を見せる黒布の腹部へ、思いっきりぶっ刺さった。

 

「…ごはっ…」

「ざまぁねぇなあ!!」

 

 黒布は此方を睨み付けながらも、口から多量の吐血をする。

 自分の体を痛みつけた奴が逆の立場に……そう思っただけで笑殺が止まらない。

 やり返しはこれだけでも十分、という位に痛々しく刺さったアロンダイトを引き寄せ、左手に掴んでいた短剣を放り捨てる。

 

 これだけじゃあまだまだなんだよぉ…。

 もっともっと倍に痛みつけて殺らなきゃ、気が済まないんだよぉ!!

 

「ははっ、ハハハハッ!さよぉならぁ!!」

 

 ゼロ距離まで引き寄せた黒布の右脇腹に、左手を置く。

 そしてそのままの距離で、自身の手を光り輝かせる。

 デスティニーの持つ最大特徴武装、パルマフィオキーナを出力限界で放つ。

 

 ゼロ距離且つ最大威力のパルマフィオキーナを喰らった黒布の脇腹は、臓物を散らしながら綺麗に穴が開いた。

 その際に黒布の体から飛び散った血を浴びながら、俺は満面の笑みを浮かべていた。

 

 そして、血を身に受けた事によりデスティニーの翼が黒く、しかしながら濃い赤に…血の色に染まっていく。

 

 『EXAMシステム』は特定しない誰かの血を身に浴びる事で、機体の性能が格段にアップしていく。

 機動力、火力、リソース急速回復能力、そして狂暴性までもが増す。

 

 だが、それと同時に段々と心が狂っていく。

 俺にとってはそれが、悦びにしか過ぎなかった。

 

「さぁ、次は何処を壊して殺ろうかなぁ?」

 

 俺は言葉通りに黒布の体の何処を壊すか考える。

 やっぱり、四肢バラバラにしてから心臓にパルマをぶち当てるのが一番かぁ?

 いや、頭を飛ばすのもアリか。

 寧ろ頭を鷲掴みにして上に持ち上げ、そのままパルマを放って。

 此奴の頭を破裂させるみたいな……これこそ最高じゃねぇか。

 取り敢えず、四肢バラバラは絶対だな。

 これから残酷な死体処理が目一杯に広がると思うと、ゾクゾクして堪らない。

 強い奴を虐めるっつうのは、何時でも快感だなぁ…!

 

「今なら…。」

 

 早速、黒布の両手足を切り落とそうとした時。

 周囲に蜂共の大群が押し寄せていた。

 円形に包囲されていた、とでも言えば説明つくか?

 

…それよりも。

 あぁ、邪魔で邪魔で仕様が無い。

 俺は自分が何かをしている時にちょっかい出されんのが、一番嫌いでねぇ。

 だから…皆殺しだぁ…!

 

「黒い布を被った奴はどうでも良いけど、その男だけは生き捕りにしなさい。何がなんでも、ね。」

 

 女王蜂が指示を出した瞬間、蜂共は俺に向かって突撃を仕掛けに来る。

 恐らく自爆行為だろうか。

 自分が死んでも数で押せば、他の奴がやってくれると。

 チッ、ならば一度アロンダイトを抜かなきゃならないか。

 折角の楽しみを奪った代償を払って貰う為にも。

 殺戮の始まりだぁ!

 

 『EXAMシステム』の効力により更に狂暴性が増した俺は、黒布の腹部からアロンダイトを抜き取る。

 その際に耳に入ってくる「グチュリ」という擬音が、俺の心を限界まで高めていく。

 アロンダイトに支えられていた(?)黒布の体は、力無く地面へと落ちていく。

 その姿は見るまでも無い。

 緑色の液体の飛び散った地面へ落下するだけだ。

 ゴシャッ、ゴキャッといった音ではない。

 バシャンッと、液状の物質が弾かれる音が周りに響いた。

 

 だが、俺は壊れた物は見向きもしない。

 直ぐに新しい物を壊したいが為に。

 そうでもしなければ、俺の欲求は満たされない。

 先ずは向かって来る蜂共の処理だ。

 

「…弱い奴等を相手にするのは、退屈だな。」

 

 そんな愚痴を口にしつつも、順調に蜂共を殺していく。

…が、数が多過ぎて若干苛立ちが湧く。

 別に弱い奴等に興味等無い。

 強い奴を相手にしてからだと、余計にそう感じる。

 

「数ばかりごちゃごちゃと……」

 

 俺はアロンダイトとパルマフィオキーナ、ビームライフルに長距離砲を駆使して蜂共の駆除を続ける。

 一匹、また一匹と殺していく度に『EXAMシステム』は更に血を求め。

 強い奴を相手にしなければ、その欲求を満たせなくなっていた。

 

「雑魚は消えろぉぉぉ!!!」

 

 心の奥底から出た本音だった。

 俺は叫びながらも兎に角暴れまわり、ビームライフルやら長距離砲を撃ちまくる。

 標的等碌に決めもせず、撃てるだけ撃って。

 枯渇する事をしらないリソース、段々と狂っていく心に身を委ね。

 自我を保つ事を忘れた俺は、唯の猛獣と化していた。

 

「弱い…弱い…!こんなんじゃ飽き足りねぇよぉぉぉ!!!」

「…人とは、脆い生き物ね。それにしてもこれじゃまずいかしら。僕達ならまだまだ一杯いるのだけれど…あれにぶつけるだけ損よねぇ。」

「きぃ、だいすけにあってくゆ。」

「きさら!?下がってなさいとあれ程――」

 

 あはは…あはははは…。

 楽しぃなぁ…幸せだなぁ…。

 丸で狂ったような気分だぁ。

 もっともっと殺してぇなぁ…。

 まだまだ足りねぇよぉ…。

 

 もっと…もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。

 

 殺したくて堪らねぇんだよ!!

 

(異常な程までの壊れ方。うんっ、やっぱり思った通り!私としてはもっと壊れた君を見てみたいなっ♪)

 

 くひっ…くはははっ!

 目に映る物全てを壊し尽くしてやる!!

 誰だろうと関係無い!

 誰も、俺を止められはしないのだから!

 死ねぇ蜂共ぉ!

 雑魚が視界に映るのがぁ…いい加減目障りなんだよ!!

 

 壊す、壊したい、壊し尽くしてやる。

 そう何度も連呼していた当の本人が、手もつけられない位に壊れていた。

 視界に入る物を取り敢えず壊す。

 それが生き物だろうが、草木だろうが構わない。

 兎に角壊して壊して壊し尽くす。

 だが、その度に壊れていくのは自分だという事を、俺は気付きすらしなかった。

 何故…端的に言えば、自我が存在していないから。

 いや、本当は有るのかもしれない。

 壊す、殺すを軸にした自我が。

 

 最早其処には、善し悪しの概念等何処にも無かった。

 

「ふひっ…蜂じゃない奴、見ぃつっけた…!」

「ぅゅ?」

 

 俺は一人の少女を視界に入れ、その子に急接近。

 漸く雑魚の群れと外見が違った奴を見つけたと、ついつい嬉しくなり。

 女王蜂なんかどうでも良くなり。

 殺したくなって。

 その気持ちを抑える事無く全面に押しだし、少女のいる地上、ゼロ距離まで移動し。

 血を浴び続け赤く染まったアロンダイトを振るう。

 

 兎に角殺す。

 その概念に取り憑かれた俺の、狂気で満たされた剣を振り下ろした。

 

 その時。

 

「だぃすけ!」

 

 少女は俺がアロンダイトを振るうと同時に、胸元に飛び付いてきた。

 あまりの予測不能の事態に、狂ってから初めて困惑という文字が頭に浮かぶ。

 

…この俺が、懐に踏み込まれた?

 しかも此奴…俺の心の臓を一突きさえすれば此方は脱落だってのに、攻撃其の物を仕掛けて来ない。

 あぁ、こりゃ完全に舐められてるよな。

 舐めプだよな、これ。

 良いぜぇ…借りは倍にして返して殺るからよぉ!!

 

 俺は左手で少女の体を自身の体に密着させ、自分毎アロンダイトで突き刺そうと試みる。

 パルマフィオキーナを放っても良いのだが、それじゃ俺まで死ぬ。

 ならば自分の一部を捧げ、相手を確実に殺す方法を試した方が格段に良い。

 俺は自分の腹部を捧げ、この幼き少女の心臓を頂こう。

 

 それがどんなに狂った判断か、自分では判別出来なかった。

 自身の深手を負った箇所に、更に自身の攻撃を加えるなど。

 正にドMの鏡だ。

 

 そして、それに気付かずにアロンダイトを刺そうとした瞬間――

 

(やめろぉぉぉぉ!!!!!)

 

 心の底から体全体に、本来の俺の声が響いた。

 すると体の自由が利かなくなり、動けない状態となってしまう。

 

「何だ…何で体が動かない!?」

 

 ある意味自問自答だった。

 自分でした事を自分に聞いているのだから。

 

(何故…戦場にこんな幼い女の子が…)

 

 もう一人の俺の声が、身体中に響き渡る。

 俺はそれに苛々し、兎に角動こうと試すも無駄な抵抗だった。

 その間に胸元にいる少女は俺の左手から逃れ、地面に足を着ける。

 その瞬間、背後からサクッと音が聞こえてきた。

 それと同時に背中に地味な痛みが走る。

 何かを流し込まれていく感覚も。

 

「ふぅ…これで一段落ね。」

「テメェ…何を――」

「心配しなくても、唯の麻酔よ。詳しくは別物だけど。」

「くそがぁ…!」

 

 彼奴のせいだ。

 彼奴のせいでこんな事になってしまった。

 やっぱり、一番邪魔な存在はもう一人の俺だった。

 此奴のせいで…此奴のせいでぇぇぇ!!!

 

 そう感じながらも、意識は段々朦朧としていく。

 遂には体の力が全部抜け、情けなくも地面に倒れてしまった。

 

「…ろーぜ、こえでだいすけたすかゅ?」

「えぇ、殺したりはしないわ。こんな有力物件。この男には、色々と手伝って貰うから。」

「あとで、きぃ、だいすけとおしゃべり――」

「はいはい、それは好きにして。何でそんなに焦っているのか分からないけど…嬉しいのかしら…?」

「うぃ!」

「…そんな事よりも大事な事があるんだから。そっちにもしっかり専念しなさい。」

「…うぃ。」

 

 そんな会話を聞きながら、俺は意識を失った。

 

…絶対に殺す!

 何があっても、一番邪魔な此奴だけはぁぁぁぁ!!!

(ごめん…あづみさん…リゲルさん。約束…守れませんでした…!)

 

‐‐‐

 


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