Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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何だか展開を早めてしまった気もしますが…アドバイスや指摘等御座いましたら、教えて頂けると有り難いです。


第二十八話: 共闘

‐‐‐

 

九条大祐視点

 

‐‐‐

 

 

 二人を見つけれた。

 ずっと会いたかった。

 もう離れなくなんか無い。

 そんな事を心に想いながら、俺の胸元に近寄るリゲルさんを抱き締める。

 この手を二度と手放すものか。

 そう想いを強めると同時に、抱き締める力も勝手に強まる。

 すると、リゲルさんが顔を合わせてきた。

 

「…大祐。」

「リゲルさんはあづみさんと一緒に居てあげて下さい。その方があづみさんも――」

「いいえ、私も戦うわ。恐らくあづみも飛び出してくるわよ。」

「大祐くんっ!」

 

 リゲルさんの宣言通り、草木の影に隠れていたであろうあづみさんが飛び出してきた。

 俺は反射的にリゲルさんから手を離し、あづみさんを受け入れる体勢を作る。

 彼女は勢い良く俺へと飛び込み、俺はそれを受け止める。

 危うく後ろに倒れそうになるが、足に力を入れて踏み留まる。

 

「やっと…会えたよぉ…。」

「あづみさん…。」

「もう、離れ離れはいやっ。ずっと一緒に…。」

「勿論ですよ。ずっと一緒に。」

 

 彼女は泣きながら、顔を上げる。

 綺麗な赤い瞳からは大粒の雫が、頬から下へと流れ落ちる。

 俺はその涙を自分の手を使って拭い、彼女の顔を見つめる。

 あづみさんは恥ずかしかったのか、頬を紅潮させながらふっと視線を逸らす。

 そんな彼女に対してする事。

 自分の右手を彼女の頭に当て、左腕で背中を支えながら。

 ぎゅっと抱き締める。

 

 あづみさんは抵抗のての字すら無く、嬉しそうにしている。

 凄く笑顔になって。

 表情を見るだけで直ぐに分かった。

 ほんと、あづみさんもリゲルさんも可愛いな。

 熟思うが完璧に心を支配されている様だ。

 それもこれも事実だが。

 

「目標…II-3と各務原あづみの命脈のみ!」

「…っ!危ない!!」

 

 割りと遠くまで吹き飛ばした筈のType,IIとやらが、直ぐ其処まで迫っていた。

 彼女はビームサーベルに多量のリソースを解放。

 出力の上がった状態で、あづみさんとリゲルさんを斬りに掛かる。

 だが、脳が反応出来る速度程度。

 腕に抱き締めていたあづみさんを、隣にいるリゲルさんに優しく手渡しする。

 その後、即座にウイングゼロのビームサーベルを構え。

 Type,IIが全力で振ってくるビームサーベルを受けきる。

 その際、バチィッと相変わらずビーム同士がぶつかり合う音が周囲に響く。

 

「貴様…邪魔よ!其処を退きなさい!」

「退く理由は無い。俺には、二人を守り抜く理由しか無い!」

「このっ…!」

 

 Type,IIは何度も何度も俺にサーベルを振り下ろす。

 しかしながら、此方には[情報演算処理能力]という素晴らしいスキルがある。

 スキルというか、まんま能力だけど。

 

 それに頼りつつType,IIの攻撃を全て躱し、隙を見つけたら此方は地道に攻撃。

 それの繰り返しをする毎に、Type,IIは苛立ちを表情に見せる。

 

 すると、Type,IIは俺ではなくあづみさんとリゲルさんの方へと突っ込んで行った。

 

「ベガ様の為、II-3は必要無い!」

「あづみ下がって!」

「う、うんっ!」

 

 あづみさんを後ろに隠れさせ、Type,IIの攻撃を凌ごうとするリゲルさん。

 又もやビームサーベル同士がぶつかり合う音が響く。

 だが、リゲルさんは力負けをしていた。

 端から見ればその差は一目瞭然。

 Type,IIの振り翳すビームサーベルに、リゲルさんの反応が間に合っていない。

 それでも、後ろに居るあづみさんを守らなければという意思が見える。

 

「このままじゃ…!」

「これで、終わり!」

 

 リゲルさんの動きに隙を見つけたType,IIが、力を込めてビームサーベル一閃する。

 が、それはリゲルさんに届かなかった。

 彼女とあづみさんの周りには、深い緑色の板らしき物体が浮遊。

 それがType,IIのビームサーベルを見事防ぐ。

 

「…狙い撃つ!」

 

 そう、浮遊している緑色の物体の正体は。

 ウイングゼロから直ぐにサバーニャへと換装し、リゲルさんとあづみさんに飛ばしたシールドビット。

 何時でも思うが、流石シールドビットクオリティ。

 

 そのシールドビットに攻撃を弾かれたType,IIは、少し体勢を崩す。

 俺はType,IIの隙を逃さずに後ろから狙撃。

 彼女の脇腹を擦った。

 

「…貴様、手加減のつもりか。」

 

 俺が態と狙撃を掠めた事を察したType,IIは、此方を睨み付けてくる。

 全く、リゲルさんに似て可愛らしい顔立ちをしているのに勿体無い。

 彼女の事も、是非仲間に入れたいなぁ。

 

 え、何故殺さなかったのか?

 此処でType,IIを殺めてしまったら、俺の決心が無かった事になってしまう。

 オリジナルXIII全員を、アドミニストレータから解放するという願望が。

 

……確かに、リゲルさんを侮辱したのは許されない。

 相手が女性だろうが何だろうが今直ぐにでも地獄に突き落としてやりたいさ。

 けど、それもこれも命令したのはアドミニストレータだ。

 彼女達は一種の操り人形。

 それを解放してあげなくてどうする。

 

 という訳で、態と掠める様に狙い撃った。

 

「殺せるタイミングを逃すなんて、人間らしい。感情的に私を殺めるのを躊躇ったのか?」

「…まぁ、強ち間違った答えではない。自分の願望に負けたからな。」

「願望?生物は殺したくない、そんな如何にも下等な人間の――」

「君達オリジナルXIIIをアドミニストレータから解放する事だ。」

「なっ…!?」

 

 先程まで俺を馬鹿にしていたType,IIが、一瞬にして止まった。

 そして怒りという感情で物を喋り始める。

 

「…私達は、ベガ様の為に生きベガ様の為なら死ぬ事も拒まない。そうプログラミングされているから。私達に感情等有りはしない。ただベガ様の命令を聞き、実行するのみ。」

「その時点で君達はベガの操り人形だ。それに、君達にも感情は存在する。」

「何を馬鹿げた事を。感情なんて存在しないし、況してや必要とも思わない。それがオリジナルXIIIなのだから。」

「じゃあ、君達はベガを失ったらどうなるんだ?実際に君は、俺に反論する為に喋っている。その反論しなければという感情は何処から沸いているんだ?」

「それも全部、プログラミングに含まれているから。」

「ベガが死んだら悲しむか?」

「それは……私達がベガ様を守り抜く。だからそんな事は起きない。」

「その守りたい、守らなければという感情は?」

「……」

 

 どうやら、今回はプログラミングどうのこうのと言えないようだ。

 幾らそうであろうと、守らなければという感情や意思は存在するらしい。

 プログラミングなんか関係無く。

 Type,IIさんも、Xちゃんと同じで中々の堅物だが。

 その心に感情という物が芽生えた姿を見てみたい。

 出来る事なら、良い感情の方で。

 

…そう言った感情を、寧ろ沸かせてあげれば良いのか。

 俺自身が実行して。

 

「…何故、私に近付く必要があるのかしら。」

「俺の言葉を、どうやったら信じてくれるかなと思ってね。」

 

 Type,IIさんの後ろで、不安気に俺を見つめるあづみさんとリゲルさん。

 二人にはシールドビットを展開しているから問題無いが、俺は完全無防備。

 しかもサバーニャという、近接では弱点だらけのバトルドレスで自分から距離を詰める。

 リゲルさんが、万が一の時にType,IIさんを狙い撃とうとスナイパー状態で大型のライフルを構える。

 あづみさんは唯唯心配そうに此方を見つめる。

 

「私達の信用を勝ち取りたいなら其処にいる各務原あづみ、II-3と一緒に青の世界へ投降する事ね。」

「即答でごめん。俺にそれは無理だな。」

「それじゃ、信用するなんて到底出来ないわ。貴様に従う気も更更――」

「無いのであれば早く其奴を殺しなさい。」

 

 何処からか、違う女性の声が周囲に渡る。

 その声の主は草影から現れた。

 

 だが、俺は声の主の姿を見た瞬間にまずいと感じる。

 何故なら、声と姿の両方とも俺を死に追い詰めたZ/X其の物だからだ。

 

「…Type,X。」

「Type,II。何を手子摺っているの?殺すタイミングなら何時でもあったじゃない。」

「Xちゃん、お久し振りですな。」

「…何でそんなに余裕なのか、気になりもしますが。今回ばかりはそうも行きませんよ。」

 

 俺達の目の前に現れるや、行き成りビームダガーを構えて突撃を仕掛けてくる。

 その速度は中々の物。

 俺は即座にアヴァランチエクシアへと換装。

 GNビームサーベル二本で対処する。

 

「リゲルさん!援護を頼みます!」

「了解したわ!」

「Type,II、リゲルの相手を。」

「言われなくてもするわよ。Type,Xこそ、早く仕留めなさい。」

 

 陣形的には半ば強制的に俺vsType,Xちゃん、リゲルさんvsType,IIさんになってしまった。

 が、リゲルさんとあづみさんにはシールドビットを展開中。

 少しばかりだが動きに幅が出るとは思う。

 後はリゲルさんとあづみさんの連携次第だ。

 

 俺は兎に角、此方に専念しよう。

 以前に殺され掛けたXちゃんが相手という、強敵さんとの勝負だ。

 今回もどんな状況に至ろうが、XちゃんもType,IIさんも殺しはしない。

 そして今回こそ、仲間にしたい。

 あづみさんとリゲルさんの幸せを成就させる為に。

 オリジナルXIII全員を、アドミニストレータの呪縛から解放する為に。

 

「アヴァランチエクシア、目標と…対話を試みる!」

「ベガ様の為、対象を破壊します!」

 

 お互いに二本のビームダガー、ビームサーベルを激しくぶつけ合う。

 相変わらず、Xちゃんは反応速度が素晴らしい。

 前に戦った時よりも反応出来る範囲が増している。

 そしていつの間にか、空中戦と移行していた。

 

 俺はGNビームダガーを二本、両脇へと投げ付ける。

 しかしXちゃんはそれを読み、態と動きを止めた。

 同時に体を一回転、ビームダガー二本を俺に叩き付けてくる。

 それに対してGNビームサーベルを横に構え、防衛に成功。

 俺とXちゃんの間には、衝撃波が生まれた。

 

「流石だ…!」

「貴方こそ、更にやるようになりましたね…!」

 

 バチバチッとビーム同士が反発し合う音が、頭に響く。

 するとXちゃんは一度後ろにバックし、ビームダガーを終う。

 

「やはり使うしか無いのですね。…リソース限界、解放!!」

 

 Xちゃんの声と同時に、彼女の背中に機械の様な翼が展開。

 バトルドレスには青いラインが、衣装もより派手になり。

 エロい見た目が更にエロく。

 過去に戦闘した時も、こんな感想しか述べれなかったな。

 

 だが、油断は禁物。

 今回のXちゃんはリソース限界解放をする際に、以前の様な苦しみを見せなかった。

 恐らく、耐性が出来たのだろう。

 というか、耐性が出来るまで訓練を施したのだろう。

 中盤から全力で来るとは、思いきった事をしてくれる。

 ならば此方も応えねば。

 

「九条大祐…彼を刻むのです!」

 

 Xちゃんは自分の翼から、ファングらしき物体を此方に飛ばしてくる。

 まぁ、らしきじゃなくてファングなんだけど。

 

 俺はアレにボコボコにされたんだよな。

 懐かしい気分だ。

 

 けど、今回はそうはいかない。

 俺だって力を増幅させたと、見せ付けよう。

 

「お前の力を見せてくれ!アヴァランチエクシア、『TRANS-AM』起動!!」

 

 俺を包み込むように、体が紅で染まっていく。

 自身の基本スペックを三倍まで上昇させ、動く度に残像が発生する。

 これが一度きりの特殊能力、『TRANS-AM』。

 

 俺はXちゃんが飛ばしたファングを、速さ任せに躱す。

 しかし、デスティニーの様に「相手の認識を誤らせる」事は出来ない為、ファングは何時までも後ろを追ってくる。

 

 だが、そんなのは関係無しにXちゃんへと突っ込む。

 『TRANS-AM』には限界時間が存在し、それを迎えてしまうとリソースを全消費してしまう。

 その前に決着を付けなければ。

 

「今だっ…!」

 

 略ゼロ距離まで近付き、GNソードを前方に構えながら更に突進。

 Xちゃんの肌に触れる寸前で、GNソードを振り翳す。

 

「甘いですよ!」

 

 だが、Xちゃんは飛ばしていたファングを全て手元に回収。

 直ぐ様ファングで剣を形成する。

 

 その剣を使い、俺の振るうGNソードをガード。

 実体剣同士のぶつかり合いに、ガキンッと鉄が弾き合う音が響き渡る。

 同時に両者の腕に反動が伝わり。

 お互いの武器が弾き返される。

 

「凄い反応をしてくれる…!」

「中々です…!」

 

 まさか『TRANS-AM』発動中の攻撃を見切られるとは、思いもしなかった。

 彼女の忠誠心、執着心、そして戦闘能力とその伸び率。

 どれも見上げてしまうばかりだ。

 

 しかし、それを思っているのは俺だけでは無い。

 恐らく、Xちゃんもそう感じてくれているのだろう。

 彼女は俺と戦闘している最中、凄く生き生きとした表情を見せてくる。

 戦いながらも顔には笑顔を表し、此方からも楽しそうに見える。

 その事実は、俺にとっても嬉しかった。

 彼女の様な強力な存在から認められている気がして。

 

 強者から認められるというのは、自分に優越感と自身を与えてくれる。

 だが、それに対して慢心するか其処から伸ばすか。

 本人次第では自分も強者に、或いは破滅に導かれる可能性が無いとも言えない。

 

 まぁ、強者だの弱者だの、そんな世界を無くしたいという気持ちが勝っているのだけど。

 強者とか関係無く、俺は強くなりたい。

 そうすれば、あづみさんもリゲルさんも守る事が出来る。

 二人が傷付かずに済むのだ。

 

…なんて野望を、Xちゃんと互いに実体剣を振るいながら考えていました。

 でも、もしそれが実現すれば俺としては喜ばしい。

 二人以外にも、オリジナルXIIIの娘(こ)達や、自分の守りたい者を守れる。

 力というのは、無闇に見せ付ける物では無い。

 必要な時に、必要な分だけを駆使する物だ。

 

 今実際に力を使っていますが。

 これは飽くまであづみさんとリゲルさんを守る為であって。

 Xちゃん達を力で捩じ伏せる為では無い。

 

 じゃあ何で見せ付けるとか言ったのって?

 

……それには深い、大人の事情ってやつがありましてね。

 気にしたら負けですよ。

 諦めたらそこで終了、的な。

 

「たああぁぁぁ!!」

 

 俺が考え事をしています。

 Xちゃんは容赦無く斬り掛かって来ます。

 更にファングを使って、俺を追い詰めようとします。

 俺はどうやってもXちゃんに張り付き、ゼロ距離から逃がしません。

 距離を取られたら不利な事位、僕にだって分かってますから。

 

 俺は兎に角、速さでXちゃんを翻弄。

 隙を見つけたら斬り込み、ゼロ距離から離れずに再度斬り込みを繰り返し。

 Xちゃんも俺の戦法に勘付いたのか、ファングを飛ばすのを止め実体剣の強化を施す。

 どうやら、あの実体剣はファングの多さで強弱が決めれるようです。

 便利な武器ですねぇ。

 

…何処の実況者だよ。

 

 それよりも、俺の目的は戦う事では無い。

 対話をするのが本来の目的だ。

 

 ま、語り掛ける暇が無いから困っているんですけどね。

 互いに気を抜いたら負けるというのは分かってますし、何か嬉しいハプニングでも起きてくれないかと。

 

「…そろそろ、『TRANS-AM』の限界時間か…?」

「リソースの消費が激しい…きつくなってきましたね。」

 

 俺とXちゃんは、絶え間無く攻防を繰り返していたせいでリソース残量が激減していた。

 だが、此方はバトルドレスを換装する毎にリソースを回復する事が可能だ。

 勿論、そのバトルドレスでリソースを使っていなければの話だが。

 

 対してXちゃんは、そう言った能力は持ち得ていない筈。

 ここで正しい判断を下すのであれば。

 

「…仕様が無いですね。今回は早い展開でしたが…Type,II、一旦退きますよ!」

 

 だよね。

 やはり彼女は正しい判断を選んだ。

 力量云々よりも、どちらが有利不利かを見極めて。

 Xちゃんが味方になってくれたら、何れ程心強いか。

 そのベガとやらに直談判しに行ってやろうか。

 

「リゲル!!」

 

 割りとマジでやろうかなんて考えていると、何故かあづみさんの声が辺りに響いた。

 Xちゃんの声に応答したのは、あづみさん?

 Type,IIさんでなく?

 

 俺はまさかと思い、あづみさん、リゲルさん、Type,IIさんが戦闘している場所を見下ろす。

 其処に居たのは――

 

「リゲルさん!」

「Type,II、今行きます!」

 

 あづみさんもリゲルさんもType,IIさんも、しっかりと視界に映ってはいた。

 しかし、三人共争っている気配がしない。

 それに加えてリゲルさん、Type,IIさんが負傷している。

 俺は訳が分からなかった。

 

 戦い合ってなくても怪我を負うとは?

 

 が、俺はそんなの考えもせずに二人の元へとブースターを吹かす。

 隣に居たXちゃんも一緒に。

 

「リゲルさん、大丈夫ですか?」

「大祐…良かった。貴方が来てくれるだけで何とかなりそう。」

「リゲルさん…?それはどういう――」

「大祐くん!危ないっ!」

 

 ふらふらと体勢を崩していくリゲルさんを支え、あづみさんの方へ歩いていく。

 するとあづみさんが、大きな声で俺に危険を報せてくれた。

 その御蔭で背後からの攻撃に気付く。

 俺は即座に振り向き、GNソードを構えて敵の攻撃を防衛。

 

 だが、意味不明な出来事が起こった。

 敵の攻撃をガードした瞬間、自分の体から力が抜けていく感覚が襲う。

 体全体が重くなり、力が入らない。

 

 この現象は…間違いなくリソース切れだ。

 

「…貴様、何者だ。」

 

 ふと、直ぐ隣からType,IIさんの声が聞こえてくる。

 誰を対象に放った言葉なのか。

 恐らく、俺の目の前にいる此奴の事だろう。

 全体を黒い布で包み込み、顔すら見る事が出来ない。

 

 持っている武器は短剣一本。

 それをガードしている最中だ。

 

「何故、私とII-3を攻撃する。場合によっては貴様も排除――」

 

 嫌な音がした。

 目の前から姿や影が消え、隣からヒュンッと素早く剣を振るう音が。

 俺は慌ててバトルドレスを換装。

 リソース切れを起こしたアヴァランチエクシアから、取り敢えずデスティニーに。

 

 その後、直ぐに横を向く。

 

「…なっ…に…?」

「Type,IIさん!?」

「Type,II!」

 

 俺の視界に映ったのは、腹部を短剣で貫かれたType,IIさんの姿だった。

 黒い布を纏った敵さんはグチュリと、思わず耳を塞ぎたくなるような擬音を立たせながらType,IIさんから短剣を抜く。

 すると、彼女の体は力無く横へ倒れる。

 

 俺はギリギリ、彼女の体が地面に触れる前に支え、抱える事に成功。

 そのまま後ろに下がり、あづみさんとリゲルさんが居る場所へと移動。

 

 俺のこの判断に、Xちゃんも釣られて後ろに下がる。

 草影に隠れていた二人の元に着くや否や、兎に角一度Type,IIさんの体を横に寝かせる。

 あづみさんもリゲルさんも、Type,IIさんをじっと見つめていた。

 

 敵視ではなく、心配そうに。

 何故なのかとも疑問に思ったが、直ぐに察した。

 リゲルさんとType,IIさんは共闘し、彼奴を倒そうとしていたのだと。

 

「…リゲルさん、あづみさん。二人にはType,IIさんを任せましたよ。」

「大祐くんはどうするの…?」

「そうよ。私だってまだ戦えるわ。一緒に彼奴を倒して――」

「駄目です。こんな事で二人を失いたくない。だから俺一人で大丈夫です。」

「でもっ!」

「…恐らく、各務原あづみもリゲルも貴方を失うのが怖いのでしょう。」

「Xちゃん……。」

「ですが、心配する事はありません。貴方の後ろは私が守りますから。」

「…Type,X、それは貴女と大祐が一緒に戦うって事かしら?」

 

 リゲルさんはXちゃんを、睨み付けるような視線で見つめる。

 だが、Xちゃんは至って本気だった。

 既にビームダガーを両手に装備している。

 

「本来は退くのが一番です。しかしながら、あの速度を振り切れるとは限りません。互いに怪我人と病人を抱えているのですから。」

 

 確かに、彼女の言っている事は正論だ。

 間違った事など何一つ喋っていない。

 

 それに、Xちゃんと共闘出来るのであれば俺は大歓迎だ。

 寧ろ願ったり叶ったりで。

 嬉しくはないが、ハプニングが起きないかなと思ったフラグは回収したし。

 後はリゲルさん次第だ。

 

「………分かったわ。考えている余地も無さそうだし。」

「それじゃあ行きましょう。貴方と一緒に戦えるなんて、驚きですが…何だか嬉しくも感じます。」

「俺も同じだよ。Xちゃん、宜しくね。」

「はい、宜しくお願いします。」

 

 びっくりだな。

 Xちゃんと対話を成功した気がして。

 そんな事は無い筈なのだが。

 

 取り敢えず、今は共闘だ。

 先ずは敵の位置を確認。

…まぁ、いないよね。

 何処かに隠れられたな、面倒臭い。

 どうやって探そうか――

 

「あら?二人で行かせるなんて言ってないわよ。」

「リゲルさん!?駄目ですよ!怪我をしているんですから!」

「それはXも同じ筈よ。リソースなんてギリギリなんじゃないかしら。」

「…リゲルの言う通りです。」

「でも、私達がリソースを回復出来る手段はあづみからのリソース供給しかない。それでも私だけ、だけどね。」

 

 リソース回復手段?

 あっ。

 思い出した。

 

「けれど人数は多い方が良いと、リゲルはそう言うのですか?」

「…何よりも、大好きな人を失いたくないから。」

「……成程。その感情を理解する事は出来ませんが、そこはリゲルに任せます。どうしますか?」

「聞かれるまでも無いわ。私も一緒に戦闘参加するから。」

 

 あったよ。

 リソース回復手段。

 殆ど忘れてたけど、俺にそんな能力があったじゃん。

 素晴らしい能力が。

 上手く使えればワンチャンスいけるか?

 

「大祐?何をボケッとしているの。私も一緒に戦うからね。」

「…リゲル。」

「えっ…と、大祐…?」

「俺は君達二人を手放したくない。だから、あまり無理はしないでくれ。」

「…もうっ、大祐は心配症ね。大祐こそ油断大敵よ。」

「あぁ。」

「それじゃ、宜しくお願いするわ。」

 

 リゲルさんは頬を赤く染めながらも、俺の肩に手を置き。

 そして笑顔を見せてきて。

 自分は準備OKとの意思を俺に伝える。

 

 Xちゃんも準備万端、大丈夫そうだ。

 さぁ、何処に隠れているかも分からない黒い奴を殺しに――

 

「…大祐くん。」

 

 と、不意に後ろからあづみさんが俺の名前を呼んだ。

 何かあったのかと後ろを向くと、彼女は歩いてゼロ距離まで近付いてきた。

 そして恒例の両手を胸に置き。

 

「…大祐くんもリゲルも、ちゃんと帰ってきてね。」

「当たり前だよ。あづみも、気を付けて。Type,IIさんを頼んだよ。」

「うんっ…!」

 

 あづみさんは可愛らしい笑顔を此方に向け、俺の手をぎゅっと握る。

 俺よりも圧倒的に小さく、柔らかいあづみさんの手。

 そんな彼女の両手で、自分の手を握られている。

 至福の時間だ。

 

 全く、あづみさんは相も変わらず最高に可愛い。

 何回言っても足りない位だ。

 可愛い。

 

「リゲル、気を付けてね。」

「えぇ。何があっても、私のあづみの元へ帰ってくるから。」

「約束だよ?」

「勿論!約束するわ。」

 

 二人の会話を聞きながら、俺とXちゃんは敵の姿を探す。

 緑に交じった黒い物体がいれば、正に其奴だ。

 良く観察し、じっくり見つめ――

 

「…居ましたね。」

「大祐、後ろは任せて。」

「私は貴方と一緒に前線を維持します。」

「宜しくね、リゲルさん、Xちゃん。」

 

 いざ敵さんに強襲を掛けようとアロンダイトを抜き取ると、肝心の敵さんは堂々と目の前に現れた。

 どうやら、痺れを切らしたのか。

 俺達を早く殺したいのか。

 まさか自分から出てくるなんて。

 

 相手にとってそれが好都合なのかどうかは分からないが、出てこられた以上は真っ正面から行くしかない。

 さぁ、アロンダイトを構えて。

 

「二人共、援護を頼むよ!」

「「了解(しました)!」」

 

 戦闘開始だ。

 

‐‐‐

 




森山碧の軌跡

第四章:↑そのまんま

‐‐‐
本のリーヴルに付いて行った場所は、白の世界の情報管理所。
森山碧は其処で、白の世界のエンジェル「十二使徒」という存在を知る。

彼の誕生日は12月25日という、謎の誕生日。
星座は山羊座。
なので、十二使徒の山羊座を求めて白の世界を再度放浪する事に。
自分の欲求を満たす為。

因みに、本のリーヴルからはお礼として本を頂いた。
厚さは辞書並。
どんな本か、開いてみるも何も書かれていなく。
彼女曰く「何の本か、何処で見つかったのか分からない」との事。

森山碧は本の処分を任された様な気持ちで、歩き続けた。

‐‐‐

「畜生…俺は雑務じゃねぇよ…(リーヴルって子、可愛かったなぁ。)」
by森山碧

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