Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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緑の世界
第二十七話: 現実で再び


 

「やっと着いたわね。」

 

 ルクスリアさんの一言に、俺は歓喜という感情が溢れた。

 やっとあづみさんに会える、やっとリゲルさんに会える。

 夢の世界なんかじゃない、本当の現実で。

 そう考えただけでも感情の高ぶりは止まらなかった。

 俯かせていた顔を上げ、いざ緑の世界へ踏み込もうとしたその時。

 

 俺はその光景に目を疑った。

 

「これは…一体。」

 

 緑の世界の象徴でもあろう草木は荒らされ、辺り一面平らな大地へと変貌している。

 残っているのは踏み躙られた少しの緑。

 見渡す限りは誰もいない。

 

 だが、俺の注目した点は其処では無かった。

 その少量の緑と一緒に、何故か地面に大きな跡がくっきりと残されている。

 これは明らかに…。

 

「青の世界、キラーマシーンが残した痕跡ね。」

「何で青の世界が此処に…」

「恐らく、緑の世界を潰す為に。理由は分からないわ。」

「そんな…!」

 

 これでは緑の世界に来ているあづみさん、リゲルさんが青の世界の奴等に見つかってしまう。

 そうなってしまえば、今までの苦労が水の泡――

 

 なんて、自分の苦労なんかどうでも良い。

 一刻も早く二人を助けに行かねば。

 彼女達が捕まるという事は、彼女達の幸せを奪い取るも同じ。

 それは二人にとって、俺にとっても残酷な未来だ。

 自分の苦労何ぞ知らん、捨て置け。

 俺が無理をしてでも二人を助けられるなら、命だろうが何だろうがくれてやる。

 今直ぐにでも二人を先に見つけ出して、また三人で他愛も無い話をして、笑い合って。

 妄想するのも良いが、さっさと行動に移すとしよう。

 

「…で、ごめんね大祐くん。私は此処でお別れなの。自分の目的がちゃんとあるから。」

「分かりました。ルクスリアさん、気を付けて下さいね。」

「あら。私の心配をしてくれるなんて。やっぱり大祐くんは優しいわね♪」

「バンシーちゃん。少し急ぎの用事だから、俺の方に来てくれるかな。」

「う、うん。」

 

 最後までルクスリアさんの言葉を無視し、バンシーちゃんを近くに寄らせる。

 そして俺はバトルドレスを解放。

 彼女の体を抱き抱え、ブースターを起動させる。

 

「だっ、大祐くんっ!?」

「本当にごめんね。けど、急がして貰うよ。」

「大祐くんも気を付けてね。これでも一応心配しているんだから。」

「…ルクスリアさん、貴女がパートナーで良かったと心から思ってました。幾度も助けて頂き、感謝の音しか上げられません。ルクスリアさんの素晴らしい魅力、僕以外の人に使ってあげて下さい。」

「大祐くん以外の?」

「少なからず、僕は貴女の魅力に囚われそうになってました。…ですが、その魅力を振る舞う相手は俺じゃない。ルクスリアさんに相応しい相手に、どうぞその魅力を。」

「…気遣いが上手いこと。でも、その心配は受け取らないわ。理由は勿論な・い・しょ♪」

 

 ルクスリアさんは体を前屈みさせ、右手の人差し指を自身の唇に当てる。

 貴女は何時もそうだ。

 一番教えて欲しい情報を、内緒と言って隠す。

 別段困る事は無いが、極力教えて貰えると有り難かった。

 まぁ、内緒にされる事で可愛いなと感じたのは事実だが。

 それに、ルクスリアさんは俺に対して猛烈にアピールを仕掛けて来たが、本命では無いだろう。

 遊び感覚みたいな気持ちで接して来た可能性が高い。

 だが、俺は彼女の魅力を見つけ出し囚われそうになったのも事実。

 やはり七大罪「色欲」の魔神。

 男を虜にさせる能力は計り知れない。

 

「…それじゃ、そろそろ行きますね。バンシーちゃんはOK?」

「大丈夫…だと思う。」

「少し時間が掛かるかも知れないけど許してね。…ルクスリアさん、さよなら!」

 

 俺はルクスリアさんに最後の言葉を残し、起動させたブースターを吹かせる。

 因みにバトルドレスはウイングゼロ。

 高機動で一気に緑の世界を駆けようと考えた。

 その分のリソース消費は激しいが。

 それで二人を見つけ出せるなら軽い代償だ。

 今は兎に角、あづみさんとリゲルさんを探そう。

 そうじゃないと、何もかもが始まらない。

 

『…私はさよならなんて言わない。大祐くんとは又会え―――ううん。又、からかいに行くんだから♪』

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

 何分程経っただろうか。

 何れだけブースターを吹かしながらも、一向に二人が見つからない。

 まだ来ていないという事も有り得るが、捕らわれたという可能性が無きにしもあらず。

 考えたくもない可能性だが。

 

 俺の腕の中にいるバンシーちゃんは、いつの間にか目を瞑って寝ていた。

 昨日から彼女は睡眠を取っていないらしい。

 此処は飽くまで緑の世界。

 黒の世界とは全く違い、息を吸えば綺麗な空気が体に流れ込んでくる。

 更に俺がブースト移動をしているせいか、その空気が心地好い風となって体を包む。

 その気持ち良さに耐えられなかったのか、バンシーちゃんは俺に抱き抱えられたまま眠ってしまっていた。

 

「…そういや、バンシーちゃんってディアボロスなのか?けど、ルクスリアさんみたいに仮面は持ってないし。って事は――まさかノスフェラトゥ?」

 

 もしバンシーちゃんがZ/Xなら、というかルクスリアさんが言っていたからZ/Xだろうけど。

 この子の種族は一体何なのか。

 ディアボロスの特徴である仮面は何処にも見当たらないし、況してやプレデターなんて可能性は無いだろう。

 トーチャーズとか言う種族は見た事無いが、如何にも人形(にんぎょう)らしいし。

 その可能性も無い。

 

 残る種族は、一度死んだ者達の蘇った姿「ノスフェラトゥ」。

 ゾンビと言えなくも無いが、こんな可愛い女の子にその言葉は似合わない。

 だが、彼女は恐らくノスフェラトゥで間違いないだろう。

 本人に後でしっかり聞いとかなければ。

 

「しっかし、このままだとまずいか?戦闘区域に入ったらバンシーちゃんをどうやって守るか…。」

 

 戦えないバンシーちゃんを如何にして守り抜くか。

 悩ましい所だが、生憎切り捨てる気持ちは一切無くてね。

 何が何でも守ってあげなければ。

 

 まぁ、あづみさんとリゲルさんを見つけ出せれば早いんだけど。

 そう上手く行かないのが現実。

 何処にいるんだか。

 

「なーんか嫌だな。戦闘している音が聞こえてくるぞ。…どうしようか。」

 

 本来の目的は二人と再会を果たす事。

 丸で戦闘は関係ない。

 だが、万が一その戦闘に巻き込まれていたら?

 二人の力は強いから、有り得なくもない。

 戦闘区域に向かうのも悪くない選択肢だが、此方にはバンシーちゃんもいる。

 彼女の意見を聞いてみなければ。

 起きた時にだけど。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「ん?あれは…」

 

 上空から見下ろす景色の中に、一際目立つ三つの影が俺の視界に映る。

 此処等一帯はまだ草木が残っており、緑で一杯だ。

 その中で俺の意識を奪っていった三つの影。

 

「大祐くん…?」

「バンシーちゃん、ちょっと降りるけど良いかな。」

「大丈夫だよ。」

 

 つい先程目を覚ましたバンシーちゃんに許可を頂き、その三つの影に近付いていく。

 ブースターを一時停止させ、少し距離を取った場所へゆっくりと地面に着地。

 草木に隠れながら、抱えていたバンシーちゃんを下ろし。

 三つの影を静観し始める。

 

「…大祐くん、誰か知ってる人?」

 

 直ぐ隣からバンシーちゃんがひそひそと話し掛けてくる。

 

「…バンシーちゃん。ちょいと長くなるかもだけど身を隠していてくれるかい。今から戦ってくるから。」

「えっ…!?でも目的は、二人の女性じゃあ――」

「その二人が今目の前にいる。お願い、離れた場所に隠れてて。」

「わ、分かった。」

 

 俺の話を聞き終わったバンシーちゃんは、背を向けながら離れて行った。

 ほんと、話が通じて且つ早くて助かるな。

 周りに居るかも分からんが、青の軍勢や緑の軍勢に見つからないと良いけど…。

 今は兎に角、目の前で起こっている事を片付けよう。

 

「…ウイングゼロ、目標の救援を最優先とする。」

 

 

‐‐‐

 

ソトゥ子の◯◯後

リゲル視点

 

‐‐‐

 

 

 不思議な感覚を味わう事ができた。

 自分の体だけ置いてかれ、意識だけが持っていかれるなんて。

 けれど、全く違和感は無かった。

 流石Z/Xの作ったオリジナルの部屋。

 ソトゥ子さんには面白い体験をさせて貰ったわね。

 

 そして朝。

 あの時強制退場させられた大祐の言葉がずっと引っ掛かっている。

 強制退場を食らった理由は何と無く分かっていたけど。

 彼は何だか、私達と離れて精神が不安定になりつつある。

 それが何故かは私にも分からないが、もし情緒不安定なら傍に居てあげないと。

 きっとあづみもそう思っているだろう。

 

 そんなあづみ。

 又もや悩んでいる表情をしている。

 一体どうしたのか。

 彼女も大祐と離れてから少し不安定だ。

 最近のあづみは毎朝悩み事を考えている。

 その時は、何時も思い馳せている表情を見せるのだが。

 

 今日の朝は違かった。

 確かに悩んでいるが、その顔には嬉しさや喜びといった感情も表れ。

 綻びが生まれていた。

 

 今日はにこにことしながら楽しそうで。

 何れだけ大祐が好きなのと突っ込みたくもなる。

…まぁ、私もあづみの事言えないけど。

 そんな事よりも先ずは朝の挨拶を交わさなきゃ。

 あづみにこれを言わなければ、一日が始まらない。

 

「あづみ、お早う。」

「リゲル!おはよっ。」

「昨日はしっかり眠れた?大祐の事で一杯だったんじゃない?」

「えっと…全然眠れなかった。リゲルの言う通り、大祐くんの事ばかりで…」

 

 ほらね。

 あづみはすっかり大祐の虜になっちゃってるわ。

 でも、睡眠はちゃんと取って欲しい。

 これから一番大事な物事を始めるのだから。

 というよりも、あづみの体が心配なだけだけど。

 

「取り敢えず、朝食を食べましょ。お腹空いてるでしょ?」

「うん!早く食べて、緑の世界にいこっ!」

「あづみ、焦りは禁物。…とか言いつつ、私も早く向かいたい気持ちで一杯なんだけどね。」

「今直ぐ大祐くんに会いたいなぁ…。」

 

 あづみが惚れた女の子の顔をしてる!

 もう…大祐は羨ましいわね。

 こんなにもあづみに好かれてるなんて。

 私としては悔しい気持ちもあり、嫉妬する心もあり。

 

…そんな大祐が好きな気持ちもあり。

 

 あっ、気付かぬ内に私も大祐に見入ってる。

 自分のこの感情に抗う事は出来ないわね。

 心というのは、何とも不思議。

 好きな人を思うとキュウと締め付けられて、それでも感情は高ぶって。

 望んでもいないのに体が反応して。

 

 私にとってその好きな人は大祐なんだけど。

 もう心身共に認めてる。

 何処かで彼を求めている。

 傍に居て欲しいと。

 

「リゲル?」

「…あっ、ごめんなさい。ぼーっとしちゃってたわ。」

「リゲルこそちゃんと眠れたの…?何かあってからじゃ遅いから、休みは必要だよ。」

「それはあづみも、ね?」

「えへへ…どっちもどっちって、こういう事を言うのかな。」

「本当、そのまんま当てはまりそうね。」

 

 お互いでお互いの顔を見て話している内に、思わず笑みが零れる。

 だが、それは私だけではない。

 私の可愛いあづみも同じだった。

 

…熟(つくづく)思うけど、あづみの笑顔って何でこんなにも可愛いのだろうか。

 白の世界にいる「エンジェル」とかいう天使種族よりも圧倒的に天使だ。

 天使並に可愛らしいのだ。

 別にべた褒めしている訳ではない。

 これが事実。

 あづみは最高に可愛い。

 誰が何と言おうとあづみは可愛い。

…でも、そんなあづみは私を異常に褒めてくる。

 女性の憧れとか、男性は誰もが魅了されるとか。

 彼女の方が私をべた褒めしている気がする。

 

 そう言えば、大祐は私の事をどう思ってくれているのだろうか。

 彼も「可愛い」とか「美人」だとか、思ってくれたり――

 

…はっ!

 私は何を考えているの!?

 大祐がどう思おうが大祐の勝手だし、妄想にしか過ぎない。

 そう思ってくれてたりしたら嬉しいなぁみたいな。

…やっぱり、感情という物は不思議ね。

 

 

 

 

‐‐‐

次の日

‐‐‐

 

 

 

 昨日は緑の世界に着くだけで疲労が溜まってしまった。

 それに、あづみも私もあまり休んでいないという事で一日体を癒す事に。

 だが、今日こそは絶対に探す。

 そして見つけ出す。

 何としても。

 

…って、何でこんなに焦っているのか。

 理由は二つある。

 一つ目は、あづみがリソース症候群の症状を自身で怪しんでいるから。

 恐らく、発症するタイミングが掴めて来たのだろう。

 本人曰く「今日の夜に発症しそう」との事。

 もし大祐と一緒に居る事であづみが安息できるようになり、且つリソース症候群が治まるのであれば。

 一刻も早く大祐を見つけ出さねば。

 私の大好きなあづみの為に。

 

 もう一つは言うまでも無く。

………自分が…会いたいから。

 

 まぁ、そんな事よりもあづみの為!

 大祐が居てくれればリソース症候群が治まるってあづみ言ってたから!

 それを信じて大祐を探しに――

 

「…きゃっ!」

「あづみ!」

 

 リソース症候群の前兆なのか、フラフラとし始めたあづみ。

 彼女は緑の世界特有の大樹の根に足を躓かせる。

 それを一瞬にして危ないと感じた私は、あづみの体を支えた。

 

「ありがと、リゲル。」

「大丈夫?一度、休憩する?」

「ううん、大丈夫。それよりも早く大祐くんを探さなきゃ。」

「もう三時間も続けて歩きっぱなし。丁度お昼過ぎだし、休憩しましょう?」

「でも……うん。そうだね。」

 

 あづみは私の心配を察したのか、反論しようとして放った言葉を引っ込めた。

 彼女も、早く大祐に会いたいのだろう。

 昨日から何だか落ち着きがない。

 何時ものあづみにしては珍しい事だ。

 普段は凄く静かで人見知り。

 特に男性相手にはキョドってばかり。

 話すら出来ない事もある。

 

 しかし、大祐だけは例外で。

 男性があまり好きでないあづみが、あんなにも楽しそうに話していたのだ。

 その時点で、あづみにとって大祐という男の存在は「特別」なんだなと認識が取れる。

 早く彼に会わせて、あづみを安心させたい。

 

…大祐、一体何処に――

 

「こんな所に居るなんて…警戒の薄さにも程があるわね、II-3。」

「…!」

 

 草木の影から姿を現した女性。

 その女は青いビームサーベルを構えながら此方に近付いてくる。

 私によく似た、というか瓜二つの姿に私は驚きを隠せなかった。

 

 何で此処に貴様が。

 

「…オリジナルXIII Type,II。」

「早く青の世界に投降しなさい。探すのに割りと苦労したんだから。」

「リゲル…あの人は?」

「…あづみ、其処ら辺に上手く隠れながらリソース供給って頼めるかしら。」

「う、うん。分かった。」

 

 あづみは私の指示に従い、直ぐ様身を隠す。

 それを確認し、Type,IIとの戦闘を開始…

 

バチィッ!

 

「ま、これくらい反応して貰えなきゃね。」

「くっ…!」

 

 一瞬。

 本当に一瞬の間に間合いを詰められていた。

 それさえ気付けない自分に少しがっかりするが、今はそんなの考えている暇は無い。

 横に一閃されたビームサーベルを、自身のサーベルで受け止める。

 

「私達から逃げられるとでも思ったの?」

「私は何があってもあづみと生きるの!貴様等にも、アドミニストレータにも捕まらない!!」

「たかが劣化コピーの分際で、ずいぶんとうぬぼれたものねII-3。」

 

 コピー。

 違う、私はType,IIのコピーなんかじゃない。

 

「私は私!貴様なんかのコピーじゃないわ!」

 

 怒りという感情に心を委ね、ビームサーベルを力任せに振る。

 そんな私の攻撃を、Type,IIは難なく躱す。

 それも当たり前だ。

 今の私は雑にサーベルを振っているだけ。

 掠り傷すら負わす事が出来ない。

 

「いい加減認めなさい、II-3。私のコピー品。」

 

 何だか、あづみからのリソース供給が強まっている気がする。

 私とType,IIの話を聞いて、怒ってくれているのかもしれない。

 伝わってくるリソースから「負けるな」という意思が感じられる。

 一度冷静になり、Type,IIに再度攻撃を仕掛ける。

 縦に横に、斜めに。

 何回も切り裂く。

 偶に後ろステップを踏み、スナイパーでの狙い打ちを試みる。

 が、流石に相手はオリジナルXIIIの一人。

 全ての攻撃をひらりと躱し、直ぐにゼロ距離へと詰められる。

 

 その度にビームサーベルで対処し、相手から間合いを取る為、後ろに下がる。

 しかし、後ろステップで下がった瞬間。

 生い茂る緑に足を取られ、着地に失敗。

 思わず尻餅をしてしまった。

 

「リゲル!」

「あづみ、隠れてて!」

「…無様ね、II-3。敵の目の前でそんな隙を晒すなんて。殺して下さいって言ってるようなものよ。」

 

(このままじゃ…!)

 

「別に、処分するから一緒ね。それじゃ、さよなら。」

「…あづみ、ごめんなさい…!」

 

 直ぐに体勢を立て直そうとする私に、Type,IIは容赦無くビームサーベルを振り下ろす。

 それを受け止めようと自身のビームサーベルを構えようとするが、時は既に遅い。

 Type,IIのサーベルは私の首元を切り裂い――

 

「させるかぁ!」

 

 と、近くから男性の声が頭に響いてくる。

 その瞬間、Type,IIが振り下ろしたビームサーベルはバチッと音を立て、空高く弾き飛ばされた。

 私は目の前で起こった光景に唖然としていた。

 

「貴様…各務原あづみとII-3の裏切りに加担した…!」

「今直ぐにリゲルさんから離れろ!」

「くっ…この力は…!」

 

 だが、それと同時に自身の心に色んな感情が溢れているのに気が付く。

 

 もう何が何だか分からなくなって。

 けれど、頭に響いてきた声に、目の前にいる男性の姿に嬉しくなって。

 それは私とあづみがずっと探していた、求めていた。

 彼の声、彼の姿其の物だった。

 

「リゲルさん、やっと現実世界で会えましたね。」

「もう…救援が遅いわよ、大祐。」

「二人を探している内に時間が経ってしまい…本当に申し訳御座いません。」

「また会えたから…会えただけでも嬉しいから、気にする必要は無いわ。」

 

 彼は私の体を支えながら、ゆっくりと起こしてくれる。

 私は感激のあまり大祐の胸元にそっと近寄り、顔を当てる。

 恥ずかしながらも私を抱き締めてくれる大祐に、感情を高ぶらせる。

 やはり何処かで彼を求めていると、断定出来る程に再会が喜ばしかった。

 

‐‐‐

 




森山碧の軌跡

第三章
ド直球

「…ていうのは冗談で。俺は森山碧。君の名前は?」
「えっ…あ、あの…」
「焦らんでも良いよ。マイペースで構わんから。」
「はっはい!…私は「本のリーヴル」と言います。頼まれ事で本を運んでいたのですが、少し重くて…」

森山碧は本のリーヴルを見て、直ぐに気付く事があった。
丸でピキリリリリーン、と何かが覚醒した様に。
それは言うまでもない。
本のリーヴル…彼女は森山碧のタイプ中のタイプ。

「眼鏡を掛けている…だと…!?」
「どうかしましたか?」

森山碧は一瞬で決断した。
彼女の手助けをしようと。

「その本さ、俺にも運ばせてくんない?」
「い、良いんですか?手伝って頂いて…。」
「リーヴルさんが良ければ、だけどさ。」
「おっお願いします!」

そして森山碧は思った。
見ず知らずの他人に、大事な本の運搬を任せるなんて大丈夫なのかと。
本のリーヴルの性格に不安を抱きつつも、彼女の手伝いをしたいという使命感に駆られる。
相変わらずの眼鏡好きだった。

‐‐‐

本のリーヴルの手伝いで、森山碧は彼女の目的地へ。
其処は何と、白の世界の情報を管理している場所だった。

‐‐‐

「う、嘘だろ!?リーヴルさん危なっかし!これが他世界の住人だったらどうすんだよ…。貰える情報は貰ってくけどね!」
by森山碧

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