Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第二十四話: 森山さん家の変態さん

 

「さて、何から聞き出しましょうか。」

 

 ルクスリアさんは、綾瀬という女性の目を見つめながら尋問を始める。

 個人的には只の話し合いみたいな雰囲気だと思うけど。

 別にそこまでぎちぎちした空気じゃあないし。

 

 寧ろ、今さっきまで此方を殺しに来ていたとは思えない程に、相手方はのんびりとしている。

 本人、パートナー、共に諦め寸前。

 そんな感じが見て取れた。

 

「…先ずは一つ目。どうして大祐くんを狙ったの?」

「答えるまでも無いわ。其奴を殺さなければ無かったから。それだけよ。」

「――ん?何か違うなぁ。」

 

 相手の女性の返答に、ルクスリアさんは不満そうにしている。

 此方はその「殺さなければ無かった」理由を聞いているのに、それを明らかにしてくれないからだろう。

 しかも、標的は俺だけときた。

 どう考えても何かしらの理由があったとしか…。

 

「んー…?これも違うなぁ。」

 

…というか、さっきからへっきーが独り言ばかり喋っている。

 ぶつぶつぶつぶつと小さな声で。

 両手に食べ掛けの林檎を持ちながら。

 至極難しい表情で林檎を見つめている。

 

「…あ、なるほど♪大祐くんのあまりの魅力に惑わされて、独り占めしたくなっちゃったのね。その気持ち凄く分かるわ♪」

「そんな訳ないじゃない。誰がこんな男に釣られるのよ。」

「わ・た・し♪」

「おぉ〜、これだこれ!今日食べる林檎は君に決め――」

「「ちょっと静かにしてくれない(かしら)?」」

「…へい。」

 

 あ、あぁ、へっきーがルクスリアさんと相手の女性からダブルパンチを喰らった。

 身体的にではなく、精神的に。

 悲しみ背負い過ぎでしょ、へっきー。

 

 って、あの林檎は何処から出したんだ?

 常備品とは思えないし。

 もし常備していたのであれば、ズィーガーの一撃を喰らった時に本体諸共ぐしゃっと逝った筈。

 いつの間に林檎を用意していたんだか。

 それに、そのズィーガーから貰った一撃をどうやって全快したのか。

 尋常じゃない程の深い傷だったのに。

 相も変わらず不思議で変で林檎が大好物な親友さんだな。

 

「…もう良いかしら。私にはやるべき事があるの。」

「二度と大祐くんに手を出さないのだったら良いわよ。今直ぐ立ち去っても。」

「……分かっ――」

「おいおい、綾瀬の嬢ちゃん。それは約束出来ねぇぞ。」

「綾瀬の嬢ちゃん?…あぁ、そう言えば名前を聞いてなかったわね。」

 

 言われてみれば、ルクスリアさんの言う通り。

 あの女性は「綾瀬」という名前しか明かしていない。

 それも、本人が言ったのではなくズィーガーが口にした名前。

 本当かどうかすら怪しい。

 

 だが、綾瀬という名前が綽名には思えないしなぁ。

 本人から直接聞けるまでは――

 

「貴女の名前、教えて貰えるかしら?」

 

…どうやら、疑問に思ったのは俺だけでは無いようだ。

 へっきーも、林檎をシャクシャクと音を立てながら食べているが気にしている感じが否めない。

 やはり此方側としては聞いておきたい所だ。

 

 だが、相手方はこんなにもつんけんとしている。

 真面に答えてくれる筈なんて…

 

「上柚木綾瀬。それが私の名前よ。」

 

 いや、素直に答えてくれましたけど?

 誰でしょうね。

 真面に答えてくれる筈なんて、とか言った馬鹿は。

 今現在バトルドレスを装着している人?

 知りませんね、そんな奴。

 

 とか冗談は置いといてだ。

 彼女は「上柚木綾瀬」という名前なのか。

 んじゃ、綾瀬嬢でいいや。

 ってか、綾瀬嬢の苗字って。

 上にある柚の木的な?

…ごめんなさい、何でも御座いません。

 人の苗字を軽く馬鹿にするのは宜しくありませんね。

 深く反省致します。

 

「へぇー、君は綾瀬って名前かぁ。呼び名は何にしようかな。」

「何で私が貴方に呼ばれなきゃならないの?」

「それよりも、今後大祐くんを狙わないと約束しなさい。でなければずっとこのままよ。」

「えっ?ルクスリアさん、ずっとこのままなのはちょっと…。」

「あー…暇だ。」

 

…何だか話が曖昧になってきてないか?

 へっきーは綾瀬嬢の呼び名を考えてるし、肝心の綾瀬嬢はへっきーに対して冷たいし、ルクスリアさんはずっとこのままとか勘弁願いたい事を言っているし、黒猫は暇だとか言ってるし。

 

 皆が皆、バラバラになっていないか?

 まぁ、それも仕様が無い事だけど。

 ついさっきまで殺す、殺される側の対決をしていた訳だし。

 

 唯ね、唯だよ。

 各々が聞きたい事が沢山なのは分かるけど、順番に話し合おうよ。

 今の状況は、話がごちゃ混ぜになっているだけだ。

 これでは何時になっても進まない。

 

 んで、進まないという事はルクスリアさんがずっとこのままと言い張る。

 すると、綾瀬嬢に続いて二次災害を喰らうのは間違いなく俺だ。

 

 俺は本来こんな場所で足を止める訳にはいかなかった筈なのに、今となってはこの有り様だ。

 これ以上無駄な時間を過ごすなんて事はしたくない。

 

 取り敢えずは順を追って、各質問を納得のいくように話して貰おう。

 それが一番手っ取り早い。

 先ずは誰から――

 

「…あ、そうだ。」

「どうかしたか?大祐?」

「いやねぇ…へっきー、ちょっと此方に来てくれる?」

「ん?何ぞ何ぞ?」

 

 へっきーに呼び掛けをすると、少し前まで俺が使っていた言葉で返事を返してきた。

 相変わらず…前世もこんな感じで、へっきーとのやり取りをしていたな。

 この世界に転移してからは二人に対して使ったっけ。

 

 いや、残念ながら口にしてはいないかった。

 自分の心の中で思っていたに過ぎない。

 それに、あの時の二人にこの言葉を使えば「何ぞって何ぞ?」みたいになるかも知れなかっただろうし。

…「何ぞって何ぞ」は可笑しいか。

 

 まぁそんな事はどうでも良い。

 俺がへっきーを呼んだ理由は他でも無い。

 質問したい問題が山積みだからだ。

 

 俺とへっきーは、ルクスリアさん達から少し離れた場所で話し始めた。

 

「…んで、可愛い女の子でも見つけたのか?それとも美味しい林檎が――」

「へっきー、一体どうやってあの傷を全快したの?」

「あの傷?…あぁ、アレね。ちょいと大祐を利用させて貰ってさ。」

「はい?」

 

 へっきーの返答に俺は、少しでも良いから理解する力が欲しいと思った。

 

 俺を利用させて貰った?

 一体何に?

 どういう風に?

 俺の何を利用したと言うんだ、この不思議さんは。

 さぁ吐け、吐くんだ。

 今直ぐ理由や原理を説明してくれないと、場合によっては俺のこの手が真っ赤に燃えるぞ。

 

「ど、どした、大祐?何か怖いぞ。」

「…へっきー。俺を利用したという理由、そして何故傷が回復したのか、事細かく説明してくれるかな?」

「分かった!分かったてば!教えるから、その恐ろしい笑顔を止めろ!!」

 

 そんな…恐ろしい笑顔だなんて。

 僕は唯、感情の籠っていないにっこり笑顔を向けただけだよ。

 それを恐ろしいと言うなんて全く、へっきーは酷いなぁ。

 

 ねぇ?

 

「で、原理は?」

「お前情緒不安定過ぎるぞ!」

「へっきーに言われたくない。」

「くっ…!大祐の言葉が胸に突き刺さる…!」

 

 自分で言うのもアレだが、今のは中々酷かったな。

 親友に対する態度じゃないよね、俺。

 親友だからこそってのはあるけど。

 

「で、原理は?」

「大祐、それ二回目。」

「うん知ってる。」

「どんだけドSなんだよ…。まぁ、何れは教えなきゃなかったから良いか。」

 

 へっきーは頭の後ろをポリポリと掻きながら、呆れた表情をしている。

 ほんと、呆れたいのはどっちなのか。

 

「…先ずは大祐。お前を利用したというのは間違いだ。違う言い方に変えれば「大祐の能力を活用」させて貰った、だな。」

「俺の能力を?」

「あぁ。…大祐の体から常に放出されているリソース。あれさ、お前の能力でしょ?」

「うん。まだ制御仕切れて無いけどね。」

 

 そうだ。

 すっかり忘れていたが、俺の体からは常にリソースが放出されているんだったな。

 詳しく言えば暴発状態とでも言えば良いか。

 制御出来ていないせいで本来の能力が駄目になっている。

 

 因みに本来の能力は「俺の近くにいる味方と認識されたZ/Xのリソースを回復させる」という、チートめいた効力を有している。

 だが、それも制御出来なきゃ意味がない。

 今の俺は「場所や敵・味方を問わずリソースを放出」する機械になってしまっている。

 これでは周りの敵を引き付けている様な物だ。

 デメリットとしては大き過ぎる。

 

 その分受ける恩恵も大きいが、飽くまで味方だけだ。

 自分自身には意味を成さない。

 ってな訳で、俺は自身をしっかり自衛しなければならないという事だ。

 しかも、俺はそれほどリソース量を持ち得ていない。

 これまで何度もリソース切れを起こしてきた。

 戦闘中でリソースが切れたあの感覚はヤバイ。

 事実死ぬようなものだからな。

 

 話を戻すと、俺がこの能力を制御出来れば中々に強くなれる。

 強くなれれば、あづみさんとリゲルさんを守れる。

 すれば二人は怪我や嫌な思いをしなくて済む。

 俺、万々歳。

 

 そう考えた瞬間、俺は自身の能力を手中に収めたいという衝動に駆られた。

 

「それで、俺は大祐から放出されているそのリソースを食ったって訳。」

「…ん?言っている意味が良く分かりませんね。」

「要するに、大祐はリソースを生み出す者。俺はリソースを食べて(活用して)色んな芸当が出来る変態って事だ。」

「なるほど。んじゃ、さっき自分で回復したのは…。」

「正にそれ。俺が大祐のリソースを食べて回復した。…因みにあの波動砲的なアレも同じく、リソースを使って出来る芸当だ。」

 

 へっきーの話を聞いている限り、確かに此奴は変態だと思ってしまう。

 更に、それがへっきーの見た目と相俟って――そう言えばルクスリアさんにもブサメンって言われてたな。

 可哀想なへっきー。

 

 だが、この人がどれだけ変態かは計り知れない。

 それは何故か。

 

 略してしまうが、俺の[リソース放出能力]は味方と認識したZ/Xに対してだ。

 人間には効果などある筈が…。

 

「あ、そうそう。大祐は何か勘違いしてるかも知んないけど、お前の能力は誰彼構わず発動するぞ。」

 

…ファッ?

 いや待てへっきーなんつった?

 

「実際に俺にもリソースを感じるし。けど、俺はZ/Xじゃないから直にリソースを貰えないけどな。」

 

 Z/Xじゃないから直にリソースは貰えない。

 確かにその理屈は分かる。

 結局、Z/Xの様に自分の体にリソースを取り込めないからだ。

 しかし、俺が勝手にリソースを与えてしまっているせいで…。

 いやけど、へっきーは俺のリソースを食べて―――

 

 という事は、俺が能力を制御出来ればその面倒臭い工程は無くなると。

 やっぱり俺次第って話だよな。

 取り敢えず、この能力の間違った効果を教えてくれたルクスリアさんに冷たい視線を送る。

 すると彼女は何事も無かったかの様に、にっこり笑顔で手を振ってくれた。

 

 全く、可愛いと思ってしまう感情には勝てないな。

 

「ってもしかして、ズィーガーの月影葬送牙を片手で受け止める事が出来たのは…」

「ご名答。俺がズィーガーのリソースを食ったからさ。」

「相手の攻撃の元となるリソースを食べて威力を激減させる…チートくさいな。」

「それがそうとも言えねぇんだよな。不意討ちなんて持っての他でさ、俺自身の元の身体能力が低スペックなせいで追い付けないっちゅう悲しみな。」

 

 へっきーの話には納得出来る部分が多々あった。

 アレを不意討ちと言って良いのか分からないが、ズィーガーが唐突にスピードアップした時。

 へっきーが反応仕切れ無かったのが、先程の話を物語っている。

 それに俺と同じで、へっきーも身体能力はそれほど高くない。

 やはりこの世界でも特訓は必要不可欠だな。

 

「大祐くん、其方の話は終わった?」

「えぇ。ある程度ですけどね。ルクスリアさんの方は?」

「あの上柚木綾瀬って女の娘から色んな話を聞いたわ。どうやら彼女、ある天使を探しているだって。」

「天使、ですか?」

「そう。…あの娘の別名ね、エンジェルキラーって名前らしいの。有名なんだって。」

 

 エンジェルキラー。

 意味は名前の通りだろう。

 天使に対して強い力を発揮する。

 彼女はそういう能力でも持っているのだろうか?

 しかし、Z/X以外でそんな能力を得る事なんて出来るのか?

 疑問ばかりが積もってしまう。

 

 それに、ある天使を追って来たのであれば何故俺を狙ったのか。

 色んな事が交錯し過ぎて頭の回転が追い付かない。

 へっきーが何故能力を持っているのかも分からないし。

 まさかあの人、Z/Xじゃないよな。

 

…ない、よな?

 

「俺が狙われた理由とか判明しました?」

「残念だけれど、その事に関しては断固として口を割らないの。「説明してくれければ服でも剥いじゃおうかしら」なんて言ってみたんだけれど…。」

「?」

「「自分達の目的をばらす位なら其方の方がよっぽどマシよ」とか言われちゃってね。」

「マジすか!?じゃあ今直ぐ身包み剥がして襲いに――」

「へっきー、そういうのいいから。静かにして貰える?」

 

 俺とルクスリアさんが会話している最中に乱入してきたへっきーに対して、辛辣な言葉を浴びせる。

 すると、丸で叱られた犬の様な表情を向けてくる。

 だがしかし、俺とルクスリアさんは見向きもしなかった。

 見る必要性が感じられないからだ。

 

 その直後に「流石の畜生め」なんて言葉が聞こえてくるが、気にしない。

 何時もの事だから。

 

「…で、私は話せる事は話したわ。好い加減行って良いかしら。」

「貴女を野放しにすると、大祐くんに被害が及びそうね。…出来れば目を離したくないのだけど。」

「よ〜し、じゃあ俺が見張りとして付いていく!」

「へっきー、冗談は止して。」

「俺は何時だって本気だぜ?」

 

 そう言いながらへっきーは、俺の目をじっと見つめる。

 

…前世でずっと一緒に遊んでいた俺には分かる。

 アカンこれガチや。

 此奴何言ってるの?が通じない。

 この人が本気になると最後までやり遂げるからなぁ。

 

 あ、前言撤回。

 投げ出した事もあった。

 

「待ちなさい、勝手に話を進めないで。」

「あー暇だ。」

「ズィーガーは黙って。」

「だってよぉ嬢ちゃん。こんな多数の人間がいる前で、あんな事されたくないだろ?」

「あんな事?」

 

 何やら綾瀬嬢とズィーガーがひそひそと話をしている。

 一体どんな会話の内容なのか聞きたいが、嫌な話だったら聞きたくないな。

 俺をどうやって殺すとか、俺をどうやって暗殺するかとか、俺をどうやって事故らせるとか…。

 

 何、俺呪われてんの?

 怖いわー(棒)

 

「よし!俺は何時も本気発言しちゃったからな。アレもやらないと駄目か!」

「ズィーガーはあんな事、貴方はアレって何の話を――」

「ほいっと!」

 

 ズィーガーとへっきーの言葉に疑問を浮かべる綾瀬嬢。

 その言葉の意味を知る為、綾瀬嬢がへっきーに質問しようとしたその時。

 

「ちょっと!?何してるの!?」

 

 へっきーは何処からともなく風を生み出し、綾瀬嬢のスカートをひらひらと捲った。

 その光景に、思わず両手で顔を隠しながら背ける。

 

 へっきーはやると言ったら最後までやり遂げる。

 例えそれが馬鹿らしい行為であったとしても。

 

「俺は何時も本気と言っただろ?身包みを剥がすって言っちゃったしな。」

「おぉっ、やるじゃねぇか。スカートを物理的に捲るんじゃなく、敢えて風を起こして捲るなんてな!」

「貴方は…何時も最低の間違いでしょっ!」

 

 綾瀬嬢は思いっきりへっきーの頬を叩く。

 その際に、パチーンと良い音が周りに響き渡った。

 相変わらず容赦ねぇな、そんな言葉をズィーガーが投げ掛けている。

 

 まぁ、悪いの綾瀬嬢じゃなくてへっきーなんだけどさ。

 やっぱり僕の親友さんは大変な変態さんだよ。

 一度暴走したら止められないのが欠点だな。

 

「あれ、女性の敵よね。」

「ルクスリアさんもそう思います?俺も同意見ですよ。」

 

‐‐

 

『ほんと…行くわよ、ズィーガー。』

『へいへい。』

『いやー、女の子のスカート捲ったの初めてでさ。』

『何で貴方が付いてくるの!?離れなさい!』

『それは出来ないなぁ。親友が殺されんの嫌だし。俺が見張らせて貰う。』

『…あっそ。私に手出ししないのなら良いわ。後で駒として動いて貰うから覚悟しなさい。』

『よっしゃあ!んじゃ、また後でな大祐(キラッ)!!』

『面倒臭いのが増えたわ…』

 

‐‐

 

「…えぇっ!?親友との再会もう終わり!?」

「随分と気儘な親友なのね。」

 

 すっかりとへっきーの勢いに押され、気付けばその場に残ったのは俺とルクスリアさんだけだった。

 あの人は自分のペースに持っていくのが上手いからな。

 それは前世から全く変わっちゃいない。

 何時も通りの変態へっきーだ。

 

「…っと、危ない危ない。」

「大祐くん?ふらふらしてるけど大丈夫?」

「あはは、これ位気にするまでもありません。唯の寝不足です。」

「そう言えば、今は夜だったわね。」

 

 ルクスリアさんの言う通り、そう言えば今は夜。

 真夜中になんて事件を起こしているんだか。

 それに、綾瀬嬢の目的を知る事が出来なかったのが痛いな。

 何時又狙われるか分からないなんて、恐怖の何物でもない。

 へっきーがいるから多少は安心かも知れないが。

 やはりそれでも恐怖だ。

 

 事実、実力だけで言えばズィーガーは一段も二段も上の存在。

 新しく解放されたアヴァランチエクシアですら止めを刺せなかった。

 

 あれは時間制限もあったけど。

 

「取り敢えず俺は眠りますね。瞼が死んでますから。」

「そうね。明日…もう今日になるけど、今後の為にもしっかり睡眠は取らなきゃ。」

「…あ、そうだ。ルクスリアさんは夜になると何時も何処行ってんですか?」

 

 俺は今回の件の大本を逃す所だった。

 今ふと思い出せたのが幸いか。

 

「ん〜…内緒、かな♪」

「又内緒ですか。後できっちり教えて下さいよ?」

「良いわよ。先ずは私が大祐くんの上に股がって。」

「そうやってちゃっかり別の事を吹き込むの止めません?」

「ふふっ♪御免ね。それじゃ、元の場所に戻ってゆっくり眠りに就きましょうか。」

 

 元の場所。

 元の場所…。

 元の場所…?

 

 あぁ、最初ズィーガーに襲われた場所か。

 何だか戻るのに気が引けるが、仕様が無いよな。

 正直安全に眠れるなら何処でも良い。

…ま、ルクスリアさんが居てくれるだけで安全なのは知っている。

 しかし、それを彼女に面と向かって言うと襲われそうで怖い。

 ルクスリアさんは色欲の七大罪なんだから注意せねば。

 

――そんな事を考えている内に、いつの間にか寝てしまっていた。

 

 いつの間にか元の場所に戻っていて、いつの間にか寝ていて。

 何だろう、ルクスリアさんの安心感。

 素晴らしいね。

 

 なんか頬を触られたり頭を撫でられたりする感触が伝わってくるが、命の恩人に反抗などしない。

 例え何処を触られようが――嘘ですごめんなさい。

 色欲以外でお願いします。

 

 なんて思っている間に、到頭俺の意識は深い暗闇へ落ちていった。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「…何処だ此処は?」

 

 意識が覚めると、俺は黒の世界らしからぬ場所へ来ていた。

 

 可笑しいな。

 先程眠りに就いた筈の俺が、何故綺麗な建物の中に居るんだ?

 それに此処は黒の世界とは打って変わり、静かで穏やかな空気が流れている。

 落ち着ける、思わずゆったりとしてしまう。

 不思議な感覚だ。

 

「ルクスリアさんが居ない…また夜這いにでも行って――あれは…。」

 

 長い通路を歩きながら考えていると、目の前に扉があるのに気付く。

 大きくもなく小さくもなく、丁度良いサイズのその扉を開ける。

 

…すると其処には、三人の女性が少し大きめのソファーに座っていた。

 

‐‐‐

 




その後、上柚木綾瀬&ズィーガー&森山碧は白の世界へと赴いた。

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