Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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[間]第ニ十三話: 胸に秘めた想い

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各務原あづみ視点

 

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 朝。

 目が覚めると何故か、自分の心に空白という穴が空いてしまった感覚に陥る。

 何かが足りない、そんな感覚に。

 その要因は既に分かっている。

 

 何時も傍に居てくれた彼の存在が無いから。

 

 固い地面から体を起こし、周りを見渡す。

 直ぐ隣では、リゲルが横になって寝ている。

 こうして見ると、相変わらず綺麗な顔立ちに美しいラインの体付き。

 胸は大きく、お腹はきゅっと括れ、長い足。

 女性の憧れスタイルの三拍子を揃えている。

 

 それに加えて、美顔の中に隠された可愛らしさ。

 女性なら誰もが羨ましがり、男性なら誰もが魅了されてしまうレベルの美貌。

 

 それに比べて私は――

 

「…はぁ、大祐くん…」

 

 何の魅力も無い、私に対して放った彼の一言は本当だったのだろうか。

 本気で「独り占め」しようなんて思っていたのかな。

 だとしたら嬉しいなんて問題じゃない。

 そんな感情は優に越えてしまう。

 

 でも、大祐くんがリゲルの事を好きになっちゃったら私の勝ち目は皆無。

 私にはリゲルに勝る魅力なんて欠片も無い。

 

 それでリゲルも大祐くんが好きだったら…。

 

「…あづみ、どうかした?」

「あっリゲル、おはよう。」

「えぇ、おはよう。…何か悩み事?私で良かったら話してみて。」

 

 やっぱりリゲルは優しいな。

 外見だけじゃなくて内面も完璧なんて、私も凄く羨ましく思っちゃう。

 

 そう言えば、リゲルはどう思っているのだろうか。

 大祐くんが居なくなってしまって。

 

「…リゲルは、大祐くんが居なくても平気?」

「平気も何も…彼は生きてるでしょう。私はそう信じたいわ。」

「……私も大祐くんの事、信じたい。でも、ほんとに、生きてくれてるか、分からなくてっ…。」

「あっ、あづみ…泣かないで。」

 

 リゲルはそう言いながら、私を抱き締めてくれた。

 私はリゲルに甘え、大きな二つの胸に顔を埋める。

 

 そして泣いた。

 

 好きな人と離れ離れになってしまったこの心の空白は、恐らく誰にも癒せない。

 「大祐くん」以外には。

 

 それにはリゲルも例外ではない。

 だが、私の心の居場所はリゲル。

 大祐くんに対する物とは違った好意を、私は彼女に向けていた。

 

 リゲルも、私を守る事に力を尽くしてくれて。

 如何にも愛されている感じがして。

 そんな彼女に甘えながら。

 

「リゲル…リゲルっ…!」

「大丈夫。大祐は絶対生きているわ。あづみが信じてあげないでどうするの?」

「分かってるけどっ、信じたいけどっ、大祐くんが居てくれないと私…」

「う〜ん…そんなに泣く程かしら?抑、あまり一緒に行動していないのに。」

「…それでも私には、初恋の人だったの。大祐くんに、心を…。」

「あづみをここまで魅了するなんて……何だか悔しいわね。」

 

 私にリゲルの言葉は聞こえてなかった。

 今は兎に角、彼女の胸の中で泣き続けた。

 

 それ位に大祐くんが好きで堪らなくて。

 そんな彼が離れ離れになってしまって。

 自分のリソース症候群なんてどうでも良いから、早く彼を探したい。

 そして大祐くんに自分の想いを――

 

「…うぅっ!」

「あづみ!?もしかして、リソース症候群が!」

「うぁっ…がっ…!」

「待ってて!今、薬を飲ませるから!」

 

 何でこんな時にリソース症候群が…。

 私は大祐くんと一緒に居ちゃいけないの?

 私とリゲルと大祐くん、三人で楽しい時間を過ごしちゃ駄目なの?

 

 そんな苦渋の感情を抱きながら。

 

「あづみ…!あ…………」

 

 私の意識は暗闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

 ずきずきと痛む頭に、締め付けられる様に痛む心臓。

 症状が落ち着いたとはいえ、完全に治まった訳ではない。

 

 今猶続く痛みに、私は目を覚ました。

 

「あづみ!良かった……まだ動いちゃ駄目よ?」

「リゲ…ル…?」

 

 重い瞼をしっかり開くと、目の前には私のパートナーのリゲルが心配そうに見つめていた。

 膝枕をしてくれながら、右手を私の額に置いて。

 ふと、リゲルの隣に白いタオルがあるのを目視する。

 恐らく、こういう状況になってしまった時の為に持参していたのであろう。

 今気付けば、私の体には少しの汗が出ていた。

 

 しかし顔付近のそれは無いのも同然。

 リゲルが、そこに置いてあるタオルで拭いてくれたのだろう。

 

 面倒見が良いのも彼女の魅力。

 

 だけど、少しの焦りが表情に表れていた。

 急なリソース症候群の発症に困っているのか、次はどうすれば良いか何をすれば良いか、あたふたしている。

 

 そんなリゲルに対し、「大丈夫だよ」という意を込めて笑顔を見せる。

 例え作り笑顔だとしても、リゲルの事を安心させたい。

 

「ん、…しょっと。」

「もう起き上がっても問題ないの?無理しちゃ…。」

「まだちょっと痛むけど、動く分には大丈夫そう。」

「…あづみ、貴女は何をそんなに焦っているの?今の目的はリソース症候群を治す事。どちらにせよ、大祐の事は後回しになるの。」

 

 リゲルの一言に、私は胸をチクッと刺された感覚を味わった。

 どちらにせよ大祐くんの事は後回し。

 確かに、リゲルの言っている事は合っている。

 

 「生きているかも分からない人を探すよりも、自分自身の病気を何とかしろ。」

 

 その考え自体に反論は無い。

 でも、大祐くんが生きていると信じているなら一刻も早く探しに行かないと。

 この行為が、後々どれだけ足を引っ張るかは自覚している。

 もし大祐くんと再会出来たとしても、リソース症候群を治さなければ意味は無い。

 

 大祐くんは、私のリソース症候群を抑えてくれようとしていたのだから。

 

「あづみ?」

「…それでも、私は大祐くんを探したい。もしもリゲルが反対するなら、私は一人で探す。」

「あづみ、冗談言わないで。今は貴女の病気を――」

「私にとってはリソース症候群を治す事なんかよりも、大祐くんの捜索が一番なのっ!」

「…っ!」

 

 思わず、勢いで怒鳴ってしまった。

 私がリゲルに対して初めて大声を上げた事により、リゲルは動揺を隠しきれずにいる。

 

「けっ、けど…!」

「リゲルが私の事を第一に考えてくれてるのは分かってるよ……でも――けほっ…けほっ…!」

「…取り敢えず、今はゆっくり休んで。話はそれから。」

 

 リゲルはそう言いながら、そっと私の体を横にさせた。

 

 未だに呼吸が苦しく、目眩がする。

 これじゃあ動きたくても動けないのが現状。

 素直に、リゲルの言う通り休もう。

 自分の我が儘を伝えたのだから、リゲルの願いも聞いてあげなきゃ。

 

「………私も。」

 

 と、不意にリゲルの小さな声が耳に入ってくる。

 

「…?」

「…私も、本当は大祐の捜索をしたい。あの人には返しきれてない恩もあるから。」

「リゲル…それは私もおんなじ気持ち。」

「…でもそれじゃ、あづみの病気の事を疎かにしてしまう。私にとっては大祐よりも、あづみが一番大事なの。」

 

 リゲルの瞳には、迷いが生まれていた。

 どちらを取れば良いのか分からない、そんな目をしている。

 何時も私を優先してくれていたリゲルには、今後に関わる大事な案件。

 下手な選択は許されないと、自分を追い詰めているのだろう。

 

 しかし、それではリゲルの負担が大き過ぎる。

 ずっと頼りっぱなしでは駄目なんだと身に凍みる。

 自分も14歳なんだから、己に関わる事はしっかり決断しなければ。

 

 何時までも迷惑を掛ける訳にはいかない。

 

「リゲル、こうするのはどうかな。」

「?」

「私の病気を治す為に緑の世界に行く。…けど、その道道で大祐くんの捜索を交ぜる。情報でも何でも、大祐くんの居場所が判れば其方に向かう。駄目かな…?」

 

 私の提案に、リゲルは頭を悩ませていた。

 難しい表情をしながら閃いては悩み、偶に目を閉じたりして。

 

 恐らく、ここから緑の世界への最短距離や、大祐くんの生存していそうな場所の大体の把握をしているのだろう。

 その時の私とリゲルは、彼がもし死んでいたらなど考えもしなかった。

 

 生きていると信じているから。

 

――5分程の検討の結果、リゲルはどうやら決断した様だ。

 至極真面目な表情をしている。

 

 私も、自身の体を起こしてリゲルの判断を待った。

 そして…。

 

「…あづみの提案を受け入れるわ。」

 

 リゲルは私の意見に賛成してくれた。

 

「本当に…良いの…?」

「えぇ、あづみが決めた事だもの。反対する筈無いわ。…止めても無駄だろうし。」

「ありがと…リゲルっ!」

 

 私は歓喜の余り、リゲルに抱き付いた。

 

 唐突な出来事だった為、リゲルはどうすれば良いのか解らずに数秒、動きを固めた。

 しかし、直ぐに量腕を動かして私の体を抱きしめる。

…やっぱり、リゲルに包容されると安心するなぁ。

 

 あっ、包容は包容でも此方(抱擁)の包容だったりして。

 

「私はあづみを一に考えてる。だから、貴女の考えを優先させて貰うわね。」

 

 そう言ってリゲルは、私を抱きしめる力を強くした。

 何がなんでも守り抜く、誰にも奪わせはしない、そんな気持ちが直に感じられた。

 やっぱり、リゲルはリゲルだ。

 

 私の大好きなリゲルだ。

 

「ありがとう…リゲルは何時も優しいね。」

「優しいも何も、それ位にあづみが大切で大事なの。」

「実は大祐くんの事もそう想ってたり…なんて。」

「あっあづみ!?」

 

 んー…一瞬だけどリゲルが動揺した。

 実はその気がある、無い訳でもないという事かな。

 これは、後でしっかり聞いておかなくちゃ。

 リゲルの本心も。

 

「ま、まぁ…大祐の事は置いといて。リソース症候群は大丈夫なの?」

「…リゲルったら、然り気無く話を逸らすなんて。」

 

 けど、あまり深くは詮索しない方が良さそう。

 今は、これ以上リゲルを問い詰めたくも無い。

 実際に私もリゲルの返答が怖かったりもする。

 

 だから、今それを聞くのは止めておこう。

 何だか自分勝手になっちゃうけど、本当に怖くて。

 リゲルの返答次第では、私の心が折れる可能性だって…。

 

 本当は聞きたい気持ちもあるけど。

 自分の中に生まれた葛藤を消したいけど。

 もうちょっと時間が経過してから聞いてみよう。

 それが私にとって、恐らくリゲルにとっても有り難い話である事に間違いは無い。

 

…よね?

 

「取り敢えず、あづみの様態が大丈夫そうなら直ぐにでも動きたいけど――」

「私は…大丈夫だよ。それに、大祐くんが居てくれた方がリソース症候群が…。」

 

 そうだ。

 大祐くんと出会った日以来、私はリソース症候群を発症していない。

 強いて言うなら、出会った丁度その日に発症した位だ。

 

 しかし、あの日のリソース症候群に大祐くんは関わり無い筈。

 寧ろ、彼と一緒に行動し始めた時からリソース症候群は治まった。

 凄くとは言えないけど、割りと長い期間の間に一回も発症しないなんて…。

 そして、大祐くんが居なくなった途端にこれだ。

 どう考えても大祐くんの御蔭にしか感じられない。

 彼が何等かの影響を私に与えて――

 

 大祐くんから受けた影響?

 えと、恋…心…?

 それとも、ずっと一緒に居たいという気持ち?

 

 どちらにせよ、私は大祐くんの存在を必要としている。

 気がする。

 

「…リゲル。」

「どうかしたの?」

「私のリソース症候群…大祐くんが居てくれると治まるらしいの。」

「…それは本当?確証は――」

「大祐くんと一緒に行動してから、一回もリソース症候群を発症していないから。」

 

 その事実を告げると、リゲルは驚愕の表情を見せた。

 

 だが、その表情は直ぐに納得という表情に変わる。

 

「…確かにそうね。大祐と一緒に旅をしてから、あづみは一回もリソース症候群を発症していない。という事は、彼自身があづみのリソース症候群を抑える薬…?」

「あとね、大祐くんが居てくれると…その…安心するの。安らぐというか…。」

「って事は、大祐はあづみにとって必要不可欠な存在になるわね。」

 

 私にとって、大祐くんは必要不可欠な存在。

 

‐‐

 

 「俺無しじゃ、生きれなくさせてやるよ。」

 「ふぇ…だっ大祐くん、そんな――」

 「あづみ、ほら。俺の所へ御出で。」

 「大祐くん///」

 

‐‐

 

「――づみ…あづみ…あづみっ!」

「はっ…!リ…リゲル。」

「急に話を聞かなくなったと思ったら、顔を真っ赤にして。まだリソース症候群の症状が…。」

「だっ大丈夫、本当に大丈夫だから。心配しなくても、私は平気だよ?」

「…大祐との妄想にでも浸っていたのかしら。」

「リゲル!?」

 

 図星を突かれて思わず声を上げてしまう。

 自分が彼に対する妄想をしていて、それがバレたと思うと凄く恥ずかしくなる。

 リゲルには何でもお見通しだ。

 

「えと、妄想なんかしてなくて、その、何て言うか、違くて!」

「…あづみ、バレバレよ。」

「私は妄想なんかしてな――」

「じゃあ、大祐との妄想はしてないのね?好きな人を想う事位、良いと想うのだけれど。大祐の事は嫌い?」

「きっ、嫌いなんかじゃない!…大祐くんの事は、好き。」

「好き、の範囲で止まるのね。てっきり私は…。」

「うぅ〜…リゲルが地味に虐めてくる。」

「本当は?」

「………大好き、です。」

「誰が?」

「…私が。」

「誰に対して?」

「…大祐くんに対して。」

 

 何だかリゲルが容赦無い。

 私の中でのギリギリラインまで攻めてくる。

 一体何をそんなに知りたいのか。

 もしかして、私の大祐くんに対する想いが本当かどうかを確めたいとか。

 それならしっかりと言葉で表しているのに。

 信用されてないのかな。

 リゲルは唯、心配してくれているだけだと思うけど。

 

「まぁ、それを私が聞いても仕方ないわね。後は直接本人に伝えましょう?」

 

 えっ…?

 じゃあ何で私は答えたのだろう。

 顔を真っ赤にしながら返答した意味はあったのかなぁ。

 

 唯唯恥ずかしい想いをしただけじゃ――

 

「それに、大祐の捜索も含めるのならそろそろ動いた方が良さそうね。」

「リゲルも、大祐くんが居なくて実は焦ってる?」

「ちっ…違うわよ。あづみのリソース症候群が、大祐の存在で治まるから――」

「リゲル、自分の気持ちに嘘は駄目だよ?」

「…!」

 

 

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リゲル視点

 

‐‐

 

 

 あづみの言葉に思わず反応を示してしまった。

 この子の放つ言葉は、何時も私の心に響く。

 だからこそしっかりと聞いて上げなければならない。

 そして受け止める。

 それが私にとってプラスになるのだから。

 

…けれど、今回に限っては分からない。

 あづみの言っている「自分の気持ちに嘘を吐かない」というのは、恐らく私が大祐を好きかどうか。

 

…けど、私が大祐の事を好きかなんて、私にしか分からない筈なのに。

 私にも分からない。

 抑、大祐は私に対して好感を持っているの?

 あづみに対しては凄まじいけれど、私の事はどう想ってくれているのだろうか。

 

 確かに、それが気になった時が無いとは言えない。

 媚薬を掛けられた時は彼の御蔭で救われた様なもの――

 

 というか、大祐はよく、彼処で私を襲わなかったわね。

 寧ろ私が襲う感じになっちゃったし。

 それでも大祐は感情を抑えていた。

 

 でも、私はそうじゃなかった。

 少なくともあの時、私は感情を抑えきれずに。

 彼を襲う形になって。

 そんなのも関係無しに大祐は私を抱き締めて。

 

…あの瞬間、私の胸の高鳴りは止まらなかった。

 自分でも「何故」と思う程にドキドキしていた。

 同時に、その感情が何か分からずに困惑もしていた。

 あんな感情を抱いたのは初めてで。

 自分の心の奥底に、何かが芽生えた感じがして。

 少し怖くなったりもして。

 

 どうすればこの気持ちが収まるのか知りたかった。

 

 でも、それはもう知っていて。

 大祐を見る度に胸が締め付けられる感覚に陥っている事も。

 大祐と話すと、気持ちが楽になる事も。

 嬉しくなる事も。

 

 全て知っていた。

 

 だから、彼に抱き締められたあの日の事は忘れられない。

 今日は実際、その夢を見ていた。

 それでも起きたら夢は終わっていて。

 何時も横で寝ていた大祐は其処に居なくて。

 何かを求めるような表情をしているあづみだけがいた。

 

 昨日、あづみの本音を聞いて…心が苦しくなった。

 

――いや、本当はその前から心苦しかったのだ。

 あづみは大祐の事が大好きで、大祐はあづみの事が大好きで。

 それを知った時からずっと辛かった。

 自分のこの感情は、きっと成就しないのだと思い知らされた。

 

「…リゲル?」

 

 私が彼に…大祐に恋愛感情を抱き始めたのは何時だろうか。

 抱き締められた時から?手を繋ぐだの話していた時から?

 

…やはり、自分では分からない。

 何故、私のあづみを奪おうとした男に恋愛感情なんか抱いているのかが。

 

「リゲル、どうして――」

 

 でも、今はそんな事はどうでも良い。

 事実、二人は両想いなのだから。

 二人が結ばれる事を願おう。

 祈ろう。

 協力しよう。

 

 好きな二人が結ばれるなら良いじゃない。

 私にとっても最高だ。

 

………なのに……最高なのに、嬉しいのに。

 

「――泣いているの?」

 

(…今まで気付かれないようにしてきた。面に出さないようにも頑張った。けど、それには限界があった。分かっていた。それでも諦めたくは無かった。でもそれじゃ、あづみが一人になってしまう。それくらいなら私が一人になる。それが一番最善だから。)

 

「…いや…あづみと大祐が結ばれたら嬉しいなと思って。」

「それで泣いたの?」

「えぇ、だから気にしないで。」

「…でも」

「私にとっては、二人が一緒に、楽しく話している姿を見ていたいの。」

「…だからって」

「それが私の望み。二人の、何よりもあづみの幸せを願いたい。」

「…」

 

 私が喋る毎に、あづみの返事が小さくなっていく。

 

「あづみ…?」

 

 すると彼女は俯き、私との視線を逸らした。

 

 そして。

 

「…リゲルの…馬鹿…」

 

 更に小さな声で何かを呟いた。

 あまりに聞き取りにくい程に小さな声だったので、最後の部分は分からなかった。

 

 

‐‐‐

一週間後・各務原あづみ視点

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 あれから一週間の刻が過ぎた。

 大祐くんを捜索しながら緑の世界に向かうという当初の目的通り、私とリゲルは緑の世界へ。

 その道道で色んな情報を集めた結果、大祐くんは黒の世界にいる可能性が高いと知った。

 その時はどうしようかとも迷ったけど、黒の世界は危ないという事なので断念。

 緑の世界へ一直線に進んだ。

 

 けど、途中で白の世界や青の世界に立ち寄ったりもして。

 そこで知り合った人達は皆優しくて。

 リゲルはその人達に対しても警戒ばかりしていて。

 リゲルが何時もの調子で、何だか微笑ましくなってしまった。

 それに、やっぱり大祐くん以外の男性とは真面に話をしようとしない。

 

 こうなってくると、リゲルも大祐くんが好きというのは最早事実。

 リゲルは自分から口にしないだけで、心の中では大祐くんの事ばっかり――

 

 あっ…それは私だ。

 

…因みにリゲルと私に関しては、もっともっと仲良くなった。

 

 緑の世界へと移動中、何回も辛い出来事があって。

 それでも二人で一緒に乗り越えて。

 時には周りから協力を得たりして。

 

――そう、丁度その一週間が経った時。

 私達は遂に緑の世界の一歩手前まで近付いていた。

 だが、その日の夜に変な出来事が起こった。

 

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