Re:やはり俺の異世界生活は間違っている?   作:サクソウ

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第二章
06.こうして彼らは第1章をクリアする。


「お目覚めでしょうか? お客様」

 

 透き通るような冷たい声で目が覚めた。

 起き上がろうとすると腹が痛む。つまり、俺は昨日きちんと斬られているわけだ。なんだよきちんと斬られてるって……俺は鯖か何かか。ひとしきり鯖感を味わったところで現状を把握する。

 なるほど、時間が戻されているわけではなさそうだ。体は少し痛むが、不思議なことに傷は残ってはいない。あのお嬢様はどうにもお節介が好きらしい。ありがたやという言葉しかない。

 さて、そうにしても先ほど聞こえた言葉にはそろそろ反応しなくてはなるまい。痛む体をゆっくりと起こす。いややっぱ痛い、やめよ。

 

「ベットにゾンビが、早く退治してください姉さま」

 

「私には無理よ、あなたが何とかしてちょうだい、レム」

 

 え、マジで? ゾンビとかいんの? さすが異世界。え、今ベットにいるとか言わなかった? 俺の横に誰かいるのかしら……?

 もちろんのこと、添い寝者がいるわけがない。

 

「このゾンビ、ゾンビであることを自覚していないみたいですよ姉さま」

 

「そうみたいね、レム」

 

 ……俺の事かよ! いや気づいてたけどさ……なんだ……いるかと思うじゃん。ゾンビと添い寝してるとかいうドキドキ。なにそのラブコメ、ちょっと期待しちゃうんだけど。

 そんなことはどうでもよく、俺は少しクラクラしながらメイドに問いかけた。

 

「ここ……どこだ?」

 

「このゾンビ、ここまでなじられて全く動揺していませんよ、変態です、姉さま」

 

「そうね、変態ね、レム」

 

「あのな……俺は変態でも変質者でもねぇ。強いて言うなら辺鄙なところで暮らしたい欲望のある専業主夫(願望)だ。ってかそんなことどうでもいいんだよ、一体ここはどこなんだ?」

 

 俺が話す度に一歩ずつ後ろへ下がるの止めていただきませんかね? なんなの? 銀将なの?

 もうだいぶ後ずさってしまい、会話の続行は不可だと思われたその時、もう一つの厄介ごとがバーンと盛大に扉を開け入ってきた。

 

「おーっす比企谷! 起きてるかーー? ……あれ、なんだ、まだ寝てんのか、しかしお前、変な寝方するなぁ」

 

 開けた扉は閉める。お母さんに言われませんでしたか。

 Another厄介事ことスバル君は、こちらの視線も意に介さず大げさな挙動で朝の挨拶を述べる。朝からうるさい奴だ。ってか起きてるから、普通に目開いてるから。

 

「あぁ、目覚めは悪いがバッチリ起きてる」

 

「うぉい!! 起きてるなら先に言えよ……心臓にわりぃ……。ってかううわあぁ! め、メイド……だと……!? さ、さすが異世界……悪くない」

 

 キリッという効果音が聞こえてきそうなキメ顔をきめたスバル君。ダサすぎるのでやめていただきたい。なんなら早くそいつら連れて出て行っていただきたい。ユーさっさと連れてっちゃいなヨー。

 だがスバルの下卑た思考はあっさり看破され、彼は二人のメイドからなかなかドギツイ視線を受けていた。

 

「大変ですよ、お客様の頭の中で想像を絶する辱めを受けています、姉さまが」

 

「大変だわ、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているわ、レムが」

 

 あぁ……状況がだんだんカオスなことに……。いいや、寝よ、俺は悪くない睡魔が悪い。

 そんなに強力な睡魔でさえ、スバルという男には敵わなかった。

 

「おいおいおいおいおい何寝ようとしてんの!? 確かに、二度寝したいって気持ちは分からんでもないが……ここはこの屋敷を探検するに限るだろ!」

 

「寝させろ、俺は現実から逃れたい」

 

「さぁ行くぞ! ほらほら!」

 

 俺はスバルに無理やり引っ張られ、部屋から連れ出された。スバルが男で良かった、女子にこんなことされたらうっかり『え、こいつ俺のこと好きなんじぇねぇの』とか思っちゃうとこだった。危ない危ない。

 そんなギャルゲーはさておき、俺はこいつに色々聞いておきたいことがあった。

 

「んで、あの後どうなったんだ?」

 

「ん? あぁ、比企谷の治療して彼女の名前を聞いたら、俺もぶっ倒れたんだよ」

 

「フェルトはどうなった?」

 

「さぁな、俺もまだエミリアたんに会ってないから」

 

「たんってお前…」

 

「い、いいだろ別に!! 俺は親密度を高くするためにあだ名をつけたいんだ!! 比企谷、痛い目で俺を見るんじゃねぇ!」

 

 まぁ、あだ名をつけるのはいいとして、つまりあれだ。別に俺との親密度は上げなくてもいいとそういうことですね分かります。友情ポイント貯めないと友情ガチャ引けないのになー残念ダナー。

 全くもって痛まない傷心の中、スバルは何か思いついたように右手の扉を開けた。勝手に開けちゃうのかよ。シャワーか、シャワールームなのか!??

 

「うっしゃ、んじゃまずここから……お邪魔しまーす」

 

「ノックもせずに入ってくるとは良い度胸なのね」

 

 扉を開けるとそこに……幼女がいた。全体的にゴスロリファッションとでも言うのだろうか、そんな感じのやたら重そうな服を着ている。

 ところで『ファッション』を『ふぁっしょん』と表記するとなんか眠そうだな。まさに『あくびとくしゃみが一緒に出ちゃった! テヘペロ☆』って感じだ。なんだよそれ。

 

「ほぅ、ロリっ娘図書館司書か」

 

 スバルが辺りを物色するように見渡す。図書館、まさに図書館といった部屋だ。辺りに連なる本棚の数は、図書室のレベルを遥かに超えている。

 見渡す限りの本棚、本棚、本棚…そして幼女。

 

「司書ではないわ、ここはベティの図書館兼寝室兼用私室かしら」

 

「いやそれって司書ってことじゃねーの? まぁまぁ何があったか知らんがあんまり怒んなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」

 

 スバルはうんうんと頷きながら何かを悟っていた。こういう交渉というか、ポイント稼ぎは明らかにスバルの方が上手なので俺は静かにその空気を見守る。空気を見守っちゃうどころか俺が空気だからね!

 

「別にお前のために働く気はないから司書ではないと言ってる意味が分からないのかしら。それとお前のために可愛くしてるわけじゃなくってよ」

 

「可愛いは否定しないのかよ……。それならさ! もっと笑顔でいようぜ! ほら良く言うじゃねーか、ロリの笑顔に勝るものなしってな!」

 

 それどこの国の言葉? 泣く子と地蔵には勝てぬから来てるのかしら? いや泣いちゃってんじゃねーか。

 

「ベティは私室をこんな輩に侵されてさすがに限界なのよ」

 

 一人称ベティの幼……少女が椅子から立ち上がりスバルの元へ歩いていく。このときの異質な殺気から、あ、こいつ人間じゃねぇと感じた。いや、タケシさん的なノリじゃなくてよ?

 彼の正面で立ち止まったかと思うと、彼女はスバルに軽く手を当てる。

 

「何か言っておきたいことはあるかしら?」

 

「ごく…。い、痛くしないでいただけると…」

 

 彼はようやく事の重大さに気づき、唾を飲んだ。が、気づくのが少し遅い。ひゃっという叫び声を上げながらスバルは倒れた。

 

「いいい一体なにを……?」

 

 苦悶に満ちた表情で彼は尋ねる。幼女は少し小ばかにしたような顔で答えた。

 

「少しマナをいただいただけかしら」

 

「くそ……お前……人間じゃ……ねぇな……」

 

 謎の遺言を遺し、スバルは力尽きた。

 お前ら人間じゃねぇ!! ……だから違うって。リアルな意味で人間じゃないのだろう、この少女は。そりゃ人間じゃないだろ、図書館引きこもりとかただ一人しか思いつかない。そう、動かない大図書館様である。あの人の主人は吸血鬼だったな、そもそもあの人は結局何なのか分からないまである。

 

「あら、仲間がやられた割に随分くだらないことを考えてるものね。生死の確認はしなくていいのかしら? ベティがうっかりした、なんてことよくあるのよ」

 

 彼女はゆっくりと俺の方を向く。そのセリフをいう奴に限って実は超優しいなんてのはラノベの定番だ。

 

「そういう奴ほど自信があって下手な失敗はしない、ソースは俺」

 

「なかなか冷静を保ってるのね、人間」

 

 うわ、チョー見下されてんですけど、ですけどー。

 「人間」と吐き捨てるように言った彼女は、いかにも下等種族などと言い出しそうなほど小馬鹿にしている表情だった。何というかこう、『あらやるじゃない』的なそれだ。

 

「……ところでその荷物を早くこの場から持ち去ってくれないかしら。邪魔でしょうがないのよ」

 

 彼女はビシッとスバルを指さした。あれま、そういえばいらっしゃったな。何というかものの数秒で記憶から抜け落ちていた。人間の記憶力の薄さを改めて実感する。何というものだ。八幡びっくり!

 さて、こんなところで押し問答していても仕方がないので、俺は渋々了承してスバルを引っ張り部屋を出ようとする。担ぐなんてそんなイケメンなことは出来ないので完全に引きずっていく。

 悪いな、後でなんか奢ってやるよ。あ、金使えないんだった。八幡痛恨のミス! 人間の記憶力の薄さ(ry

 

「……ベアトリス」

 

「は?」

 

「ベアトリス、これも何かの縁であるから名乗っておくのは礼儀ってもんなのよ」

 

「……あぁ。まぁなんだ、よろしくな」

 

 そう言って再度彼を引きずり出そうとした。なかなか重いんだけどこいつ。いや仮にも十代後半、こんなものなのだろうか。

 さっさと戻って今の状況を整理しようかなーでもどうしよっかなーとか言いつつ、寝たいものだ。嘘はついていない。

 しかし、その欲望はあっけなく阻まれる。出口まであと一歩というところで俺の体は石膏のように硬直し、絶妙にスバルを持ち上げる厳しい態勢のまま耐え忍ぶことを強いられた。あのロリッコ、何しやがった……。

 

「こちらが名乗ったのだからお前も名乗るのが常識ってもんじゃないかしら」

 

「は、あぁ、悪い、俺は比企谷だ、んじゃ」

 

「ヒキガヤ。ならさっさと出ていくのよ」

 

 お前が止めたんだろ。ただ、そんなツンデレの意図が汲めないほど俺は国語力が低くない。また今度スバルを連れて来てやりましょうやないですの。ってか、こいつ重いな……。(記憶力)

 さて、やっとの思いで部屋から出る。すると、あら不思議。入ってきた廊下と全く違うじゃありませんか! ……おい、ここどこだよ。教えて、おじいさん!

 と、ハイジばりに何でも聞いちゃいそうな表情で突っ立っているとさっきのメイドが歩いてきた。

 

「お客様、それは私達の務めですのでお渡しください、姉さまに」

 

「そうよ、お客様にしていただく訳にはいかないから早く渡してちょうだい、レムに」

 

 またなーんとも絶妙な押し付け合いを。君ら飽きないの、それ。

 

「これくらいはやる、それよりスバルの部屋ってどっちだ?」

 

「このお客様ったら好意を無下になさろうとしています、レムの」

 

「このお客様ったら良き提案を断ろうとしているわ、私の」

 

「あー……そりゃ悪かったな、んじゃこれ頼むわ」

 

「「それくらい自分で持ちなさい(持ってください)」」

 

 二人が声を揃えて言う。なんなのこいつら。

 『ショートコント!』とか言い出しちゃいそうなレベルで息ぴったりだな、おい。しかもこの子ら、全く悪意無く相手をディスり合うという高等テクニックを使ってると来たもんだ。こいつら……相当仲良い。(確信)

 ニヤリと引きつりそうな顔を無理やり平常時に戻した……つもりがこの二人が後ずさってるのを見ると、やはりというか引きつっていたようだ。誰だよ、昨日ポーカーフェイスとか言ってたやつ。

 埒が明かないので軽く咳払いをして話を元に戻す。

 

「……んで、スバルの部屋ってどこなんだ?」

 

「こちらです、お客様」

 

 青髪のメイドはそう言って歩き始めた。しかし、この双子ほんとよく似てるな、一卵性双生児ってやつか。違うのは髪色と髪の分け方ね。寧ろなんで髪色が違っちゃうのかかなり疑問である。

 性格が全然違うってのはよくいるけどね、俺と小町とかちょー違う。いや待て、小町は双子じゃねえ……。

 

***

 

 スバルをベットに寝かせ一段落つく。彼の部屋は俺が寝ていた部屋の隣だった。意外と遠くて正直ヘロヘロである。

 さっきベアトリスの部屋まで歩いた時はそんなに距離なかったと思うんだが……この屋敷どうなってんだ?

 

「ん? そんなにスバルが心配か?」

 

 なお部屋に居続けるメイド達に俺は言った。

 彼女らは、少し顔を強張らせた。それが何を意味するのか、その時彼女らが何を考えていたのか、俺が知るにはまだ未熟すぎたのだろう。いや、甘すぎたと言った方が適切だ。

 俺は……俺たちは、この世界を知らなさすぎる。

 それ故、自己の世界の価値観でものを考える。しかし、それはひどく浅ましく、傲慢で、罪深いものだといずれ思い知らされるのだ。

 そのことに気づいていながら、俺は目を背けた。それが……俺の甘さ。

 

「これも私たちの仕事ですので、お気になさらず」

 

「そうか」

 

「比企谷……? うっわ、お前の顔見たら三度寝しようという気すら失せたわ……」

 

 スバルは、起きて早々少しうざい。

 それ小町にも言われるんだけど……そんなに刺激強いですかね? 今度から小町の勉強に付き合ってあげようかしら? 良い眠気覚ましになりそうだ!

 こうしてみると長かった異世界での一夜目が明けたのだと実感する。

 

「あら、スバルと……えっと……、お、起きてたの?」

 

 相変わらず白い服を身に纏った少女が部屋に入ってくる。二日目の朝は、ここから始まった。

 ……いや、お前絶対俺の名前知らんだろ。

 




お読みいただきありがとうございました。

さて、アニメの方の第二章がとうとう佳境に入りましたね
第三章が12話辺りから突入するそうですね、あー楽しみだ
ひとまず全話読み終わりました。面白かったですわ
まだ読み込めてない部分もあるのでこの小説に生かせるのはまだ少し先かなー

てなわけで次回もよろしくお願いします。

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