Re:やはり俺の異世界生活は間違っている?   作:サクソウ

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05.結局ラインハルトはイケメンだ。

「第二ラウンドといきましょうか」

 

痴…女性は相変わらず余裕の表情で言い放った。

ってか俺丸腰なんですけど!?

 

「なぁ武器とかねぇのかここ」

 

「良い武器なんざすぐに売れてしまうわ!なまくらならカウンターの裏だ、勝手にとってけ!」

 

こちらも相変わらずな物言いで。

俺はカウンターの裏を覗こうと後ろを振り返った。

 

「避けろ!!比企谷!!」

 

条件反射で横に飛びのく。

一秒前俺の脇腹があった空間を彼女の刃は切り裂いていた。

あっぶねぇ…。

 

「あら、警戒心むき出しっていうのはあながち間違いではないようね」

 

「大丈夫か!?小僧!」

 

「人の心配してる場合かおっさん!!後ろ!!」

 

「もう一人の坊やはなかなか鋭いのね、見事に二回とも邪魔されたわ」

 

スバルがいなかったら俺も棍棒の親父もとっくに死んでいた。

ついでに言うと銀髪の少女も最初スバルに助けられてるからこの場にいる全員だな。

スバル、オメガグッジョブ!

 

「比企谷!武器くれ武器!!」

 

おっと、目的を忘れていた。

スバルも俺同様丸腰なんだったな。

 

「ほら、こんなのでどうだ」

 

適当につかんだ剣(なまくら)を投げ渡す。

 

「うわっと!あぶねぇ!!せめて回転させんなよ!!」

 

と言いつつも見事にキャッチするスバル超カッコいい。

ほとんど切れなさそうな奴だがまぁいいだろ。少なくとも俺は人なんて斬りたくない。それがたとえどんな相手であろうとも。

徹底的に防衛に回って隙をついて気絶させるだけで十分だ。

ただこの人が大人しく気絶してくれるかどうかは別問題だが…。

 

「刃物の扱い方、知ってるのかしら?」

 

「専業主婦志望をなめんなよ、包丁捌きで俺の右に出る奴はいっぱいいる」

 

「そう、なら楽しませて頂戴ね」

 

いやそう言われても包丁と刀って別物だし、俺剣道とかやってねぇし。

ってか…ツッコめよ!!

 

***

 

と言いつつ自分でも驚くほど意外に立ち回れていた。

こ、これが自転車通学の力…。恐るべし自転車通学…!パないわ、やっぱ千葉ってすげぇ!!

だが、戦況は相変わらずこちらが不利だ。誰か一人でも倒れれば総崩れ待ったなし。

そして誰もに等しく訪れるはずの疲労というものを相手からは感じられなかった。化け物かよ…4対1だぞ…。

 

「この面子で随分楽しませてもらったわ…でももうこれまでね。

これ以上やってもあなたたちに勝ち目はない。ここらで幕引きとしましょうか?」

 

「ゼェ…ゼェ…このまま見逃してくれるってか?そりゃ有り難い…」

 

スバルも相当息が上がっているようだ。

 

「ふふふ、そんな訳ないじゃない。あなたたちが私のスピードについてこれなくなるだけよ」

 

ニッコリと笑った顔は安心感・安らぎを与えるものではなかった。

笑顔というのは本当に恐ろしいものだと改めて実感する。

次の瞬間、彼女は消えた。

いや、正確には俺ら4人の周りを高速で回っているのだ。

 

「さぁて、誰から行こうかしら?巨人族?精霊使い?勘が鋭い坊や?」

 

え、何俺の存在忘れられたのかな?やべぇ、今まで4対1じゃなくて3対1+ギャラリーだったのかしら。

俺もうそろそろ泣いていい?

 

 

 

「それとも…あなた?」

 

 

 

急に俺の目の前に現れた彼女はさっきの笑顔を崩してはいなかった。

ダメだ…不味い…これは…酷く不味い…。

彼女はゆっくりと俺の脇腹を撫でる。

全く体が動かない、これが本当の恐怖というものなのだろう。

 

「あぁ、いいわ!その顔!死を前にした人間の恐怖は最高ね!

さようなら坊や、あなたは結構面白い子だったから少し惜しいわ」

 

「比企谷ーーーーー!!!」

 

不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い不味い…。

 

 

死ぬ。

 

 

俺…もとい一般的な男子高校生は『死の恐怖』を知らずに生きている。

入学式当日、俺は車に轢かれた。だがあの時は無我夢中すぎて『死の恐怖』なんてものを体験していない。

あの時の光景を鮮明に思い出しても、怖いという感情は見当たらない。

前回もそうだ、いつの間にか殺されていたから怖くはなかった。

 

…だが今は違う。

『死』という存在に対面し、恐怖し、なんとしてでも逃れようとしている。その恐怖に敬意を見出し自己を保たなければ今にも倒れてしまいそうだ。

もう…ダメだ…。

 

「そこまでだ、腸狩り」

 

コンクリートで固められてしまったのではないかと思われる体を強引に声のする方へ向ける。

 

「ら、ラインハルト…」

 

「大丈夫かい?さっきぶりだね、比企谷」

 

「ラインハルト…そう、剣聖ラインハルトね…?

すごいわ!こんな大物が出てくるなんて!今日は本当に運がいいわ」

 

「その子から今すぐに離れないとあまりよろしくないことになるよ?」

 

「ふふふ、それであなたが大人しく相手してくれるのなら今この子を殺すのは止めてあげるわ」

 

「君は王都でも危険視されている人物だ、仮にも騎士の端くれである僕が見逃すわけないよ」

 

俺は急いで彼女から離れる。

 

「すまん、また助けてもらった…」

 

「気にすることはないよ、寧ろこいつをここまで引き留めてくれたことに感謝するよ」

 

「おい兄ちゃん、礼ならあたしにも言うべきじゃないのか?」

 

ラインハルトの後ろからひょっこりと顔を出したのは、フェルトだった。

してやったりとばかりに自慢げな顔をしている。

 

「この赤髪の兄ちゃんマジ強そうだろ?探し出すの苦労したんだからな!」

 

「あぁ、サンキュー、ほんと助かった」

 

「べ、別にお前のためなんかじゃないからな!ロム爺が死ぬのは困るからだ!」

 

なんだその安っぽいツンデレは…。しかし正直救われた、もちろん物理的にも救われたが、精神面でもフェルトやラインハルトに助けられた気がする。

 

「さて、色々聞きたい事情があるから大人しく連行されてくれ…って言っても聞かないかな?」

 

「つまらないことを…その坊やの方がよっぽど面白い冗談を言うわよ?」

 

「ははは、それは失礼。では、始めるとしよう」

 

「その腰の剣は使わないのかしら?伝説とまで言われる切れ味…味わってみたいわ」

 

「そうしてあげたいのは山々だけど、あいにくこの剣は抜くべき時以外では抜けないようになっているんでね」

 

「そう、見くびられたものね」

 

「僕としてはこの剣でさっさと片を付けたいんだけどね…比企谷、この刀借りるよ?」

 

ラインハルトはさっき俺が落とした刀を拾い上げた。

 

「あ、あぁ、でもそれなまくらで全然斬れねぇぞ?」

 

「大丈夫だよ、僕はこの人を殺すのではなく連行するのだからね」

 

「私も少し時間が惜しいの」

 

そう言うや否や彼女はラインハルトに斬りかかる。

しかし、彼は全く動揺せず軽く彼女の剣をさばいた。

 

「君たちが周りにいては危ないよ、端の方へ避けてくれるとありがたいかな」

 

俺を含めた5人は言われた通り部屋の隅へ移動した。

 

「お、おい!比企谷!それ!」

 

「なんだ…?」

 

スバルが俺の腹を指しながら言った。

何かと思い腹部を見てみると一筋の赤い血が流れている。

恐怖で全然気づかなかった。あの時少し斬られてたのか。

幸い傷は浅く、すぐに治りそうだった。

 

「動かないで、すぐ塞ぐから」

 

「いやこの程度の傷なら…」

 

「黙って、集中するから」

 

そう言って銀髪の少女は俺の腹に手を当て何かをし始めた。

腹部が少し暖かくなり、癒されていく。

これ周りの皮が引き延ばされてんのかな、と我ながら下らないことを考える。

 

「はい、数日は絶対安静だからね」

 

「お、おぅサンキュー」

 

「エミリア様、治療は終わりましたか?」

 

なお激しい戦闘を続けていたラインハルトが銀髪の少女に尋ねる。

 

「ええ終わったわ、もうやっちゃっていいわよ」

 

そう返答を受けたラインハルトは何かに集中し始めた。

ていうかこいつら知り合いだったのかよ。というか主従関係?よく分からん。

 

「なぁ、なんであんなこと聞いたんだ?」

 

スバルがもっともらしい質問をした。

 

「ラインハルトが本気を出すと、空気中のマナが私からそっぽを向いちゃうの。

だから治癒の魔法が完了するまで待ってもらってたのよ」

 

「なるほど納得」

 

彼は腕を組みうんうんと頷いた。

ほんとに分かってるのかかなり疑問ではある。

マナとは恐らく魔法を使うための何かなのだろう。

ってか空気中にあるの!?それじゃこの世界じゃ魔法使い放題やりたい放題じゃねーか。

あーやだやだ早く帰りたい。魔法とか小町のあざとさだけで十分です!

 

「あら?今度は何を見せてくれるのかしら?」

 

「僕の家系に伝わる剣撃を…」

 

場により一層緊張感が増す。

 

「…腸狩り、エルザ・グランヒルテ」

 

「剣聖の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」

 

この世界では決着をつけるときに名乗るのが礼儀なのかしら。

ことごとく世界観が違うなぁと少し感嘆する。

ってんなことしてる場合じゃねーよ!!

 

ラインハルトが刀を構えると蛍のような光が刀身を包んだ。

あれがマナというのなら相当恐ろしい量なのだろう。

空気中にある不可視な物質を可視化させるのだから、軽く何百倍もの密度になっているはずだ。おぉ、俺意外と理系いけるんじゃない?でも数学とか訳分からん!

 

「ひ、比企谷、ちょっと頬つねってくんなかな…」

 

「安心しろ、夢じゃねーから…」

 

まさにアニメのようだった。

ラインハルト…というよりこの家全体に光が満ち、周りの様子が全く分からない。

かろうじてラインハルトが刀を振り下ろしたのが見えた。

その瞬間、ものすごい轟音、爆風と共に家が半分吹き飛んだ。

 

「ひひひ比企谷!やっぱ頬つねってくれ!思いっきり!!」

 

「分かったよ…ほら」

 

俺はスバルの頬を思いっきりつねった。思いっきり、今までの俺らの奮闘はなんだったのかと少し腹立たしく思いながら。

 

「いててててってて!!痛ぇよ!!なんだよ!!」

 

いやお前が思いっきりって言ったんだろうが…。

しかしエルザという痴女の姿どころか影も見えねぇ。

 

「ってかラインハルトお前、さっき殺すんじゃなくて連行するとか言ってなかったか…?」

 

「それを言われると少し胸苦しさを感じるよ、比企谷」

 

まだまだ余裕なご様子で…。

しかし、これで終わり…か?

ラノベで言う第一章とやらが終わったと言っていいのだろうか?否、そう簡単にいかせてもらえないのが異世界というものだ。ソースは俺。いやどこのソースだよ、そんな体験したことねぇよ。

 

「危ないっ!!!」

 

ラインハルトが叫ぶ、エルザが瓦礫から出てくる、俺とスバルが動く、その全ての事象が同時に起こった。

銀髪の少女の前に出てエルザと対面する。

 

「「狙いは…腹っ!!」」

 

俺とスバルが同時に叫び、思い思いの道具で腹を守る。

 

「ほっんと邪魔ばかりしてくれるわね!いいわ!あなたたちごと斬ってあげる!!」

 

彼女が思いっきり刃を振りぬいた。

一瞬の静寂。

俺が持っていた丸太は滑らかな断面図を残して崩れ落ちた。

あ、これヤバいやつや。

 

人間ってのは死ぬときに走馬燈を見るという。

過去の記憶がフラッシュバックするのだ。しかし、こんな人間がいてもいいんじゃないかと思う。3秒後の未来が視える人間。

実際、俺は今から3秒後の未来が視える、とても容易に。

 

先ほどの切り口と寸分違わない位置に綺麗な赤い線が浮き出ている。

その瞬間、線は太くなり、前へと放出された。

 

「ひ、比企谷ーーー!!」

 

スバルの叫び声を聞きつつ俺の意識は途絶えた。

しまんねーな、ほんと。

 

「お目覚めでしょうか?お客様?」

 

ぼんやりと目を開ける。

見知らぬ天井に、見知らぬ匂い。

新しい朝を…俺らは迎えた。

 




お読みいただきありがとうございました。

今日はリゼロ放送されるのでしょうか
あと三週間、あと三話、アニメ見終わったら絶対小説読みますのでそれまでご辛抱を…
とは言っても理解やら何やらあるので急に劇的に変わることはないと思います
徐々に改善していくつもりです

では次回もよろしくお願いします。

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