Re:やはり俺の異世界生活は間違っている?   作:サクソウ

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10.もがきながらも、彼は死因を探る。

 裏切り、欺瞞、偽り、ペテン…そんな言葉しか出てこない。もっと違った言い方はいくらでもあるはずなのに…。彼女らと俺らの間には確かな区別があった。しかしそれを無くそうとスバルは動いていたのではなかったのか。苦しんでもあがいても求めたい何かがあったからスバルはここまで来たのではなかったのか。

 それは結局絵空事で幻想でしかなかったのだろう。彼女らが何を信頼しようと、誰を頼りにしようと、それらを他人である者が推し量ることは出来ない。これは俺らの世界でも同じだ。いつだって相手が考えてることの真意など分かる訳もなく、他人を欺き、偽りを保つことでしか人間関係は成立しない。それでも、スバルは動いた。何を…彼は一体何を求めているのだろうか…。

 

 俺が目を開けた時、彼はすでに暴れていた。ただがむしゃらに、ひたむきに、暴れていた。ふと落ち着いたかと思うと、彼は目を覚ます。接客モードのラムとレムが彼の体をがっしり押さえていた。苦悶にゆがんだ彼の顔が俺をとらえる。

 

「比企谷…見たよな…あれを!!」

 

 スバルが俺の肩をつかみ、叫びながら俺に問いかけた。この話はループに関わることになる、メイド二人に聞かれては後々厄介なことになるだろう。…もしくはもうすでに厄介なことになっているのかもしれないが…。

 

 さて、それよりも問題はこいつだ。今、こいつは裏切られ、今まで積み上げてきたものをすべて無にしようとしている。どれを信じていいかわからない、いわゆる人間不信というやつだ。俺がこのループを抜け出すにしろ、元の世界に戻るにしろ、キーになるのはスバルをおいて他にいない。つまり、この状態じゃ非常に不味い。…一応、俺に出来ることを最低限やってみますかね…。

 ラムとレムの方を見て、俺は告げた。

 

「悪いが、ちょっと出てってもらえるか?」

 

 彼女らは一瞬表情が固まったが、大人しく部屋を退出する。それを確認してからスバルの方に向き直った。

 

「あぁ…あれはレムだ」

 

「なんで…なんで…どうして…わかんねぇ…俺が何したってんだ…」

 

「なぜ、か。それはお前が『信用』を前提とした話をしているからだろ…。そんなもの、最初からなかったと考えれば…」

 

「どういう意味だ…どういう意味だそれは!!」

 

「そのまんまの意味だ。信用なんて元からなかったんだよ、最初から疑われ、欺かれ、嘘を塗りたくられた。それだけの話なんじゃねーの」

 

「上等だ!! なら俺が!! このループこそ俺がその信用ってやつを!!!」

 

 こんなもんか…。我ながらうまいことスバルのやる気を引き出せたように思える。75点だなこりゃ。

 しかし俺の思惑通りに動くほどスバルは簡単ではない。そもそも扱いが簡単ならば、俺はこんなところに居らず、道端で転がっているだけだったと思う。

 

「…いや…いいか…。悪いな比企谷…一人にしてくれ…」

 

 スバルは自分に言い聞かせるようにボソッとつぶやいた。採点ミス、18点。突きつけられた言葉に逆らう気は起きず、俺は静かにスバルの部屋を出た。

 その後の朝食にスバルは一応出席はしていたが、意気消沈という雰囲気で俺だけが雇われスバルは客人扱いとなった。待って! なんで俺だけ働いてんのん!?

 

 俺に与えられた課題は大きく分けて二つ。まずはあいつの状態を何とかすること。そして、最初の死因である衰弱死…二回目の死因であるレムの襲撃。これらの因果関係をはっきりさせ、このループから抜け出すこと。ループの条件は今やはっきりした、やつの…スバルの死だ。そしてセーブポイントの遷移条件は…これは恐らくだが、スバルが起こした行動により、この世界の基軸が大きく変わった時だろう。…待て、それならこのループは意味のないものなんじゃねーの? だってあいつ動く気なさそうだし。え、マジで? マジっすか。

 なんだか頭痛が痛くなってまいりました。っべー…マジやべぇ…。どうすべきか…。エミリア…は俺じゃろくな会話が出来そうにないしなぁ…。レム…おいおいまじかよ、冗談はよせ、俺腕落とされかけたんだぞ。そんなやつに話せる話ではない。と…残るは…。

 

「よ。暇か?」

 

「どうやって潜り込んだのかしら。ていうかさっき会ったばかりなのよ」

 

 俺がどこぞやの課長風に入って行ったことはスルーですか…。いやまぁ知らないだろうけどさ。ということでご登場いただいたのは、ロリロリ魔法少女☆ベアトリスさんですー拍手ー。登場したのは俺だけど。

 一番情報を持っていそうで、なおかつ屋敷メンバーとの距離もそれなりにある。おいおいまじかよ、こいつ超有能じゃん。

 

「いやまぁ…なんだ。ちょっと色々聞きたいことがあってな」

 

「答える見返りはあるのかしら?」

 

「うっ…」

 

 そういわれると弱い。こちらはベアトリスの好物も性格もよく知らない。つまり交渉材料を何も持ってはいないのだ。んーと頭を捻り、少し考えたのち俺はベアトリスに答えた。

 

「そうだな…スバルを連れて来てやる」

 

「要らない」

 

 即答! まさに即答! どれだけ嫌なのかはわからないが、少なくとも彼女が口癖アイデンティティーを忘れるほどらしい。えー…ナニソレ、ここからスバルと二人でキャッキャウフフしてくれる展開じゃないの!?

 

「んでだ、そうだな…息が苦しくなって嘔吐するような殺し方ってあんのか?」

 

「何の交渉も成立していないのよ! …ないことはないかしら。それが衰弱死って定義付けられるのなら、呪術の類なのかしら…」

 

 それでも答えてくれるベアトリス様さすがです。

 呪術…。つまり呪い。しかし呪いっていうと対象の髪の毛や写真、または爪のように相手の魂の欠片のようなものが必要なはずだが…あ、べべべ別に呪おうとか思って知識つけたわけじゃねーし? むしろ呪う前に止めたから俺は天使とまで言える。(準備できなかっただけ)

 冗談はさておき、俺のよう…俺の友達の友達のように準備が揃わなければ呪いは発動できないイメージがある。そんな簡単に呪われてたまるかって話だ。

 

「その呪術ってやつの発動条件は?」

 

「なんでもいいのよ。ただ相手に術式を焼き付ければいいだけ…なのかしら」

 

 おいおいまじかよ超簡単なんじゃないのこれ…。下手すりゃ全く気付かないまま殺されることもあるってわけだ。…よくよく考えればあっちの世界も似たようなもんか…。ただ、ヤる側の負担が大幅に減りさらに成功率はほぼ100%だ。いせかいこわい。

 しかし逆に言えば、こっちの世界には魔法があるわけだしもしかすると。

 

「術式の感知って…できるのか?」

 

「あまりベティーを舐めてもらっても困るのよ。術式が刻まれてるのは容易に感知できるし、ちょっと時間をかければ術式の特定・解除までできるかしら」

 

 ふふんと鼻をならし高らかに宣言する。残念ながら俺はベティーというキャンディーがあったか思案中だったのでよく聞いてはいない。そんな飴あったかなぁ…?

 最後にもう一つ、俺には聞いておかなければならないことがあった。どれだけ怪しまれようともこれだけは聞かないと俺が今ここにいる意味がないと言ってもいい。何それ俺今まで意味なかったのん?

 ごくりと唾を飲み、ベアトリスを直視する。今まで本に目をやっていた彼女は視線を感じたのか顔を上げこちらを見た。

 

「…使用人たちが裏切る可能性は?」

 

 当たり前だが、彼女は眉をひそめ、俺を凝視する。鋭い眼光にたじろぎながらも俺は彼女の眼を見返した。

 

「なんの意図があっての質問かは知りたくもないのだけれど…ここの屋敷の召使いどもはそう簡単には裏切らないかしら、それだけはありえないのよ」

 

「そうか、なら良かった。邪魔して悪かった。また今度」

 

「二度と来なくていいのかしら」

 

 へいへいと軽く受け流して俺はベアトリスの部屋を出る。

 裏切者はありえない…。それならレムの行動は主…またはそれに準ずる者のため…。誰だ? あの時俺らは何をしようとしていた? あの時レムは何と言った?

 ―エミリアか。俺らをエミリアの部屋に近づけさせないようにレムは動いた。なら俺らは全く疑われていなかったのか…? それも違う。よく思い出せ、あの登録書の最後の一文、『注意されたし』。登録書は普通俺に見せるもんじゃないだろ。ならあの一文は本気で注意しろということだ。くそ、なんかコミカルに書いてあったからネタかと思ったじゃねーか。

 

 とりあえず、状況を整理して、今得られた答えを簡潔にまとめろ。

 ―スバルに呪術をかけたやつは外部の奴だ。そして、やはり俺らは信用されていない。

 

***

 

 三日が経った。時刻は朝。今日の夜、何かが起こるか何も起こらないか…。ところでスバルはどこ行ったよ。屋敷からは出てはいないと思うが…姿が見えない。まぁどこぞやで元気にやってるでしょうと他人事のように考える。いや他人事だから。

 

「ヒキガヤ君。さっさと支度をしてください、いたいけな少女に買い物荷物を全部持たせる気ですか?」

 

「はぁ…レムがいたいけねぇ…。ていうかどんだけ買う気なんだよ」

 

「主に調味料ですね」「俺いらねーじゃん」

 

 前回、前々回のループの時もそうだったが、今回も例に違わず村へ買い物に行くようだ。一応ループのことがバレないように買うものを知っているそぶりを見せないように気を付ける。…あれ? 前回何買ってたっけな?

 支度とはいっても着替えるのはめんどくさいし、特にすることもないんだが…。

 

「出来たぞ」

 

「何もしてないですよね。では行きましょうか」

 

 トコトコと前を歩くレムにゆっくりとついていく。おいだから変態みたいに書くの止めない? ていうかレムさんなんだか楽しそうですね、ぼくも楽しくなってきちゃう…いやならねぇな、うんならねぇ。

 

 村へ着きテキパキと買い物を済ませるレムは相変わらずさすがだなと感じる。そういえば買い物メモとか持たないのか、俺も見習おう。

 案の定荷物を持たされて帰路につこうとしていた時子供たちがわらわらと集まってきた。

 

「わーレムさんだー」「どうしたのー?」

 

 レムさまはここでも人気らしい。

 

「うげっ、ほんとに腐ってる」

 

 おい待てこのクソガキ。てめぇらごときの年齢で俺の目を腐ってるとほざくとか百年早いわ。そもそも、おめえらもこうなる可能性というものがあってだな…。

 

「不審者ですね、近寄らないようにしてください」

 

 レムさまー。あなたは俺をなんだと思っていたのでしょうか。荷物持ちの不審者なの? どんな不審者なのそれ。しかももう完全に子供たちをかばう体勢に入っていらっしゃるときた。さすが有能メイド。

 

「あいたっ!」

 

 レムが悲鳴を上げた。どうやら犬にかまれたらしい。慌てふためく少女に抱かれていたのは、頭が少し禿げた黒い子犬だった。

 

「お、おい…大丈夫か?」

 

 俺は荷物を置き、ポケットから包帯を取り出すと噛まれたレムの手に巻く。レムは少し驚いた表情をして俺を見上げた。

 

「えっと…ありがとうございます。なぜ包帯なんか…?」

 

「…さぁ?」

 

 あれ? なんで俺は包帯なんか持ってきてるんだ? そんな怪我するような想定してねーぞ? そもそも怪我にしてもなんでこんな大層な装備を持って来たんだ、日常生活の怪我なんて絆創膏で十分だろ。なんだ…何かが腑に落ちない…気味が悪い。

 

「レムのねーちゃん大丈夫?」

 

「ええ、包帯を巻いていただきましたので」

 

「そうじゃなくて、その人不審者なんでしょ? 大丈夫なの?」

 

「お前らまだ言ってんのかそれ…」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。ヒキガヤ君は優しい不審者さんですから」

 

 ニコッと笑い、彼女は子供たちに告げる。子供らはほーっと声を上げると俺を羨望(仮)の眼差しで見つめた。

 

「優しい不審者さんだー!」「不審者不審者!」

 

 彼らはそう叫びながら俺の周りを囲み、キャッキャと騒ぎ始めた。

 何言ってんのこいつら…。どこの世界にそんな不審者いるんだよ。ていうか止めて! 不審者連呼されてる俺がさっきから周りの大人たちに変な目で見られてガチ不審者になっちゃう!!

 

「ちょ! お前ら止めろって! ていうかレム! お前が止めろよ! お前が元凶だろ!」

 

「さーて、なんのことでしょうか?」

 

 ふふふと笑った彼女に一瞬見とれてしまったことは忘れてしまおう…。

 

 

 

「今日は面白かったです、付き合っていただきありがとうございました」

 

 ようやく子供たちから解放され、オレンジ色に染まった帰り道。レムが唐突に頭を下げた。恥ずかしくなって俺は目を逸らす。

 

「まったくだ…おじいさん方を説得するのに無駄な労力使ったぞ…」

 

「ヒキガヤ君は腐っているのにどういうわけか自然と親しみを覚えて頼ってしまいます、さながら中毒です」

 

「俺はO111か何かか。あと腐ってなどいない、専業主婦は立派な夢だ」

 

 少しの沈黙が訪れた。そんなに不味いこと言ったかなと少し訝しむ。

 

「ヒキガヤ君なら…レムを…姉さまを…助けてくれるかも…」

 

 レムがそっと小声で言った。独り言のつもりなのかもしれないが、こんな静かな夕暮れの道で聞こえないわけがない。

 聞こえてしまったものに反応しないというのもなんだか気持ち悪いので、一応返事をしておく。

 

「…俺に余裕があればな」

 

「そこは任せろと言ってほしかったです、あと独り言に反応しないでください」

 

 うぅ…また黒歴史が増えてしまった。ていうかそれスバルにも言われたんだけど。そんな嘘が凝り固まった言葉が欲しいかこのやろー。俺なんて今自分のことで手いっぱいだわさ。他人に気配りできるほど有能じゃねーよ、ていうかそれ出来てたら普通にクラスに馴染めてるわアホ。

 木々の間からオレンジの木漏れ日が差し込む。彼女の髪はいつになく鮮やかに輝いており、キラキラと柔らかい光沢を放つ。後ろで腕を組み、軽快な歩調で帰路を進んでいる。そんな彼女を…少しでも手助け出来ればいいかと俺らしくもない考えが浮かんだ。

 

***

 

 地獄は唐突に始まりの音を告げる。聞きたくもなかった誰かの悲痛な叫び声は眠っている俺にさえ、その悲鳴を脳裏に焼き付けた。窓から日が差し込んでいるにも関わらず、いつもより数倍暗い気がする部屋を急いで駆け出て、音源を探る。

 初めて訪れたその部屋に横たわっていたのは、レムだった。彼女の傍ではラムが泣き崩れている。

 

「お…おい…どうなってんだこれ…」

 

 後ろで震える声が聞こえた。振り返るとなぜか久しぶりに見るスバルだった。彼はレムに駆け寄ろうとするがラムに阻まれる。遮った彼女の叫びは悲痛そのものだった。

 

「ラムの妹に触らないで!!!」

 

 部屋の片隅にはロズワールが厳正な態度で立っており、スバルの方を睨み問いかける。

 

「スバル君と言ったね、何か知っているんじゃぁない?」

 

「昨日の夜、君は何かを警告していたね? 関係あるのかな?」

 

 加えて軽い調子のようで重々しい声が部屋に響き渡った。スバルの後ろに立っていたのはエミリアとパックだった。パックの表情は暗く、エミリアは心配そうにスバルを見つめた。

 

「ちが…俺は…ただ…」

 

「スバル、知っていることがあったら教えて欲しいの…レムのために」

 

 そんな会話をしていたような気がした。今はもう周りのことなどどうでもよくなっている。

 あの犬が…呪術師だ…。俺があの時…俺があの時包帯を持っていたのはスバルが二回続けて同じ犬にかまれたからではないか。なぜ俺は昨夜彼女をベアトリスに見せなかった? なぜ俺は彼女を放っておいた? 助けになりたいと、そう…微かに感じたはずなのに…。俺は結局何も出来なかった。自分を過大評価しすぎていた、自分一人でなんとかできると驕っていた。

 もう傷つくはずがないと思っていた心はいともたやすく抉れていく。もう…無理だ。これ以上俺は歩いていける気がしない。ずっと支えてきた一対の足は小刻みに震え、今にも崩れてしまいそうだった。

 しかしその時俺は誰かの声を聴いた気がして、我に返る。ここで口論している誰のでもない声を…。

 今俺がしなければならないこと…俺だけができること…スバルを逃がすこと。この惨劇の地獄から彼を逃がすこと。そして、彼自身の意思で彼は死なねばならない。ここにいる誰にも殺させやしない。もう…レムに犠牲を背負わせやしない。

 俺は未だポケットに入っている包帯を取り出し、数文字を書き付けた。…これで準備は完了だ。イ文字を勉強しておいてよかったと心の中で前回のレムに礼を言う。

 さぁ…壮大なる茶番劇の始まりだ。

 

「ふふふふふ…はっはっはっは!!」

 

 突然笑い出した俺を何事かと一同は視線を俺に移す。俺はスバルの元まで歩いていき、いつの間にか来ていたベアトリスとスバルを背にするように立った。そしてそっとベアトリスにメモを渡す。

 

「お前ら本気か? 本気でスバルが間者だと思っているのか? 愚鈍だな、正直がっかりだ」

 

「そぉれはどういうことかい?」

 

 ロズワールが俺を睨んだ。初めて見るその鋭い眼光に揺らぎそうになりながらも、俺は続けた。

 

「確かに一般的に見ればスバルが怪しいのは分かる、こいつを疑うのは分からなくもない」

 

「君の言いたいことが段々分かってきたよ…」

 

 パックが苦々し気に言った。

 

「でもな、間者の場合話は別だ。奴らは何の違和感もなくこの屋敷に忍び込み、悪事を働く、そういう職業だろ。…なら、疑うべきなのは…」

 

「君なのか…お前か間者は!!」

 

 ロズワールが声を荒立てる。俺は一切動じず馬鹿にしたような表情で彼を睨んだ。彼は両手に炎を構えると俺にゆっくりと近づいてきた。

 俺は彼を見上げながら答える。

 

「さぁな?」

 

 俺の意識はここで途絶えた。逃げてくれ、ベアトリス。

 

***

 

 ひどく頭が痛む…。妙な湿気に襲われ、俺は目を覚ました。

 

「君のせいで一人を逃してしまったぁよ」

 

 たまらなくなってせき込んだ俺を見下ろしていたのはロズワールだった。

 

「ゴホッ…。即死させてくれると思ったんだがな…。スバルはラムに追わせてるのか」

 

「その質問にはどちらもノーだぁよ。君は…たっぷりと拷問して、全部聞き出してからだ。スバル君にはもはや価値も疑いもない…それでもラムは勝手に行ってしまったけぇどね、困った子だ」

 

「もしかして痛かったりする?」

 

「痛いなんてもんじゃなぁいさ」

 

 唐突に彼は炎を作り出し、俺の腹に押し付けた。肉が焦げる強烈な臭いと激痛が俺を襲った。しかし再生されているのか俺の身体は焦がされても焦がされても消し炭にはならなかった。気を失えればどんなに楽なことか…それさえも許されない。風で刻まれ…水で犯され…土で窒息…。自在に魔法を操り確実に俺を拷問していく。叫び声さえもままならない。まさに地獄だった。

 

 しかし、そんな時間はふいに終わりを告げる。目の前が気を失うとは違ったブラックアウトをした。これが…時間遡行か。俺はもう擦り切れた精神でぼんやりと考えた。その時、さっきの部屋で聞いた声を聞く。

 

―あなたは、もっともっと…あの方に…

 




お読みいただきありがとうございました。

はい…すいませんでした…。濃い内容だったもんでつい避けてました。
さて、とうとうナツキスバルのリスタートが始まりますね。比企谷との関係がどうなるのか自分でも楽しみです。
ちなみにこの一か月間ほとんど文化祭の準備に追われてたんですよ、まぁ一週間前に終わったんでここまで遅くなったのは言い逃れできませんが…。
何が言いたいかというと、ここからはちょっとだけ更新ペース上がるかもしれません、二週間に一回とかかな? 受験シーズンが始まる前に終わらせたいと思います。

では、次回もよろしくお願いします。

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