Re:やはり俺の異世界生活は間違っている?   作:サクソウ

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第一章
01.かくして俺の異世界生活は幕を開ける。


『ボッチ……それは孤独の象徴であるとされる。

 言い換えれば至高の存在とも言えなくはないのだ。だが世間はそれを認めない。そのことは学校という組織が証明している。

 勉強なんて家庭学習でも十分すぎるほどの知識がつけられる時代になった。ならなぜ学校が未だに存在する?それは社会がグループを作ることを強要しているからだ。集団心理を許容しているからだ。

 実際それは強力な力となる。

 しかしそれ故、いじめやパワハラなどというくだらないものを生み出す。集団を作ることでデメリットがあるのなら、一人でいることのデメリットがなんだというのだ。

 一人でいることが強い、かっこいいなどと思ったことはない。孤独は弱いものだ、そんなこと承知の上である。

 さて、そろそろ結論を言おう―

 

 リア充よ、砕け散れ』

 

 目の前の女性は声を荒げて締めくくった。

 別に音読しなくてもいいじゃないですか……。というか職員室の教師が全員こっちをちらちら見つつ、プススと笑っているのが本当に気に食わない。何か文句がおありでしょうかそうですか。

 少し苛立ちながら周りを見渡していると、目の前の女教師、平塚先生は手に持った作文を丸めて俺の頬を軽く殴る。ペシッ、痛い。……ありますよねそりゃ。

 

「比企谷、私が出した課題は何だった?」

 

「……外国人学校について、ですかね……」

 

「それがどうして集団生活の話になる? あぁ? 挙句の結論は嫉妬じゃないか」

 

「ひ、ひや、が、外国人にこの社会の厳しさをと思いまして……」

 

「この文章で伝わるぐらいなら戦争なんざしておらんだろうに。もちろんこれは書き直しだ。期限は明後日」

 

「あ、明後日っすか!?」

 

「当たり前だ。こんなもん適当にちょっと良いこと書いて出しとけばいいものを……。君はあほか。私の仕事を増やすな」

 

「それ教師の言葉じゃないっすよね……。ていうか、そんなこと言ってるからいつまでもけ……」

 

 俺の頭の横を何かが横切った。言わずもがな、この教師の拳だ。大体の予想はついていながら俺は目の前の現実を受け入れられない。

 こんな(一応)美人が鬼の形相でこちらを睨み、突き出した右手は俺の右側の空間を突き抜けている。夢でも願い下げだ。

 と言っても原因を作ったのは俺である、いや俺は悪くない!

 

「比企谷ー? 今なんつった?」

 

「そ、そんなこと言ってるからいつまでも結論が出ないんすよ、ほら! 職員会議とか!」

 

 適当にも程があるだろ、と突っ込みたくなるような返答。いまいち、20点。欠点になってしまった自己採点に少し胸が痛む。そんなことを思っていると教師の眉がピクリと動いた。何かを諦めたように、ため息をついて拳を引っ込める。

 おぅ、さすがの俺もそこまで残念そうな目で見られたら恥ずかしくなっちゃうんですが。なんだよ恥ずかしいのかよ、せめて悲しめよ。

 

「はぁ……君は頭の回転はそれなりに早いんだ。そろそろ集団というものを受け入れてはどうだ……。君が望めば、良い関係が築けると思うが」

 

「遠慮しときます。そもそも俺会話を弾ませるとかできませんし」

 

「それは相手に任せろ。ま、良い相方が見つかるのを期待しているよ」

 

「なんなんすかその言い方……」

 

 そうして俺はようやく職員室を後にした。時計を見ると6時前を指していた。俺は一体何のために何時間も費やされたのだろうか……。半分はあの女教師がアニメを見終わるのを待っていた時間、3割は女教師がおやつを食べている時間、残った2割が説教の時間。何それ俺全然悪くないじゃん。

 もうとっくに部活やら何やらの時間は過ぎている。部活、入ってないですが……。

 

***

 

「ありがとうございましたー」

 

 適当なおにぎりを買ってコンビニから出る。最近のコンビニはサンドイッチがあまりおいしくないので、おにぎりを買うのが定番になってしまった。すこぶるどうでもいいマイコンビニ情報。略してマイコン。

 しかし、すっかり遅くなってしまった。冬は昼が短いな、もう辺りが真っ暗だ。

 

「まぁ一日部屋に閉じこもってゲームでもやってりゃ、目も疲れるわな」

 

 隣にいたジャージの男がそう言った。かなり違和感を感じたが俺は他人の事を考えられるほど余裕じゃない。寧ろ猫の手も借りたいまである、カマクラがいつも俺から逃げるのはそのせいかしら?

 引きニートっているもんなんだな。伝説の存在かと思ってた。まぁ、俺の将来は専業主夫だからな。あまり関係がない。

 っておい、結局考えてんじゃねーか、俺の意思弱っ!!

 

 そこで俺は初めて周りの違和感に気づいた。明らかにさっきの空気……空間……というか世界そのものが違う。

 中世の街並みに、そこを走る馬……もとい竜。そして、明らかに人間とは違う動物が二足歩行で街を行き来している。はわわわわぁ……、いや何これ。

 とうとう現実世界にいることが認められなくなったらしい。いやおかしいだろ。なんでそうなるんだよ。俺何かした? あぁ専業主夫か。立派な夢だと思うんだけどな、どうも理解されないようだ。

 

 まぁ……単純にこの状況を整理すると……。

 俺は、異世界に来た。

 落ち着け! これは公明の罠だ!! 目を閉じて、ゆっくり目を開けると……。

 

「異世界召喚ってやつーーーー!?」

 

 うわびっくりした。うるさいなぁと顔を歪めながら、ふと隣を見る。ん? さっきのニートじゃねぇか。あ、そうか、俺はあれか、この人に巻き込まれたわけだ。

 そりゃそうだな、俺みたいなボッチを誰が好き好んで自分の世界に引き入れようってんだ。いやぁ、自分で言ってて照れますな。照れちゃうのかよ悲し(以下略

 

「あ、お前さっきの……」

 

 傷心を癒そうと頑張っていると、隣のジャージ男から唐突に話を持ち掛けられる。

 コミュ力高いなおい。だが甘いな、俺みたいな『マスター・オブ・ボッチ』に話しかけるなんて百年早いわ!

 と、大魔王ばりに無言を続けてみる。

 

「いや待て、こういうのって普通俺一人が召喚されるものじゃないのか……? まぁいいか、俺はナツキスバル。よろしくな」

 

「ひ、比企谷八幡だ。よろしく……」

 

 はい、一瞬で倒されました。

 ま、まぁあれだし、大魔王って一回やられて強くなるんだし! クッパとかクッパとか!! クッパのメンタル強すぎぃぃ!!

 

「ヒキニート八幡? 不思議な名前だなぁ」

 

「おい待て、それはお前だろ。俺は比企谷だ」

 

「あぁ比企谷か。って、なーんで俺がヒキニートなんだよ! お、俺なんて朝からバリバリ社畜してるし!」

 

「朝から社畜してるやつがなんでジャージにカップ麺入りビニール袋持ってんだよ……」

 

「ところで比企谷が俺を召喚したのか?」

 

「おい話聞けよ」

 

「召喚っていうと、美少女がやってくれるもんじゃねーの!? 何が嬉しくて男に召喚されなきゃいけないんだぁ!」

 

「俺じゃねーよ、みりゃ分かんだろ、俺だって帰宅中だったんだよ。ゴーイングマイホームなんだよ」

 

「ま、とにかくだ! こうして共に召喚されたわけだし! 仲良くやろうぜ、比企谷!」

 

 謎のやり取りを強制させられた挙句、仲良くやろうぜとはこれいかに。

 べっ、別にあんたなんかと仲良くしなくていいんだからねッと若干ツンデレ属性が混ざりながら、渋々差し出された手を握る。

 

「よし、まぁこういう時はまず情報収集だな。定番で行けば俺は何かしらの魔法が使えるハズだ! ハァ!!」

 

 何この人、それどの世界の定番だよ。案の定、何も起こらない。起こってたまるか。その位置で発動されたら俺完全に死んでた。異世界危なすぎ笑えない。

 しかし、ジャージは本気で出せると思っていたのか予想外の結果に驚きが隠せないようだった。え、バカなの?

 

「魔法を使うにはちょっと早かったか……」

 

「くだらねぇこと言ってないでさっさと情報収集だ」

 

「ちょくだらねぇってお前! 魔法は定番だろ!! これも立派な情報収集だ!」

 

「おいあんたら変わった服着てるな、旅人か?」

 

 唐突に果物屋が話しかけてきた。商品の札を見るがどうも読めない。まさに異世界文字、こっちの世界の楔形文字のようだ。

 しかし、不思議なことに話してる言語は日本語なんだよなぁ。疑問が疑問を呼び、頭が整理されない。

 ジャージは持ち前のコミュ力を発揮して果物屋に問いかけた。

 

「これは……?」

 

「リンガだ」

 

 赤く、丸い、みずみずしく光ったそれは……まさしくリンゴだ。なるほど、日本語とは少し違うのね。ってんな異世界あるかいな!

 異世界ってのは大抵言葉が分からなくて、最初はチート道具使いながらも最終的に道具無しでヒロインと会話が出来るってのが定番だろ!

 熱くなってしまった、クールダウン、クールダウン……。俺がそんな下らないことをしている間に、ジャージはポケットからお金を出した。

 

「あぁ? どこの国の金だ?んなもんルグニカじゃ使えねぇ。さてはお前ら一文無しだな、あっち行け! 商売の邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 なるほど、日本円は使えないわけか。そこは異世界っぽいな! 俺はそこまで金を持っているわけでもないから、困ることはないだろうな。

 ……いや困るよ! 完全に一文無しだよ!! 強いて言えば、ボッチノリツッコミとか俺の得意分野すぎて困る。

 あとこの国の人間は単純なんだな、一文無しで追い返されるとか日本じゃまずありえない言動だ。

 ジャージは困ったようにこちらを見た。俺を頼るなよ……お前と完全に一緒の状況なんだからさ。そして彼は口を開く。

 

「んで、どうしたもんか……」

 

「二手に分かれるか、俺はあっちで集める。1時間後にあの広場で」

 

「1時間って、この世界じゃ時間の概念が違うだろ?」

 

「時間が違っても前の世界の基準で考えられるだろ」

 

「お、おい待てよ! 一緒に行こうぜ!」

 

「二手に分かれた方が効率がいい、また後でな」

 

「お、おい!!」

 

 俺は難聴キャラを演じ、後ろから聞こえる声を無視した。とりあえずこの世界の概要を調べねばならない。ここはどういう世界なのか、どう立ち振る舞うべきなのか。

 俺は帰れるのか……。

 

「ちょっとそこどけーーーー!!」

 

「は!?」

 

 俺の横っ腹に何かが激突した。ぶつかった何かが固いものじゃなかったのでそこまで痛くはない。俺がぶつかったものを確認しようと下を見る前に何かは俺に早口でまくしたてた。

 

「イタタ……大丈夫か? ボーっと突っ立てんなよ! んじゃ私急いでるから! 強く生きな!」

 

 嵐が過ぎて行った。10才ぐらいの金髪の少女。

 心配する・けなす・励ますという三行為を約5秒で完了させた。何あいつロボッツなの?

 

「おーい君! ちょっといい?」

 

 銀髪の少女が息を切らしてかけてきた。貴族の衣装だろうか、白を基調としたローブにミニスカート、肌は雪のように白いが、頬は上気して薄いピンクに染まっている。その色っぽさに少しドキッとしてしまう。

 だが俺はもう間違いを起こさない。俺は起き上がり、歩き出した。

 

「こら! 無視しないでよ!」

 

「ッ!?」

 

 いつの間に俺の前に移動しやがった。こいつ……やりおる……。

 上目遣いに戸惑いながらも黙っていては解決に向かわなさそうなので渋々返答した。

 

「何か用か?」

 

「大ありよ! 私の徽章を返しなさい!」

 

 徽章……というとあれか、貴族の身分を表すバッチ、のようなもんだったかな。俺の国語力マジヤバい。……これくらい普通だよ、落ち着こうね八幡。

 

「知らねぇよ、なんだそれ」

 

「バッチみたいなやつで真ん中に宝石がついてるやつよ!」

 

 いきなり顔を近づけてきた。思わず俺は目を背けてしまう。ちょっと良い匂いが鼻をくすぐった。

 

「やっぱり! 何か知ってるのね!? 教えなさい! あれは大切なものなの!」

 

「今のは一般的な男子の反応だと思うよ?」

 

 少女の肩から何か不思議な何かが顔をのぞかせた。……猫? すげぇモフモフしてそう、いやむしろモフモフさせてくださいお願いします。

 最近うちのカマクラはご機嫌斜めでモフモフさせてくれないんだよな、特に俺には。なんだよ、小町は一日中抱いてても爪一つ立てないくせに……。爪立てた瞬間、俺はあいつを家から追い出して小町に怒られるけどな。なんだよ怒られちゃうのかよ。

 

「あっ今僕のこと変な目で見たね!?」

 

「そういう趣味!? パックに手出さないでよ!」

 

「あー……いやなんだ、俺はその徽章のことは知らん。寧ろ俺がここのこと教えて欲しいまである」

 

「この人とっさに話題変えたね……。怪しいけど嘘はついてないみたいだよ?」

 

「嘘をつくメリットがないからな」

 

「そう、なら仕方ないわ。追いましょうパック」

 

「そうだね。君とはまた会いそうな気がするよ、またね!」

 

「じゃあな、金髪の奴ならそこの路地を曲がってったぞ?」

 

「知ってるじゃない! もう!」

 

 そう言って彼女らは走っていった。

 ……いや、だって聞かれなかったし。

 

***

 

 結局分かったのは、食べ物は俺らの世界と何ら変わりはなさそうということだけだった。試食って便利ね、ただ無一文ってバレないようにするのが大変だったが。バレた瞬間は命を覚悟したものだ。イセカイコワイ。

 

 しかし、集合場所にあいつが来ねぇ……。これはあれですね、約束放棄ってやつですね! 八幡よくされたから知ってるよ! これ明日笑い話にされるやつだ。……誰にだよ。

 脳裏のノリツッコミがむなしく響く。肌寒くなってきたのを考えると、宿でも探さなければ一晩越せるか怪しいものだ。しかし、俺が去ることはできない。俺がこの話を持ち掛けた以上、待っておく義務がある。

 

 ちょっとカッコいいことを考えていると、ジャージ様御一行がこちらに向かってくるのが見えた。

 ……御一行? 1、2、3……。俺の目に狂いはなく、明らかに何人が増えていた。正確に言えば一人と一匹だが。

 銀髪の少女にモフモフ猫にゃん。運命の神というのが存在するならば俺は今からそいつを呪う。藁人形に鉄骨ぶっさしてやる。

 

「おーい。遅くなってすまん!」

 

「めちゃくちゃ待ったぞ、おい」

 

「それがこの子の徽章がなくなったとかで探してたんだよ」

 

 あぁ知ってるよ。なんか変人扱いされてるからもう会いたくはなかったんですけどね! と、少しジャージにキツい目線を送ると、『?』と言った顔で返された。正しい反応でなによりです。

 どうやら向こうも俺に気づいたようで少し叫びながら言った。

 

「あ! パックを変な目で見つめてた変態!」

 

「待て、あれは一般的な反応だ。……んで、今どういう状況なんだ?」

 

「そうそう! スラムの『フェルト』ってやつが盗んだらしいんだ。今から行ってみようと思ってな」

 

「そうか、まぁがんばれ」

 

「何言ってんだ、お前も一緒に行くんだ」

 

「なんで俺が……」

 

「こういう時は人が多い方がいいんだって。それにお前のその腐った魚のような眼はなんか役に立ちそうだからな!」

 

 たまに小町とか平塚先生に言われるがどんな眼だよ、それ。

 しかし、このままここにいても周りから変な目で見られて、最終的に通報されてバッドエンド! というのが目に見えているので、柄にもなく俺はジャージに従って歩き出した。

 ナツキスバル……ね。なんとも不思議な男だ。

 




お読みいただきありがとうございました。

まぁなんですか、リゼロ面白いっすね。
まぁ暗殺教室の方がメインなんで暇になったら書くって感じでしょう。
アニメしか知らないのでアニメが進まないと話になりませんし(笑)
やっぱ比企谷っていいな。なんというか素晴らしい。
まったくもって理想にはしたくないですが。

では次回もよろしくお願いします。

※2016/06/17 大幅編集を加えました。

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