闘技場での闘いを終え、カバルレのいる最上階へと続く道の鉄柵が開かれ、くろちゃん、ちゃにゃん、御神、ホームズはその道を進んでいた。
しかし、彼らの表情は重く、顔を顰め、不機嫌さを隠そうともしていない。
そんな雰囲気の中、この道を進んでいるホームズの背中にはオドリーがいたのだった。
あんなことがあって、オドリーを置いては行けず、連れてきたのだ。
ま、他にも理由はあるけど…。
ホームズはオドリーに振動をなるべく与えないように慎重に背負って、歩いていた。オドリーは血の気が減って、顔色が悪いものの、何とか呼吸をし、目を閉じて眠っていた。
「…どう?オドリーの様子は?」
「うん、さっきよりは楽になってきているみたい。 ちゃにゃんの薬が効いてきているのかな?」
「にゃにゃにゃ。 傷に効く特効薬を持っていたからホントに良かったにゃ。…でも、あくまで、応急処置にしかなってないにゃ。早く、輸血して、ちゃんとした治療をしないとにゃ…。」
ちゃにゃんはホームズの背中でぐったりと眠るオドリーの顔色を窺い、異変がないかを確認する。
いつもくろちゃんといると、傷が絶えないため、(くろちゃんの方が)どんな傷でも治りが早くなる特効塗薬を常備携帯していたちゃにゃんは応急手当の際に、その塗薬を傷口に塗ったのだった。魔法的効果も含むこの塗り薬のお蔭で、大剣で刺されたオドリーの腹部の傷も徐々に塞がっている。内臓もその効果を受けて、血管や細胞組織の修復に努めている。しかし、それはちゃにゃんが言うとおり、あくまで応急処置にしかならない。この薬は傷を治すというより、細胞の再生力を大幅に促進させる効果を持った薬なのだ。しかも細胞の再生力を活性化するために、大量の酸素や血液が必要になってくる。しかしオドリーは大量出血をしたため、血が足りない。
つまり、今ある血の量で、再生するしかなく、時間稼ぎしかなっていないのが現状だ。
(実際に大きく開けた傷に塗薬は止めておいた方がいいよ! その人の体質も考慮しないといけないし!!)
「ごめんね、私にもっとちゃんとした薬を持っていたら…、もっと痛みを和らげてあげられたのににゃ…。」
落ち込むちゃにゃんにくろちゃんが頭を撫で、励ます。
「そんな事ないよ!! ちゃにゃんの医学知識とこの塗薬がなかったら、オドリーを助けられなかったかもしれない…!!ちゃにゃんは頑張ったよ!!
だから、今度は私達の番!! なんとしても、早くこんな場所を抜け出して、オドリーを病院に連れて行こう!!
…あ、ついでにカバルレも倒そう!!」
「ついでかよっ!! カバルレ倒す方がメインだったはずだよっ!!
…………でも、その意見には賛成~~~~!!」
くろちゃんのボケを御神が突っ込むが、もはやこのメンバーのやることリストの優先順位は大きくすり替わった。
自分達のやるべき事にこの場の全員が一致団結した所で、再び最初の不機嫌な雰囲気へと戻る。
「…それにしても、ほんと、さっきのヤロー…!!
許せないぜ!!」
「ホントだよね!! 泣きわめきながら、答えたあの理由を聞いたときは、塞げるな!!って思ったよ!! もう怒りのバロメーターが噴火したね!!」
「そうだにゃ!!ヘムタイを名乗るくらいなら、くろちゃん達みたいなヘムタイ魂持てにゃっ!!って、いつもなら絶対に思わないけど、ヘムタイの中のヘムタイを貫けって心の底から思った!!」
「確かに私もそう思った!! ROSEのヘムタイ達は究極のヘムタイを目指し、己を磨いているからね~~!!」
「「そ、そんな~~!!褒められると、ますますヘムタイになる意欲が湧いてくるじゃないか~~~~!!(デレデレ)<*`~´*>」」
「……いや、もう十分すぎるほど、ヘムタイにゃ!!」
「…うぅぅ~………。」
ヘムタイについて白熱した会話に、オドリーの苦しそうな呻き声が漏れ聞こえたROSEメンバーは一斉に人差し指を口に当て、((((し~~~~…………))))静かにしようと互いに伝え合う。
そして、歩く足音にも注意して、先に進むROSE。
そのホームズの背中で眠るオドリーの目から、涙が一筋、流れ落ちていた。
眠りながら泣くオドリーは今、夢の中で先程の出来事が生々しく再生されていたのだった………。
ヘムタイの中のヘムタイって…。
どんなヘムタイ?
でも、くろちゃんやほーちゃん、マサやんはいいヘムタイだと思うよ!
突っ込みは大変だけども!