達也の先導により、ようやく演習林から抜け出した詩奈と太一は、ひとまず安どのため息を漏らす。ずっと緊張状態が続いていたため、校舎が見える場所まで出てやっと自分達が危機を脱したと思えたのだ。
「一時はどうなる事かと思いましたが、無事に脱出する事が出来て何よりですわ。これも達也さ……、司波達也先輩のお蔭ですね!」
詩奈の反応に達也は「感謝されるようなことはした覚えはないんだがな」と詩奈たちの救出をそれほど深く考えていなかっただけに、詩奈の熱意を持て余していた。…熱意と言っても達也にとっては、先輩に向ける尊敬のものだろうと受け取っていたが。
「ああ…、いや、それほど大したことはしていない。それよりも、悪いが式まで少し時間が押している。生徒会室で打ち合わせをする予定でもあるし、少し急ぐが、構わないか?」
「もちろんです!」
自分達が迷子になっていた事で、時間が迫っている事に気づき、力いっぱい返事する。
詩奈の返事を聞いて、太一も頷く。二人の了承を確認した達也は、一瞬視線を外したが、意を決したような顔を見せると、詩菜を抱いて走り出す。
「え!?」
「!!」
突然の事で詩奈は目をぐるぐるさせ、動揺を露わにする。同じく太一も驚愕しながら、達也の後を追う。そして驚愕の後は、ただひたすら達也に怒りを込めた視線で睨み続けるのだった。
詩奈はこの状況をどう処理すればいいのか、熱っぽくなった頭で考える。
いわゆる”お姫様抱っこ”をしてもらっている詩奈。メルヘンな思想を持っている詩奈にとってはまさに夢心地とも言える。それに、詩奈は達也にお姫様抱っこされるのをずっと願っていたのだ。このような形で叶うとは思わなかったが、実際に自分の方と太腿の裏に大きな男性の手が抱えて、揺れなどを一切感じさせない丁寧な抱っこをしてくれている達也の手の感触を全神経を集中して感じ取っているし、更に達也に恋心を抱く。
「三矢さん、悪い。 後で小言は聞くから、今は生徒会室へ行く事にだけ集中させてくれないか?」
「……ええ、…結構ですよ?」
顔を赤らめ、羞恥に塗れる顔面を手で隠しつつも、視線は時折達也の横顔を拝む詩奈。
(小言なんてそんなことしません!!むしろ、抱いてくれてありがとうございますわ!!これで今日は達也様の夢を見ながら眠る事が出来ます!
もう…、幸せすぎてこのまま達也様の腕の中で気を失いたい…♥)
完全に萌えている詩奈を微動だにせず運び続ける達也は、校舎に入ると早歩きになって、廊下や階段を歩く。
そしてついに生徒会室の前に着いた後、生徒会室への入室のベルを鳴らすのだった。
『…はい、あ、達也さん!………え?』
ドアの先で激しい動揺を見せる気配を感じた達也は、一刻も早く入れてもらうために口を開く。
「ほのか、入れてくれないか?」
『はい…! どうぞ、たつやさん。』
ロックを解除する音が鳴り、ドアが開く。その開いたドアから身体を滑らせ、達也は生徒会室へと戻ってきたのだった。
後ろには太一が不機嫌を隠そうともしない態度で入る。
そして…、詩奈は達也にお姫様抱っこしてもらったまま、入室する。
この思いがけない事態に生徒会室にいた当事者を除く全員が驚きを見せる。
そして、次には寒さを感じるのだった。
達也にお姫様抱っこか~~!!良いな~~!!してもらいたいものだ!!
でも、この後、ブリザードになったりしないよね?