「た、達也さ……、司波達也先輩ですか? お目に掛かれて光栄です。私、三矢詩奈と申します。こちらが、私に仕えている…」
「美浦太一です。以後お見知りおきを。」
「ああ、よろしく。」
達也の自己紹介を聞き、慌てて背筋を正し、令嬢らしく詩奈がお辞儀し、挨拶する。それに続いて太一も挨拶する。
太一が自己紹介をするのを顔を向けて達也から目を逸らした詩奈はその一瞬の間に涙を振り払い、淑女の笑みを浮かべる。達也の方へ再び顔を向けた時には、不安などは一切感じさせなかった。その切返しの速さに達也も心の中で頷き、好印象を受けるのだった。
(この子が三矢家の末の令嬢か…。 教養もしっかりと受けているようだな。これなら深雪とも息が合う先輩後輩に慣れるかもしれないな…。それよりも、気になるのはこの少年か…。)
詩奈に向けていた視線を一瞬だけ太一の方へ向けた達也は、突き刺さんばかりの視線を投げてくる太一を見返す。
自己紹介し終えた後、ずっとこちらを見てくる太一の窺い見る眼差しに達也もまたずっと気づいていた。だが、あまり好印象とは言えないまるで疑っているような感情が込められた視線は、達也にとってはお馴染みの視線なので、軽くあしらう程度しか思っていない。
達也の振る舞いは堂々としており、億さない姿勢をしていた。
それを肌で感じ、太一は初対面でありながらも気が抜けない相手だと思うのだった。
そんな達也と太一の言葉にはならない緊張感が行き交う中、達也と逢えた事で頭の中がいっぱいになっている詩奈はその気持ちを知られないように自分を押さえつつ、話かける。
「先程は失礼な態度をお取りしまして、申し訳ありませんでした。それと、私達を探してくださっていたのですね? それも重ねて申し訳ありませんでした。」
「いや、気にする必要は無い。君達が登校している事は既に校内の監視カメラの記録から遡って知っていたからね。その記録を辿って、君たちを見つけられてよかった。」
「そうだったのですか…。私達、情報端末を持っていなかったもので。」
「そうか…、なら生徒会室に呼びの情報端末があるから、今日はそれを貸してあげよう。…その前にまずはこの演習林から抜け出そうか?」
「はい…!」
「美浦君もついてきなさい。」
「……よろしくお願いします。」
詩奈と太一の感情の起伏の差は明らかだったが、そこには触れずに達也は二人を連れて出口へと歩き出す。
その背中を追って歩く太一は、警戒心を捨てきれずにいた。
対して、詩奈はというと。
(ピンチの時に助けに来てくれるなんて、まるで王子様そのものだわ~~!夢にも憧れた王子様との出会いのシチュエーション~~!! これは運命の出会いっていうのかしら?そうよ!絶対そうよ!!
やっぱり私、達也様を諦めるなんてできないっ!絶対に私の夫になってもらうんだから!!)
…とメルヘンな思想を抱いたお姫様気分を満喫するのであった。
忙しくてギリギリになってしまい、申し訳ありません。
太一はなぜそこまでして達也に警戒しているのか…。それもまた明らかになる時が来るでしょう。
そして詩奈…、深雪と達也との婚約の事、知っているのか?