魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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さて、詩奈の願いを少し叶えてあげますかな?


乙女合戦の幕が上がりますっ! ③

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっと~~!! 太一!!何とかしなさい~!!」

 

 

 「俺に言われても、事態は変わりませんって。」

 

 

 「もう~~!!この役立たず~~!!」

 

 

 半泣きになりながら、太一に文句を言う詩奈。その詩奈が何をしているのかというと…、

 

 

 「どうしてこうも敷地内が広いのかしら!?御蔭で迷ったじゃない!」

 

 

 …道に迷っていたのだった。

 

 

 「お嬢様が先々と進むからですよ。好奇心旺盛といいますか、目新しい物には興味が尽きず、他が目に入らなくなる…。原因を申し上げるならこれですね~。」

 

 

 「ううぅぅ…。悪かったわよ、でも~…! 今はそれよりも早く生徒会室へ行かないと!!約束の時間に遅れちゃう!!」

 

 

 「ですが、その肝心の場所を把握できない状態ですよ?無闇に動いて更に迷子になるよりかは、通りかかった在校生に聞いた方がましだと思いますけどね。」

 

 

 「………本当にここを誰かが通るのかしら?」

 

 

 太一の言い分も頭では納得はしているものの、詩奈は気が気でならなかった。だって、迷子になってもうすぐ小一時間は経過しているのに、誰にもすれ違ったり、姿を見かけたりしていないのだ。今いる所は、樹木が覆い茂っている場所で、森のようなところだ。さっきから人とすれ違うかもと人工の道を歩いているが、一向に出会う気配がない。そんな状態で人と会うどころか、ここに在校生が通り過ぎるのかが怪しいものだ。

 疑問を詩奈に突き告げられた太一は自分でも心の中でそう思っていただけに言葉を詰まらせる。

 

 

 「……………通らないかもですね。今日は入学式ですから。限られた在校生しか学校に来てはいないでしょうし、ましてや新入生がこんな森っぽい所へ来るはずもないですしね。…物好きな人なら話は別ですけど。」

 

 

 「それは私のことを言っているのかしら?太一?」

 

 

 「さぁ?俺はあくまで一般論を言ってみただけですから?誰もお嬢様だとは一言も言ってませんからね?」

 

 

 「その口ぶりが怪しいんだけど…。はぁ~、もうこのやり取りも飽きたわ。」

 

 

 「お嬢様、どうしましょうかね?」

 

 

 「こうなったら、ひたすら歩き続けるしか…、太一がマップを持っていてくれてたらよかったのにね。」

 

 

 今更ながらそう呟く詩奈だったが、太一が肩をすくめて反論する。

 

 

 「そんな無茶を言わんでくださいよ。いきなり起こされて、登校する準備して、着いてきたんですよ?挙句にお嬢様の荷物も持っていたんですから。急かされて情報端末を持ってこれなかったのを怨みたっぷりで見つめられても困りますって。」

 

 

 責任転嫁をし合いながら来た道を引き返していた詩奈と太一だったが、まだ出口の見えない中で、徐々に詩奈の体力が削られていく。精神的にも余裕がなくなってきた詩奈はついに涙を流し始めた。それを隣から見た太一は、気まずそうな顔をしてあやしにかかる。

 

 

 「あの~…、お嬢様? 大丈夫ですよ、俺がいますから! そんなに泣かなくても…、不安なのは分かってますから。」

 

 

 「そうじゃないもん…。」

 

 

 「…え?」

 

 

 「確かに不安はあるけど、太一がいてくれているから大丈夫…!でも、私が少しくらい大丈夫だって、軽はずみに校内探索をしたばかりに達也様にご迷惑をかけてしまう自分が情けないのよ…! 折角達也様にいい女として見てもらおうと思ったのに、これじゃ約束も守れない親の名を騙るだけのただの身勝手な女としか印象を持たれないわ。

  そうなったら、私…どうしたらいいの?」

 

 

 涙を流し、後悔し、自分を責める詩奈の泣き顔に太一はぐっと自分の気持ちを固く持つために手の甲を強く抓る。そして痛みで理性を保ち、泣き続ける詩奈の頭をポンッと撫でる。

 

 

 「大丈夫ですって。 司波先輩はこれくらいの事でお嬢様を嫌ったりしませんよ!それに俺もお嬢様を止めずに一緒に探検してましたから。俺も一緒に謝ります。

  お嬢様がどれだけ頑張ってこの一高へ入学したか…、俺は知ってますから。」

 

 

 そう宥める太一の言葉に落ち着きを取り戻したのか、泣くのを止めた詩奈は、目に残る涙を手で拭い、まだぎこちないが笑みを浮かべる。

 

 

 「うん…、ありがとう、太一。少し元気出てきたわ…。」

 

 

 「いいえ、俺はお嬢様の使用人ですから。いつだって傍にいますよ?」

 

 

 詩奈と太一が顔を見合わせて微笑み合っていると、自分達が今まで歩いていた茂みから草が踏み付けられていく音が聞こえてきた。咄嗟に太一が詩奈を背中に庇う形で前に躍り出る。二人ともCADに手を翳す。ここは校内だという事は二人とも認識はしていた。そして校内では許可なしに魔法を発動してはいけない事も。しかし、茂みから現れるものが自分達に害するものだという可能性だってある。もしもの場合はやむを得ないが魔法を使う事も視野に入れ、戦闘態勢に入る。

 

 

 緊張した雰囲気を醸し出す二人の前に、茂みから堂々と現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やはりここにいたか、見つかってよかった。…三矢詩奈と、三浦太一で間違いないな?」

 

 

 「あ、あ、貴方は…!」

 

 

 突然の登場に詩奈は言葉が喉に引っかかって口パクを何度もする。そして太一も意外感が強かったのか、目を見開いて固まっている。

 そんな二人を見つめながら、本人達であると視て理解した一高の制服を着た男子生徒がそう言えば自己紹介してはいなかったと、二人の警戒心を和らげる意味も込めて、微笑を浮かべながら挨拶する。

 

 

 

 

 

 「俺は三年の司波達也だ。俺の事は知らないかもしれないが、生徒会に所属している。二人を迎えに来た。」

 

 

 

 

 

 まさかの達也の登場に詩奈は驚愕と感動と羞恥で顔を真っ赤にし、太一はただただ力が抜けた状態で立ち尽くすのだった。

 

 

 




詩奈の願いが叶いましたね。達也にいち早く会いましたがな。達也もヒーローのごとく現れたな~~。

これはこれは、面白くなりそうだ。

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