いい事だな~。
ショウリンがずっと秘密にしていた『精霊の眼』について話してくれた翌日。
朝食を食べ終わったみんなはショウリンに早速手掛かりになりそうな情報を得ようとショウリンの話に耳を傾けた。
「ショウリン!! 何か最近変わった事とかあった!?」
「不思議な事があったとかでもいいよ!?」
「それって、結局意味は一緒じゃん!!」
「いつもはしない事とか…!!」
ぐいぐい聞いてくるみんなの白熱した問いかけに戸惑いを見せるショウリン。目の前にはお菓子が大量に置かれていて、全てみんながショウリンにあげたものだ。
もらったお菓子を食べながら、記憶を掘り下げていくショウリンにミナホはジュースを渡す。
「ん~とね…。パパがなんかおかしくなったのは2週間前からかな?」
「そういえば言ってたね…。どんな感じでおかしかったの?」
「何をしていても、ボ~っとしていて、家事や仕事にも無関心になっちゃった…。
それで、夜にどこかに出かけて、朝になったら酔っ払って帰ってくるようになったんだ。でもあの夜は、もっとおかしかった。
夜になっても帰ってこないから、ご飯食べようってキッチンに行ったら、電気も点けないでそこにパパが立ち尽くしていたんだ。びっくりして、悲鳴あげたけど、怒るどころか、僕にも気づいていないみたいにずっと立ち尽くしてたんだ。その時には既に包丁を持っていて、一緒にご飯作るんだって嬉しかったけど、パパが……。」
その時の事を思い出したのか、顔色が悪くなり、慌てて御神が頭をポンポンっと撫でる。
「ああ~! ごめん!! 辛い事、思い出させちゃってね!ごめんね!!」
「ううん…。大丈夫。ありがとう、御神さん。」
胸を撫で下ろす御神の後ろでホムラが顎に手を置き、何やら考えるポーズをとる。
「って事は…、ショウリンのお父さんの様子がおかしくなったのは2週間前からって事だね。そのあたりのお父さんの行動を調べてみたら、誰と接触したか分かるかもしれない。」
「2週間前か…。情報を集めるのは厳しいとは思うけど…。定期的に行っていた場所とかあればな~。」
「それなら、パパがよく行っていた酒場があるよ! 」
「そこの場所教えてくれる?」
「うん!あっ!でも今行ってもオジサンに話を聞くのは無理かも…。」
「どうしてなの?何かあるの?」
「酒場のオジサン、少し前にママと同じでいなくなったんだよ。それで今はオバサンが切り盛りしてるよ。」
「ちょっと待って!! ショウリンのお母さんって、いなくなったっていうのはその…死んだとかじゃなくて?」
「違うよ。突然いなくなったんだ。置手紙もなかったよ。」
”いなくなった”の意味を誤解していたみんなは今の事実に衝撃が走る。てっきり死んだとばかりに思い込んでいたため、フリーズする。
暁彰がいち早く復活し、ショウリンに詳しく聞く。
「ママがいなくなったのはいつのことだ…?」
「えっと、3週間くらい前…。そういえば、その時もパパはなんだかおかしかったような…。」
「わかったよ…。じゃ、ショウリンのパパとママの情報を調べよう!!」
「もしかしたら、ママがどこかに生きているかもしれないしね!!」
「よし!!じゃ、みんな!!行くよ!!」
くろちゃんが号令をかけ、みんなは情報集めに帝都へと乗り出す。ショウリンはミナホと一緒にお留守番。まだギルドに入って間もないショウリンは魔法師とはまだまだ未熟な子供だ。だから、もしもの場合に備えて、ギルドで待機してもらう事にした。そしてすっかりショウリンに懐かれてしまったミナホに世話を頼み、出かける前に聞いたショウリンが住んでいた住所や行きつけの酒場等へと分担して向かう。
「みんな…、大丈夫かな…?」
「大丈夫だよ! さぁ!ショウリンは基礎魔法学の勉強をしようか?うちが教えてあげるから。」
「魔法は使わないの?」
「知識がないまま、魔法を発動したりしたら、それこそ失敗して怪我をする可能性が高くなるよ。だから、まずは魔法とは何か、学ばないとね!じゃ、これを読んでみて!!」
そう言ってショウリンが受け取った本は”ものすご~く分かりやすい基礎魔法学入門書”だった。今まで”眼の力”のコントロールばかりをしてきたから、魔法はまだうまく使えないショウリンはまたママに会えるかもしれないという想いを募らせ、ミナホとの勉強を取組む。
★★★
一方、中心街に辿り着いたみんなは分担し、情報を集めていた。しかし思ったような手掛かりは得られず仕舞いだった。というのも、聞きたい人とは都合を付けられたり、いなかったりと話を聞けないのだ。
途方に暮れ、困っていると、くろちゃんと行動しているちゃにゃんが提案する。
「ね、くろちゃん? 念のため、ショウリンの実家に行ってみたらいいかも。何か手がかりに繋がる物があるかも。」
「…そっか!じゃ、場所も分かっているし、行ってみよう!その後、他の場所で情報収集しているみんなと合流しよう!!」
そして二人はショウリンに教えてもらったショウリンの実家へと足を向かわせる。
ショウリンの家は中心街にある住宅街の一角にあった。鍵となる起動式はもらっていたから、すんなり中に入ったくろちゃんとちゃにゃんは誰もいない家の中を捜索し始める。
余談だが、帝都の住宅には家一つずつに無系統魔法のロックシステムが備わっていて、それが鍵の役目を担っている。家の中に入るにはその起動式を玄関の認識コード盤に読み込ませるのだ。ちなみにこの起動式を知るのはその家に住む住人と起動式を徹底管理する帝国直轄警備庁のデータバンクの中だけ。
だから帝都での強盗検挙率はほぼ0%といっていい。
まぁ、そんな訳で、話を戻す…。
鍵を開けて、家中を捜索するくろちゃんとちゃにゃんは違和感を感じていた。
家中をくまなく捜索し、手掛かりになりそうなものを探していたが、妙に片付いてい過ぎる事に違和感を感じたのだった。
「くろちゃん…。これってなんだかおかしくない?」
「ちゃにゃんもそう思った?まるで証拠隠蔽を謀ったみたいなすっきりさだよ…。」
ちゃにゃんは棚の上を指でなぞり、それをくろちゃんに見せる。その指には埃も塵も一つもついていなかった。
「ショウリンにこんなに高い所なんか掃除もできないし、ましてや魔法を使ってそうじなんかできないにゃ。」
「うん…、ショウリンのお父さんも家事をしなかったようだし、お母さんも3週間前に行方不明になって、帰ってきていない…。それなのにこんなに綺麗に掃除されているのは不自然だよね。」
「私達が来る前に誰かが来たのかにゃ?」
「そうかもしれない。一応、警魔隊の駐屯所にも行ってみようか。もしかしたら捜査等で家宅捜索していたのかも。」
手掛かりになりそうになる物がないと判断し、警魔隊の駐屯所に行こうとしたくろちゃんとちゃにゃんは壁に飾っているショウリンの家族写真に目が移る。そこには家族が幸せそうに笑って、写っていた。
しかし、なぜか傾いていた。しかも、その下の写真立達も雑に置いてある。
「何でここは大雑把なんだろう?」
「きっと、片付けした人が違うんだろうね…。」
呆れつつもくろちゃんは壁の家族写真を綺麗に戻す。そして、家族写真に写る時計の異様さに気づいた。
写真の時計が何故か”3時半”になっていたが、短針がまっすぐに3を指していたからだ。
「ちゃにゃん!!この写真見て!!」
急いでちゃにゃんを呼び、不自然な時計を見た二人は同じ光景の部屋を探し、その時計を見つける。その時計は子供部屋の物だった。試しに写真と同じようにしてみたくろちゃん。
すると、物音が天井からしたと思ったら、屋根裏に登れるように階段が現れた。
「うわ!! これは…隠し部屋?」
「くろちゃん!!登ってみようにゃ!!」
屋根裏に登った二人はびっしりと屋根まで積まれた書類や本で溢れている光景に遭遇した。中身を閲覧すると、そこにはショウリンのお母さんが陰ながら集めた未解決事件の情報だった。
「この量は並大抵の物じゃないね…。」
「奥まで続いているよ…。」
想像より多くの情報が広がっていて、奥へと進む二人の前にデジタル机があった。そこには、一冊の日記帳らしきものと伝言カードが…。
その伝言カードをデジタル机に読み込ませ、内容を確認する。そして、衝撃的な事実を知り、ちゃにゃんが持っていた別の記憶キューブでデジタル机に残るすべてのデータをコピーし、机に残されたデータを復元できないように細工して、抹消する。そして日記帳とカード、記憶キューブを持って、家をロックして、外に飛び出す。
それからは散らばったみんなに連絡する。
「あ、御神!! こちら、くろちゃん!! 私たちどんでもない事を知ってしまったかもしれない!!」
『くろちゃんか!?こっちもだよ! いい!?そのまま、ギルドにまっすぐ帰るんだ!!』
「え!?けど、警魔隊に確認したい事があるんだよ!!」
『それなら、今、警魔隊の駐屯所にさっちゃんとルーちゃんが尋ねているから、連絡して聞いておくように伝えておいて!!』
「わかった!!そうする!!」
『…絶対に漏らしたらいけないからね!!』
回線が切れると、くろちゃんとちゃにゃんは顔を見合わせ、ギルドに向かって全力疾走する。
そう、くろちゃんもちゃにゃんは驚愕の事実を知ってしまった…。
世界を揺るがすかもしれない事実に…。
これは何かある予感…!!
とうとうクライマックスへと持ち込んで行けたか…!