魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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ここまで立派な子ってなかなかいないよね…!


強き心を持つ

 

 

 

 

 眠れない夜が明けてじっとしていられなかったみんなは自棄食い、自棄飲みするために大量の料理を作りだしたり、注文したりとギルドの中で慌ただしく動き回っていた。

 そんな時にギルドの玄関が開いて、人が入ってくる。しかし、いつもなら仲間が帰ってくる度に「お帰り!」と盛大に挨拶するのに自棄になったみんなは帰ってきた仲間とお客さんに気づかなかった。

 

 

 「…これまた~朝から結構な量の料理を用意してるね…。朝から胃の調子が悪くなりそうなものまで。それに、あれはどこで手に入れてきたんだろう。豚の丸焼き…。」

 

 

 目の前のいつもと違うみんなの様子に理解はあるものの、自棄が逆に空回りしている感が半端ない光景にどう突っ込めばいいのか分からずにただ玄関先で立ち尽くすしかない。そうしていると、服を引っ張られ、お客人に微笑んで意を決して大声でみんなに言う。

 

 

 「ただいま~~!! 今、帰ってきたよ~~!!」

 

 

 「!!! あれ!? ミナホ…何で…! ああ、そうか。お帰り!!」

 

 

 帰ってきたのは昨日、警魔隊の駐屯地でお泊りしていたミナホだったのだ。ミナホのただいまコールに気づいたみんなは料理の準備の手を止め、今できるだけの笑顔で迎える。活気溢れるいつもの自由なROSEにするためにミナホもみんなのノリにのる。

 

 でも、その前に…。

 

 

 「みんな、紹介する人がいるんだ。この子から言いたい事があるみたいだから、聞いてあげて?」

 

 

 ミナホは駐屯地から帰る際に一緒に連れてきたお客人の背中を軽く押して紹介する。そのお客人の姿を見て、みんなは目を見開いて驚く。

 だってミナホに促され、前に進み出たお客人は昨日の助けを求めてきた男の子だったから。そして…、昨日自分達が殺した男の子供。

 

 みんなはどう接したらいいか、声を掛けるべきか思考停止している頭に鞭を打って、一生懸命考えていると、男の子が子供とは思えないほどのしっかりとしたお辞儀をしてはっきりと挨拶する。

 

 

 「おはようございます!! 僕、ショウリンといいます!この度は助けていただきましてありがとうございます!それで…!僕、皆さんにどうしても言いたい事があって…!」

 

 

 緊張しながらも必死に感謝を伝える律儀な姿に思わず聞いている皆も背筋を伸ばし、緊張しながら耳を傾ける。

 

 

 「僕…、僕を……ROSEに入れてください!!魔法はまだまだ未熟ですが、練習してもっと強くなります!!それまでは雑用なり何でもしますっ!!だから…!!ぼくをこのギルドに置いてください!!」

 

 

 深く頭を下げてギルド加入の申し込みをするショウリン。

 

 

 みんなは顔を見合わせ、自分達の意見が一致している事を確認し、代表でギルドリーダーのくろちゃんがショウリンの傍に行き、ショウリンの前でしゃがんで、肩に手を置く。

 

 

 「ショウリン君? 顔を上げてくれる?ちゃんと顔を見て言いたいから。」

 

 

 涙を流していたのだろう、顔を上げる前に服の袖で拭って、くろちゃんのお願いを聞き入れ、真っ直ぐくろちゃんを見つめる。

 その視線を受け止め、くろちゃんは微笑みを見せ、返事を告げる。

 

 

 「もちろん大歓迎だよ! ROSEは加入したい人は全面歓迎モードだからね!

  ショウリン君!ようこそ!!ギルド”ROSE~薔薇の妖精~”へ!!」

 

 

 くろちゃんの歓迎の言葉でいきさつを見守っていたみんなは歓声を上げて加入を歓迎する。

 

 

 そして当の本人のショウリンはまさかすんなり入れるとは思わなかったらしく盛大な歓迎にあっけにとられている。

 隣で見ていたミナホはショウリンの頭を撫でて、笑顔でホールを指差す。

 

 

 「よかったね、ショウリン! みんなも歓迎しているし、ちょうどいいタイミングで料理をできているし、お腹も空いているでしょ?一緒に食べよっか!」

 

 

 「うん!! いっぱい食べていい!?」

 

 

 「おお!!用意した料理がめでたい事に使えてよかったぜ!!よし、みんな!!このままショウリンのROSE加入歓迎会だ~~!!」

 

 

 「もう用意はばっちり!!」

 

 

 「早く食べようぜ~!!よく思い返したら、昨日の昼から何も食べてないや!」

 

 

 「それを言うな~~!! 忘れてたのに、思い出したら空腹が…!こうなったら、とことん食べてお腹を膨らませてやるっ!!」

 

 

 「また風船みたいにする気か? この前、ダイエットしたばかりだろ?」

 

 

 ワイワイと完全に復活したROSEのみんなは準備中だった料理を全てテーブルに運んでホールの飾りつけも急いで行う。それを目にしつつ、ミナホは気になっていた事を聞いてみる。

 

 

 「…ところでさ~。あの黒い物体は何?確かあそこには…」

 

 

 指で示した方向をみんなが顔を向けると、そこには黒炭になったでかい物体が焼け焦げ臭いにおいを充満させていた。ミナホは記憶を呼び起こしていた。確かあそこで豚の丸焼きをしながら、その周りを体育座りで囲んでいたみんなが心ここに非ずでいたな~と思っていると、ミナホとショウリン以外の全員が”ムンクの叫び”状態の驚愕と悲しみの顔で駆け寄る。

 

 

 「うわああああ!! なんてことを~~!! 豚ちゃんが~~!!」

 

 

 「おおおお~~~ううぅぅぅ!!すまなかった!! 豚よ!!快く食材へとなる事を了承してくれたお前をこんな…!!くそっ!! 自分がゆるせねぇ~。」

 

 

 「あの身が乗った肉もすたボロに…。哀れな姿に…。うううぅぅ!!」

 

 

 「豚ちゃん…。君の事は絶対に忘れないよ…!ちゃんと君が生きた証を胸に刻むから!」

 

 

 黒炭に向かってみんな謝罪と悲しみを言葉にし、涙を流す。それを無言で冷めた目で見つめるミナホとショウリン。

 

 

 ……つまり、丸ごと豚を焼いていたけど、焦がしてしまったのだ。

 

 

 言っておくが、黒炭豚はROSEが育てた仲間の豚という訳ではない。ただ単に精肉店から丸ごと買ったただの豚である。

 しかし、みんなはその豚を気に入っていたのだ。あの夜の出来事の後、ギルドに戻る時、精肉店のオジサンが肉を買い取っていて、そこで円らな目をした豚ちゃんが目に入り、心が傷ついていたみんなはその瞳に心を打たれ、買ったのだった。

 

 

 (でも、そんな理由で買っておきながら、すぐに丸焼きして食べるのはどうなんだ!!?)

 

 

 「…考えてみたら、炭になっているけど、黒いから黒豚だね!」

 

 

 「黒豚か~! 黒豚って値段高くてお祝い事しか食べられなかったんだ~!!あれが黒豚だったらよかったのにね。」

 

 

 ミナホとショウリンは何とかポジティブに持っていこうと話をしていると、ミナホ達の会話を聞いていたRDCがまさか…

 

 

 「あれ?よくわかったね? そうだよ、黒豚だよ。豚ちゃんは。」

 

 

 「「…………………え?…………えええええええええ~~~~~~!!!?」」

 

 

 そう、まさかの黒豚だったと聞かされ、血相を変えて二人はRDCに近寄る。

 

 

 「それは嘘だよね!? 嘘だと言いなさい!」

 

 

 「そうだ! 黒豚って高いんだぞ!?そんな黒豚を炭にしたなんて信じるもんか!」

 

 

 「嘘じゃないよ!私だっていやだけど、認めるしかこの豚ちゃんを弔う事は出来ない…。」

 

 

 「そうだよ。豚ちゃんの存在を否定なんてしたら可哀想だよ~。」

 

 

 「そこまで言うなら、証明してみてよ!」

 

 

 「わかった!証明してあげるよ!暁彰、お願い!!」

 

 

 売り言葉に買い言葉状態になり、険悪な状況になった空気の中、暁彰が豚ちゃんにCADを向けて、『再成』を行う。すると、豚ちゃんは元の丸焼きになる前の状態に復活する。そして復活したその体の色は黒かった。

 

 

 「ほら!! 黒いでしょ!? だから、これは黒豚だから!!」

 

 

 自分の主張が正しかったと証明できたRDCはミナホとショウリンに威張る。ただし、ミナホとショウリンはRDCは見ていなかった。

 

 

 「………ねぇ、黒豚、炭になってないよね…?」

 

 

 「うん…。これなら、食べれるね…。」

 

 

 「「「「「「「「「「「…………あ。」」」」」」」」」」

 

 

 復活した黒豚を見て、ミナホとショウリンの口から呟き口調で語られた思いもしなかった状況にみんなしばらく固まった。

 

 

 

 

 

 その後は、今度こそ火加減を調節して黒豚の丸焼きを作って、テーブルに並んだ料理と合わせ、ショウリンの歓迎パーティーを朝からお祝いするROSEだった。

 

 

 




ショウリンは偉いよ…!!お父さん死んだのに、生きていくために…。ぐすん!!(泣)


…それにしても、終盤はもう…、やばすだね。温かい目で見守ってください。

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