つらい現実をみんな受け入れ、臨戦態勢を取る。もちろん、そこにはくろちゃんもちゃにゃんも同じだった。しかし暁彰は二人に記録係としてビデオ撮影しておくように頼む。本当は二人を下がらせようと思っていたが、くろちゃんもちゃにゃんも残る事を頑なに譲らなかったため、せめて後方に回そうとして決まった人選だった。
相子視覚認識対応型カメラを元々サーカス鑑賞のの際に撮影しようと持ってきたカメラがこんな形で役に立ってしまう何とも言えない感情に苦笑するくろちゃんは男にカメラ視線を合わせて、改めて暁彰が言っていた事を理解する。カメラに映る彼は一般人にしては強すぎる相子を放出し、さらに拡大化した映像には服から見える肌に直接刻まれたと思われる起動式が放出する相子で光っていた。
その映像を後ろから見ていたちゃにゃんがみんなに伝える。
「みんな!! 彼は既に有り得ないほどの相子を纏っているにゃ!恐らく生命エネルギーが尽きてきているみたいにゃ。」
「何だって。それはまずい。彼の生命エネルギーが底を尽きれば、暴走して通り魔に…、いやもっと酷い惨事になるかもしれない。」
「もう時間がないって事だね、一気に蹴りをつけよう!」
「後衛担当は前衛のバックアップをお願い!!」
準備を整えると、男は今までふらふらと立っていたのに急に突進し出した。前衛の御神、ホムラ、ホームズ、サガット、hukaは横に躱し、驚きを見せる。一般人ならまずは無理だろう速さで突進してきた彼の動きに意外感を持って、驚いたからだ。
「見た目に比べて瞬発力が凄いぞ!」
「もしかして、生命エネルギーを身体に流し込んだりして、身体能力を上昇させている?」
「その可能性もあるね。これはもう魔法師との戦闘として考えた方がいいかも。」
自分達の見た先程の動きに対して見解を言い合いながらも男の突進を悉くと躱し続ける前衛。この動きを見極め、どうやって心臓を貫くか作戦を頭で練り上げていると、男は今度は包丁を曲線投擲で真上から御神に向かって、猛スピードで落ちてきた。御神は大きく横に飛び、御神が今立っていた場所に包丁が突き刺さる。しかし、その落ちていく包丁にはかなりの威力がかかっていた事をホムラとサガットは見抜いていた。
「まさか、移動系魔法で加速させたのか?」
「一般人が魔法を使ったのか?」
だから二人は包丁の曲線投擲をしてみせた男が信じられずに呟いたが、ちゃにゃんが言っていた事を思い出し、本格的な戦闘態勢へと移行する。
「そうだった…。魔法の元となる相子を纏っているという事はイコール、魔法が使えるって事だ。何で気づかなかったんだろう。」
「彼が使えるというよりは彼を媒体に魔法発動するって事じゃないかな。しかし、彼をこれまでにした奴がますます許せんな。」
「必ず見つけて、成敗してやる!!」
ホムラとサガットの指摘に他の前衛が見解を述べ、未知なる邪悪な魔法とそれを生み出し、彼を操る姿なき黒幕に怒りを露わにし、ついに止めを刺すため、動き出す。
まず、ホムラとhukaが動く。ホムラが『水龍』を発動し、空気中の水分を振動させて水を作り出し、流体操作で龍のように水を操る。そしてhukaは近くの街灯の火を利用して、周囲の振動、運動エネルギーを使い、加速する事で、更に火を加熱による増幅をし、ホムラと同じく流体操作で炎を操る。そしてホムラとhukaは男の周りに渦巻きのように囲み、水と炎の竜巻を作り上げる。動きを封じ、体力も奪う。サーカスの時の炎獣のショーと水バルーンのショーが交代する時に同じようなパフォーマンスがあり、それを参考にしたのだった。
そして動きを封じられた男は雄叫びを上げ、纏う相子を掌に圧縮していく。相子の圧縮弾を連弾しようとするが、後衛に回っていた暁彰が『術式解散』で霧散させる。それだけでなく、纏っている相子を『術式解散』で吹き飛ばそうとするが、接触型術式解体らしく、上手く取り払う事が出来ない。そこで、御神が穴が開いている上空から水と炎の竜巻の中に突っ込み、男と格闘戦をする。拳や蹴りに無系統魔法で振動を与え、徐々に相子を散らせていく。男はそれなりに格闘術を身に着けており、御神の攻撃を腕や足を使って防御する。しかし、やはり実戦経験と運動の差で御神が圧倒的に有利な展開だ。
これで押していけば、纏っている相子を分散できると思っていたが、最後の足掻きとして男は右腕に全ての相子を集めていく。男の腕は視覚的にも筋肉が異常なほどの膨らみを見せた。それを見て、さすがの御神もこれを喰らうとまずいと判断し、急いで防御魔法を自分自身に掛け、後衛のRDC、toko、ルーも防御魔法や補助魔法を御神に掛けてサポートする。そして溜めきった相子を解放し、放たれた相子弾…というより相子ビームは防御魔法のお蔭で何とか受け流せた御神は自分の身体で隠していたホームズにバトンタッチする。
御神の身体の陰から突然現れ、目にも止まらない速さで男に接近するホームズは硬化魔法で腕を硬化すると、思い切り破壊力抜群の鉄拳を男の頬に喰らわす。そのまま後ろへ激しく飛ばされる男を待ちわびていたのは、止めの魔法発動の準備を整えて待っていたサガットだった。
サガットは路地一帯をし~ちゃんに霧を出してもらい、湿度を高めた後、『這寄る雷蛇』の改良版で雷の網状にして殴り飛ばされて突進してくる男を受け止め、麻痺させた後、雷を密集させていた別の『這寄る雷蛇』が男の心臓目掛けて蛇のようにくねりながらも獲物を逃さずに男の胸に、背中まで貫通していき、穴を空ける。
男の身体から相子に変換させられていた生命エネルギーが相子光となって、男の身体を天に召させるように包み込み、抜けていく。
そして男は四肢から力が抜け、膝を付き、俯せで倒れる。
男は今度こそ完全な死体と成り果ててしまった。
それを『精霊の眼』で確認した暁彰は頷きだけですべて決着がついたことをみんなに伝える。暁彰からの無言のメッセージを受けたみんなはもう動かない男の死体に黙とうをする。
その後はミナホの通報を受けて、警魔隊が現場にやってきて、くろちゃん達が撮影してくれていた映像を元に一連の説明をし、事情聴取を日が跨るまで受ける事になった。
警魔隊も出動前にミナホからある程度の話を聞いていたらしく、説明を受けてすぐに納得してくれた。
事情聴取が終わり、ギルドに戻ったみんなは男の子の将来について考えて眠れず、そのまま夜を明かした。
こうしてROSEのみんなはこの日だけで善と悪に染まった魔法を目にする事になったのだった。
ところで、どこで戦っているのかというと、中心街の路地です。
絶対に騒ぎになるって!!
やばいって!!
「おまえたち!何をしている!」
おまわりが来た~~!!