魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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「さぁ!!本日はお越しいただきまして誠にありがとうございます!!」

 よっこらしょっ。

「あれ?ちょっと待ってください!!まだ挨拶がおわ……」←引き摺って行かれる

はい!!では、どうぞ!!


噂の曲芸一座

 

 

 

 

 「え、なんて言ったの?」

 

 

 大好きないちごパフェを食べながら、くろちゃんとちゃにゃんはやってきたホームズと剣崎兵庫に聞き返す。

 

 

 「だから! 今、この帝都に曲芸一座が来ているらしいんだよ!」

 

 

 「ああ、中心街ではその話で持ちきりだぜ!今日の新聞でも取り上げられているしな。」

 

 

 今日の新聞をテーブルに置き、その一座の事が書かれた記事を指差すホームズ。

 

 確かにそこには帝都に来た曲芸一座についての取材記事が書かれていた。

 

 

 「へぇ~!!なんか面白そうだね!!」

 

 

 「そうだろ!?なんでもこの曲芸一座の見世物を見に行った観客が皆一同に『絶対に見に行くべき!!』って太鼓判を押すくらいらしいぜ!!」

 

 

 興奮しながら曲芸一座の宣伝を話し、それを聞いてくろちゃんとちゃにゃんは少し興味を持つ。そんな時、モニターにその曲芸一座を取材した番組が流れ、くろちゃんとちゃにゃんは食い入るように見る。

 

 そこには番組キャスターの少女魔法師が団長らしき人物に取材していた。その後ろには曲芸一座が披露している大きなテントが映っていた。

 

 

 『こちらが今、帝都で物凄い曲芸が見れると帝都中で口コミの曲芸一座です!なんと、ここ数日だけで観客動員数は1万人を突破しました!』

 

 

 「ええ~~~!!一万人!!そんなに見に行ってるの!?」

 

 

 「口コミってすごいにゃ~。」

 

 

 少女魔法師キャスターの言葉に驚きを隠せないくろちゃんとちゃにゃんは同時にカメラにブリっこする少女魔法師を睨みつける。

 

 

 『そしてそんな大人気の曲芸一座を支えている団長さんに今からインタビューをしちゃいます!!

  よろしくお願いします!』

 

 

 『よろしくお願いします。』

 

 

 少女魔法師の隣には紹介された団長がほんわかな笑顔で挨拶していた。

 そして、曲芸一座の魅力や曲芸の披露を少しして場を盛り上げる。そして終盤になり、団長からのコメントで締めくくる事になる。

 

 

 『私が披露した物はほんの一部しかしていません。これよりも可憐で、衝撃的で忘れられない曲芸をたくさん用意しています。

  ですので、ぜひこの機会に私達、”カバルレ・サマダ大サーカス”へお越しください。最高のショーをお見せいたします!』

 

 

 『はい!ありがとうございました!!以上、美少女魔法師キャスターモモちゃんがお送りしました!キャハッ!!』

 

 

 両手を頬に沿えて、カメラに向かってウイングし、可愛さアピールするブリっこモモにくろちゃんとちゃにゃんは乾いた笑いと冷たい視線で一瞥する。画面の向こうからは男達の黄色い声が漏れ聞こえていた。

 

 

 「…あのブリっこはさておき、確かに面白そうだね。」

 

 

 「うん。しかも団長のカバルレさんの曲芸凄かったにゃ。」

 

 

 「なにせあそこの団員は全員が魔法師で魔法を”魅せる”ために磨いているからね。腕の見せ所がおいら達とは違うのさ。」

 

 

 ……ツンツン。………ツンツン。

 

 

 くろちゃん達と先程の取材番組の感想を話していたホームズは肩を異様にしつこく突かれている感覚を受け、振り向き、後ろで動悸をする剣崎兵庫を訝しく見つめる。

 

 

 「なんだよ、剣。」

 

 

 「………ねぇ!!さっき、モニターに映っていたあの少女!!可愛くなかった!?

  やべっ。どうしよう…。動悸が止まらない…。」

 

 

 「「「……………………」」」

 

 

 顔を真っ赤にして、次の番組に切り替わったモニターをずっと息を荒げて見続けている剣先兵庫を三人は無言で見つめ、呆れのため息をついた。

 そして再び、曲芸一座の話に戻る。もちろん、妄想花畑に出かけてしまっている剣崎兵庫は横に置いといてだ。

 

 

 「じゃ、ギルドのみんなと一緒に見に行こうよ!!」

 

 

 「だったら、みんなに早く伝えておかないとにゃ。」

 

 

 「そうだな。曲芸一座はいつも全席完売の大人気だからな~。急がないと、一座のお披露目が終わってしまうぜ!!」

 

 

 打ち合わせを終え、まだ食べ残っていたいちごパフェを食べ始めたくろちゃんとちゃにゃんはふと思い出し、ホームズに聞いてみた。

 

 

 「ところでさ、ホームズと剣崎兵庫は何で女装しているの?」

 

 

 「あ、それは私も最初思ってた事だにゃ。」

 

 

 「「ギグッ!!」」

 

 

そう、くろちゃんとちゃにゃんが言うとおり、ホームズと剣崎兵庫はなぜか女装していたのだ。

 

 

 「しかも、こんな人が多いお店で…。何やってるの?」

 

 

 若干引いた目でホームズ達を見るくろちゃん達に縮こまっていたホームズは言い訳を頭で考えていたが、決定的な理由が見つけられず、ついには開き直ってしまう。

 

 

 「フフフ。別にいいだろ!? こういうコスが手に入ったんだから、一回は着ておかないともったいないじゃないか!」

 

 

 「そうだそうだ!」

 

 

 「本当にそれだけ?…さては、このお店のいちごパフェが食べたいから、女装しているんじゃないの~?」

 

 

 「「ぎくぎくっ!!!」」

 

 

 くろちゃんが何気なく行った理由は二人のハートに図星として突き刺さる。

 

 くろちゃんが言ったとおり、ホームズと剣崎兵庫はこのお店の有名デザートであるいちごパフェを食べに来たのだった。

 しかし彼らがそうしなければいけなかった理由はよくわかる。なぜならこのお店は女性の花園的雰囲気の喫茶店だったからだ。訪れる客はみんな女性ばかり。店内の内装も白やピンクでされていて、とても男性が入っていける場所、いやもう世界ではないのだ!!

 ホームズと剣崎兵庫は甘党だから、このお店のいちごパフェを食べたがっていたが、今まで入る勇気ができずにいた。現に、この店のデザート目的で入ろうと決心し、店内に入った男性がいたが、ものの1分も経たずに号泣しながら外に出てきたのだ。そして散り際に『男ってのは…、不憫だなぁ~…。ガアクッ。』と残して去っていった。

 

 それ以来、この店は”男殺しの花園”と呼ばれていた。

 

 そんな中、ホームズ達はイベントクエストの報酬ガチャで女性コスをゲットしたため、これならあの店に入れる!!と気づき、念願だったパフェを食べる事に成功した。

 だが、一つ誤算があるとすれば、この店に今、くろちゃんとちゃにゃんがいた事だ。店内に入ってすぐ、くろちゃん達と鉢合わせし、女装について聞かれそうになったため、曲芸一座の話をし、話題を逸らす算段だったのだ。

 

 そして油断したために今に至る…。

 

 

 こうして、女装がバレたホームズと剣崎兵庫は他の女性客にもバレ、いちごパフェをテイクアウトし、肩を落とし、ひどく落ち込んだまま店を去っていった。

 

 

 「おいらたちの夢は…、儚かったな~。」

 

 

 「おう…。そうだな~。」

 

 

 異様に落ち込みながら、二人はギルドに帰り、ホームの隅のテーブル席で涙を流しながら、テイクアウトしたいちごパフェをじみじみと食べるのだった。

 

 

 

 まさに、いちごパフェで最後の晩餐的な光景だったそうだ。

 




世の中には入りたくても入れない世界ってあるんだよ…!!


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