二〇九七年、入学式。
第一高校の門前にて、校舎を眺めるのは、今年の新入生総代の三矢詩奈。そしてその後ろで欠伸をしながら付き従うのは、幼馴染であり、詩奈の使用人でもある青年、美浦太一(みうらたいち)だ。
詩奈は目を輝かせて、うっとりとした表情で校舎を見上げている。
「ああ……、ついにこの一高へ通えるのね…!ずっと待ちわびていた高校ライフ~!! あの人と逢えるなんて~!!」
「だからって、何もリハーサル前の自己紹介をするために、わざわざ予定の二時間前に来なくてもいいんじゃないですか?お嬢様。…俺、はっきり言って眠い。」
「何よ、それでも男なの? 根性見せなさいよ!いつ何があるか、わからないから前もって行動することは別に悪くないでしょ?」
「……ご立派な言い分ですが、せめてその顔で言うのはやめてくださいませんか?」
「え? どんな顔? あ、可愛いって言いたいのね!」
「いや、まるで遠足前の幼稚園児みたいにわくわく、そわそわで眠れずに目の下にクマを作っている顔ですね。」
「えええええ~~!! そ、そんな~~!! 何でそんなの分かるのよ!? 出かける前にちゃんとファンデーションでクマを隠したのに…。香水もほんのりとしたのよ!?一睡もできずに夜が明けてしまいましたっていうのがバレバレだわ! 太一に見破られるんだもの。きっと達也様だってお見通しだわ!!」
「…………大丈夫です、お嬢様。クマは見れませんから。俺の思い過ごしでした。」
まさか自分の言ったとおりだった事に内心、少し驚く。しかし、幼馴染が故に大体の事は知っている。それを今更になって驚く自分に苦笑したくなる太一だった。
「…本当に本当!?どこもおかしなところはない!?」
太一に詰め寄って確認を取る詩奈は、大きな目を真っ直ぐ太一に向け、見上げる。慎重で言うと、太一の方が頭一つ分高いため、太一は詩奈を見下ろし、若干照れる。詩奈の上目使いには昔から弱い太一は、目を逸らし、返事する。
「大丈夫ですって。ちゃんと決まってますよ。…ただし、頭の中身までは保障できませんけど。」
照れ隠しに余計な事を言う太一の言葉は詩奈の耳にばっちりと伝わり、詩奈は頬を膨らませて、怒り出す。
「もう! 何でそんな事言葉しか出てこないのよ! 私はトップの成績で合格したんだから!」
「いや、そっちの方は保障できますよ?俺が言っているのは、こせ………うぐっ!!」
太一は詩奈の肘を横腹にダイレクトに喰らい、悲鳴を漏らす。
「今度生意気な事を言い出したら………、今以上の痛みを与えるんだからね?」
心無い笑みを浮かべて、怒る詩奈に太一は命の危機を肌に感じ、口を閉ざす。………とりあえず今だけは。
「そうね~…、早く来てしまったのはしょうがないわ。時間まで敷地内を歩いてみましょう。」
そう言うと、詩奈は門を潜り、一高内へと歩いて行った。その後を横腹を手で押さえながら太一は付き従うのだった。
達也に会いたくて、早く来てしまった詩奈。可愛いな~。そして、幼馴染の名前が分からないので、勝手に「美浦太一」にしてしまいました~。