魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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今日はいい事あったから、ウキウキ気分!!

ウキウキ?ウキウキ…ウッキ―――!!

サルになった私です!!


揺れる心

 

 

 

 

 「”どう生きていけばいいのかわからない”って?」

 

 

 ちゃにゃんが告白してくれた言葉を繰り返し、ちゃにゃんの気持ちを聞き出そうとするくろちゃんはそっとちゃにゃんの手に自分の手を重ねて、リラックスさせた。

 

 

 「うん…。今の私にはまるで二人の自分がいるみたいに心がバラバラなんだ。」

 

 

 「どういう事?」

 

 

 「最初はカバリンの意味深な言葉にあの人はもしかしてこの世にはいないのかもって、そしてそれをマサユキは隠しているんだって思ってた。そして、真相は半分当たって半分は違ってた。確かにあの人は死んでた。でも止めを刺したのはマサユキでずっと黙ってたんだって。

  それを聞いて、怒りが生まれたのは事実だよ。ずっと隠していたんだもん。でも…、何で隠してたのがは分かる…。ずっとROSEで過ごしてきたから。マサユキはいずれは私に話そうと思ってたことも私に全てを話す時の表情で分かった。」

 

 

 そこで、一旦話を区切って、星空を見ていたちゃにゃんはくろちゃんの方へ振り向く。

 

 

 「きっと、私が一人前の魔法師になるまで待ってたんだと思う。そして心を開ける親友…、くろちゃんとこの先歩けるように見守ってくれてたんだって今ならわかる。

  もしあの時…、帝都に着いてから『君の婚約者は死んだ』って告げられてたら私、絶望の淵に立っていた。そして、マサユキと暁彰を怨んでいたかもしれない。本当はあの人をあんな風に亡者にした者…、おそらく、ううん十中八九カバリンに怒りをぶつけないといけないだろうけど、姿が見えない相手より目の前の直接あの人を殺したマサユキ達を徹底的に怨んだかもしれない。

  でもね。くろちゃんと出会って、一緒に仕事やイベントクエストしたり、ROSEのみんなと過ごす内にみんなが、くろちゃんが大事な存在になっていたの。

  だから、くろちゃん達のお蔭で私は絶望の淵に立つ事はない。それはお礼を言いたい。でも…、それが苦しい。苦しんだ…。」

 

 

 涙を一筋流し、胸を抑え、苦笑するちゃにゃん。

 

 くろちゃんはどう言葉を掛けたらいいか分からず、ちゃにゃんの言葉に必死に耳を傾ける。今はちゃにゃんの心に寄り添おうと相槌をしながら聞く。

 

 

 「私、みんなに守られていたって気づいて、みんなの暖かさに触れて嬉しかった。あの人の最期を聞かされたのに、怒りを感じていたけど、寧ろ幸福感で一杯で怒りなんてあっという間に消えちゃった。もうマサユキと暁彰にはただ感謝しかないよ。あの人の苦しみを救ってくれたんだから。だから、ROSEのみんなが好き、大好き!!ずっと一緒に過ごしたい!でも………!!そう思う自分とそうじゃない自分もいて、分からないのっ…!

ううぅぅっ!」

 

 

 とうとう嗚咽を漏らしながら気持ちを吐露したちゃにゃんの背中をくろちゃんは優しく撫でてあげた。

 くろちゃんはちゃにゃんが何で悩んでいるのか少しわかった気がした。もしちゃにゃんのような状況に遭遇したら、自分も悩んでいたかもしれない。ちゃにゃんと同じく、その原因になっている大好きなギルドのみんなの暖かさで苦しんだだろう。

 

 だからか、くろちゃんはゆっくりと語るように泣きじゃくるちゃにゃんの背中を擦りながら話す。

 

 

 「ちゃにゃん…、みんなと一緒にいたいと思っているんだよね?でも、自分が幸せになってはいけない!婚約者に申し訳ないってそう思って、ギルドを抜けたんだよね?」

 

 

 「うん、そうなの…。みんなと一緒に過ごしたいって思う自分とみんなとの日常に、幸せな時間を私だけが味わっていていいのかって悩む自分がいるの。だから、自分の気持ちが片付くまでROSEのみんなから距離を置こうって決めて、抜けたんだ。」

 

 

 「…それで、どうだった?」

 

 

 「…余計分からなくなった。離れたらすぐに気持ちの整理がつくって思ってたんだ。でも、それどころかみんなが恋しくて、早く帰りたいって思うばかりだった!!

  だけど、あの人の事も想うと申し訳ないって気持ちと謝りたい気持ちが交差してもう分からなくなって…。」

 

 

 「謝りたいって、幸せになる事を許してもらう事じゃないよね?」

 

 

 今まで聞いてきた内容を頭で整理していたくろちゃんは引っかかった違和感を問う。

 

 

 「……私、あの時、彼に襲われて、マサユキが止め刺して動かなくなった時、心から喜んだのよ!?やった!!倒れたっ!!って。その前にも彼を痛めつけた。そんな気持ちで最期のあの人を見届けたと思うと自分が憎くて仕方ないっ!!謝りたいけど謝れない!!」

 

 

 しゃっくりを上げながら、後悔と自分への憎さに苦しむちゃにゃん。くろちゃんは『それはちゃにゃんの所為じゃないよ。』なんて言えなかった。確かにちゃにゃんの所為じゃない。悪いのは、婚約者を亡者にしたカバリンだ!でも、それは気休めにしかならないってわかっている。現に、婚約者を攻撃したのは事実だから。

 でも、その婚約者がどんな思いで最期を送ったのかは知っている…!

 今はその事をちゃにゃんに伝えないと…!

 

 

 そう決心し、くろちゃんはバッグからペンダントを取り出し、ちゃにゃんの手の中にそっと置いた。

 ペンダントを見たちゃにゃんは目を見開いて驚く。それはいつもちゃにゃんが付けているペンダントと同じものだった。

 

 

 「それ、マサユキから預かってたんだ。もし、ちゃにゃんがくろちゃんに相談しに来たら、『これを渡してあげて。そして、彼からの伝言を伝えてほしい。』って言われてたんだ。

  マサユキはちゃにゃんの婚約者の最期の言葉をそのペンダントと一緒に受け取っていたんだって。」

 

 

 くろちゃんの言葉を聞いて、ちゃにゃんはペンダントの赤い宝石が組み込まれた蓋を外す。そこにはちゃにゃんと婚約者だと思われる男性とのツーショット写真が入っていた。二人とも、幸せそうに抱き合って笑っている。

 

 泣きながらも婚約者が大事にしてくれていたペンダントを優しく包み、微笑むちゃにゃん。

 くろちゃんはマサユキからの伝言を伝える。

 

 

 「マサユキはそれを託されて婚約者の言葉を聞いたんだって。」

 

 

 

 

  『ありがとう…。あと少しで、僕の大事な人を、殺めてしまう所だった…。はぁ、はぁ、自我を抑えられて、自分を見失ってた。逃げ出した時は、まだあったんだ…、自分が。それで、会いたかった…。ちゃにゃんにもう一度…。会いたかった…。そしてそれが叶った~…。これで僕は心置きなく逝ける…。ちゃにゃんとの約束は守れない、ダメな僕だけど…、ちゃにゃんは幸せになってほしい…。ちゃにゃん…、をよろしくお願いします…!』

 

 

 「うん。分かった!! ちゃにゃんっていうんだね。私達の仲間として大事にするよ。約束する!!」

 

 

 『…ああ。ありがとう。ちゃにゃん…。どうか幸せに…。ちゃにゃんが、笑っていてくれたら僕は、それだけでいい。笑って楽しむ君を見せてくれ…。』

 

 

 そして、息を引き取った婚約者。マサユキは手を合わせ、黙とうする。そして暁彰に『術式解散』で塵にして、供養した。

 

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんから婚約者の伝言を聞きながら、あの時のマサユキ達の行動を思い出して、すべて納得した。そして、婚約者の伝言を噛み締めるちゃにゃんはくろちゃんに泣いてぐちゃぐちゃになった顔を向けて、問いかける。

 

 

 「ねぇ、くろちゃん? 私…、幸せになっていいの? 彼は許してくれるの?」

 

 

 恐る恐る問いかけて、必死に答えを見っている視線を投げてくるちゃにゃんにくろちゃんは心配ないって伝えるように満面の笑顔で頷く。

 

 

 「許すも何も、婚約者はちゃにゃんの幸せを願っているんだよ!?望んでいるんだ!

  …だから、泣くのはもうおしまいっ!! 笑っている顔を見せて?私にも。婚約者にも。みんなにも。ね?」

 

 

 そう答えながら、くろちゃんはちゃにゃんの両頬を引っ張る。引っ張られた頬で唇が吊り上がる。

 

 

 「痛いよ~~!くろちゃん~~!! …ぷっ。ふふふふはははははは。くろちゃん、その顔は止めて!! お腹が痛くなるからっ!!はははは。」

 

 

 さらに変顔するくろちゃんにつられ、笑うちゃにゃん。笑うちゃにゃんの笑顔を見て、一緒に笑うくろちゃん。

 

 

 しばらく笑い合った二人は手を握り合う。

 

 

 「くろちゃん、ありがとう! 私、もう泣かない! あの人が私に幸せになってほしいって言ってくれたんだもん。あの人の分まで私は幸せになってみせる!私決めたから!」

 

 

 「うん!その意気込だね!…でも、ただ話を聞いただけだけど。伝言も伝えただけだしね。」

 

 

 「ううん、そんな事ないよ! くろちゃんだから話せたし、ずっとお礼言いたかったんだ。マサユキ達からあの人の事を聞いていた時、くろちゃんは私の事を想って、泣いてくれた。あれでどんだけ救われたか…。私はくろちゃんっていう親友がいてくれて嬉しい!!」

 

 

 「……なんだか照れるな~。まぁ、ありがとう!!じゃ、ちゃにゃんが笑っていられるように私もちゃにゃんと一緒に頑張るよ!」

 

 

 「ふふふ。”くろちゃんと一緒に歩いていく”って約束したもんね!!また、よろしく!!」

 

 

 「こちらこそ!!」

 

 

 こうして二人は指切りげんまんして約束をし、再び一緒に前に進んで歩いていく事を誓った。

 

 




ちゃにゃんの気持ちを考えると胸が苦しくなるの分かるよ!!

それなのに、私ふざけてごめん!!

お詫びに…、ウッキ~~!!ウキウキウッキ~~~!!

さぁ、笑って!!


あれ?一足遅かったぽい?

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