魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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毎回どうやってバトらせるか必死に考える私。

一方的にならないようにしないと。


理由なき戦い~Final~

 

 

 

 化け物になったシンバが腕を振りかぶって二人に向かって叩きつける。『サイドステップ』で高速移動し避けるが地面に叩き付けられた衝撃波で吹き飛ばされる。あれを直撃していたら、潰されていた。

 

 くろちゃん達にもそれを理解し、さっきまでは余裕な表情も見られたが、今はただ真剣そのものだった。ようやく自らの命の危機だと感じ取った二人はこの化け物を倒さないといけないという考えが芽生えた。しかしそれと同時にそれは命を奪い合うという事も芽生えた。二人は今まで戦ってきたが、戦闘不能にするか、機械や化成体の場合は壊したりしていた。もちろん、帝都での旅の途中に襲われた鎧の亡者の時も、止めはマサユキがし、くろちゃん達は命を奪わなかった。

 

 つまり命を奪い合う本気の戦闘をしてこなかったくろちゃん達にとって、この戦いは恐れるものばかりだった。

 この化け物を倒す。それは、シンバの命を絶つという事。それはあまりにも二人にとっては残酷なものだった。倒さなければ自分が殺される。でも自分達が倒せばシンバが死ぬ。この状況にくろちゃんとちゃにゃんは悔いた。

 

 もっと早くに、こうなる前に魔法を解除させてあげれば…!

 

 二人はそう思っていた。

 

 悔やみながらも度重なる化け物の腕や脚、しっぽを使った打撃攻撃を躱しながらどうするべきか悩んだ。戦いの最中にそれを悩むのは自分の命を危険に晒す事だと分かっていても考えずにはいられなかった。

 

 すると、自責の念と最善の打開策に駆られている二人の頭に直接話しかける声が聞こえた。

 

 ”助けて…。 苦しい…。”

 

 

 「この声…、シンバ!?」

 

 

 ”助けて…! 僕をここから出して…!”

 

 

 助けを求めるシンバを声を聞いて、くろちゃんとちゃにゃんは顔を見合わせ、視線でシンバを助けるために化け物を倒す事を決意する。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは化け物の観察を打撃攻撃を躱しながら行い、特性を見極める。パワーも優れ、瞬発力もある。試しにちゃにゃんが『光学迷彩』や『幻影投影』を発動し、屈折で作るダミーや風景に同化するが、すぐに見極められ、ちゃにゃん本人に攻撃する。どうやら嗅覚で匂いを嗅いで見抜いているようだ。

 

 

 「何だが巨大化した獰猛な猛獣みたいな感じだね~。」

 

 

 「そう考えたら、納得する。」

 

 

 分析の結果、猛獣判断された化け物と化したシンバにくろちゃん達はついに動き出す。

 

 

 

 二人は得意な連携による遠距離攻撃を組み込む。

 

 

 

 まず化け物の視界と嗅覚を阻害するべく、ちゃにゃんが『濃霧」を化け物の周囲に展開する事で視界を奪う。もちろん、くろちゃんと自分の視界は確保する。

 くろちゃんはちゃにゃんの濃霧と同時にマサユキから教わった『マルチ・アロマ』で強烈な臭いを発するエキスが入った複数の液体を空気中に放出し、液体同士を調合したものを濃霧に混ぜて、化け物の嗅覚を奪う。

 

 もちろんこの一帯に濃霧を張っているため、くろちゃん達にも鼻が曲がりそうなほどの臭いを吸う事になるが、そこは魔法師だ。自分自身の顔に空気で作ったエアマスクを魔法で覆っているから臭いに影響を受けない。ただしマスク内の空気がなくなる前に解除するか、新鮮な空気を取り入れないと持たないが。

 

視界と嗅覚を奪われ、濃霧の中を走り回りながら振動系魔法やレーザー魔法を化け物に撃ち込んで攻撃するくろちゃんとちゃにゃんに苛立ち、怒声を放つ化け物と化したシンバ。

 

 そして化け物シンバは反撃に出る。

 

 濃霧と強烈な臭いを消すため、口から火炎の咆哮を放ち、身体を回転させ、周囲に火炎攻撃する。図様しい勢いの火炎方向であっという間に濃霧も臭いも消え去り、辺りは火の海になった。両隣の建物にも炎が燃え広がって、危ないが、中の住人は気付いていないようで、この場とは正反対で、場違いな楽しそうな話し声が聞こえる。

 

 火に包まれながら、高笑いする化け物シンバは視界がクリアになったため、姿を見せたくろちゃん達に目掛けて特大の火炎の咆哮を放つ。広範囲の咆哮に高速移動での攻撃回避は無理と判断し、くろちゃんが『能動空中機雷』をアクティブシールドとして展開し、防御する。それによって、火炎の咆哮と振動による衝撃で相殺する。

 

 

 威力を弱められた化け物シンバは一向に弱ったくろちゃん達にならなくて怒りで鋭い牙がギリリっと歯軋りした。そして、今度は自分の体毛を次々と引っこ抜き、大きな毛の一本ずつに硬化魔法を展開した。硬化魔法がかかった体毛は鋭い槍のようになり、それが無数に空中に浮いてくろちゃん達を狙う。

 

 

 「くろちゃん…、これって…やばくない?」

 

 

 「うん…。 やばす!!」

 

 

 その瞬間、無数の槍のような体毛が一斉に降り注いだ。

 

 くろちゃんは再び『能動空中機雷』で体毛の槍と交戦するが、あまりにも一斉にしかも一か所を集中攻撃され、突破される。突破された体毛は地面に突き刺さったり、ちゃにゃんが『フォノンメーザー』や『ヒートボール』で撃ち落とす。

 

 

 「危なかった。今のがまた来たら、今度は防げるかわからないよ?」

 

 

 「そうだね。体毛とかいってもハゲになってないし…。」

 

 

 くろちゃんの言うとおり、体毛を引っこ抜いた場所は既に新しく生え変わっており、十円ハゲのようになっていなかった。体毛といっても禍々しいオーラを体現させたものだから、毛が尽きる事はない。

 そんな攻撃を数回、降り注いだ。

 

 

何とか持ちこたえたくろちゃん達は反撃に出る。

 

 

 「予定とは少し違うけど、まだ立て直しは出来る!」

 

 

 「むしろやりやすくなったと思えば、いいのね!」

 

 

 火の海のフィールドをまずくろちゃんが両隣の建物に設置されている水道管や水上タンク等から移動系魔法で水を集める。そして、『メトロシュトローム』で渦巻き状の水で放水し、火の海を消し去る。最後に水を化け物シンバに掛ける。

 

 火が消え、びしょ濡れになった化け物シンバとフィールドにちゃにゃんが超レア魔法『ニブルヘイム』を発動させ、凍りつかせる。

 

 氷で足場を固められ、腕も凍りつき、動けなくなった化け物シンバは脱出しようと暴れる。その間に、ちゃにゃんが再び『濃霧』を発動。火の海を消した時にできた蒸気と『ニブルヘイム』での冷気でフィールドは湿度が高くなり、濃霧が更に威力発揮で濃くなる。

 そして、空気中の蒸気を水分に変えて、更に化け物シンバの身体を濡らす。

 

 

 暴れて氷を砕き、腕が自由になった化け物シンバは深くなった濃霧に視界を奪われる。匂いで探ろうとするが、先程の水をくろちゃん達が被って匂いを消していた。

 

 

 「さぁ、これで終わらせるよ!」

 

 

 「いくよっ!!」

 

 

 くろちゃん達は準備が整い、止めを刺す。

 

 

 二人で同じ振動・放出系魔法『這い寄る雷蛇』を発動し、化け物シンバに電撃を浴びせる。濃霧による霧雨と『メトロシュトローム』での水の攻撃で濡れきった身体が更に威力を高める。

 

 

 「がががあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~!!!!!」

 

 

 図様しい威力で辺り一面に電撃というより雷撃が降り注ぎ、雷撃の一部が地面に流れる。くろちゃん達は体毛の攻撃の時に頂戴していた体毛を一本確保しておいたのを『避雷陣』にして、雷撃から身を守る。

 

 

 そうして、『這い寄る雷蛇』の攻撃が終わった後、化け物シンバは黒焦げになっていた。まぁ、元々から黒かったけど、焼けた臭いや焦げた部分は特に黒くなっていた。

 

 そして、意識を失った化け物シンバは地面に倒れた。

 

 

 「…倒せた。」

 

 

 「やったね。倒したね」

 

 

 「…って、そんな事よりシンバを助けないと!」

 

 

 勝利を噛み締めるくろちゃん達だったが、シンバを救出するべく、倒れた化け物の中を必死に掻き探す。禍々しいオーラは徐々に霧散して言っているが、それでも、絵図にしてはこの光景はかなりグロく見える。

 

 それを気にも留めずにくろちゃん達はシンバを探し、心臓部分で蹲って気を失っているシンバを見つけた。

 

 慌てて外に引っ張り出し、呼吸と脈を確認しようと手を持った瞬間、どこからか拭いてきた風、鎌鼬のような風でシンバの胸部に深く抉るように斬った。

 

 突然の事で、意識が追い付かなかったくろちゃん達はただ、もう動かなくなったシンバの亡骸を見続ける。

 

 

 

 

 そんなくろちゃん達に優雅に話しかける声が舞い込んでくる。

 

 

 「こんばんは。御嬢さん達。

  今日はいい夜ですね~。

 あ、申し遅れました。私、カバリン・サイエンと申します。以後よろしく!」

 

 

 魔法で膨らませた地面の上にこれまた優雅に舞い降り、同時にお辞儀する男は、半分だけピエロの仮面をし、紳士帽子に蝶ネクタイ、色鮮やかなスーツの上になぜか白衣を身に着けて突如、くろちゃん達の前に現れた。

 

 




ああ…。 出てきたね~。

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