魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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兎より鼠か?


女豹と女兎

 

 

 圧倒的自分とは違う迫力に怯える千秋だが、ここで一歩でも引き下がるようなら足元をすくわれる事は直感で分かっていた。

 だから、強気で敢えてエリカに皮肉たっぷりな口調で言葉を返す。

 

 

 「ふん、なによ。私は親切に言ってあげているのよ?そいつに教えてもらってもあなた達のためにはならないってね。」

 

 

 「はぁ?」

 

 

 「だってそうでしょ?定期試験の範囲だって、私達と違うんだから。」

 

 

 当たり前じゃないって威張る千秋へエリカは鋭い視線を投げる。

 

 しかし千秋の言葉に対してエリカは何も言わない。この点に関して千秋の言っている事は間違っていないからだ。

 

 今年度から魔工科が新たに新設され、その新設へと動かした張本人である達也も今年から魔工科生となった。二科生から抜け出せたことに達也以上にエリカは嬉しかった。達也が二科生とは思えないほどの実力と実績を見せ、一高にも貢献したというのに、それに見合った態度を学校側がしなかったため、エリカも深雪と同様に達也への待遇について不満も持っていた。達也からしてみれば、別に学校に貢献したかったとかではないから、評価などいらないと興味がない言動を口にするだろうが、友人としてエリカは達也が認められてまあそれなりの学校での地位を持てた事に誇らしかった。

 自分は二科生のままでも、達也や友人達は自分自身を見てくれて、ありのままを受け入れ、接してくれる。毎日同じような日々を繰り返す事がない、飽きずにいられるこの普通ではない日々を楽しませてくれる存在にエリカは感謝を抱いていた。

 

 だから、達也や美月が魔工科に転科した事に関してエリカも、レオももちろん我が事のように喜んだ。

 

 ……あ、話が逸れてしまったが、定期試験は一般知識と魔法知識の科目に分かれ、一般知識の課題は日頃から出されている宿題から評価されるのであまり重要視されない。(そもそも魔法科高校なのだから、魔法を専門的に学ばせ、魔法師又は魔工師への育成に力を注いでいる。他の一般知識に力を入れたお蔭で魔法的知識の欠如で、魔法失敗による魔法師への道を断念する事はないように配慮したため……、と一応学校ではそう校則事項欄に言い訳のように読める感じで書いている。) だから魔法的知識とより実技が評価を受けるのだ。

 しかしここで問題になるのは、エリカ達と達也達が受ける試験内容が若干違う事だ。達也と美月は転科試験をクリアし、魔工科に入ったが、エリカとレオは二科生のままだ。そして達也達魔工科は主に魔法工学を専門的により特化した授業を受けられるようなカリキュラムになるため、定期試験でも魔法工学や複雑な魔法構築が必要な課題等の基準が高い。一科と二科は受ける定期試験の内容は同じだが、魔工科とはその点で違いがあるため、同じ日に試験を受けると言っても、試験内容は異なるものだ。

 千秋が言っているのは、『そういった試験内容が違うのに、違う範囲を教えてもらうなんてどうかしてる。お仲間同士(つまりレオ)でせいぜい頭を悩ませていなさいよ。』という訳だ。

 

 千秋の言葉にエリカは何も言わない。

 

 それを千秋は初めて打ち負かしたと唇を吊り上らせる。しかし、勝利を確信するにはあまりにも時期尚早だった。

 

 

 「だから何? 魔法知識が豊富な人に教わって何が悪いのよ?」

 

 

 ため息を吐いて、呆れた表情で千秋のその勝ち誇った顔を崩したエリカのお蔭で、千秋は固まった。

 

 

 「な…!?何が悪いって…、そ、そんなの決まってるじゃない!?わざわざ教えてもらう事がテストにも出ない、ましてやまったくお門違いの事を教えてもらっているのよ、あんた達!結局はその知識だって名のある学者に認められないと浸透しないんだから、時間の無駄よ!

  そんなことも分からないの!!?」

 

 

 反論している内に声を荒げていく千秋をクラスメイト達が見守る。鑑賞者として見ている彼らの中には、千秋と同じ考えを持っていた者もいた。結局認知されるか、されないかなんて自分達で決められるものではない。なら、その知れ渡った知識の中で学ばないといけないのだ。

 だがそれと同時にそれで良いのかという疑問も湧いてくる。

 

 しかし今の彼らは外野なのだ。口出すする事は出来ない。今彼らにできる事はエリカと千秋を見つめる事だけだった。

 

 

 「何そんなにむきになっているのよ、あんた。

  ……一つ聞くけど、あんたは魔工師になりたいの?」

 

 

 「ええ、そうよ! 魔工師になって、そいつより性能良いCAD作ったり、魔法開発したりして有名になって名を上げてやるんだから!!」

 

 

 「…なら、なんで必要ないって斬り捨てるのかしら?」

 

 

 「……え?」

 

 

 「魔工師になろうってしているなら、魔法に対する知識も相当なくてはならないんじゃない?間違った知識を持って新しい魔法を作ったりしたら、それこそ大問題よ?」

 

 

 「そ、それは…」

 

 

 「大体学校の成績にばっかり囚われすぎるんじゃない?確かにいい成績を取るのは目指すべきだと思うけど。でもそれが目標になってたら、その目標がなくなったときどうするのよ。学校で教えてもらう事はあくまで基礎よ。その基礎を使って自分なりの応用にしていくのが求められている事でしょ。

  魔工師や魔法師になろうと言うんだったら、まずは学校という狭い世界から出て魔法社会に入った時、今まで身に付けた経験や知識をどう活用できるか…、それを考えておかないと、ね。」

 

 

 エリカが門下生達に説教する様な口調と眼差しで語っているのを、レオは唖然となって見つめていた。美月はエリカを凝視して、両手を顔の前で合わせて感激していた。

 そして達也は、いつもの猫っぽいエリカとは違う女豹モードに入ったエリカを見て、内心面白い物が見れたという満足感に浸って、傍観者に徹していた。

 

 

 「私は魔法師に将来的にはなってるんだろうけど、魔法を使う以上知識は持っておかないと。だから達也君に教えてもらってるのよ。定期試験だから範囲だけ教えてなんて思っていないしね~。」

 

 

 「……っ」

 

 

 エリカの話を聞いて、千秋は反論できなかった。エリカの話は千秋にとって十分すぎるほど納得できるものだったし、単なる嫉妬心や嫌悪感で喧嘩を振った自分が恥ずかしくなった。

 顔を真っ赤にして悔しがる千秋を見て、もうこれ以上言う気もなくなったエリカは、女豹だった雰囲気を消し、いつものマイペースに戻るのであった。

 

 

 「あ~あ、ようやく理解してくれてよかったわ~。でも馬鹿馬鹿しい話しちゃった~、やっぱりここじゃ勉強なんてできないよね~。」

 

 

 内容として決して馬鹿にするようなものではなかったのだが、エリカが言っているのは「そんな当たり前な事を今更になって言わせないでよね。」という千秋の言葉をそのまま返した宇浦の意味合いを込めたものだったのだ。それを正確に理解した千秋は更に悔しくて唇を噛み締める。

 

 エリカはもうどうでもいいような表情で、達也達の元へ戻ってきた。

 

 

 「ごめん、達也君。少し休みすぎちゃった。」

 

 

 「いや、大丈夫だ。ほら、エリカも座ったらどうだ?勉強するのに立ったままじゃやりにくい。」

 

 

 達也はさっきまでの教室で起きた出来事を完全になかった事のようにスルーして、中断していた勉強会を再開する。達也もエリカをそろそろ止めた方がいいだろうと思っていた所で、エリカが自分で鎮火してくれたので、事なきを得たのだ。

 

 

 まぁ、結局お互い気まずい空間の中で勉強し続けるのは難しいと言う事が、レオや美月(特に美月は気になって完全には集中できていなかったのだ)の取り組み方で分かったので、達也達は図書館へと場所を変えて、定期試験に向けて追試を回避するためにも真剣に取り組むのであった。(ちなみに追試を取らないように頑張っているのはお間の所レオだけだが。)

 

 

 

 …後余談だが、達也達が図書館へと向かうため教室を後にした時、教室に残っていた魔工科のクラスメイト達は肩を落としていた。なぜならエリカ達が達也に勉強を教えてもらう事を聞き耳立てていた彼らが、それを少し離れた場所からでも聞こうと思って、教室に残っていたからだ。部活も休んだ生徒もいるくらい、日頃彼らが達也に頼っている証拠なのかもしれない。しかし、達也達がいなくなった事で、それができなくなり、落胆しため息を吐くのだった。

 

 




一日少しずつ積み重ねていき、何とか書き上げました~。

大変お待たせして申し訳ありません。
さて、この後は再び話を戻し………、ていく予定です、はい。(汗)

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