空に浮かぶくろちゃん達を地面に重力で押さえられ続けているシンバが首をゆっくりと動かし、くろちゃん達に目を向ける。その眼には怒りが感じられる。
怒鳴りたいが押さえられ続けているため、言葉が出ない。
だから呻き声を上げて、ただひたすらくろちゃん達を睨むしかない。
そんなシンバを見て、何を思ったのか突然くろちゃんが「キャ――――!!」と悲鳴を叫ぶ。スカートを抑え付ける仕草付きで。
「ちゃにゃん~!! 今、シンバが私のスカートの中をじーっと見てたよ!!」
「やっぱり? さっきからそんな感じに見えてたんだよね。まぁ、私はショートパンツ履いているから別に見られても大丈夫だけど?」
「何だと!? ちゃにゃん! そこは乙女としてパンツ一丁でスカートを穿くべきだよ!」
「…一体何を期待しているのかな?くろちゃん? シンバよりも先にやられたい?」
「大丈夫です! 頑張らせていただきます!(…それも悪くないかも。(///▽///)***)」
くろちゃんのヘムタイ気質が出たところで、未だに空に浮かぶくろちゃん達を睨むシンバを今度は真っ赤な顔になって、重力を更に強くする。
「シンバのエッチっ!! 私のいちごパフェ柄のパンツを見てガタガタ喜ぶなんて最低っ!!」
シンバは更に強まった重力の中、必死に耐えていた。身体は重力の所為で、ビジビジと音を立てて、骨が疼いている。疼いているというよりは折れる一歩前までに迫っている。内臓も刺激され、血を吹き出す。その状況に更にくろちゃんはヒートアップする。
「鼻血出して、萌えるなんてとんでもないエロだねっ! 産んでくれたお母さんが泣くよ?」
酷い妄想をするくろちゃんに今まで黙ってたちゃにゃんが突っ込む。
「いや、エロで、ヘムタイなのはくろちゃんだから! 抑え付けられて骨が悲鳴を上げて、内臓の損傷で血を吐いただけだから! どんなフィルターレンズを目に入れたらそんな妄想ができるのっ!?
そして一番気になるのは…、」
「何?」
・・・
「何でパンツの柄がいちごパフェなの!?」
「何でって、いちごパフェが好きだから。」
「普通はいちごパンツが主流でしょっ!」
「えっ、だめ~? じゃ、今度いちご大福のパンツ穿くわ!」
「そういう意味じゃな~い!!」
パンツの事で漫才の如く議論するくろちゃんとちゃにゃん。”だからバトル中だから。いくら親友でも、こうまで変わってたら、何をしてくるかわからないのに。油断大敵だ。そしていい加減飛行魔法を解除しろ。無駄な体力消費に繋がるし、そうやってシンバの真上で浮かんでいるからパンツがどうのこうのっていう事態になるんだ!”と真面な人間がこの場にいたらそう言っただろう。
・・・・
しかし、この場にはそれを突っ込む人間はここにはいない。
ところで、くろちゃん達が無事なのは、『サイドステップ』で攻撃を躱していた時に加重系魔法で、自身の周囲に接触した物や魔法攻撃の威力を変化させる障壁を展開する『グラビティフレーム』をマルチキャストしていた事で双剣の斬れ味の乗った剣筋を緩和し、さっきの『ディバイドレーザー』もブロックしたのだった。
すっかりとシンバ対策を研究し、練っているだけに抜け目がない。
しかし、シンバはこの程度で終わらなかった。というより、遊び足りなかった。
「…ぅぅうおおおおおおお~~~~!!!」
力を振り絞り、右腕を振り上げると、拳を地面に撃ち込んだ。すると、拳を撃ち込んだところから地面に亀裂が入っていく。『殴打』で腕の周囲を硬化させて、くろちゃんの加重系魔法の威力を利用して撃ち込んだのだ。
そのため、地面に亀裂が入ったために、地面が砕け、くろちゃんが設定した”シンバを基点とした周囲の地面への重力加重”の加重系魔法が破綻し、魔法が解除される。
自由になったシンバは鋭い目つきで、歯も剥き出しにし、足元に重力慣性の魔法を発動し、ウサギのような高いジャンプ力を発揮し、飛行するくろちゃん達に迫る。シンバの手には拳でも剣でもなく、魔法で繰り出した空気を固めて集めた鋭い爪があった。
「斬らせろ~~!!」
凶変したシンバは目を充血させ、瞳孔が開き、血に飢えていた。
そんなシンバに咄嗟の反応に強いちゃにゃんがシンバに『落雷』を命中させる。威力は動きを鈍らせる程度だが、長時間重力で抑え付けられていたせいで、呼吸が乱れてさっきの攻撃で体力は精いっぱいだった。
シンバは剣術や高速移動など戦闘的な面は強く、体力もそれを支えるだけの力はあったが、まだ未発達の身体で無理をして、身体を痛め続けていた。
だから、落雷の衝撃を受け、地面に落ちたシンバの身体は全身打撲や骨折等で痣が多数でき、これ以上の攻撃は困難だった。
飛行魔法を解除し、シンバと一定の距離を保った後、シンバにくろちゃんは問いただす。
「シンバ…。自我がまだあるなら、答えて。シンバにこんな事させた奴がいるはずでしょ? 誰か答えなさい。」
「…………」
「このままではいいように利用されるだけだよ? 教えて?」
「…………」
「だめだね…。」
一向に無口なシンバにこれ以上は無理かと思い、ちゃにゃんが無系統魔法を展開する。せめてシンバに掛けられた精神干渉系魔法?を解除するため、サイオンを圧縮させていく。
すると、ずっと無口だったシンバが大声で笑い始めた。目はずっと空を眺めているけど、目には空は映っていなくて、殺気交じりの視線を投げていた。
高笑いを気が済むまでした後、突然止め、苛立ちと殺意を強めたオーラを放つ。
それが、どんどん集まっていき、目に見えるようなどす黒い霧へと変貌する。
そして、シンバはもう動くのも痛くて立てないのをお構いなしに立ち上がり、だらりと骨折で使えない腕を垂らして、前かがみになる。
「何で…何で…何で何で何で何で何で何で!!!!!
何で切り刻ませてくれないの~~!! 血が噴き出すあの最高な瞬間が好きなのに~~~!!」
激昂したシンバの怒りの言葉は発するたびに空気が痛むような錯覚がした。
「シンバ? 落ち…」
くろちゃんがシンバの心情を落ち着かせようとするが、禍々しくなっていくオーラがシンバに引き付けられるかのように集まっていき、その力に持っていかれないようにするしかなかった。どんどん集まっていくそのオーラに包まれながらシンバは瞳孔を開き、くろちゃんとちゃにゃんの姿を見詰める。
「でも、もういいや…。僕、もうこんな遊び疲れた。
だからね~、もっと恐怖を与えてあげる遊びに変更するよ!
最高の絶叫を聞かせてっ!!」
その言葉を最期にシンバはどす黒いオーラに包まれ、呑みこまれた。
そして、辺り一帯から同じオーラを呼び寄せているかのように蛇のような動きでどんどん集まっていき、大きくなる。
くろちゃんとちゃにゃんは距離を取りつつ、大きくなる塊を観察する。
そして、現れたのが…、
得体の知れない禍々しい身体をし、鋭い牙を無数に剥き出しにし、全長が両隣の建物と同じくらいの高さ(くろちゃん達の10倍位)をした化け物だった。
もうそこにはシンバの姿は一切なかった…。
その化け物はくろちゃん達に向かって雄叫びを放つ。それだけなのに腰に力を入れてしっかり立ってないと吹き飛ばされるほどの威力だ。なんとか耐えた後、再び化け物を凝視する。
「…シンバ。」
あまりにも信じられない光景にくろちゃんとちゃにゃんはぽつりとシンバの名を呟いた。
いちごパフェパンツにいちご大福パンツ…。
それってどこで売ってるんだろう…?