「……つまり世界を欺くどころか、逆に世界に欺かれる結果になってしまうんだ。」
「へぇ~、前に達也が『魔法は世界を欺くモノだ』って言っていたけどよ?逆のパターンがあるんだな~。」
「そうですね…、正しい道しるべを辿らないと弾かれ、失敗するという訳ではなく、”失敗した”という真実を認識しないなんて、そんなこと知りませんでした。」
「要するに~、こうでしょ?
詐欺師が『今からあなたを騙します!』って意気込んで騙しに掛かったら、今までの常套手段での騙し方をしてみたら、それがうまくいかなくて逆に詐欺師自身が騙されちゃうって事よね?しかも自分が騙されちゃっている事に全く気付かないって…。」
「なぜそんな例えになるんだ?…まぁ、分かりやすく言うならそういう事だな。」
「ええ~、だってあの時、雫が言っていたのを使っただけだけど?『魔法師は世界に対する詐欺師』なんだって。」
「よく覚えているもんだな、エリカ。」
「達也君の親切な解説と雫の発想のお蔭でね~。」
「でもよ?それってつまり間違った魔法知識を気づかないまま一般論として広めちまっているって言うのはどうかと思うぜ。お蔭で間違って覚えるところだったって言うのによ。」
「あんたの場合間違えて覚えるんだじゃなくて、脳みそがパンクするの間違いじゃない?」
「何だと、このアマ~! 達也に教えてもらったのに理解できるわけねぇ~だろ!?」
「そう? 理解に頭が追い付いていない人たちがいるのに?」
そう言って、エリカが視線を投げた先にいたのは、未だに教室にいるクラスメイト達だった。さっきから達也の解説に耳を傾けていて、中にはメモを書き込んでいるクラスメイトまでいた。エリカの視線を受け、慌ててうう人達と話し出すクラスメイト達を見て、達也は彼らもエリカ達に発破掛けられた形で試験勉強をしているんだと考えたのであった。実際は少し違うが。
「レオの言いたい事も分かる。だが公式で発表された以上、それを間違いだったと訂正するには時間と整理が必要だ。」
「間違いだった事を素直に謝ればいいのではだめなのですか?」
「この問題自体、当事者達が逆に魔法改変した事に気づかなかったとしても、第三者からの意見という事で気付く可能性だってある。既に発表されているのだから、各国の魔法研究者や軍等でも使用されているはず。その際にレオみたいに違和感を感じ気付く奴はいただろう。そしてそこから自分達が間違っていた事に気づいた。しかしそれを今になって『この研究は間違っていました』というのは、余程の魔法の発展に力を注ぐ純粋な人間ぐらいだ。」
美月の問いかけに達也は苦笑しながら答える。
「問題の元となっている論文は、既に各国に流れている。そこで撤回をいうものなら、その論文を発表した学者の魔法研究に歯止めをかけるようなものだ。つまり、自分の過ちを全世界に認知させるのだから、イメージダウンは計り知れない。そこで、更に魔法研究の依頼も回ってこなくなれば、それは信頼が下がったという事に他ならない。しかも魔法研究業界では名が知られている者ほど効果は大きい。今回の学者もかなり名の知られた人物だ。可能性は限りなく低いだろう。」
「そんな…。自分の保身のために間違いを正さないなんて、そんなの酷過ぎます!」
「要は自分が一番って考えてるやつだろう?……ぶん殴って意識切り替えさせるか?」
「あんたみたいにすぐに理解なんてしないわよ。捻くれているから黙っているんだから、ここは身体を真っ二つにするって言った方がもっと効果的よ。自分大好き人間なら。」
レオは両手の拳を合わせ、エリカは女豹のような人の悪い笑みを浮かべている。言葉でも分かるように二人ともご立腹だ。顔も浮かばないこの問題の定義となる論文を発表した魔法研究者へ怒りよりも殺意が勝るくらいの迫力をぶつけているのだから。(美月はエキサイト寸前まで怒っていた。)
このままでは三人とも何をするか分からないと考えた達也は、消火活動を止むなくすることにした。
「そうだな。しかしこれはあくまで可能性の話だ。俺としてはこの学者はまだ間違いに気づいていないと結論している。そもそもこの魔法を使うと、魔法を発動したものだけでなく、その周りにいた者まで影響を与えてしまうからな。第三者と言っても、魔法の効果範囲から離れていて、かつ魔法発動によって起きる想子の微妙な変化に敏感でなければまずは違和感を覚えないはずだ。
だから三人とも落ち着け、特にエリカ。殺気が漏れているぞ。」
「あ、ごめん。…でも気付かないって逆にその学者さんはお馬鹿さんなのかしらね~。」
「俺は魔法の性質を間違って理解しているとは思っているが。まぁ、まだこの問題に対してはこの論文が正しいと評価されている。テストでは今まで通りに記述した方がいいだろう。」
「ええ~~!!? 間違っていると分かっているのに、わざわざそれを分かっていない人のために親切に間違ってあげるとか意味わかんないんだけど~?」
「俺も。もう達也の説明で納得しちまったお蔭で、前の答えをどう書けばいいかわかんなくなっちまった。」
「それでも世間に認知されている方に合わせておかないと、例え正解でも間違いだと受け入れないのが”社会”だ。」
レオとエリカはいくらかさっきはなくなったものの、まだ納得できていない。もう学者に対してはアマチュアな印象しか受けていないが、そのお蔭で自分達の試験の結果に影響し、点数が下がってしまうかもしれないというマイナス面が生じる可能性に不満が残ったためだ。
魔法を学んでいる自分達にとって、今誤った知識を取りこめばどうなるか分からないはずはないのに。
しかし達也の消火活動はここで終わりではなかった。最後の締めに達也は、口を開く。
「たとえ試験でそうなったとしても、あくまで学校での評価に対する成績の材料にされるだけだ。この問題以外にも試験には出てくる。それから点数を確保すればいい。
…それに、今この問題の真実を知っているのは、この場にいる者だけだ。…つまりレオ、エリカの方がこの問題に関して論文を発表した学者よりも理解しているという事だ。」
最後に人の悪い笑みを浮かべた達也に、レオもエリカも笑みを浮かべる。達也が何を言おうとしたのか、分かって優越感を感じたからかもしれない…。
「そっか~。学者よりも理解している、ね。」
特にエリカはざま~見ろと言わんばかりの態度で達也が解説の時に開いて見せてくれた論文が掲載された記事に向かって、見下すのであった。
うわ~、何で議論というか、どんな問題だったのか、皆さんの想像に任せる事にします。
そろそろあの二人をバトルさせたい~!!