「あ、達也君~。お帰り~!」
「お、待ってたぜ!達也!」
「お帰りなさい、達也さん。」
教室に戻ってきて、入り口で立ち尽くしている達也が目に入ったのだろう。エリカ、レオ、美月が達也に声を掛ける。それが幸いしたのかはわからないが、達也も自分の様子を窺い見るクラスメイト達の事は放っておくことにした。特に話しかけられる事もないし、唯盗み見られたりするだけなので、気にするほどでもないと判断したからだ。達也にとってはお馴染みの視線だったという事もある。
そう意識を切り替えると、エリカ達の元へ(と言っても、自分の席に戻るだけだが)向かう。その際、達也の席に座っていたエリカは、ニマニマ笑顔を見せていたが、自分の向かって歩いてきた達也が何かを言う前に、さっと立ち上がり、席を返した。達也は別にエリカに座られていても、立っていてもいいし、他の席に座ってもいいと思っていた。現に隣のクラスのレオは美月の前の席に座って、椅子の背に腕を置いて身体を横にした状態で座っていた。その体勢からは後ろにいる美月に振り向いた状態で教えてもらっていたのだろうと思わせるものがあった。
結局エリカは達也の前の席…、十三束の席に座り直す。達也も自分の席に座りながら心の中で、「始めからそこに座れば、動く事もなかったと思うのだがな。」と考える。まぁそれを言えば、エリカの機嫌が損ない、振り回されるような要求を言われるかもしれないから、言葉にはしないが。
「ああ、待たせて悪かったな。それでどこまで進んだんだ?」
最も別の事を口にした達也だったが、レオが視線を軽く逸らして乾いた笑いをしながら達也に問題が書かれた情報端末を見せる。それを見て達也は口を閉ざす。何も話さなくなった達也の静寂にレオもどんどん不安に駆られる。今にも罵倒されそうな雰囲気が漂ってしそうだからだ。その不安と焦りからか、達也が何も言っていない状態から、レオが必死に弁明し出す。
「お、俺も真面目に解いていたんだ!だけどよ!いまいちピンと来なくて、いくら考えても上手くいかないんだ。」
その証拠にレオが座っている席の机には大量の記述や削除した後等のスクラッチボートモードになった端末があった。短髪の髪も掻き毟ったからか、少し乱れている。相当頭を使って解こうとしていたのだろう。同じくレオの後ろにいる美月もレオに教えていたのか、記述しているが途中から途切れていた。エリカはというと、何問かは解いていたが、途中から解いていない現状を机の状況を見て、把握する達也。
「分かっている。確かにレオがこの問題に違和感を覚えるのは無理はない。」
「え?」
「へ?」
「レオも美月も同じ問題を取組んでいたんだろう?大方レオに美月が教えていたいたが、解いている最中に違和感を感じ、それで詰まってしまった…って所だろう。」
「…まだ何も言っていない状態で的中されてしまったぜ。」
「達也君の洞察眼を甘く見ない事ね。それよりもっとあんたも頑張ったら?初めから美月に教えてもらってばかりだったじゃない?」
「う、俺だって考えてやってみたんだ。全部達也任せにしたら悪いだろ!?」
「はいはい、美月も大変だったでしょ?覚えるのとか容量悪そうだし。」
「このアマ~…、言わせておけば…!」
「そ、そんな事ないよ、エリカちゃん! レオ君が言っていた事、私も言われてみれば何でだろうって思っちゃったし、レオ君が指摘しなかったら、私も気づかなかったから!」
二人の陰険な雰囲気に慌てて美月が仲裁として会話に介入する。それに便乗したのかはわからないが、達也も続いて三人に、主にエリカとレオに向かって話す。それは二人の今にも喧嘩を始めそうな(口喧嘩ではなく、本気の果し合いになる勢いだった)状況を収めるには十分だった。
「美月が言っていたように、この問題の根本的疑問に辿りつけるものはそうはいない。俺はレオの鋭い勘に賞賛してもいいと思う。」
「え?どういう事なの、達也君。」
「この問題は一見見た所ではどの問題ともさほど変わりはしない。しかし、この魔法の起動パターンを固定化させて、他の魔法と同じように当てはめてみると誤算が生まれるんだ。」
そう前置きをした達也は、もう喧嘩の欠片も感じさせないほど達也の解説に耳を必死に傾けるエリカとレオ、そして美月にレオが疑問に思っていた問題について、納得のいく解説をしていくのであった。
魔法知識について省略したり、抽象的にしてすみません。