最近、うちはそう思う事に増えてきた。
「はい、OKです! カメラ確認しますので、一旦休憩にします!次の収録は10分後です!!」
ADがカメラの生放送が切れたと同時に出演者たちに向かって大声で語る。生配信が停止しているのを撮影の際に確認するモニターで再確認したRYUは、他のアイドルや歌手がマネージャーと打ち合わせをしていたり、ヘアメイクをしてもらっていたりするのを収録セットの席に座ったまま、観察する。そして自分はというと、一人でただ収録再開を座って待っているだけなのに気づいて、自分もマネージャーと打ち合わせなどをした方がいいのかと思い至る。しかし、その必要があるのかというと、実のところはない。予定なんてマネージャーに聞かなくても、もう頭の中に入っている。ヘアメイクもする必要がない…。(髪やメイクを弄られて、正体がバレては困るからだ。)発声練習等は論外で、既に喉も仕上がっている。何もすることは無い。そう思ったら、別に周りに合わせなくてもいいのではないかという考えが過る。そうなると、ほんの少しの間の思考だったが、結論が出ると、思いのほかすっきりする事が出来た。
(さて、あと少しの時間、精神安定させておいて、本番に備えておくか…。)
そうして目を閉じ、始まるまで眠っておくことにしたRYU。足を組んで、太腿に頬杖をつき、バランスを取って目を瞑る。愛用の情報端末でお気に入りの書籍サイトを見る事はできないし、他にする事がない今の状況でできる事を消去法で導き出した方法だった。
目を瞑って、周りを意識から外そうとしたRYU。
しかし、すぐそばに人が来た事で、RYUの眠りは残念ながら破断してしまう。瞑っていた目を開け、隣に座る人物に目を遣る。元々気配を察知していたので、驚いていないが、来ないと思っていた人物が不満な顔を向けてくるので、何か自分は間違ったのかと不安になった。
「ねぇ、どうして私の所に来てくれなかったのかしら?」
「…用事はなかったので。」
「私、待ってたんだけど。他のアイドル達はマネージャー達と仲睦まじく会話しているのに、私の方は一人でいないといけなかったのよ。お蔭で馬鹿なスタッフに口説かれてなかなか脱出できなかったんだから。」
「ああ、あれは口説かれていたのですか。それは気付かなくてすみません。ですがあれくらいならあなただけでもすぐに片が付いたでは?」
「ここで目立つ事なんてできる訳ないでしょ? …もう、君に協調性とか、好奇心とか教えてあげたいわよ。」
「それはまたあとで聞きますから。…ところで助けてもらえなかったからという理由だけで、俺の所へ来たわけではないですよね?…響歌さん?」
「ええ、そうね。本題に入りましょうか。…RYU、さっきのフリースローでかなりの出演者から対抗心抱かれてるわよ。いきなりの圧倒的存在感アピールを喰らったんだから、プライドが刺激されたのでしょうね~。」
ニヤニヤとした笑いを化粧した顔でする響歌は、遠くから見れば、妖艶な笑みに見える。RYUは、忠告とも言い難い響歌の言葉に寧ろ楽しんでいるような印象を持った。つい習慣でついた響歌との気安いいつもの話し方になっているのがその証拠だ。
「はぁ~…? あれくらいの事なら皆さんも一緒にしていますし、鍛錬メニューならもっとハードなものをしてますよ。」
「そうだけど、君は今は魔法師でもないただの魔法が使えないアイドルなの。簡単でもそこは手加減してくれないと。…と言いたいところだけど、君には無理だろうし、私もよくやった!って思ったから気にしなくてもいいわ。
どんどんやってしまいなさい!!」
「…結局どっちなんですか?、それ…。」
おそらく応援なのだろうと思う事にしたRYUは、響歌からの情報を頭の片隅に入れ、苦笑する。その瞳には、遠くから自分を窺い見る共演者であるアイドルや歌手たちの萌える様な闘争心を感じる視線とぶつかっていたのであった。
あんなものを見せつけられたのに、対抗心が沸き起こるっていうのは凄いな~って思うよ。
うちも負けられないな!…睡魔に。