魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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達也様のカッコいい場面を披露しないと!!


前代未聞な挑戦者

 

 

 

 

 

 

 

 

 合図が鳴ると同時にゴールも動き出す。

 

 

 しかし、RYUは隣のボールが入った籠に手を伸ばしてボールを取ろうとはしない。寧ろ顎に右手を添えて、片方が腰に手を置き、動き始めたゴールを見ながらまるで考え事しているかのようなポーズを取っていた。着実にタイムが進んでいき、残り時間も無くなっているのにまだ動こうとしないRYUを見て、小さなざわめきが起きる。時間は始まっているため大声でひそひそと話すなんて真似をする人はいないが、マナー的には間違っているので、番組スタッフが静かにするように指示をして回る。その観客達の反応に釣られてしまったのだろう…、手番が終わったアイドル達が階段状になった座席に座った状態で、同じように仲間と声を潜めて話し合う。

 

 

 「おいおい、もう始まってるってのに、あいつは何をしてるんだ?」

 

 

 「怖気ついたんじゃね~の?」

 

 

 「いや彼がそんな真似をするなんて思えないな…。何かを企んでいるとは思うけど。」

 

 

 「僕もそう思う…。」

 

 

 「君達の言うとおりかもしれないね。彼は今はしないだけだと思うよ。」

 

 

 「……何かを待っているのか?」

 

 

 口々で語られる中、ついに開始してから十秒後にRYUが動き始めた。

 

 いや、動き始めたようだと言った方がいいだろうか。なぜならRYUが始めた所を知らないからだ。考えるポーズを止めたと思った次の瞬間、RYUがボールを一つのゴールに見事に決めていた。目で追いつけないほどのスピードでボールを掴み、素早く投げた結果だ。これには観客だけでなくアイドル達も驚いた。それでもこの後も驚かされ続けてしまうが。

 

 

 一投目が終わると、次々とボールを片手で取り上げ、フォームを作らずにまるでゴミ箱に丸めた紙を投げ込むような仕草で投げ始めた。そんな投げ方で動き回るゴールに入る訳がないと見ている人達がそう思った。しかしそんな考えはすぐに放棄する事になった。

 RYUはその投げ方で外すことなく得点を重ねていく。しかも驚く事にゴールを通過したボールが更にその下を動く別のゴールの中へと入っていった。それが立て続けに起き、RYUが投げ始めてわずか五秒で既に得点は二百点になっていた。このゲームでの最高得点をあっさりとクリアしてしまったRYUにも驚くと同時に、変わった方法でのやり方に今までなかったので、絶句するしかなかった。そして残り十秒になった時、後はデーモンゴールだけになった。

 いや、表現するなら残り二回だ。ここまででRYUは普通のゴール達には一つに付き、各二回ボールを入れていた。その過程で言うなら、デーモンゴールはまだ二回とも入れていない。それと別にゴールがまだ一回分残っている物が一つある。残ったボールは後三つ。数的にはギリギリで、失敗は出来ない。

 

 RYUはボールを一つ持つと、デーモンゴール目掛けて投げた。

 

 

 「あの馬鹿野郎…! 直接狙ってもあいつには入らねぇ~!!」

 

 

 「時間も足りなくなってきたし、自棄でも起こしたのかな?」

 

 

 RYUの行動に感想を述べるアイドル達。それを集中しているRYUには雑音にしか聞こえない。それにRYUが自棄を起こす訳がない。実際に呟いた後、彼らは目を見開いて口を開けた状態で固まり、絶句する。

 

 

 「これで終わりだ。」

 

 

 RYUがそう一言つぶやいた時、いつの間に投げたのか、また素早い投げ方で不意を突かれたデーモンゴールに一回、入った。この瞬間息を呑んで喜ぶ観客がいたが、慌てて自分の口を塞いで見守る。

 

 初めに投げたボールはデーモンゴールの意識をそのボールにミスディレクションさせ、もう一つのボールで挟み込む形で見えない動きで見事に得点したのだ。ちなみに初めのボールはデーモンボールに入らなかったものの、跳ね返って軌道が変わり、別のゴールに得点された。ボールに言うのもあれだが、まさに”ただでは転ばぬ”である。しかしあと残りが三秒だ。

 

 残り迫る中、今度は警戒するような動きで小刻みに方向転換しながら動くデーモンゴール。しかしRYUの元には既にボールがない。RYUは両手をポケットに入れ、ゴールに背を向ける。

 

 

 「言ったはずだ…。”これで終わりだ”とな…。」

 

 

 そう呟いたと思ったその時、天井から突然降ってきた…、いや、落ちてきたボールがボールを通過し、その真下にあったデーモンゴールに一直線に二つのゴールに吸い込まれるような感じで入っていった。

 デーモンゴールにボールが入った瞬間、タイマーのアラームが鳴り響いた。

 

 それが合図となり、鼓膜が割れんばかりの歓声が沸き起こったのだった。

 

 

 




な、な、な…!!
達也様、さすがです!! 

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