RYUが登場した瞬間、悲鳴にも近いほどの歓声で歓迎された。失神する人も続出し、観覧席は一種のパニック状態になった。
その反応を見て、番組スタッフ達は失神した人たちの介護にあたろうとする。しかし、失神した人たちの連れが涙を流しながら、テレビ局の審査室へと連れて行こうとした番組スタッフ達の腕を掴んで、連れて行かないように懇願する姿も見られた。
なぜかというと、失神する前から「もし失神したり気絶したりしても絶対にここから動かさないようにして!ここまで来てRYU様を応援できないのは嫌!!」
…と答えていたからだ。
失神しても傍にいたいというファン魂が動かしているためだった。
そんな観覧席側でのやり取りを離れた場所から聞いていたRYUは、『審査室にもモニターはあると思うんだが?』と、どこで自分を見ようかどうか関係ないんじゃないかと苦笑しながら思うのだった。
その一方で、MCは狙い通り、RYUに出演依頼してよかったと視聴率が跳ね上がっている現状に笑顔を浮かべるその裏で、腹黒い事を考えていた。
それでもこのまま番組を続けていく訳だが。
「RYU君はこの番組の初出演だし、この対決もやった事ないんだよね?」
「…ああ。ない。」
「この番組名物だしね。君にも挑戦してもらうんだが…、準備はいいかね?」
MCは口でそう言いつつも、実際は別の事を考えていた。
RYUに挑戦してもらうのは決定事項だ。しかし、ここでRYUがもしろくに得点をゲットできなかったら、この番組の視聴率も一気に下がる。せっかく番組向上のために利用するために呼んだのに、逆に働いてしまっては困る。だから、MCはここである提案をしようかと考えた。RYUが点数を取るためにゴールの速度を遅くしようか、サービス精神をいう事にして申し出ようかと考えた。番組自体の運行もベテランMCである彼に任されている面もあるため、実行する事もできる。
「もしよければだが……」
「準備はとっくにできている。早くさせてくれ。」
MCがハンデサービスを申し出ようかと出した言葉を途中で割り込んでRYUはささっと持ち場についた。
(…仕方がない。ここは言わずにスピードを遅くしておこう。素人には見分けもつかないだろう。バレる事もない。寧ろ感謝される事だろう。)
そう自分に言い聞かせ、美術スタッフに目配せして無言で指示をする。
ボールが入った籠もRYUも隣にセットされ、合図が鳴れば始まる段階まで来た。
観覧席からは応援する声が湧き上がっていたが、集中するRYUを見て、その声も次第に収まり、祈るように手を組んで無言で見つめている。
「……それではラスト、RYU君のフリースローだ! 果たしてランキング上位に入るのか~~!!?」
バァ~~ン!!
合図として用意されていた風船が割れ、三十秒間のフリースローが始まったのであった。
芸能界ではこういう腹黒い人はいるんだろうか?