「…どこに行くんだ?」
楽屋から出ていこうとする響歌に服を脱ぎかけた体勢で止まったまま、問いかけるRYU。その問いかけに響歌はため息を溢して振り返る。そしてRYUを見つめ返す。その表情には照れていたり、恥ずかしがっていたりはしていなかった。まだ着替えようとした段階とはいえ、RYUはTシャツを脱ごうとしていたため、見事に割れた腹筋がかすかに見えているのだ。それを見て照れないのは一般女性にしては普通ではないと言える。
しかし、響歌(響子)は、独立魔装大隊に所属している軍人である。独立魔装大隊に入隊してからは度々行われる魔法師実験で裸体になって、検査を受けたりするのは日常茶飯事なのだ。着替えなんて男女に分かれることは無く、共同の脱衣所で服を脱ぐ。女性は男性の裸体を見る事もあるし、男性は女性の裸体を見る事も珍しくない。このため、響歌は見慣れているし、羞恥を感じるほど集中できないという愚かさとは縁を切っているので、たかが服の下から見えている腹筋を見たからと言って頬を赤らめたりはしない。
そんな響歌なのだが、RYUを見つめる表情には世話のかかる人物に対して呆れているような表情をしていた。
「RYU君…?楽屋の外で待っているに決まっているでしょ?今私がここにいたらいけない事が分からない?」
「? 別に外で立って待つより、そこのソファーで座って待っていればいいと思うんだが?」
「はぁ~…、RYU君は今から着替えするのよ?女性である私が男性の着替えている所でのんきに情報端末でスケジュールチェックすると思う?」
”チェックできる”ではなく、”チェックする”と表現した響歌の言葉でも分かるように、羞恥心を感じるから気が散ってできないという訳ではない。可能性としては出来るが、しないだけだという裏の意図を理解しているので、急に意識してしまったという事ではないとRYUも察した。しかし、それだとますます意味が分からない。
RYU自身も同じ部隊に所属しているので、裸体を見られても別に気にしないし、羞恥心などは感じない。(元々こう言った感情とは縁がないに等しいものだからだ。)
「気にしないだろう?お互い慣れているのだから。」
「そう言う問題じゃないの。
いい?もし私がこのまま楽屋の外に出ずに着替えているあなたと一緒にいれば、それを目敏く見ていた部外者が噂やゴシップを流すかもしれないでしょ。
”今人気絶頂のアイドル、RYUはマネージャーと実は付き合ってる。”…なんて見出しで新聞に取り上げられるのも時間の問題になっていくのよ。
用心に越した事なんてないんだから!」
響歌の説明で、アイドルや芸能界で生きる以上、たくさんの人の目に曝される事もあり、それが好意でも悪意でも引き付けてしまうんだという事を理解するRYUであった。
〇〇の中に入る物は一体~~!!?なんでしょう?