何とか入り待ちを通過して、テレビ局の中に入れたRYUとマネージャー。
響子もフルネームだとまずいという事で、マネージャーになっている際は、名前を『藤森響歌』と名乗る事になっている。髪形もいつものポニーテールではなく、耳の後ろに横結びでシュシュを使って一纏めにしていた。化粧も控えめなメイクをはなく、目力を強くし、色気も感じさせる少し濃いめのメイク仕様になっていた。
見事に別人になっている響子を見て、メイクや衣装だけでここまで変わるんだなという事を心の中で思いながら出迎えに来てくれていたスタッフについていくRYU。しかしそれを言うなら、RYUも同じようなものだから、他人事のように言うのはどうかと思うが。
まぁ、RYU本人もそれほど興味があった訳ではないため、すぐに思考から離脱する。スタッフに案内された自分の楽屋に辿り着いたので、入室する。その際何が言いたげな表情をスタッフがしていたが、何も言ってこなかったので視線で響歌に任せて、先に部屋に入っていく。しばらくして、入室してきた響歌が含み笑いをしながら、RYUをからかうような声色で話しかけてきた。
「ふふふ、人気者は辛いわね~。さっきのあのスタッフさん、RYUのサインが欲しくて頼もうかどうか悩んでいたみたいよ~? 結局あなたが楽屋にさっさと入ったからしょんぼりしてたけど。」
「………面倒な事を言われるのかと思ったからな。」
「”サインぐらい安いものよ。…でもまぁ、今の段階で公私混同させてしまうのはどうかと私も思ったから、今回は目を瞑ってあげましょう。その代わりサインをする仕事は受けなさいよ。」
「仕事……な。」
「そう、今の段階は仕事以外でのサインは禁止。今の状況に火に油を注ぐわよ~。」
響歌が何を危惧しているのか、理解しているRYUは返事として頷く。響歌が行っているのは、さっきのようなファンの騒乱ぶりを言っていた。あのように興奮状態のファンが多い中、サインが手に入れば噂を撒いたり、自分もほしいと欲を見せて待ち伏せが日常化したりとなる恐れがあるため、ファンの統制が形成されるまで仕事でのサイン以外はしないように取り決めする事にしたのだ。それを瞬時に理解し、同感したため、RYUはこれ以上の話をすることは無かった。
「ところで、さっきのRYUのファン対応の事だけど…。」
しかし、響歌は言っておきたい点があったらしく、話を切り出す。響歌はマネージャーでもあるが、RYUがうまく”演じられている”かをチェックしている。まだまだ演技が分からないRYUの演技テストを兼ているのだ。今は二人以外誰もいないので、その評価を伝えるのであった。
「冷たい態度からの、実は優しさも見せるあのツンデレはよかったわよ~。他のファン達もますますファンになったって子が耳に聞こえてきたし。」
「女性の考え方はよくわからないが、響歌がそう言うなら、そうだろうな。」
「何?私も彼女達と同じだとかいう気ではないわよね?」
「いえ、別に。」
「……まぁいいわ。
しっかりRYUの思考を読み解いているみたいで、良好ね。この調子で行きましょう。」
「ああ…、RYUならこうするだろうと思った事をしたまでだ。過去の事を考えれば当然のことをした…はずだ。」
「そういう事にしておいてあげる。
…うん、じゃあ悪いけど、衣装に着替えて頂戴。」
バシッと手を鳴らして気合を入れた響歌は、持ってきていた衣装をRYUに渡して、回れ右をして部屋の扉に向かって歩き出すのであった。
テストというより、確認かな?
設定どおりにRYUが演技られているか?
…詳しいRYUのキャラ設定はおいおい解説を入れつつ、進めていきます。