響子の説教を受けた事もあって、RYUは特に変装する事もなく、テレビ局の入口へ響子を連れて向かう。まぁ、それだけでも少し歩く事になるので、人の視線を受ける心配がある。そうなればあのファン達の群れの中に突入するよりも早くに他の通行人達が気づいて同じ目に遭う可能性が無いとは言えない。(いや、あると言った方が妥当と言えるくらい可能性がある。)
なので、響子が認識阻害魔法を使って、ファン達の群れの数十メートルまで近づくまで存在を消した。街中では魔法を許可なく使ってはいけないが、この辺りの魔法認識装置は既に響子の手中にある。響子が魔法を使うのは造作もない。そしてRYUが魔法を使わないのは二つの理由がある。
一つは認識阻害魔法は人の脳に電波を発し、盲点を突かせるため、一種の精神魔法とも言える。そして達也はその精神干渉魔法に対する適性が無い。だから使おうとすれば時間がかかりすぎてしまって使えない。不向きな魔法だ。その点、響子は古式魔法師の家系で生まれただけあって、得意だ。達也より響子に任せた方がうまくいくと判断したからだった。
そして二つ目は、RYUは非魔法師だという設定を守るためだ。RYUのキャラ設定では、RYUは魔法師ではなく、”才能あふれる一般人”という事になっている。(真夜が設定したものであり、達也本人は自分に才能なんてないと考えているが。)だからRYUとなっている今において、魔法を使う訳にはいかない。まだ知り合いもいないが、ファンの中に鋭い勘を持った魔法師がいないとも限らない。細心の注意を払って魔法を使わない事にする方が今後により良い展開に持って行ける。そう考えたからであった。
そうした理由で認識阻害魔法を展開していたが、ファン達が目の前に見えてきた事で解除する。すると、視界に入ってきたRYUの姿を見て、入り待ちしていたファン達の顔が高揚する。そのざわめきが他のファン達にも広がり、ファン達の最初の列が正面に現れた時には既にファン全員がRYUの登場を知り、顔をRYUに固定して、息を荒げるのであった。
そんな一種の危ない雰囲気を感じたRYUであったが、響子の言うとおりに行動する。…と言っても、あくまでRYUらしくであるが。
「キャ~~!!! RYU様~~!!」
「やっぱり本物はオーラが全然違う!! 生で見た方が迫力が…!!」
「あ、握手してください!!」
「私はサインを!!」
「一緒に写真撮ってください!! 一生のお願いです!!」
「あ、あの…!! この時のためにRYU様に食べていただきたくて、作ってきました!!どうか休憩のときにでも食べてください!!」
RYUが警備員達がバリアを作って、ファン達の中に道を作ってくれている間に通り過ぎていくのを、目で追いながら話しかけてくるファン達。黄色い声が止むことは無く、様々な要求をする。それを無視して通り過ぎていく様子は、冷たいと思われても無理はないほどだ。
「私のは大丈夫ですから!! ど、どうか食べてください!!」
そんな状況の中、後、入り口まで数歩と言った所で、警備員の脇を掻い潜ってRYUの目の前で足を止め、両手を広げてあからさまに通せんぼする女の子が現れた。お菓子の匂いがする紙袋を差し出してきた彼女を無言で見下ろすRYU。
一人だけ抜け駆けした女の子に他のファンの子達は嫉妬を剥き出しにする。それと同時に羨ましがる。ファンの視線を一身に浴びる中、RYUは大きなオブジェが道を塞いでいたかのように何もなかったと言わんばかりに女の子を避けて通り過ぎる。
その様子を見ていた全員が目を丸くし、驚く。それからRYUへの不信感が募り始めていく。
抜け駆けした事は許せないが、ファンに気持ちに一切答えようとしなかったRYUを訝しく思ったのだ。
ファン達の心に曇りがかかり掛けたその時、RYUが歩くタイミングを遅めにし、後ろについていたマネージャーに話しかけたのだった。
「………悪いが、受け取っておいてくれ。楽屋で後で見るから。それと……もらっておく。」
後半は女の子に向けて話し、再び歩きはじめる。ファンからの品物を受け取るように言われたマネージャーは仕方ないっていう顔で、ファンに聞こえる声量で独り言をつぶやく。
「…本当にもう、素直じゃないんだから。」
そう言いながら、どこから取りだしたのか、大きな袋を広げて、ファンからの贈り物を回収していく。すべて回収すると、先に中に入ったRYUを追って、入っていく。
それを見届けたファン達は、隣同士で話し合った。
「RYU様って本当はシャイだったんだね。」
「照れ隠しだったんだ~~!!」
「あんな可愛い一面もあるんだね! だめだ…、もっと好きになりそう!!」
キュートに捉える人もいれば、ツンデレに捉える人もいて、RYUは意外な一面が発覚し、更にファンの熱い想いがまた募る結果になったのであった。
騒乱…、なったのか?