達也が……じゃなかった、RYUが大人気歌番組『ミュージックパラダイス』通称ミュパラに出演するという話は、本人が仕事の話を聞いたその翌日に、大々的に芸能ニュースに取り上げられた。
★★★
「それにしてもあの今女性達に大人気のアイドル、RYUが!!早くもミュパラに生出演する事になりました!! これには私もびっくりです!!」
「突如としてネットや動画サイトに投稿された彼のデビュー曲が大反響し、更にはCMにも出演するという異例の速さで注目されているアイドルですからね~。私はこの結果には大賛成ですよ。」
「ミュパラといれば、最先端の、全国のユーザー達の注目度を検証し、最も注目を集めているアイドルや歌手たちを招き、いち早く皆さんにお届けする歌番組ではナンバーワンの視聴率を誇るレギュラー番組ですから。当然と言ったら当然の結果だろうね。」
「しかもミュパラにはジンクスがありまして、この番組でデビューを飾ると、大人気を保持しつづけ、国民的アイドルになれるという噂があります!現にミュパラで羽ばたいていったアイドルは今もとてつもない人気を博しています!」
朝のテレビニュース番組で男女のアナウンサーや出演者の意見が飛び交う。このニュースで盛り上がる彼らの背後では、番組観戦の一般人の席が映り、隣の席の人と興奮状態で話している様子が見られる。
その後、ニュースが掘り下げられ、街中の人達に突撃インタビューする場面に切り替わる。
女性アナウンサーが街行く人たちに声を掛けまくって、RYUについて話を聞いて回る。
「RYU様がミュパラに生出演されるそうですが、皆さんはどうですか?」
「え!? RYU様がミュパラに出るの!?」
「嘘っ!!? 絶対に見なきゃ!! ああ~~!!早く仕事終わらせなきゃ!」
「私も~!! 録画してないから、予約しないと!! RYU様を難度も拝むために…。」
「皆さんも楽しみのようですね、やはりRYU様が生出演するからですか?」
「だってそうでしょ!? 今まではMVとかCMとか、編集したものを繰り返し見る事だけしかできなかったのに、生のRYU様が動くところとか見られるんですよ!?」
「私達にとってはテレビ越しだけど、歌う前にトークタイムとかありますよね?その時何を話してくれるか、楽しみなんです!! ファンなら見逃せません!!」
鼻息が荒くなり始めた街行く人たち(もう全員が女性で、リポーターが話しかけていない人もRYUと聞きつけ、ファン魂を見せてテレビ出演し、アピールする。いつの間にか数分で、女性達が群がってRYUファンの会員カードを見せ合って、話が盛り上がっていた。
そして収拾がつかなくなってきたので、リポーターがスタジオにカメラを返す。テレビが再びニューススタジオに切り替わる。
(切り替わった瞬間、現場のリポーターはファン達に混じって、RYUの話に花を咲かせるのであった。)
「いや~、やはり大人気というのは、本当でしたね。」
「RYUの出演したCMの商品が今売れ行きが鰻登りで、生産が追い付かないくらいに注文が殺到しているそうですから、さすがと言えるでしょうね。」
そこで驚愕を見せる出演者たち。もちろん作り笑顔も混じっている。そんな中、スタジオの男性アナウンサーが更なる火種をまき散らす。
「そう言えば、ミュパラの番組観覧者の応募も始まっているじゃないですか?もしかしたら今頃、RYUを生で拝見したいファンが席を巡っていたりするのですかね?」
「…………」
「「「「「……………」」」」」
「………あの~、この沈黙は一体?」
突然スタジオ内だけでなく、中継先からも静寂が訪れ、男性アナウンサーだけがオドオドし始める。テレビに出ている以上、そう言った態度を見せてはいけないのだが、あまりにも目を見開いて固まっているスタッフや観覧者達の視線を一身に受けて、自分が何を口にしたのか、焦りを見せるのだった。
そして男性アナウンサーが口を開いた事で、止まっていた時間が動き出したかのように慌ただしさが伝わっていく。
「なんてそんな事に気づかなかったんだろう!!」
「そうよ! 観覧応募すれば生で見られるじゃない!?」
「私、絶対に当選してみせる!!」
「それは私の台詞よ! そのためにも応募件数をできるだけ多く出さないと!!」
「負けませんよ! 私もあわよくば握手をしてもらうんだから!!」
女性達が颯爽と動き出し、情報端末から応募したり、電話かけまくったりと血眼になって何とか観覧者の枠を獲得しようと躍起になり始めた。
その後はニュース番組は急遽コールセンターのような立場に変わり、受付を始める。更に番組を見た人達からも応募が殺到し、RYUがミュパラに出演するというニュースは、世間に波紋を広げていくのであった。
この後、男性アナウンサーは番組の継続を断念させたのを責められるが、番組の視聴率が最高率を記録したため、暫く停職になるだけで済んだのだった。