魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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最近もっと自分に国語力があればと痛感する日々です。

この先はドロドロになるかも?


探せっ!!

 

 

 

 

 

  アスカとの惨敗から2か月経ったある日の午後。

 

 

 晴れ渡る陽気な風が吹くこの日は帝都で年に一度に開かれる開国祭がいよいよ明日に迫り、祭りの準備で帝都中が活気になっていた。出店を道という道の至る所に設けられており、明日の祭りに備えての大詰めをしていた。

 さらに、祭りを楽しみにする者は既に浮かれて、酒を飲んだり、大食い競走大会等が開かれていた。

 

 

 もちろん、初めて帝都の祭りを見る者も帝都の熱気に楽しみにしていた。そのうちの一人であるくろちゃんとちゃにゃんも帝都の祭りにわくわくしていた。……今日の午前中までは。

 

 くろちゃんとちゃにゃんは今、帝都中を走り回っていた。走りながら周りを見渡し、探し物をするかのように声を掛けたり、籠やツボの中を覗き込んだりしていた。実際に捜していた。…親友のシンバを。

 

 

 その理由は少し遡った午前中にあった。

 

 

 祭りがあるため、仕事の依頼やイベントクエスト、魔法試合も一時中断となり、暇を持て余していたROSEメンバー。鍛錬もしていたが、約2週間前からずっとこの調子のため、飽きていた。多少の運動をしていたが、みんな心ここにあらずで過ごしていた。

 

 そんな中、モニターにメッセージが届いた。それを開くと、祭りの準備に入る前にしていたイベントクエストの順位結果発表だった。すると、一斉にみんながモニター前に集まり、順位結果の確認をし出した。自分の順位を確認すると喜んだり、悔しがったりとギルド内が明るくなった。くろちゃんとちゃにゃんもモニターを見て順位を確認する。

 

 

 「え~と、私の順位は…。あ、あった! 473位だって!よっしゃ! 500位以内に入ったから、イベント専用コスチュームをゲットだ!」

 

 

 「…私も500位以内だからくろちゃんと同じだ!」

 

 

 「何位だったの?ちゃにゃん。」

 

 

 「内緒。」

 

 

 「何~!! 教えろ! というよりモニター見た方が早い! ていっ!」

 

 

 「あっ…。」

 

 

 「………283位。 なぜこんなに差が?」

 

 

 「くろちゃんが攻撃を準備している間に、私が遠距離魔法とか補助魔法とかでサポートしているからかな?ははは。  (後もう少しでしょうgゲットできたのに!)」

 

 

 乾いた笑いで話を逸らそうとしたちゃにゃんだったが、くろちゃんがモニターに釘付けになって固まっていたから、不発に終わる。しかし、ずっと固まっているため、声を掛けてもびくとも返事をしないくろちゃんに訝しく思ったちゃにゃんはくろちゃんが凝視するモニターに映る順位表を見る。そしてちゃにゃんもくろちゃんと同じく固まった。二人とも信じられないという顔で順位表を見ており、驚きのあまりに口が開きっぱなしになっている。

 二人が驚くのも無理はなかった。なぜならくろちゃん達が見ている順位表は最下位から100位数えたイベント参戦者のリストで、その中には二人が見知っている人物の名が記されていた。”シンバ ランクD落ち”と。

 

 飛び出していた意識を回復し、現実にひき戻った二人は血相を変えて、外に飛び出した。シンバを探すために。

 

 

 これが、今二人が慌てて、探し物…、シンバを探して、祭りだとはしゃいではいられない理由だった。

 

 

 二人は必死になって探すが、帝都には祭りのために各部族から遊びに出てきたり、この祭りで商売繁盛させようと商人が各地からやってきていたため、人通りがいつもより倍以上も人が集まっていた。この非常に困難な状況でシンバを探すのは昔絵本で見た”ウォーリーを探せ”と同じ位の難易度を感じた。

 

 

 「はぁ、はぁ、くろちゃん。はぁ、シンバを早く探さないと…!」

 

 

 「うん! はぁ、分かってるけど…はぁ、 こんなに人が多いとな~。」

 

 

 息が切れながらも必死にシンバを探すくろちゃん達には焦りの表情が垣間見えた。それもそのはずで、帝都で広がるあの不気味な噂があるからだ。

 

 ”最低順位だけでなく、そこから遡った順位まで突如消えてしまう”という噂。

 

 もしあれが本当ならすぐにでもシンバの安否を確認しなければ!

 

 

 二人には今この事しか頭にはなかった。

 

 

 しかし、探しても見つからなくて、途方に暮れていた。そこへちゃにゃんが閃いたようにくろちゃんに提案する。

 

 

 「くろちゃん、ほら、シンバと最初に会ったあの場所! まだあそこは調べてなかったし、行ってみない!?」

 

 

 「そうか! その可能性はありだね! 行こう!」

 

 

 一刻も早く行くために、シンバと初めて会った市街地まで飛行魔法で飛んで行った。

 

 

 

 

 

 そして市街地に着き、シンバを探す。

 

 あの時の戦闘の後はすっかり修復しており、平穏な日常を思わせる市街地の中を二人は探し回った。そして、市街地のパークに一人だけでベンチに座る少年を見つけた。

 

 ゆっくりと近づくと、シンバは唇をぎゅっと結んで、身動きせずに座っていた。やっと見つけた安心感で二人は身体の力が抜ける。

 

 

 「よかった~! 探し回ったよ。 シンバ~!!」

 

 

 「無事でよかった。 そうだ、おなかペコペコだから、何が食べに行かない?」

 

 

 ちゃにゃんが言ったとおり、ごはん抜きで探し回っていたため、さっきから腹の虫がなっていたのだ。今もなり続けているくろちゃんのお腹の音にシンバが含み笑いをするが、ベンチから一向に立ち上がろうとはしない。くろちゃん達は訝しく思っていたが、ベンチの背に貼られた貼り紙で納得した。

 そこには、こう書かれていた。―――”ペンキ塗りたて注意!!”と。

 

 貼り紙から再びシンバに顔を向けると、シンバは罰が悪そうな顔で苦笑した。シンバは今、塗りたてのべンチに座って、服にべンチが付いただけでなく、半乾きだったために服が見事にくっ付いて動けなかったのだった。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんはとりあえず、シンバをROSEギルドに連れて行き、一緒に明日の祭りに行くことを約束した。

 

 

 その後、市街地のパークで怪現象が発見されるというニュースが翌日の朝の一面に載る。

 パークのベンチに少年の衣類だけが残され、あたかも、少年が服だけを残したまま蒸発したのではないかと。持ちきりだった。

 

 

 

 この怪現象の真相を知るくろちゃんとちゃにゃんとシンバは冷や汗を搔きながら、お互いの顔を見合わせ、唇に人差し指を当て、秘密を共有するのだった。

 

 

 





本当はここで、あいつを出したかったけど、シンバが可愛そうだから、もう少し先延ばしを…。祭りを楽しめよ、シンバ!

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