「試していたのですよ、達也さん。」
真夜がそう言い切った事で、達也は真夜のこれまでの計画について完全に理解した。
初めから響子をマネージャーとして起用しなかったのは、まだ自分がどこまで芸能界に通じるか未知であったからだ。
この任務を説明された際、自分が芸術関係には向いていないという事は真夜や葉山さんにも知らせた。実際に歌ってみたり、踊ってみたり、様々なテストを受けてみた。そのテスト結果を見た真夜と葉山さんは時々困った顔をするのを見かける。自分でも感じたとおり、やはり表現する際の感情的な部分に気持ちが入らない。元々人工魔法師計画で感情を消されてしまっているため、一定の感情を持つ事が出来ない。だからそれがネックとなり、技術があっても、人に感動を与える様なインパクトが引き出せなかった。
そんな達也の一番の欠点とも言えるこの状況に、真夜がどう対処するべきか思考を巡らせたのは言うまでもない。
達也の欠点を上手く対処しながら、アイドル活動をさせる方法を考えた結果、真夜はいくつかの条件を出し、達也に一人でどこまでできるか試してみる事にしたのだった。
実際に芸能界デビューし、現場でアイドルとして振る舞えるか見てみるのと、少人数だけの限られた空間だけでのアイドルとしてのテストを見てみるのとでは判断に差が出ると思ったからだ。
だから、達也が”RYU”というアイドルとしての自分をどこまで演技られるか…、そして仕事のオファーを熟せるのか…、真夜はアイドル活動を通して達也のアイドルとしての資質を試していたのだ。
(確かに叔母上のやり方は合理的だ。今まで与えられてきた任務とははっきり言って真逆の任務内容だ。しかも俺にとってはさらに困難を極めるもの。任務遂行できるか、テストする事は寧ろ正解だった。お蔭で俺も不本意だがこのアイドル…というものになった以上任務はやり熟す。そのためにも多くを知れてよかった。)
結果論しかないが、達也は真夜の計画の一端を理解して、改めてこの任務に対し、どう自分が動いていくか少し組み立てやすくなり、アイドルとしての振る舞い方にも多少やれるようになった気がした。
そして試しも兼ねたCM出演での世間の評価を見て、本格的に芸能界で人気を得るために今回響子を呼び出し、マネージャーとして起用する事を決定したのだ。
ここまで考えた上での真夜の計画に、感心する達也だが、あくまでこれが計画のほんの一端しかない事は真夜の含みのある笑みから確信した。
(どうやらまだ秘策が隠されていそうだな。…まぁその時にならないと、分からないだろうから気にしないでおこう。)
達也は今が言及しない方向で決め、これからのアイドル活動の方針を真夜から説明を受ける視線に戻るのであった。
真夜は実は達也のアイドル活動についてしっかり考えていたんだね~。あの熱烈なファンっぷりを見ているだけに印象ががらりと変わって見えるね。
(原作では決しておかしくないとは思うけど。)