「それではそろそろお茶会を致しましょうか…。」
真夜が紅茶を口に含んで、テーブルを見渡しながら笑みを浮かべる。
それを見て、必然と達也も風間も、響子も顔を引き締めて、姿勢を正す。真夜の醸し出すオーラが冷ややかで威圧感があるいつもの四葉家当主としての振る舞いと共に、現れていた。
既にお茶会は始まっている。
しかし真夜が言っているのは、そう言う意味ではない。本来のこの”茶会”という名目で呼んだメンバーとの”会合”を始めましょう…という意味だ。
その意味は真夜の態度が変わった事で、ここに呼ばれた者全員が理解した。
全員が仕事の顔になった。
食べていたデザートもフォークを置いて、控えて真夜の次の言葉を待っている。
そんな状況の中、達也は心の中で疑問と警戒が湧き上がっていた。
(少佐も響子さんも任務に赴く際の覚悟を決めた顔をしている…。)
覚悟を決めるという事は、そうさせる何かがあるという事。過酷な任務を命じられた場合…、例えば要人暗殺や襲撃作戦、前線での防衛戦ではへたをすれば自分の命さえ危ない。何も考えずに無暗に突入すれば死が訪れるのは当たり前だ。だから死が直面する様な任務や大事な何かと天秤にかけなければいけない時などには相応の覚悟がいる。その覚悟が今の二人の顔には固く刻まれていた。
独立魔装大隊の戦闘訓練や強化演習、実際の軍の勅命による任務などで会って、共に取り組む際に良く見かけている彼らの顔に今まで違和感は感じていなかった。なにより彼らの国を守りたいという精神には微笑ましく好感を抱いているほどだ。
しかし、まだ何も話が始まっていない段階で、しかも戦闘中でもないこの場で彼らの覚悟した顔は達也にとって、訝しさを持たせるには十分なものだった。
そして達也が考えた事は、二人とも真夜が何故ここに呼んだのか、何を二人にさせようとしているのか事前に知っているという事。それが二人に覚悟を持たせていると考えた。
(二人はもしかして俺がアイドルをしている事を知っているのか…?そうか…、だからあんなフォローが出来たと考えれば、辻褄が合う。
響子さんとはこの前に会ってから、今日再会した。それなら昨日の俺に起きた出来事について感想も言えない。
俺の今の任務について知っているというなら、今のスケジュールを考えると叔母上が切り出す内容は俺の事で間違いない。それを二人は何処まで知っているんだ…?
叔母上直々のこの任務の通達だったんだ…。叔母上が独立魔装大隊に教えたという訳ではないだろう…。この人はそんな面倒な真似はしない。
だったら叔母上でも把握しきれない情報網で、情報をハッキングしたのか?)
達也の推測が止まらない。達也は二人が四葉家の情報をハッキングしたのではないかという疑惑が上がり、瞬時に響子に視線を向ける。それができるとすれば響子しかいないだろう。
(……まずいな、そうなるとこの茶会の本当の意味は……)
心の中で先の予想をした達也は、痛々しい妄想が浮かんでいた。しかし顔には平然としている、ポーカーフェイスが顕在していたのであった…。
え? 達也、そこまでは…。いや、可能性はなくもないと思う…。いや風間さん達はそんな事していないから…ね?(汗)