魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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ある意味でのレベルアップ・・・になるのかな?


レベルアップ!!

 

 

 

 

 

  明け方まで時計塔で寝落ちしてしまったくろちゃんとちゃにゃんは起きてすぐに急いでギルドに帰った。

 

 さすがに、起きてすぐだから、身体はしんどい。でも、気分は絶好調だった。

 

 

 「みんな、心配してるかな? 結局朝まで寝てたし。」

 

 

 「ハックシュン~~!! ズズズっ!! とにかく早く帰るに越したことないよ!

  寒い~!! 夜は冷えるわ~!!」

 

 

 若干鼻水を垂らしながら走るくろちゃんは身体を温めるため、全力で走った。そして、ギルドの扉を開ける。

 

 

 「「ただいま~~!!」」

 

 

 ギルドに帰ってきた二人は目の前の光景に驚いた。何とギルドの皆が全員ホールで雑魚寝していたのだ。椅子を背もたれして寝てたり、テーブルにうつ伏せになって寝てたり、様々な寝方でみんなはそこにいた。

 

 その光景に言葉が詰まっていると、ホームズがあくびをしながら、起き上がる。そして扉に立ち尽くすくろちゃん達を見て、寝起きの顔から満面の笑顔になって、みんなを大声で起こす。ホームズに起こされたみんな(数名は殴られて起こされる)はくろちゃん達に寄り添って、「お帰り!」と帰りを迎えてくれた。

 

 くろちゃん達の帰りをずっと待っていたみんなの暖かさに触れたくろちゃんはミナホを探していた。ミナホはカウンター席に座っていた。くろちゃんはミナホに駆け寄って、ミナホに頭を下げる。

 

 

 「ミナっち!! 私、みんなに迷惑かけた。 ミナっちにも心配かけてしまった。ギルドリーダーなのに、らしくなかった!! ごめん!!」

 

 

 くろちゃんの謝罪を聞いたミナホは「そう。」というと、カウンターの中へ入っていく。くろちゃんはだめかなと思ったが、ミナホの言葉に思わず頭を上げる。

 

 

 「くろちゃんの大好きな料理、作ってあげる! 何を食べる?」

 

 

 「えっ…、じゃ、牛丼で!」

 

 

 「ははは。朝から牛丼!? くろちゃんらしいね。 わかった。作ってあげる。ちゃにゃんも食べる?」

 

 

 「うん!!」

 

 

 「……くろちゃん、うちもごめんね…。ビンタ、痛かったよね?」

 

 

 「………ううん。大丈夫。ちゃんと受け取ったから!!」

 

 

 くろちゃんの言葉を聞いて、無言のまま、リクエスト料理を作るミナホの目には一筋の涙が零れた。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 それから3日経った天気も晴れて気持ちいい風が吹く午後。

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんは課金ガチャをするために、カジノ”ノジーカゴールド”に来ていた。

 

 

 「……くろちゃん。本当にするの?」

 

 

 「マジだよ!! これに賭けてるんだから!!」

 

 

 「だからって、なんでこれなの?」

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんのこのやり取りは既に10回はしていた。というのも、二人は今、課金ガチャ専用のスロットキューブの前にいた。そもそも、何でカジノにいるのかというと…。

 

 

 「やっぱりレベルアップしないとアスカには勝てないよね。」

 

 

 「そうだよね。作戦とか立てて、戦ってもやっぱり魔法力の差がありすぎるから、どうしてもそこで劣ってしまうんだよね。」

 

 

 「!! そうだ!! なら、アスカと同じになればいいんだ!ちゃにゃん、行くよ!!」

 

 

 「えっ!! どこに行くの~!!」

 

 

 とくろちゃんに半ば引かれるように来た場所がこのカジノだったという訳だ。

 

 

 そしてくろちゃんは今、金銭を使って手に入れたガチャキューブを持って、スロットに挑戦しようとしていた。ちゃにゃんは帝都に着いた初日に酷い目に遭ったことからあまりここにいたくないし、くろちゃんの巻き添えになりたくなかったから、止めに入る。しかし、くろちゃんは耳を貸さず、スロットを回そうとする。

 

 どうしてそこまでスロットをしたがるのかと理由を尋ねると、くろちゃんから信じられない言葉を聞く。

 

 

 「だって、まずは強力魔法の起動式が欲しいじゃん!? アスカと同じようになるには、アスカが持つ超強力な魔法の起動式を持つべきでしょ!だから、今まで貯めに貯めたこのお金を全てつぎ込んだこのキューブでスロットし、当てるんだ!」

 

 

 「確かにその考えはあると思うけど…、レベルアップのためにまずは超レア起動式をゲットするって…。そんなにうまくいかないって。」

 

 

 「後、これからのための運試しも兼ねて!! てへっ!」

 

 

 「おみくじ気分かいっ!!」

 

 

 思わず突っ込みを入れたちゃにゃんだが、ふとくろちゃんの言った言葉を思い出し、止める気持ちが消え、逆に挑戦してほしいという気持ちに変わった。

 

 

 「うん。わかった。そこまで意志が固いんなら、私は見守るから。頑張ってね~!!」

 

 

 「ありがとう!! じゃ、行くぞ~!! これだけ準備したんだから、超レア起動式が必ず当たるはず!!」

 

 

 こうして課金ガチャ専用スロットキューブを全財産を賭けて4回、回した。その光景を後ろでちゃにゃんは微笑しながら見守る。ただその笑いは微笑ましい微笑というよりは、裏がありますという黒い微笑にしか見えなかったが。

 

 

 スロットを回し終え、カジノから出てきたくろちゃんとちゃにゃんはそれぞれ、いい笑顔をしていた。

 

 

 「ほら!! ちゃにゃん!! 見て見て! 起動式がこんなに手に入ったよ!! しかも新作起動式までゲットできたなんて…! とうとう運もくろちゃんに向いてきたね!」

 

 

 興奮して、ゲットした起動式の入ったCADをちゃにゃんに見えるように掲げ、嬉しそうに話すくろちゃん。くろちゃんが言ったとおり、今回のスロットで手に入れた起動式は回した回数にしてはかなり得と言えるほどの収穫をした。

 

 『結界』・『日陰の陣』・『強震の地割れ』2つの合計4つの起動式を手に入れた。しかも、全てまず手に入れるのが難しい超超レアな魔法なのだ!さらに、『日陰の陣』はつい3日前ほどに新作として発売された起動式。

 これらを手に入れて、興奮せずにはいられないのは致し方ないだろう。現にくろちゃんはちゃにゃんの周りをスキップしてはしゃいでいる。

 

 ちゃにゃんもまさかここまで行くとは思っていなかったため、一緒になって、喜んだ。

 

 

 「よかったね! 早速この魔法を使いこなせれば、アスカにも勝てるようになるよ!」

 

 

 「そうだね。まずは特訓して、技術力を磨かないと! 手に入れたからと言って、すぐに思い通りに使えるなんていかないからね。

  ちゃにゃん、ギルドに戻って地下の特訓場で試してみようと思うから、付き合ってくれる?」

 

 

 「いいよ。 私も見てみたいし。 楽しみだね。」

 

 

 ちゃにゃんの了承も得て、子供のように走ってギルドに向かう背中を見ながら後に続くちゃにゃんはくろちゃんに気づかれないように不気味な笑いをしていた。

 

 

 (ふふふ・・・。これで、覗きのための道具や魔法アイテムを買うために貯めていたくろちゃんのお金がこれですべてなくなった…。

  しばらくは、新しい魔法の特訓に集中するだろうし、安寧が続くわ!

  さて…、くろちゃんはこの事にいつ気付くかな…。ふふふふふふ!!)

 

 

 ちゃにゃんの心の内を知らないくろちゃんは純粋に喜んでくれていると疑わず、前を向いて走り続ける。

 

 くろちゃんはまだこの時は知らない…。それはのちに、後で後悔…、する事に繋がるかもしれない。趣味にお金を回せなくなったと嘆くくろちゃんが目に浮かぶ…。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 元気にギルドに向かって走るくろちゃんとちゃにゃんの姿をうす暗い路地から見る人影がいた。その人影はいつもと変わらない笑顔でいるくろちゃんとちゃにゃんのを見て、ほっと息を吐いて、安堵する。

 

 アスカとROSEとの魔法試合でROSEが惨敗した時から、くろちゃん達が気になっていたため、ギルドを抜け出して隠れて様子を見ていた。大丈夫そうだと納得し、人影は更に路地に入っていく。

 

 

 (ありがとう…! くろちゃんとちゃにゃんはそのままでいてください!

  後………、僕の事、親友だって、言ってくれてありがとうございます!

       ・・・・・・

  そして…、ごめんなさい…。)

 

 

 心の内でくろちゃん達に話しかける人影は身体を震わせ、歯軋りをしながら歩いて路地の奥に姿を消した。その人影が通った地面には、水滴が点々と落ちた跡が残されていた。

 

 





まさか、心配でわざわざ…!(号泣)

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