「あら、残念だわ。せっかく似合っていたのに。」
「いつまでもこの格好でいる必要はありませんから。…あと少佐、なぜ黙っていたんですか。」
「いや、それはだな……」
「隊長はね、達也君。私がこっそり教えなかったら達也君の女装に気が付かなかったんだから。てっきり独立魔装大隊に配属になる女軍人だと思っていたんですって。」
「藤林…、今度の演習では覚悟しておくように。」
「……こう言っておいた方が”面白くてつい放置していた”とか、気付いていたよりは気付かなかったってしといた方が達也君の隊長への好感度はかなり違ってくると思います。」
「………そうか、なら少しだけきつめのしごきに変えておこう。」
「全然変わりませんから、どっち道、演習は厳しいではないですか。」
響子は助け舟を出したつもりだったが、どうやら風間のちょっとした恥ずかしいエピソードを話してしまったようで、訓練でのノルマが増大してしまう結果になった。風間は響子の助け舟の意味は理解していたが、それでもプライドが傷ついたのは否めない。これが風間の最大の譲歩だった。
「大丈夫よ、達也君。達也君が女装していた理由も分かっているから。確かにこれはいいアイデアだと思うしね。」
風間と話すのも気まずくなってきたので、今日は達也に振り向いて話す。その響子の言葉を聞いて、達也は内心ほっとした。
そうだ、達也が女装したのは理由がある。
その理由は、一般人の目から逃れるためだ。
…というのも、達也を取り巻く周りの反応が一番影響している。
昨日から達也はアイドルRYUに似ているという事で、声を掛けられたり、好意的な視線を受けたり、追いかけられたりと身を削るような激しい疲労に囚われた。午前中だけだったならまだ上手く対応できたかもしれないが、生徒会業務を終え、門を出た時から達也の更なる予想外の出来事に巻き込まれたのだ。
下校のため、門を出た達也。
ちょうど部活も終わって、エリカ、レオ、美月、水波と一緒に帰る事になった。風紀委員で今日は巡回当番だった幹比古と雫も合流する。久々に友人たち全員で帰るとは和むものだった。
しかし、門を出てしばらくして、歩き出すと、通学路では多くのRYUファン達が多数いて、達也の顔を見るなり、突進してきて、握手やサイン、写真を頼んでくるのであった。あっという間に取り囲まれてしまうが、何重にもなった人の輪の中を間を擦り抜けていき、難なく脱出した達也は、友人達を連れて、すぐに離脱した。行きつけの喫茶店でコーヒーでも飲もうと話していて、そこを素通りしてしまったが、みんなはあれじゃあ仕方ないよ。…と許した。
今度皆で寄る時は、達也のおごりだという事が決定してから、友人達と駅のホームで分かれたりした。しかし、その後も絶えず達也に話しかけてくる女性達が大量にいて、帰ってきた時は疲労困ぱいだった。
そんな事があった翌日に都会にあるこの魔法教会まで来なければいけない。素の姿だけでここまでの騒ぎになっているのだ。徹底した変装をして、安全に、そして滞りなく投r着できるようにと、達也が考えたら、秘策が浮かんだ、
その秘策というのが、女装だったわけだ。
性別が入れ替わって、気付かれる可能性も低くなり、その意識から声を掛けられる事もなくなるだろうと思ったのがきっかけだ。
そしてそれが見事に成功し、女装の結果、ひそひそと友や知り合いに話している時もあったが、声を掛けられる事はなくなったため、違和感なく今の状態になってても、問題なかったのである。
「私だってああなったら、きっと男装するかもだしね。」
響子のこの言葉で、達也は一回頷いて共感者が現れた事に気持ち的に余裕が生まれて内心は何度も頷くのだった。
達也たちが帰ってきて疲労困憊だった理由はそれか!?