皆に指摘されるまで自分が女装していた事を意識の底から呼び起こす達也。達也は物事を忘れたりはしない。その時の状況によって必要なものか、不必要なものかを判別し、不必要なら重要度が低下し、それと同時に意識から外すだけだ。
達也にとって女装は、この場では意味のない事だったため、自然に意識から外れていた。そうでもしないと、達也の記憶力の高さに余裕が生まれないからだ。達也は一定の感情しか持てない代わりに人工魔法演算領域を実母である司波深夜、旧姓、四葉深夜の特異魔法『精神構造干渉魔法』によって、副作用として完全記憶能力を身に付けた。忘れたくても忘れられないし、必要ではない情報も一度入ってしまえば消す事も出来ない。膨大な知識量を有する達也だが、これらを整理整頓し、必要になれば瞬時に取りだせるようにしておかないと記憶した物すべてが頭の中で点在する様な形になってしまうため、取捨選択している。その過程を行っているので、達也は筆記試験では常に学年一位である。実際にクラスメイト達からは様々な事を達也が知っているため、休憩時間になる度に頼ってきたりする。
…そんな達也がなぜ女装をしてきてたのか…?
「女装が趣味になった…という訳ではないのだろう?達也。」
「当たり前のことを言わないでください、少佐。俺にそんな趣味はありませんし、これからもそれはないです。これは今回だけです。」
きっぱりと否定した達也の鋭い視線を受けた風間は、冗談だと軽く言い放ち、本気で聞いたわけではないとアピールする、そうしなければ消されそうだと判断したためだ。それくらい達也も女装は本意ではなかったという事だ。
「あら、そうなの?達也君。てっきりそういう意味もあって女装したままなのかと思ってたわ。」
「…どういう意味ですか、響子さん。」
「秘密よ。」
「でも似合っていましたわよ?達也さんの女装。そうですわよね?葉山さん。」
「ええ、奥様。達也殿の女装は見ものでした。見事に背の高いモデルの女性のような印象がありました。」
女装を褒める真夜と葉山さんの言葉に達也は寒気を味わった。いつもなら褒めるより冷たい視線で貶す方が扱いとしてはこっちが主流だ。しかし、実際はその逆で、何か企んでいるのでは思うくらいだった。まぁ、本当の理由は真夜が単に達也の女装というレアな瞬間に立ち会う事が出来たから、嬉しさをひた隠しにしながら達也の女装を盗み見て堪能していた。葉山さんも真夜にこっそりと命令され、達也に気づかれないギリギリの攻めで隠し撮りで女装達也を写真に収めていった。
達也はいつまでも女装でいるのは嫌だったので、すぐにカツラも取り、普段の達也に戻る。
だが、達也の女装が印象深かったため、少しの間達也を除いた人物全員がしばらく心の中で達也の事を『達子』と変換して話すのだった…。
達也の女装の際の名が達子…か~。