真夜から御茶会という名の呼び出しを受けた達也は翌日の午後、指定された日本魔法教会関東支部があるベイヒルズタワーの玄関口まで来ていた。入る前に魔法教会が設置されている階へ視線を向け、しばらく顔を見上げていた。それから覚悟を決めたのか、息を吐き、一歩踏み出す。
(俺を茶会に招待するという、身分が高い者への扱いをした呼び出しは今までなかった…。というよりガーディアンである者を直接謁見を許可した前例もない…。
一体、何を考えているのか…。
おそらく今回受けている任務についてだとは思うが、叔母上がすんなり話すのかは半々と言った所か…。)
…などと、これから何が起きるのか大隊把握してはいるものの、今までと違う自分の扱いの真意について、頭を捻りながら約束の場所までエレベーターで昇っていく。
四葉家専用の入門コードを持っている達也は、魔法教会の入り口に設置されたセキュリティーを難なく通過し、真夜が待つと言っていた応接室へとやってきた。
ここに来るまで職員にも会わなかった事を考えると、応接間への道中を人が通らないように魔法を使っているのだろうと達也は、手の込んだ警戒をしている事でやはりお茶会は建前ではないかと思う気持ちが強くなった。
気が進まない気持ちはまだあったが、いつまでもドアの前で突っ立っているのはいけないと思い直し、ドアをロックする。すると中の気配が動くのを感じ、条件反射で身を構える。しかしドアが開いた瞬間、その警戒心も弱まり、そのまま中へ入室する。
「………これはこれは達也殿、今日は奥様のために足を運んでくださり、誠にありがとうございます。」
「別に歓迎されるようなことはしてはいないんですがね。…ところでなぜそんなに笑いを堪えているのですか?」
「い、いえ…、何でもございません。ではこちらへどうぞ。皆さま既にお座りになっていますので。」
「皆様?」
自分以外にも呼ばれていたのかと達也は軽く目を見開いたが、奥から漂ってくる気配や視的情報から誰がいるのか理解できた。
葉山さんに導かれるまま、長テーブルに既に座って待っていた先客たちと目が合った。
「あら?達也君? どうしてここにいるのかしら?今日は学校じゃなかったの?」
「……やはり達也も来たか。」
「お久し振りです、風間少佐、響子さん。先日は御力をお貸しいだたきありがとうございます。…ところでお二人は何を?」
達也の視線には訝しさと疑い、観察されていると思うような鋭いものだった。
達也が二人に尋ねた質問も、「どうして二人がここにいるのですか?」ではない。
二人がいる理由なんて分かりきっている。
真夜が二人を招待したからに決まっている。ではなぜ二人を招待したのか?二人にも何かしらの役割を依頼するつもりだと思われる。その役割というのが恐らく今の任務に関する事だろう。ならどこまで二人は知っているのか?達也が抱くには当然の質問であり、的確な質問だった。
風間と響子も達也が何を聞いているのか、瞬時に理解し、苦笑を浮かべる。
「私達もある程度の事は知っているつもりだけど、まだそこまでは知らないわ。少なくとも、四葉家ご当主様の真意はまだ知らないけど。」
「私達にも関係するであろう事案になるかもしれないと上からも言われたからな。」
二人は直接的には口にしないが、達也がアイドルをしている事は二人のたまに視線を逸らす仕草で察した。
同志に恥ずかしい事を知られ、少しむずかゆい気分になったが、それと同時に心強さも感じるのであった。
いよいよお茶会始まるかな~。 そしたら真夜の姿を拝めますな~。…どうなっているか分からないけど。