魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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達也よ、待たせたな。 これで悪夢は終わる。…一時だけだと思うけど。
(全然フォローになっていない!)


陽気な電話 (下)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…お兄様? 叔母様からご連絡があったと思うのですが、もうよろしかったのですか?」

 

 

 外出用の大人しめの丈の長いワンピースを着て、リビングに入ってきた深雪は、ソファーで背中を預けて座っている達也の姿を見て、軽く目を見開き、モニターが黒くなっている事を確認して、達也に問い掛ける。大抵真夜や任務での通達の一環で葉山さんが電話回線を送って来る時、相手は深雪に指定されているからだ。達也への仕事の命令でも、深雪を介してする場合がこれまでのやり方だった。なぜなら達也は深雪のガーディアンだから。

 本来ガーディアンが主である紳士やお嬢様の元を離れる事はない。常に傍にいて、主を危険から護っている。四葉のガーディアンを従える四葉家の一族の中では、主を護るために実年齢を偽って同学年として学校に在籍していた者もいるくらいだ。(もちろん、この場合の戸籍はすり替え済みだ。)

 だから、達也が深雪のガーディアンであるにもかかわらず、主から離れ、他の任務に就く事は特例中の特例なのだ。そしてそれを可能にしているのは、達也の『精霊の眼』で離れていても常に深雪を見守っているからできる事である。

 

 この現状を深雪は複雑な心境を抱えているが、達也が自分のガーディアンである限り、よっぽどのこと以外は、危ない仕事が舞い込んでこないし、危険な目に遭わせずに済むと思う事で、達也と深雪との関係について、そう自分に納得させていた。

 

 そんな思いを抱えている深雪が帰宅して私室で着替えようとした際、真夜から連絡が来たと知れば、疲れている身体に鞭を打って、謁見に相応しく身支度するのは当然だ。いつも外出する以上に身支度には注意深くチェックし、水波と一緒に現れた。

 しかし、実際にリビングに来てみると、もう電話は終わっている。深雪が達也に問い掛けてしまうのも、驚くのも無理はなかった。

 

 

 「ああ、どうやら急遽用件が出来たようで、急ぎに俺に伝える事があっただけらしい。別に気にする必要は無いさ。」

 

 

 達也がもう終わったからというように、微笑み、手を振って大したことではなかったという。しかし深雪は別の事で気になっていた。達也は深雪が真夜の電話に出られなかった事を後悔しているだろうと思って、『気にする必要は無い』と言ったのだが、深雪は達也に急遽伝える事が出来たという要件の方が気にして、息を呑んでいた。もしかして今から達也に危ない仕事をさせるのではないかと…。

 

 そんな深雪の心の中を、達也は微妙な表情の変化から察し、自分の隣の席を手で叩いて、深雪を招く。深雪は、断るはずもなく導かれるまま達也の隣に座り、達也の腕に自分の腕を絡ませ、力を入れる。

 

 

 「大丈夫さ、深雪の思うような危険な事は頼まれていない。ただ明日、叔母上がこちらに用があるみたいで、そのついでに訪ねてこいと言われただけだ。大した用はないかもしれないが、一応呼ばれたから行ってくる。」

 

 

 「では私も…」

 

 

 「いや、叔母上は俺一人に用があるそうだから、深雪は学校で悪いが俺の分まで生徒会業務にあたってくれないか?」

 

 

 「……それなら仕方ありませんね。お兄様のためにも深雪は明日、頑張ります。」

 

 

 「よろしく頼む。 …水波も、明日は俺は午後から別行動になる。深雪の事は任せたぞ。」

 

 

 「はい、畏まりました。深雪様は水波がこの身を挺して守ります。」

 

 

 若干型苦しく思ったが、真剣にそう思っている水波に「そこまで深く考えなくていい」ともいえない上、スルーする。

 

 

 

 それで、真夜からの電話の件はこれで終了し、深雪は休憩時間、ずっと達也の腕に寄り添って、達也パワーを吸収したお蔭で、すっかり気分ルンルンだった。達也もそんな深雪を見て、笑顔を浮かべる。そして水波はそんな二人の様子を傍からずっと控えて見ていたため、気持ちや疲労が消化しきれずにいたが、いざ夕食作りを始めると、生き生きとして、三人仲良く少し遅めの夕食を食べるのであった。

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 一方、達也との電話を終えた真夜は、明日久し振りに達也と直接会える事に喜び、興奮しまくっていた。

 

 

 「ふふふ♥ 明日は達也さんを生で拝む事が出来るわ~。 叔母と甥って言っても、なかなか会えないものね~。こんなに愛しいのに~。」

 

 

 「奥様が喜ばれていらっしゃるのは大変喜ばしい事ですが、なぜお電話なされましたのでしょう? 私めがお伝えすればよかったのではありませんか?」

 

 

 興奮して書斎室の真ん中で回っている真夜に、一礼しながら問う。明日の御茶会については既に朝方に達也に渡した手紙に書いていた。日程については後から連絡するとも告げていたが、それだけなら葉山さんが伝えればよかっただけだ。真夜が直接電話に出る必要は無かった。その旨を葉山さんは気になって問いかけたのだが…。

 

 

 「だって、達也さんの顔が早く見たかったんだもの!! 明日なんて待っていられないわ!」

 

 

 「………左様でしたか。」

 

 

 当たり前じゃない!?と言わんばかりの逆に責められるような視線を受け、さすがの葉山さんも躊躇いの顔をするのだった。

 

 

 それから真夜は、堪りにたまった仕事のストレスを埋めるように、度々休憩を取れば、先程の達也との電話の録画を見て、「今日は色々あったものね~。だけど疲れていても、私に弱みを見せようとしない所が好き~!」…と言いながら、萌えていた。

 

 

 この電話で、真夜だけが陽気な気分に浸る事ができ、達也は(深雪や水波も巻き込まれる形でだが。)今日一日大変な目に遭った一日だったと記憶する日になった。

 

 

 




……って結局、得したのは、真夜だったんかい!!


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