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生徒会の業務も終え、帰宅してきた達也、深雪、水波。しかし帰ってきて、玄関の中にいるというのに、途方もなく疲れた様子を三人とも見せていた。
一番先に入った達也が振り返って二人に申し訳なさそうな顔で、話しかける。
「……ただいま、ふぅ~…。深雪、平気か?」
「はい、…それよりもお兄様の方が…。」
「俺の事は心配いらない。毎日の鍛錬で身体は鍛えているからな。」
「ですが、お兄様お疲れの御様子です。お兄様が心配いらないと言っても、深雪は心配でなりません!」
「…ありがとう、深雪がそう思ってくれるだけで俺は十分嬉しいし、疲れが軽くなるよ。」
「いえ…、お兄様がそうおっしゃるのでしたら…。」
達也に頭を撫でられて、頬を赤らめる深雪。そのまま達也は水波にも労いを掛ける。
「水波もすまなかったな。疲れただろう、夕食は遅くてもいいからまずは休め。」
「いえ、私はメイドとしての責務を放棄するわけにはいきません。すぐにでも腕によりをかけて作らせていただきます。」
「水波ちゃん、気持ちはよくわかるけど、さすがに今のあなたではいつもの手の込んだ夕食を作るのは無理よ。無理すると、身体に負荷がかかりすぎていざって時に動けなくなるわよ?」
「ですが…」
「深雪の言うとおりだ。水波、今日はお前にも色々迷惑かけた。その所為で水波の疲労はかなり蓄積されているのは視たらわかる。ここはそのお詫びとして一時間ほど休んでくれないか?その後、夕食作るなら問題ない。ただし、深雪と一緒に、だ。
時間も遅いし、協力してくれ。…いいか?」
「……畏まりました、達也様。」
まだ言いたい事はあったが、達也の言うとおり、既に疲労困ぱいでこのまま夕食を作りだしたら、フライパンを持つ握力が無くて、足の甲に落とすのではないかと想像してしまうほど、痛々しい夕食の準備を思い浮かんだくらいだ。それを回避するにしても、慎重になるからいつもより時間が大幅にかかる事は分かりきっていた。それに達也は正論を言っている。水波は達也の言うとおり、休憩してから夕食作りをする事を受諾した。
それからは深雪と共に二階にある自室へと向かい、深雪の着替えを手伝うために階段を上がっていった。
二人の姿を見送った達也は、未だに玄関先にいて、靴を脱がずに前髪を手で掴み、大きなため息を吐き出した。その姿はいつも背筋を伸ばして、初めて会ったとしても頼りになるオーラを出しまくっている達也ではなく、仕事の許容オーバーを働かされて、遅くに返って来るサラリーマンのようにやつれた様子だった…。
達也は深雪の前では、なるべくいつも通りにいたつもりだったが、深雪には気づかれるらしく、非常に疲れている事を隠していた。それが通じず、自分が少しは回復するために、深雪と水波にはあえて休憩を取らせたのだが、いなくなった瞬間、安堵したのか脱力する気分を味わった。
「今日は確かに疲れたな…。」
そう呟いた達也の独り言が誰にも聞かれずにいると、リビングのドアの向こうから電話回線が入ったベルの音が聞こえてきた。誰かが連絡をしている…。
その別の音を聞いて、達也は嫌な予感を感じるのであった。
疲れている時にいろいろ言われると、だんだんイラついてくる…、なんてことはみんなはあるかな?
達也はそうならないような気がするけど。