居心地の悪い昼食が終わった後、さすがに飽きてきたのか、クラスメイトも午前中の授業みたいに騒ぐことはなくなって、午後の授業は静かに普段の授業を送る事が出来た。それからは深雪を迎えに行く際に、廊下を渡っていたら新入生の女子生徒たちが小声で話しているのを何度か見かけたが、それ以外は大して気になることもなかった。いや、気になることはあったか?達也が深雪を迎えに教室を尋ねてみると、今日の授業を終えた学生達が団欒する姿が見当たらなく、静まりがえった教室内が広がっていた。その中で深雪だけがいつもの達也にだけ見せる笑みを浮かべて、達也の迎えを喜んだ。この反応の違いが余計に深雪の美貌による笑みを引き立てていて、達也は「今日の深雪は妙に明るいな。」という錯覚を与えていた。
深雪を連れて、生徒会室を目指す達也。深雪は、達也の顔色を窺って、今朝のような兆候が見当たらないのを感じ取ったので、安心した。そのため、生徒会室へと向かう達也のすぐ隣をほとんど密着しているのではないかと勘違いされるくらいに寄り添って歩く。それを一度盗み見た達也は心の中で、「学校内ではここまで接近して歩くことはなかったよな?」と気になりつつも、達也も今朝は深雪に構ってやれなかったので、別にいいかと深雪の望むままに寄り添って歩くのであった。
「そういえば、ほのかは一緒に来てはいないが?」
「ほのかは少し雫と話してから来るそうですよ?」
「なぜ疑問形なんだ?」
「私にも理由がわかりませんので…。『雫の家の事で、話があるから!!』…と申してましたが。」
「そうか…、あの二人は仲がいいからな。雫の家となると、秘密ごとはあることもあるだろうし、二人だけでしか話せないことだってあるだろう。
…気にする必要はないさ。すぐにほのかも追いかけてくる。」
ほのかと雫に除け者にされたのではないかと案じていた深雪の気持ちを察し、フォローする達也。そんな達也の優しさに触れて、一層嬉しそうにする深雪を連れ、生徒会室の扉を開けて、先に仕事に取り組む。
ちなみに一方そのごろ、いつも達也と深雪と一緒に生徒会室へ向かっているほのかは、体が震えたまま、教室から一歩も出る事が出来なかった。そのほのかの肩を優しくポンポンと叩いて励まし、擦ってあげる雫。雫もほのか程ではないが、若干身体が震えている。
「雫~。今から私…、生徒会室に行かないといけないよ~!!」
「うん、生徒会役員だからそれは仕方ない。」
「それは分かってるけど、今は聞きたくなかった~。」
「大丈夫。だって達也さんがいるし。さっきみたいにはならないと思う。」
「あ、そうか。言われてみればそうだよね!」
「うん、だから…頑張って。」
「わかったよ、雫。私、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい。」
何かすっきりとした顔で、ほのかは達也と深雪の後を追うように小走りで生徒会室のある方向へ向かって行く。その後ろ姿を見送った雫は、自分も今日は風紀委員の当番なので、そのための巡回に向かう前に深呼吸する。
「ほのかを行かせる為にああ言ったけど、保証はない…。 ほのか、もしもの時はごめんね。」
もう姿が見えない親友に向けて独り言をつぶやいた雫は、風紀委員の控え教室へと向かって行った。
ほのかも雫も教室から去って、残っていたクラスメイト達は殺していた息を吐き出して、生気を取り込むのであった。
何があったんだ~~!!二年A組~~!!?
(読者の皆様の想像にお任せいたします。)