魔法科の御伽魔法書   作:薔薇大書館の管理人

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どちらかというとこっちが衝突だったかも…?


”自分”という名の壁

 

 

 

 

 

 

 くろちゃんとちゃにゃんが辿り着いたのは帝都の外れにある廃れた時計塔だった。

 

 ここは、二人が帝都に来て間もなく、散歩している時に見つけた二人だけの秘密の場所。時計塔を登って見る帝都や空が好きで、何かあれば、ここに来ていた。

 くろちゃんが早歩きでここまで来て、時計塔に上る。ちゃにゃんは黙ってくろちゃんの後に続く。そして、時計塔の窓に腰掛け、蹲るくろちゃんにちゃにゃんがしばらくしてから話しかける。

 

 

 「くろちゃん、悩みがあるなら、私、聞くよ? ほら、話してみれば楽になるって言うじゃん?」

 

 

 「……………」

 

 

 「…私もくろちゃんの悩んでいる事、分かるよ? ねぇ、一緒に解決しようよ?」

 

 

 「私の何が分かるっていうの!? 分かった気でいないでよ!」

 

 

 「!! 私だって! くろちゃんと同じ思いだよ!!

  アスカは強い、強すぎる! でも、それだけで悩んでいる訳じゃないじゃん!!くろちゃん、試合終了5分前に急に前衛に加わったでしょ?くろちゃん焦って思わず作戦にはない行動した…。くろちゃんだけじゃない…。私もくろちゃんを手助けした。同じだよ…?私もギルドのみんなの足を引っ張った。」

 

 

 「…それは、私が前衛にでしゃばったからで、ちゃにゃんはいつも通りに私を補助してくれただけだよ。悪いのは私…。」

 

 

 蹲るくろちゃんは声を押し殺しながら泣きた。震えるくろちゃんの背中を見るちゃにゃんも涙を流す。

 嗚咽を漏らしながら、くろちゃんは背中を受けながら、ちゃにゃんに話す。

 

 

 「…うぅぅ! 本当はっ! 分かってた! 今回の試合は私がみんなを乱したってことは! ミナっちに言われたことも心の中で納得してた! だから、言い返せなかった…!

  悔しいっ!! 悔しいよっ!! アスカに負けて悔しいっ!! あの時、自分で自分の力量をここまでだって決めつけたのも悔しいっ!! ものすごく悔しいっ!!」

 

 

 「…でもっ!! それだけじゃないよねっ!? それだけであんなに落ち込まないよねっ!! シンバの事だよねっ!?」

 

 

 ちゃにゃんの”シンバ”の名を聞いて、身体が跳ねる。図星だと語る背中をちゃにゃんが涙を流しながら、話し続ける。

 

 

 「くろちゃんと私の連携魔法を物ともせずに、くろちゃんを倒したシンバに挫折されたんだよね?シンバは私たちの親友だった。それとともに可愛い後輩だった。

  だけど、いつの間にか強くなってて、最強ギルドに入ってて、もう試合に出れるようになってた。そしてくろちゃんを倒して随分と一人前になってた。

  それを見て、くろちゃんは自分に自信が持てなくなったんだよね?」

 

 

 ちゃにゃんの言葉に反論せず、聞いていたくろちゃんはずっと背中を向けていたちゃにゃんに身体ごと振り返り、泣いて腫れ上がった目元が窓から入る月の光で照らされる中、くろちゃんはちゃにゃんに全てを打ち明ける。

 

 

 「そうだよ…。確かに、アスカの攻撃で焦ったのもそうだけど、シンバが私を超えてしまったのが信じられなかったんだ。シンバは私たちの事を尊敬してくれてたし、『いつか絶対超えてみせますっ!!』って会うたびに話してたから…。それが嬉しくて、その時は喜んであげようって思ってた。でも、あんな形でいつの間にか私たちを飛び越えちゃったんだって実感して…、素直に喜べなかった。

  シンバに負けた…。シンバはこれからももっと強くなるだろう。何だってあの”アスカ”にいるんだもの。そしたら、シンバが目標とする私が下になって、追いかけるようになったら、シンバはどう思うんだろう?って。そう思ったら、この先どうすればいいかわからなくなった。」

 

                           ・・・

 くろちゃんの心の内を聞いたちゃにゃんは自分も同じ思いだったと言いたかった。

 

 

 ちゃにゃんもシンバの事を可愛い後輩として、親友として接してきた。だけどそれが砕けた時、くろちゃんみたいに悩んだ。でも、ギルドの前向きに反省する話を聞いているうちに、前向きに考えてみる事にした。そうしていくと、ある考えに辿り着き、次に自分達が何をするべきかに気づいた。

 

 ちゃにゃんはそれを伝えるために、くろちゃんの隣に座って、外の空気を吸い込む。くろちゃんもちゃにゃんと一緒に外に身体を向きなおし、外の空気を吸う。仇やかな風の気持ちよさに、自然と気分が落ち着いてゆく。

 

 そして、ちゃにゃんとくろちゃんは空に浮かぶ星を見詰めながら、話す。

 

 

 「ねぇ、くろちゃん。 シンバは強くなった。 シンバは私たちを目標に一生懸命頑張った。」

 

 

 「うん、そうだね。 そして超えてしまったね…。」

 

 

 「という事は、シンバはもう私たちの可愛い後輩じゃなくなった。シンバは私たちと同じ土俵に立ったんだよっ!」

 

 

 「??」

 

 

 「シンバは一人前の魔法師となって、逞しく成長し、私たちの前に立った。

  だったら、もう後輩じゃなくって…、」

 

 

 

 「ライバル…。」

 

 

 「うん。 立派に成長したシンバがライバルと呼べるようになった。なら、そのように振る舞っていこう!」

 

 

 「ライバル…か。 ははは。ちゃにゃん、いい事考えたね! 確かにそうだ!!

  そう考えたら、今まで悩んでいたのかウソみたいに納得した。ライバルだって認めたらこんなにじっくり来るんだね~。」

 

 

 「やっと、笑ったね!」

 

 

 「そうだね。 ミナっちのいうとおり、笑うっていい事だね!」

 

 

 「「ははははははははははっ!!」」

 

 

 二人揃って、笑い合い、空を眺めてたら、流れ星が目の前を過ぎていった。

 

 

 「ああ!! 流れ星がっ! 願い事できなかった!!」

 

 

 ちゃにゃんが残念そうに叫ぶと、くろちゃんがさっき星が流れた空に拳を突き上げながら、ちゃにゃんに言った。

 

 

 「願い事もそうだけど、私はさっきの流れ星に誓うよ。

  もう何かあっても、困難な事があっても、私は立ち止まらないっ!!

  ちゃんと前向いて、走ってみせるよ!」

 

 

 「…私も!! 諦めないっ!! くろちゃんと一緒に、隣で歩いていくよっ!!」

 

 

 「ははは。ちゃにゃん、ありがとう! もしちゃにゃんが悩んでいるときは、今度は私が聞いてあげるよ。」

 

 

 「ありがとう。」

 

 

 こうしてくろちゃんとちゃにゃんは二人で頑張って進む事を誓って、夜が明けるまで、星を眺め続けた。

 

 





 うわ~~~~ん!!
 
 友情っていいもんだな! (号泣)

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