授業が終わったその足で、美月と一緒に食堂に来た達也が遭遇したのは、自分を見つめてくる大勢の視線の数々だった。しかしそれも一瞬の事で、一斉に自分に全校生徒並みの視線が向けられたが、すぐに視線を逸らし、何事も変わっていないかのようないつもの食堂の雰囲気を作りだす。それでも気になる様子で、通り過ぎていく達也を目線で追いかける仕草が見られた。
達也は朝から続くこの視線や小声での会話等にも慣れ、悪意や妬みといった視線や話し声を意識や認識からショットダウンするように、この好奇的な視線や会話もシャットダウンしていた。
普通の人なら気になって仕方ないこの視線も(現に達也に続いて歩いている美月は、達也に注目されている視線を異常に感じ取ってしまって、頭を疼くませ、恥ずかしそうに歩いていた)ある中、友人達を探し出し、既に席を確保して待っていた深雪やほのか、雫、エリカ、レオ、幹比古に声を掛けた。
「遅くなってすまない。待たせてしまったな。」
「いいよ~、別に。」
「気にしてねぇ~から大丈夫だぜ。それに達也の方が大変だろうしよ!」
「ん? レオ、どういう意味だ?」
「この馬鹿っ!」
エリカがレオの頭に拳骨を一発お見舞いする。レオは痛がって恨みを込めた視線をエリカに投げるが、エリカ自身は痛くもかゆくもないという顔で跳ね除ける。
そして話題を切り替えようとしたのか、幹比古がすかさず達也に話しかける。
「と、とにかく立ってないで座れば?達也も、…柴田さんも。」
「ああ、そうだな。」
「あ、有難うございます。吉田君。」
幹比古の厚意を受け、達也も美月も空いていた席に座る。達也は深雪とほのかの間に空いた空間にある椅子に座らせられ、美月は深雪の隣で、正面が幹比古の位置に座った。
席についた美月はさっきまでの緊張をほぐすように息を吐き出す。ずっと達也といたために精神的疲労が溜まっていたのだ。元々美月は注目されるのはあまり好まない性格なので、周りの反応に敏感に反応し、その所為か、いつもメガネをかけて特異な性質を持つ自分の目を抑えている霊視が影響し、眼鏡をかけていても感じてしまうくらい疲れていた。幸い、酔ったり、気分が悪くなったりはしてはいないが、人の視線にいつもより敏感に感じ取ってしまうのだ。
美月は無意識に眼鏡をしっかりとかけ直し、『霊視放射光過敏症』を抑えるように、集中させていた。
それを正面から見ていた幹比古は、美月が心配になって、少し身体が前のべりになった状態で話しかけた。
「柴田さん、大丈夫?保健室までよかったら連れて行くけど。」
「いえ、大丈夫ですよ。御心配かけてごめんなさい。少し休めば良くなりますから。ありがとうございます、吉田君。」
「そう? ならいいけど。もし具合が悪くなったら僕にいつでも言って。」
「吉田君…。」
真剣な表情で美月に話す幹比古を美月は笑顔で答える。しかし二人は周りが見えていなかった…。
「…ミキ~? 美月に近いけど~? え~何? もしかして美月にチュ~~でもする気になったのかしら? でもするなら、もっと人目を考えた方がいいと思うけど?」
ニヤニヤとしたエリカが二人に話しかけた事で、我に返った二人は慌てて距離を取る。エリカが指摘した通り、幹比古が顔をどんどんと近づけて話していたので、美月との距離が十数センチになっていた。
「そんなに好きなら、さっさと告ればいいのに~? ミキって優柔不断なのかしら~?」
「エリカにだけはそんな事言われたくない! それに僕の名は幹比古だ!!」
席から立ち上がっていつもの展開が流れる。
そんな光景を深雪から弁当を受け取りながら、傍観者に徹していた達也は、ここだけいつもと違う空間に癒されたのだった。
だけど、合間の一時を味わってあげたくて、今日の投稿になった~!
ごめんよ、幹比古。君はどうやら弄りやすい性質を持っているから、扱いやすいんだ…。そしてそんなうちの策に付き合ってくれるエリカ、ありがとうよ。